永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
たまにはシリアス。URA!なんて悪い奴らなんだ!
今日のチームリギルの地獄のような練習が終わり、もはや外は暗くなり始めていますわ。
トレセン学園のメインホールでやよいちゃんと合流する。緑の人ことたづなさんと一緒に待っていましたわ。
まあほとんどお別れの挨拶くらいしかできないのですが。
折角ですしこのまま街の方に夜遊びに出かけません?外泊許可取って寮に帰らずマルゼンスキー先輩の家に転がり込んで・・・
「それを私の前で言われると止めざるをえないんですが」
食い気味にたづなさんに諫められる。えー。たづなさん何とかなりません?ならない?そうですか・・・
「残念ッ!そうしたいのは山々だが、あまりわがままを言うものではないぞ!」
やよいちゃんにも止められる。えーもうちょっと遊びましょうよ!このままお別れなんてつまんないですわ!ぶーぶー。
「普通逆だと思うんだけどなぁ♡」
「ああ、これではどちらが年上かわからないな」
ブルーとルドルフがなんか言っているようですが、わたくしには関係ありませんわ!でも後で覚えていなさい!
やよいちゃんは少し名残惜しそうではありますが、キッパリと断りを入れる。ちぇっ、誘惑失敗ですわね。
「またすぐに会うことになる!ミカドのことだ、感謝祭の話は通したのだろう!」
まだ話し合いの成否の話は一切していないのですが・・・うーんわたくしのことをバッチリ理解してますわね。無理やりにでも通すとわかっていましたのね。
もちろん通しましたとも。月末の感謝祭、主役は私達ですわ!
わたくしの言葉を聞いてやよいちゃんは楽しげに笑う。楽しみにしているぞ!と言い、やよいちゃんはバッと扇子を広げる。
その扇子には再見ッ!と書かれていますわ。この子は扇子をいくつ持っているのでしょう。
「また会おう!次は感謝祭でな!」
そう言って彼女はからからと笑う。
うん、また会いましょう。ほぼ2日だけですが楽しかったですわ!
「またね♡」
「また会おう。やよいちゃん」
その返事を聞き満足そうにした彼女は踵を返し、たづなさんと一緒に行ってしまう。
風を切るようにグングン前に進んでいくその足には淀みがない。まるで内なら自信がにじみ出ているかのよう。初めて出会った猫探しの頃よりもずっと大きく見えますわ。
あの子が未来の理事長ですのね。ちょっと心配はありますが、多分楽しいことになるんでしょうね。
「初めは色々言われるかも知らないが大丈夫だろう。私たちが支えてあげればいい」
・・・・そうですわね!うん。わたくしがいれば100人力ですわ!なので大丈夫!
「ミカドちゃんがいれば猫の手くらいにはなると思うよ♡」
ちょっと!わたくし猫よりは役に立ちますわよ!
「だったら問題児扱いされないようにするんだな」
ぐぬぬ、わたくし未だに問題児扱いは納得がいかないのですが!わたくしそこまで迷惑かけた覚えはないんですが!
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「やよいちゃん。この3日間は楽しかったみたいですね」
送迎車の中。私は隣の席に座っている小さな少女に声をかける。鼻歌すら歌うほどの上機嫌な姿を見るのは久しぶりだった。
「当然ッ!よい3日間だった!」
そう言った彼女は楽しげに笑う。彼女は未来のトレセン学園の理事長を担うことが決まっている。
それは幼い少女が担うにはあまりに重い重責が付き纏うであろう役職。
恐らくは就任の際、多くの反対の声が上がるだろう。経験もない小娘になにができると笑われるだろう。それは彼女も理解はしている。
かつてURAは理想の為に説立された組織だった。1人でも多くのウマ娘に機会を与える。世界へと飛び立てるだけの下地を日本にも作る。その言葉を旗印にかつては多くの先人が尽力した。
それの先駆けを担ったのがレースだった。URAを設立し、トゥインクルシリーズという夢見る舞台を作ったのはその為だった筈だ。
それが今は歪み、淀み、腐り始めている。
理想の為に掲げた旗は、すでに埃かぶった形骸となり久しい。もう一度同じ旗を掲げるだけのことにどれほどの妨害があるか想像もつかない。
彼女の夢はなんて事はない。それはかつてURAが掲げた理想の旗なのだ。その埃を払い、原点へと立ち返るべきだと彼女はかつて私に訴えた。
『かつての理想を追い求めたURAと言う組織は歪んだまま肥大化した。ただの収益を求めるだけの巨大な産業になり始めているのだ。いやあるいはもうなってしまっている』
『レースは莫大なお金が動くただのエンターテインメントになってしまった。本来機会を与えるならば、レースに限らず機会を与えるべきだ。その機会をわかっていてわざと狭めている』
『それは間違っていると思う。だから正さなくてはならない』
『味方が要る1人でも多く。支えが要る一本でも多く。夢を共有する仲間が要る、出来るだけ多く』
『新しい風が要るんだ!この閉塞感を打ち崩せるような!』
その時の彼女の話は懸命でとてもむなしい話だった。
かつて関係者全員が持っていた筈の当然の認識は、最早少数派なのだから。
そんな秋川やよいちゃんにとって味方となる良き縁とは何にも変えられない宝なのだ。
でも彼女の理想はレースにしか興味がなかった私には大きすぎた。私と彼女の夢は噛み合ってはいない。同じものを夢を見る事はないのかもしれない。
でもそれでもいい。私は私で出来る事を尽くす。大きな理想の為に頑張る彼女を支えたい。その気持ちは嘘じゃない。
私はレースが好きだ。今までもそしてきっとこれからも。ウマ娘達が栄冠を求め、競い、称え合う。そして観客は勝者に祝福を送り敗者にも歓声を。それがたまらなく好きだ。
そこに余計なしがらみは要らない。それが出来るだけ綺麗であって欲しい。わたしが願うのはそれだけなのだ。
今回の視察、やよいちゃんがいきなり案内役に無名のウマ娘を指名した時、理事長は一切の反対をしなかった。最初はシンザン会長が案内役になるはずだったのに、それを踏まえてあえてやよいちゃんの判断を信じた。私の反対を押し切ってまで。
彼女の夢を手助けできる良き縁を結ぶべき。無名のウマ娘よりもシンザン会長の方が力となってくれる筈だと私は言った。
それでもやよいちゃんは首を縦には振らなかった。その姿を見て理事長は決心をした。シンザン会長にではなく無名の彼女、ミカドランサーさんに任せようと。
そして理事長、貴方の判断は間違いではなかった。
横に座るやよいちゃんを再度見る。晴れやかに笑いながらこの3日間の話をしたくて堪らないという様子の少女。
その少女の表情を見ながら私は思い出す。先程別れたばかりの3人のウマ娘を。
夢は重ならなくとも私は一度その旗を見てみたい。純粋に未来を信じて駆け抜けた、そんな先人達の掲げた旗を。
この彼女が掲げる理想の旗を。
あの子達がもたらす風が、その旗をきっとはためかせてくれるから。
たづなさん「それにしてもあのミカドランサーさん。何処かで会ったことがある気がする・・・うーん思い出せない」
これにて視察終了です。また会おうやよいちゃん!
URAを悪きもののように書いてますが、組織運営する上で当初の理念が失われて淀んでいくのは仕方のないこと、別に特別な事ではありません。常に常に綺麗であるということの方が非常に不自然なんです。
ルイスキャロルも言っていました、その場に留まるためには全力で走り続けないといけない。でもそんなことできないんです、たまには息も入れたいからね。息を入れたたびに少しずつダメになってしまうんです。
だから永遠は存在しません。腐って衰退することすらサイクルの一部に過ぎないんです。どんなものにも波はあります。
誰もが俯き項垂れる。あるいは項垂れている事に気付かない時、やよいちゃんのように上を向く子が生まれるんです。URAの最初の理想も、世間が腐っていくことに耐えられない誰かが立ち上がって作ったのかもしれません。
たとえURAを新生してやよいちゃんが理想を叶えても、それもやがては同じように腐ります。だからこそまた立ち上がるものが現れるんです。今までのようにいつかのように、きっと誰かがやよいちゃんのように。