永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話   作:ぐっちSKG

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怒りでは・・・レースには勝てないんだよミカドちゃん。


幻のリギル杯 トレセン学園 芝 1600m(マイル) 右

ゲートから飛び出した12人のウマ娘がトレセン学園のターフを駆ける。

 

約半数近いウマ娘がスタート直後のマルゼンスキー先輩を押さえ込もうとしたが、先輩はするりと抜け出しいつもの定位置である先頭に立つ。

 

逃げを打つ先頭のマルゼンスキー先輩のすぐ後ろに4人。そのうち1人は鈴をつけに行っている。その後ろに横に広がっているように4人。こちらはシービー先輩潰しだろう。

 

4名の後ろにはシービー先輩潰しに巻き込まれたわたくし含む数名。可哀想な巻き込まれ組。

 

そして最後尾にシービー先輩。ここは予想通り。

 

まるで打ち合わせしたかのように、綺麗に前と後ろが分断された。マルゼンスキー先輩潰し組と、ミスターシービー先輩潰し組が包囲網を引き、その上で周りをどう出し抜こうか牽制しあっている。ひとまず前組と後組と呼びましょう。

 

マルゼンスキー先輩と普段から走っていたので、余裕があると思っていましたがとんでもない。前からの圧が凄い。これが・・・トゥインクルシリーズでバチバチに殴り合っている猛者の実力。

 

わたくしは普段ジュニア級とばかり走ってきていましたが、ここまで違いますか。かなり後方に構えているのにここまで走りづらい。走行ラインを巡ってものすごい勢いで潰しあっている。

 

もし差しで言っていたら完全に潰されていました。最前線で駆け抜けていくマルゼンスキー先輩は何も感じていないのでしょうか。およそ半数に狙われているのに・・・あの状態で逃げを打てる胆力は本当に凄い。

 

そして何よりも・・・わたくしの少し後ろにとんでもないものが控えている。シービー先輩が気持ちよさそうに走っている。

 

まるでこの状況をなんとも思っていなさそう。わたくしには前組と後組の間に渓谷があるようにまで感じるのに。

 

シービー先輩には行くべきラインが見えているのでしょうか?わたくしには無理です。この前のバ群を抜けるのは相当難儀しますわ。大外に迂回するしかない。明らかに遅れてもそれしか方法がない。

 

身体能力では超えられない壁・・・おハナちゃんトレーナーが言っていた通り甘い道ではないのですね。

 

道があれば前まで駆け抜けられるのですが、まるで道がない。仕掛ければ不利になる方へと誘導される。かと言って仕掛けなければジリ貧で押し切られる。

 

ブレンボちゃんを履いての走りは完璧ではない。接触しないくらいのことはできますが、ブルーのようにバ群を縫うようには走れない。けれどもこの子以外のシューズでは勝機はない。

 

控えるしかない状況。ですがシービー先輩はもう少しで必ず仕掛ける。それまでは堪える。最後の200mが分水嶺です。

 

おそらくシービー先輩が仕掛けるのなら半分をちょっと過ぎた辺り。前に上がって上がってマルゼンスキー先輩を射程範囲に捉える筈。出来る限り合わせて勝負に持ち込む。

 

登り坂に差し掛かると同時に、3本目のハロン棒がわたくしの内側を勢いよく後方へと吹っ飛んでいく。そして同時に外側からシービー先輩が前へと吹っ飛んでいった。

 

・・・・は?はぁぁぁぁぁあ!!?

 

早い!仕掛けるのが早すぎる!えっもしかして掛かってますのあの人!まだ半分も過ぎてないんですわよ!

 

大急ぎでわたくしはシービー先輩の後ろにつく。わたくしがマルゼンスキー先輩と初めて走った時の特攻紛いの走りとは違う!この人はやけになってないし迷いもない!

 

確かに菊花賞取れるスタミナがあるならいけるかもしれませんが!貴方の脚ならもっと後でしょう!!

 

わたくしは叫び出したい気持ちを抑えきれなかった。わたくしはスタミナを鍛え上げたこともあってマイルでは垂れないと思っていました。

 

ですがこの早じかけで行けるかは微妙なライン。しかもこの登り坂。わたくしのパワーなら加速はできますがスタミナ消費は激しい。

 

主役は自分だと言わんばかりにシービー先輩は加速する。わたくしはシービー先輩に引き離されないようにすることで精一杯。

 

シービー先輩潰しの包囲網は坂を登り切る前に、あっけなく食い破られた。あっさりとマルゼンスキー先輩潰しの前組をすでに射程範囲に捉えている。

 

食い破られた後ろ組は互いの牽制を止め、シービー先輩を懸命に追いかけている。ですが加速力の違いかシービー先輩に追いつかない。

 

む、無茶苦茶ですわ!すぐ気づいたから対応できていますが!一体何を考えていますの!おハナちゃんトレーナー話が違いますわよ!レース前のプラン全部吹っ飛んじゃった!

 

 

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「うわぁえらいことになってる」

 

学園のトレーナーの1人がストップウォッチを片手に呆然と呟く。おそらく恐ろしいラップタイムを刻んでいる筈。

 

私も全く同じ意見ね。ミカドランサーがあそこまで振り回されるなんて・・・。あの子のスタミナを徹底強化したとはいえ持つかどうかは怪しいライン。

 

レースは中盤。場は混沌として全体的に狂気的ペース。その原因は蜂に刺されたかのように加速を始めたミスターシービー。

 

後ろから早じかけで追い上げてきたミスターシービーに引っ張られて、後ろが前を押し出すようにレースが加速していく。なんとかミカドランサーは付いて行けているが、このペースだと混乱したバ群のど真ん中に置き去りにされかねない。

 

ミスターシービーの取った選択は常道から外れている。確かに考えとしては悪くないかもしれないが。

 

ミスターシービーには菊花賞を走りきるスタミナがある。マイルを主戦場としている参加者をスタミナですり潰すつもりだろう。ペースを崩されれば立て直す時間はない。

 

だけどそれはマルゼンスキーへの勝率を下げる行為だ。スペックでのゴリ押しに近い戦法では、射程範囲に捉えてからの最後の叩き合いに響く。だから考慮から外していたのだけど・・・。

 

ミスターシービー程の実力があればもっとスマートに勝負できる筈。少なくともマルゼンスキーを射程範囲に捉えるだけならもっと後で仕掛けても余裕で間に合う。スタミナも十分に残せる。

 

何を考えているのミスターシービー。これではあの時のミカドランサーの特攻と変わらないわ。マルゼンスキーにリベンジをするのならそれは悪手よ。

 

・・・・いや待て。今私は何を考えた?ミカドランサーと変わらない?

 

ミカドランサーの・・・ように?

 

まさか・・・あれほどの実力者が?学園のスターウマ娘が?三冠ウマ娘が?

 

いや、いやいやいや。いやまさか。いやありえない、のか?

 

もしかしてミスターシービーは・・・何も、考えていない?

 

 

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あー!わかりましたわ!さては貴方何も考えてないでしょう!わかりますわよ!

 

道理で惹かれる訳ですわ、憧れる訳ですわ!貴方はわたくしと同じレースエンジョイ勢でしたのね!

 

仕掛けが上手いのでてっきり勘違いをしていました。ルドルフみたいに計算された走りをしているのかと思っていましたが、この人は本能と勝負勘で勝ってきましたのね!

 

輝かしい経歴や栄誉とはかけ離れた本質。自分が楽しめれば良い、納得できれば良いという利己的な本性。わたくしと同じ。

 

貴方さては気持ちよく走ってたら三冠取っちゃったとかそういうタイプでしょう!

 

そういうことなら予想なんて最初から意味ないじゃないですか!この人の考え方なんて手にとるようにわかりますわ!シービー先輩に合わせるにはこれしかない!

 

こういうのはどう勝つかではなく、どう勝ちたいかを考えれば大体同じ考えに行き着くんですのよ!

 

わたくしはかっこよく勝ちたい!劇的で気持ちよく!貴方と同じように!

 

チームリギル!おハナちゃんトレーナー!チームのみんな!ひとまずごめんなさい!一旦報復のことは忘れます!ほんっとうにごめんなさい!ゴールまで待つかはわかりません!伝説は作るので許してください!

 

ブレンボちゃんでの全力走行は出来る限り控えろという話も忘れます!ラインを辿るのも忘れます!ひとまずこの人を抜かします!こっからは気持ちよくなりますわ!

 

そう決心すれば話は早い。シービー先輩を出し抜くタイミングを後ろで待つのは止めですわ!残りの200mで仕掛けるのは・・・辞めます!ここがわたくしの残り200mですわ!

 

上半身を下げ脚を広げる。ミカドランサーは全力疾走で地面を滑空し、真っ赤なブレンボが歓喜の声を上げた。

 






おう!もしかして賢くレースすると思ったか!?人には出来ることとできないことがある!ウマ娘も同じ!

おハナちゃんごめんね・・・君が教えたレース理論は全く役に立たないんだ。ミカドちゃんは何も考えずに好き勝手走ってる方が強いんだ。スズカと同じタイプなんだ。

シービーはマルゼンスキーへの勝ちを軽んじているわけではありません。ただマルゼンスキーにこう勝ちたいというイメージがあるんです。そしてそれが彼女の必勝法なんです。賢く勝ちを狙えば逆に遅くなるんです。

次回、三冠ウマ娘敗れる!レディゴー!
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