永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
ミスターシービーが早仕掛けをした。観戦している全員が模擬レースは混迷し、最終的にはミスターシービーとマルゼンスキーとの一騎打ちになるとこの時は思っていた。
そう'思っていた'。ミスターシービーの早仕掛けにいち早く反応し、後ろについていたミカドランサーが叩き合いに持ち込むまでは。
観戦している誰もが目を見開き言葉を失った。デビュー前の新人が、あの三冠ウマ娘のミスターシービーに噛み付いている。
おおよそ勝ちに向かう走り方じゃない。思わず多くのトレーナーはミカドランサーを担当している東条トレーナーを見る。
東条トレーナーは天を仰いでいた。今にもわーおそらきれいと言い出しそうな雰囲気を醸し出していた。
意外と苦労してるんだな。トレーナー一同はそう思った。
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ロングスパートを掛けて最前線のマルゼンスキー目指しアタシはひた走る。スタミナは私が有利。確証はないけどここしかないと思った。
前を塞いでいた壁は取り去って、ようやくマルゼンスキーの背中が見えてきた。ここまで何も考えずに突っ込んでしまった。
でもあそこから仕掛けるのがミスターシービー。このアタシなんだ。あとでトレーナーに小言を言われそうだけどそれは仕方がない。でもトレーナーだって悪い。一番楽しんでこいだなんて背中を押すから。
アタシにとって、この模擬レースの目的はただ一つ。マルゼンスキーに自分の走りで勝つ、その一点に尽きる。
あのエキシビジョンレースは本当に楽しかった。アタシ以外にあそこまで自由に走るウマ娘がいるとは思わなかった。天衣無縫と呼ばれたアタシが、そう呼びたくなるほどの自由さ。
アタシだって無敗なわけじゃない、負けたことは何回だってある。だけどあのレースだけは別。利己的な走りしかできないアタシが初めて見つけた自分の同類。そんなマルゼンスキーにアタシは負けた。
あの時アタシから見て、アタシとマルゼンスキーの実力はほぼ五分だった。むしろ2人ともシンザン会長には及ばなかった筈。だけどマルゼンスキーだけがシンザン会長の先へ行った。
負けて悔しかったし、弱い自分自身が腹立たしかった。だけどそれ以上に称賛したし、アタシもそうなりたかった。
だからもう一度走りたい。だからこのレースに参加した。二度と負けたくない気持ちは勿論ある。
だけど何よりもアタシは知りたい。マルゼンスキーが何を考えていたのか。マルゼンスキーに何故勝てなかったのか。このレースの果てにそれがあるような気がする。
あと少しで、あと少しなんだ。もうほんの少し先に前にアイツがいる。ここで捕まえる。
だから・・・だから・・・!
パァン!!
だから、耳障りな音を立てるなミカドランサー!
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わたくしが叩き合いを仕掛け始めて、シービー先輩が初めて振り返ってわたくしを見た。なんでもないものを見るような目ではない、明確に邪魔者を見るように。
まるで引っ込んでろと言わんばかり。ふぅん。
まぁシービー先輩の目的はマルゼンスキー先輩ですものね。お邪魔虫は居なくなって欲しいですわよね。
なめやがって。
いくら三冠取ったからって、わたくしを雑兵扱いするなら考えがあります。
勘違いしないで欲しいのですが、わたくしは邪魔をしに来たのではないのです。
このレースで貴方達全員を潰しに来たんですわよ?
そんなわたくしの考えを知ってから知らずか、ミスターシービー先輩がわたくしを置き去りにしようとさらに加速し始める。
周りのウマ娘は無理ー!と言いながら後方へと言いながら置き去りにされる。
わたくしもあっという間に置いていかれるかと思っていた。だけどこうしてついて行けている。
確かにわたくしは今までにないほど死力を尽くしています。ですがそれとは違う違和感。
ブレンボちゃんが・・・走りやすい。速くても癖のあった加速がまるで自由に操れる。昨日までの違和感が全くない。
練習とは違う限界ギリギリでの走りが、格上との死力を尽くした勝負が、似たスタイルの走り方をするシービー先輩が、この子の走り方をより明確にする。
シービー先輩がもっと加速する。僅かしか離されない。シービー先輩はわたくしを突き放すことができない。ああなるほど、そういうことですの・・。
わたくしの方が、速い!!
だったら縮める!今度はこっちから仕掛ける!
脚元から炸裂音。実際にはある筈の無い幻聴。上体を倒し豪快に前へ前へと風よりも速く!ブレンボちゃんからもはや狂気じみたエールを感じる。生まれてから初めてですわ!ここまで速く走るのは!
わたくしはシービー先輩の横に並ぶ。驚いた顔!あらシービー先輩ご機嫌よう。ゴールはまだ先ですがお先に失礼しますわ!
わたくしが限界速度で走り抜けようとすると、向こうもそうはさせまいと気力が膨れ上がる。雄叫びすらあげながら加速し始める。
恐ろしい程の気迫を感じて思わず横を見る。目が合う。さっきまでの邪魔者を見る目では無い。敵を見るように、シービー先輩はこちらを見ていた。
そこからは叩き合いですらない。もうレースなんて眼中にない。もはや胸ぐらを掴んでの殴り合いに近い。
順位や仕掛け場所なんて関係ない。横のコイツよりも一歩でも前へ。互いが互いを煽り合い延々と加速する。
限界は訪れる。そして限界すら超えて競い合う。最早互いしか見えていない。当初の目的も、倒すべき相手すら忘れてのデッドヒート。
ミカドランサーは残りのスタミナなど考えてはいないだろう。恩師もチームも仲間も目的もすべてかなぐり捨て、相手が三冠ウマ娘ということすら忘れているだろう。胸ぐらを掴み上げるように相手のことしか見ていない。
ミスターシービーも潤沢なスタミナを湯水のように使い、目の前の敵がデビュー前の新人であることすら忘れて、全力で叩き潰しにかかる。マルゼンスキーとの勝負すら忘れて殴りかかる。
気付かない。限界すら軽々と飛び越えて飛翔する。ミカドランサーは荒れ狂う嵐のような先立ちにより、高みへと引き上げられる。蝶の羽化のように劇的に進化する。
気付かない。勝負に水を差す忌々しい後輩の事しか考えられないミスターシービーは、その後輩によりさらなる高みへと昇っていく。
気付かない。2人はバ群を切り裂き後組を置き去りにし、前組を拮抗すら許さず叩き伏せ、マルゼンスキーを追い抜いた。
マルゼンスキーにとって初めてと言っても良い、誰かを懸命に追いかけているという状況にすら2人は気づかない。
ゴールまであと2ハロン。もはや決着はすぐそこ。2人はもはやぶつかり合うぐらい身を寄せながら、隣よりも一歩でも前へと進むべく走る。
もはや前代未聞の狂気のペースを駆ける。駆ける。そして———、
———2人仲良く逆噴射した。
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幻のリギル杯芝マイル部門で見事優勝を果たしたマルゼンスキー。順当といえば順当な結果と言えるが、観客が注目したのはマルゼンスキーではなかった。
観客が注目していたのは暴走して暴れ回り、荒らしつくし終盤で逆噴射で沈んだ4位のミスターシービーと、5位のミカドランサー。
最後尾から先頭までロケットのように駆け抜けたこの2人のせいで、参加者全員が掛かり潰れるという異常事態となった。とんでもない地獄めいたバ鹿レースだった。
参加したウマ娘は全員が限界近い走りを強要され、全員息も絶え絶え。長距離も走れる筈のマルゼンスキーすら汗だくで倒れそうになっている。
その真ん中で競りの冷凍マグロのようにぶっ倒れている2人。まるでツキジだ。
寒気がする光景だった。迷いのない特攻のような走り、そして反骨心でミスターシービーが競り潰された。デビュー前の新人ミカドランサーに。
だが誰も声をかけようとは思わなかった。あまりに癖が強すぎる。学園中を探してもこれ以上ない癖ウマ娘だ。誰があんなのに首輪をかけられる?
思わず東条トレーナーを見る。現実逃避している。わあおそらがきれーいと言っていた。
ミカドランサーをリギルから放流させる為に嘆願書にサインしたのは間違いだったのでは?トレーナー一同は訝しんだ。
そんなわけで2人とも沈みました。ある意味順当。