永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話   作:ぐっちSKG

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何もいうことはありません。ただ静かに見守りましょう。


ガラスの靴を履けなかった少女

私は河川敷へと降りてミカドに問いただしに行こうとしたが、ブルーによって止められた。ブルーからはミカドが相談してくれるまでは静観することを提案された。

 

提案・・・というがブルーの目は普段からは信じられないほど真剣であり、断るなら無理やりにでも止めると言わんばかりだった。

 

確かに相談されても私達には解決策がない。悔しいがそれは変えられない事実だ。一番簡単な解決策は以前のシューズに戻させることだが、それはあいつは絶対に受け入れないだろう。一年近い付き合いなのだそのくらいはわかる。

 

現状はオーバーワークにならない程度かもしれないが、止められれば逆に意固地になってもっと無理をしかねない。私達は私達で相談された時のために備えておくこととした。

 

 

「そう・・・それであんなことを。通りで合点がいったわ」

 

私とブルーは河川敷から学園へと舞い戻り、東条トレーナーのトレーナー室へと直行した。東条トレーナーなら私達の足りない知識を持っているかもしれないと期待してのことだ。

 

だがミカドの奴はすでに東条トレーナーの元を訪ねていたらしい。あいつは自分のことではないがと誤魔化しつつ、東条トレーナーにシューズを変えてから調子が悪くなった際の助言を求めていたらしい。

 

それで東条トレーナー、貴方はミカドにどのような助言を?

 

「履き慣れるまで履いてみて、ダメなら別のシューズにするように言ったわ」

 

東条トレーナーは至極真っ当な助言をしたらしい。だがそれはミカドが求める助言ではなかった筈だ。

 

「合わないシューズなんて怪我の元よ。正直に自分のことだと言ってくれれば、フォームくらいなら見てあげたけど。でも新しいシューズのために、あそこまで身についたフォームを崩すと変な癖がつきかねないわ。それで良くなる保証もできないし」

 

それもそうですが・・・あのブレンボをミカドが手放すと思いますか?目に入れても痛くないくらい大事にしてますよ。

 

「・・・あり得ないわね」

「絶対無理やりにでも履くよ」

 

そうですよね、本当にどうしましょうか。言って聞くタイプじゃありませんからね。

 

3人でうんうん悩んでいると、扉から勢いよく誰かがトレーナー室に飛び込んできた。

 

「ハロー可愛い後輩ちゃん達!話は聞かせて貰ったわ!」

 

貴方は!マルゼンスキー先輩!

 

まるで見計らったタイミングで・・・というより見計らってましたね先輩。

 

------

 

わたしの友達にシューズに凄く詳しい人がいる、ちょっと呼ぶから・・・ということで呼び出されてやってきたのは、ミカドがいつも突っかかっているバンダナ先輩ことヒシ先輩だった。

 

マルゼンスキー先輩に呼びつけられて、凄く面倒くさそうにこのトレーナー室に入ってきたかと思えば、私達の顔を見てもっと面倒くさそうな顔になった。すいません先輩・・・。

 

マルゼンスキー先輩は私達とヒシ先輩が親しそうにしているのを見てびっくりしていた。ああそういえばマルゼンスキー先輩とヒシ先輩が会うのに立ち会うのはいつぶりだったか。

 

そうだ。学食閉鎖の時の立てこもりだ。マルゼンスキー先輩に代理でレースに出てもらった時以来ですね。

 

「で、あの面白いのは今日はいないのか?」

 

ええ実はそのことなんです。ミカドとあのブレンボについて。

 

私がブレンボのことについて話しだすと、ヒシ先輩はパイプ椅子に足を組んで座り聞き入る体制になった。

 

私がヒシ先輩に最近のミカドの様子について話す。ブレンボを履いてから調子が良くないこと。誰にも相談していないこと。このままでは意固地になって怪我をするかもしれないと。

 

ヒシ先輩は私の相談を黙って最後まで聞いて考え込む。少し考えてから先輩は口を開く。

 

「友達思いのお前たちには悪いが、放っておけとしか言いようがないな」

 

私の相談をヒシ先輩は無情に切り捨てる。そして先輩はいいかよく聞けと言って話を続ける。

 

 

「国産メーカーの作ったシューズってのはな、誰が履いてもそれなりに使える。品質が高くて均一な傾向があって、しかも履きやすい様に作っているからだ」

 

「それに比べて海外のものはそうでないことが多い。もちろん品質はピンキリだし、あのシューズは間違いなくピンの方だ」

 

「だけど海外製で高品質だからと言って、履きやすいってわけじゃない。むしろすごく癖が強いんだ。向こうのレースシューズの職人には、履けない奴は履かなくていいって価値観を持っている奴が多い。シューズを履くにはそれに合わせた資格がいるってことだ」

 

 

そこまで話して先輩は一度話を止める。恐らくこちらが頭の中を整理するのを待ってくれている。少し開けてからまた話し始める。

 

 

「いくら相談されてもこればっかりはしょうがない。癖が合えば最初からまるで足に吸い付く様に感じることもあれば、合わなきゃずっと足かせに感じることもある。ある日突然履きこなせる様になることもある。そういうものなんだ」

 

「店長も言っていただろ?あのシューズはプロチームのウマ娘くらいしか履かない。あれは高価なだけじゃなくて、シューズを履きこなせる資格を持っているのが、そこくらいしかないからだそうだ」

 

「全部店長の受け売りだがな・・・まぁ国産のユーザーフレンドリーな靴に慣れきっていても、魅入られたあいつならどんなに癖が強くても履ける筈と店長は言ってたんだけどなぁ」

 

そう言って先輩は椅子から立ち上がった。もう用はないとばかりにトレーナー室の扉に向かっていくのを、私達は見送ることしかできなかった。

 

 

そして次の日、ミカドは学校に来なかった。

 

 

 

--------

 

河川敷全力ダッシュ10本をこれで三日目・・・。全然思う様に走れませんわ。思わず足元を見ると、泥だらけになったブレンボちゃんが不満そうにしているように感じた。

 

ブレンボちゃんに履き替えてから、明らかにタイムが落ちましたわ。まるでちぐはぐのようなフォームになっているでしょう。

 

このシューズを履いて走っていると、思う様に走れないことがあれば、走りやすすぎる時もある。地面に食いついたと思えば、コーナーで横滑りしそうになる。

 

特に下り坂では、死ぬかと思うことが何度もありました。そのまま進行方向に転がりそうになったことも一度や二度ではありませんわ。

 

だけどブレンボちゃんはきっと悪くない。何かがわたくしに足りないのでしょう。

 

もう一本、もう一本・・・次の一本こそと思いながら何度走ろうともこれといった手応えはない。

 

それに先ほどからチラホラと降っていた雪が強くなってきた。これ以上は間違いなく明日に響きますわね。

 

・・・今日はもう切り上げましょう。

 

ブレンボちゃんの泥を落とし、ソフトケースに仕舞い込む。代わりに履き慣れた普段の靴と履き替える。先ほどまでのシューズから感じていた違和感がなくなる。今まで使い込んだターフで走ることもできる普段のシューズ。

 

 

これなら今までと同じように走れる、そう思ってわたくしは安堵した。

 

 

安堵してしまった。

 

 

自分が何を思ってしまったか、そのことに気がついたわたくしは、ブレンボちゃんの入ったシューズ用のソフトケースを取り落とし、河川敷沿いの草むらに仰向けに身を投げ出す。

 

倒れ込んで見上げた空はもはや暗く、降りしきる白い雪が顔に当たり、まるで刃物で切られたように体温を奪っていく。

 

色を失った空には、白い雪とわたくしの口から漏れる白い吐息だけがあった。ずっとずっと目をそらしていたことを口にしてしまう。

 

 

わたくしには、わたくしにはっ・・・!

 

 

・・・この子を履く資格がない。

 

 

誰もいない河川敷。クリスマスの足音が聞こえてくる季節。雪が降りしきる中、わたくしは声を押し殺して惨めに泣いた。

 

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とぼとぼと歩く。寮には帰らない。帰る気にはならなかった。

 

走り込んで汗だく泥だらけな上、さっき倒れ込んだせいで草の汁で酷い臭い、目も恐らく真っ赤でひどい顔だろう。ふふ・・・きっとみんな心配しているのでしょうね。後で寮長には謝ろう。

 

まるで街頭の明かりに引き寄せられる虫のように、たどり着いたのはトレセン学園だった。なんだか少しでも楽しい思い出のある場所にいたかった。もう下校時間は過ぎて学園には誰もいないでしょうが。

 

いつも夜にこっそりと学園に出かけてよく知っている、施設外に置いてある夜でも使える自販機。そうだそこで温かいものでも飲もう。

 

監視カメラを避けるように、もはや足を引きずりながら歩きたどり着いた自販機。そこの前で思わぬ出会いをすることとなる。

 

いつかわたくしが探して、深夜のトレセン学園を走り回ることになったその元凶。

 

トレセン学園七不思議のトトロがそこにいた。

 




彼女にはガラスの靴が必要です。

でもそれ以上に魔法使いが必要だと思います。

ミカドちゃんが頑張っている以上、私も頑張ります。

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