永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話   作:ぐっちSKG

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というわけでチェス回最終話です。幽霊なんているわけないでしょう。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから。


見えざるチェスマスター -Dir Frau der Rhein-

トレセン学園七不思議の一つ、幽霊のチェスマスターを求めて、わたくしたちは深夜のトレセン学園チェス愛好会の部室へとやってきました。

 

深夜に来るなんて久しぶりですわね!まるでテーマパークに来たみたい!とは言いません。なんせ今回は夜間警備の人と一緒なのですから。

 

一応あの日鬼ごっこしたのも、わたくしがカボチャ事件の主犯者というのも内緒なので、知らんぷりしておきましょう。

 

だからそんなに不機嫌にならないで欲しいですわ。ほらちゃんとシンザン会長には許可を貰っていますのよ!ねっ?スマイルスマイル。

 

わたくしとブルーで慰めていたら、夜間警備の人がなんかプリプリ怒り出しましたわ。なんでですの?

 

「煽っているようにしか聞こえなかったぞ」

 

そんな!誤解ですわ女騎士の人!

 

--------

 

シンザン会長の要望により今回は特例で許可が降りたが、本来は夜間の校内に生徒がいるのは御法度だ。

 

時間制限あり、付き添いはつけることとの条件付きではあるものの、特別に許可された。

 

「いやぁ先輩ってば硬いっすよね〜」

 

私の横にいるのんびりとした口調の夜間警備員。私の見立てではかなり走れる人だとは思う。相方であるこの夜間警備員の先輩もなかなかの実力者のはずだ。こんな実力のある警備員がいるだなんて私は知らなかった。

 

「そりゃあそうっすよ。一応秘密なんですから」

 

だから他の生徒には言わないでほしいっす、とウインクしながらいってくる。それにしてもやましい事は全くないのに秘密なんですか?

 

「まぁ私達みたいなのにも物好きなファンはついていたんっすよ。私達が目的で来る人を捕まえたくはないっすからね」

 

特に隊長は現役時代だと結構人気あったんすよ、と言葉を続ける。なるほど・・・とにかく頼もしい人が学園を守ってくれているんですね。いつもご苦労様です。

 

「・・・・うっす」

 

照れ臭そうにそっぽを向いた目の前のウマ娘。かつてもっと有名な名前があったであろうその人は、顔が少し赤くなっていた。

 

そうして話していると部室の前に着く。アンパサンド先輩に受け取った鍵を使って扉を錠を外す。ガチャリと鳴っていつでも開けられるようになる。

 

「この中に幽霊がいるのですわね、ルドルフ、とりあえず網持ってきましたけど持ちます?」

 

要らない。

 

ミカドとブルーは外で待っていてくれ。あと夜間警備員方、どちらか付いてきてもらっていいですか?

 

私の言葉に全員で行くべきだとミカドは反対の意見を出す。だけどアンパサンド先輩から許可を取ったのは私だ。だから私がいかなくてはならない・・・気がする。

 

でも大丈夫だと思う。もし不審者なら逃げようとするかもしれないが、私から話しかけてみる。きっと心配しているようなことにはならないさ。

 

話は纏まり私はノックをして部室内に入る。警備員が私をいつでも守れる位置に付いている。

 

部屋の中は特に荷物らしい荷物はない。部屋の真ん中に折り畳み式の長机にパイプ椅子。壁面にはロッカーとハンガーラック、段ボール箱が2つばかり。そしてホワイトボード。

 

段ボールを除けば備品しか置いていない。ホワイトボードにチェス盤を模したであろうマス目、そして駒を模したマグネットが張り付いているくらいしか違いがない。

 

何もない。少なくとも幽霊なんて影も形も無い。先輩に揶揄われた?

 

「まぁ幽霊なんているわけありませんでしたわね!わたくしは賢いのではわかっていましたが!」

 

ミカドが後ろから覗き込んで調子のいい事を言う。だけどもまさかそんな風には見えなかったぞ。先輩は少なくともここにいると言っていた。彼女と会うべきだとも。何かがあるはずなんだ。

 

そう思って部屋の電気を付ける。テーブルや椅子、段ボールの中身を調べる。段ボールの中にはなんて事はない、チェス盤と教本、チェスの雑誌くらいしかない。

 

何もないのか・・・本当に・・・。

 

落ち込む私をミカドとブルーが慰めてくる。いや幽霊なんているわけないとは思ってはいたんだ。でも何か別のことがあるんじゃないかとって信じていたんだ。

 

部屋を元通りにして電気を消す。残念だが何もなかったとシンザン会長には明日報告しよう・・・。

 

退出して外から鍵を掛けようとしたとき、それは起こった。

 

いきなり私のスマホが着信音を鳴りだした。暗い廊下でのあまりに突然の事だったので、全員飛び上がるように驚いた。警備員の先輩の方なんて、驚きすぎて腰を抜かしてしまっていた。

 

一体誰だと思いスマホを見るとそこには非通知の文字。本当に誰だ。躊躇いながら通話ボタンを押す。もしもし、誰ですか?

 

『部屋のホワイトボードの前に来て。e4ポーン』

 

その言葉を聞いた時、私の全身に鳥肌が立った。薄気味悪さを感じるほどの人間味がなく平坦な声。まるで機械が喋っているのかと思うほどだった。

 

私は再び勢いよく扉を開けて、部室の中へと戻る。部屋は変化がないあいも変わらず何もない部屋。私は電気をつけようとするが何故かつかない。先ほどまではついたのに!

 

仕方なしに警備員から懐中電灯を受け取りホワイトボードの前に立つ。チェス盤を模したホワイトボードと駒の前に。そして電話口に語りかける。

 

君は・・・一体誰だ。なぜこの番号にかけてきた?

 

『e4ポーン。貴方の番』

 

電話口の相手は一切取り合わない。仕方なしに私はe4にポーンを動かす。そして私も反対側の陣のポーンを動かす。場所はd5・・・。

 

『f3ナイト。貴方の番』

 

再び私は凍りつく。まるで背筋につららを突き刺されたような気分だった。まだ私は電話口にどこに駒を動かしたのかを言っていないのに!

 

最早私は冷静ではなかった。スマホを握る手は汗ばみ、声は上ずっている。何処にいる!何処から見ている!と問いただすが電話口の相手はまるで取り合わない。ただ冷徹なまでに平坦な声でf3ナイトと繰り返すだけ。

 

あまりの剣幕にミカドが宥めてくる。ブルーに指示したのだろう。落ち着く為に飲み物を買いに行かせた。

 

警備員も周りをチェックするがカメラのようなものは見つからない。まさか本当に幽霊なのか・・・?

 

ブルーが買ってきたホットミルクティーの缶を受け取る。礼を言って受け取り、プルタブを起こして一口飲む。先ほどまでの寒気は、ミルクティーの甘さと暖かさで消しとんだ。

 

少しだけ冷静になれたので指示通りにホワイトボードの駒を動かし電話越しに対局していく。何度か問いかけるが、あいも変わらず何も答えない。そんな非常識さに反して、かなり定石通りの打ち筋ではある。だがかなりの勉強をしていなくてはこうはスムーズに打てない。

 

だが局が進むにつれ、そんな考えも吹き飛ぶ。私の得意な打ち方は防御陣営を固めながら、相手がどう打つかを見極め勝機とあらば一気に攻め込むスタイルだ。

 

だから対局中は相手がどう打ちたいか、どうすれば打ちづらいかを常に考えている。いつだってそうだったし、そうやって勝ってきた。

 

だがこの電話越しという不可思議な状況、得体の知れない相手だとしても明らかにおかしい。違和感が足元から這い上がってくる。

 

どれだけ強いのかも、何を考えているのかも、どんな打ち方が得意なのかも、私の一手を嫌がっているのかも。何もわからない。私が打てば予想していたとばかりに瞬時に向こうが打ってくる。

 

まるで暗闇に向かって私だけが剣を振り回しているような気がしてくる。暗闇の中に敵がいるのではなく、暗闇そのものが質量を持って私を握りつぶそうとしてくるかのよう。

 

私の陣はすでに崩れかけている。私の駒が一つまた一つと欠けていく。

 

敗色濃厚な盤面、ナイトが敵陣を切り崩しなんとかしようとするが、呆気ないほどに闇に喰われる。

 

欠けていく。逆転の可能性が、勝ちへと向かう為の選択肢が欠けていく。

 

そして私の勝利への道は閉ざされた。私は電話口の相手に向かって絞り出すかのように言う。

 

・・・・参りました。

 

『楽しかったよ。じゃあね』

 

待ってくれ!名前だけでも教えてくれないか!

 

私の懇願するかのような声に向こうは沈黙する。そして相変わらず平坦な声で告げる。

 

『Dir Frau der Rhein』

 

その一言を言って電話は切られた。

 

ツーツーと無情な音を流すスマホを置き、私は思わずへたり込む。

 

電話が切れた瞬間、思い出したかのように部屋の電気がつく。悔しい、悔しいがそれ以上におかしくて仕方がなかった。ああ世の中には恐ろしくて、そしてすごい奴がいる。

 

誰に言っても信じないまるで現実味のない話だ。私は・・・今日幽霊と対局し、そして負けたのだ。




アンパン先輩がチェスが強くて好きな人以外を幽霊のチェスマスターに合わせないようにしていたのは、チェスマスターがべらぼうに強くて、心が折れると思っていたからです。

でもルドルフは最後は爽やかな気持ちでした。どれだけ悔しくてもチェスが好きだからこそ、ここでいい体験ができたと言えるんですね。





※Dir Frau der Rhein※

これはドイツ語の文章で、リヒャルト・ワーグナーのニーベルングの指環に登場する三人の乙女を指します。

つまり・・・電話口の相手は'ラインの乙女'です。この言葉を知っている方なら正体がなんとなくわかるはずです。
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