永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
ミカドが学校を休んだ日。その日は授業どころではなかった。
担任がホームルームでミカドが今日は学校を休むことを伝えた後、クラスメイトは事情を知っていると思って私の席とブルーの席に集まっていた。
だがあいつが休むことは私達も初耳なのだ。ミカドに連絡を入れようにも一切返事が返ってこない。クラス全体がザワザワしていた。普段ならただのサボりかと思うだろうが、あいつが最近思い詰めていたのはクラスメイト全員が知っていた。
ブルーも流石に動揺しているらしく、その日はずっとソワソワしていた。いや、動揺しているのは私もか・・・その日の授業には集中できなかった。私は授業中にも関わらず、連絡が返ってきていないか何度もスマホを確認してしまった。
何をやっているんだ・・・あいつは。
チラリと隣の席を見る。いつもあいつが座っている席。誰も座っていないその席を見ていると、なんだか寂しくてしょうがなかった。
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昼休みに私は隣のクラスへと行き、ミカドのルームメイトのプリンニシテヤルノからミカドの昨日の様子を聞き出す。彼女は物凄く面倒くさそうな顔をしながらも教えてくれた。
自分は休むとは聞いていなかった。昨日は門限を過ぎて帰ってきたので寮長に怒られていた事と、朝起きたときにはもういなかった事。ただ自分の目で見てもミカドの体調自体は悪くはなさそうだったらしい。
体調不良ではないのかとひとまず安心して、胸を撫で下ろす。昨日から雪が降っていたので風邪でも引いたのかと思っていたがそうではないらしい。
ならば考えられるのは・・・河川敷だ。あいつはきっとそこにいる。
昨日とは逆に、ブルーから誘われて私達は河川敷へと向かう。思い当たる場所はそこしかなかったからだ。
いるかと確認しようとすると、あいつはすぐに見つかった。この距離でも河川敷で走っているあいつの姿がよく見えた。坂道を降っているあいつを見て私は駆け出そうとした。
最初は休んだ事を問いただそうと思っていた。だが今はそのことは頭から吹き飛んでいた。あいつが下り坂で転びそうになっていたからだ。あの速度で転べば間違いなく大怪我だ!
だが駆け出せなかった。ブルーによって手を掴まれ走り出すことが出来なかった。振り返りブルーを怒鳴りつけようとしたが、彼女の顔を見て怒気は引っ込んでしまった。
「ルドルフちゃん。あれは違う・・・違うんだよ・・・」
私の手を掴みながらもブルーは私の方は見ない。強い眼差しでミカドのフォームを目に焼き付けようとしている。
「あれが・・・ミカドちゃんの新しいフォームなんだ」
その言葉を聞いて、私は河川敷の方に視線を戻しミカドを見る。確かに今までの安定したフォームではない。より前傾姿勢で飛び込むように前へ前へと駆けて行く。
コーナーで身体がガクンと落ちれば、まるで不安定さしか感じないのに無理やり曲がっていく。
はっきり言ってフォームとしての完成度は低い。もし授業でこんな走りをすれば教官からは減点をされるだろう。ところどころよれているし、振り回されるようにコーナーでは膨らんでいる。
だが不完全なフォームでありながら、完成されていた以前のフォームよりも・・・なお速い。
飛び込むような走りから繰り出される凄まじくキレがある走り。コーナーは膨らみこそすれ、とんでもない速さで侵入し、そのままの速度で抜けていく。下り坂はもはや直滑降だ。落下するようにあいつはグイグイと加速していく。
「良かった。もしかしたら折れちゃったのかと思ったけど・・・ミカドちゃんはもっともっと速くなるよ」
後ろから聞こえるブルーの声は晴れやかではなかった。その声はいつもの揶揄うようなものではなかった。どこまでも真剣みに溢れ、声からはマグマのような熱量を感じられた。
そして何よりも・・・獲物を見つけた肉食獣の唸り声のように感じた。
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わたくしは昨日のトトロの人のアドバイスを聞いてから、もはやいてもたってもいられませんでした。ですがわたくしはたづなさんに正座させられてお説教された後、寮長にも怒られた。
ごめんなさいごめんなさいとペコペコ謝って、寮長はジャージを洗っておくと言ってわたくしから無理やり剥ぎ取った後、わたくしを自室へと放り込んだ。
熱いシャワーを浴びて就寝・・・というわけにもいきません。目がそれはもう遠足の前日のようにバッチリ冴えてしまったからです。
明日こそ履きこなしてみせる・・・ああ楽しみですわ。
そんなわけで朝一番、日が明ける前からベッドから起き上がる。顔を洗い適当に何かを摘む。身支度を整えて予備のジャージに袖を通す。さあさあ!今日は練習漬け!学校?今日は自主休校ですわ!
あとで担任に適当に言い訳をしておこう。理由はもう考えるのも面倒ですわね。祖母が三度目の死を迎えたとかにしておきましょう。
やってきたのはもはや見慣れた河川敷。ここ数日の苦い思い出が脳裏をよぎりますが、そんなもん粉砕してやりますわ!
今日のわたくしは一味違いますの。ネオを頭につけてもいいくらい気力に満ち溢れています。
ブレンボちゃんに履き替え、柔軟をじっくりと行う。昨日言われた通りに股関節をより重点的に。
そしてようやく準備が整う。深呼吸を何回か行い。これから走る道を睨め付ける。
腕時計のタイマーをセット。アラームは1分後、それがゲートの代わり。
風の音しかしない河川敷で、アラームの無機質な音が背中を押し、わたくしは駆け出した。
いつもより脚は高く!でも姿勢は低く!視線が下がったので少しだけいつもより速度が速く感じる。走るラインのことは考えない。ただただひた走る。がむしゃらに。
違和感がある。こうじゃないか?!こうですか!?より寄せていく・・・違和感のない方へと少しずつ。
カーブでは大きくよれるのを覚悟して全力で。下り坂では恐怖を押し殺して前へ前へと急降下する様に駆ける。硬い決意だけがわたくしの武器。絶対はここにある。わたくしの胸の内に。
何度もフォームの試行錯誤を繰り返していると、奇妙なほど時々しっくりとくる。わたくしには正解がわからない、けれどこの子が・・・ブレンボちゃんが教えてくれる筈だ。
空転していた歯車が唸りを上げる。わたくしの中で今か今かと待ちわびている。僅かにガチャリと噛み合う。
パァン!!と脚の方から音がしたような気がする。
わたくしはほんの一瞬だけ風になった。
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河川敷一本目のゴール地点を通過してわたくしは減速する。道に倒れ込むように寝転ぶ。
走ってみての課題点は山のようにある。まだまだ改善しなくてはならないところがあるのは間違いありません。
はっきり言って無茶な走りだというのはよくわかる。走りの理想のラインなんてまだまだ書けない。コーナーは膨らむし、下り坂は正直怖い。
ですがほんの僅かだけ見えた理想の完成形への道筋。今までのように暗闇で迷子になっていた感覚はない。
ふへ、ふへへへへ。
だらしのない声を上げて笑ってしまう。思わず転げ回ってしまう程の達成感だけがわたくしの中にあった。履ける。わたくしはこの子を履ける!履いて走れる!
ブレンボちゃんがほんの少しだけ認めてくれたような気がする。思わず足元を見ると、ブレンボちゃんは泥で汚れていても何処か満足そうに見えた。その姿は誇らしいほどカッコ良かった。
わたくしは息を整え勢いよく立ち上がる。そして2本目を走り出す為に、腕時計のアラームを1分後にセットした。
無機質なアラーム音が、またわたくしを風の向こう側へと導いてくれると信じて。
ミカドちゃんがパワーアップして帰ってきました!
でもブルーちゃんの様子もおかしいですね?