永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
わたくしがおハナちゃんトレーナーのトレーナー室に駆け込んだ。あてが外れてもう他に頼れそうな人がいなかったのです。なんせ誰に聞いても知らないと言って相手してくれませんの。
おハナちゃんトレーナーが知らないのは百も承知、その上で藁にもすがる思いでトレーナー室を訪ねたのです。取り敢えずおハナちゃんトレーナーはわたくしに落ち着くように言い、飲み物を用意してくれた。
「あてが外れたって、いったい誰に逆スカウトをかけたの?」
あまり美味しくはないコーヒーを呑みながらおハナちゃんトレーナーが尋ねてくる。
わたくしは事情を説明する。自分で逆スカウトをするつもりだったこと。間違いなく有能だということ。その人を知っていそうなのがたづなさんしかいないこと。その仲介を断られたこと。そしてそれがトレセン学園七不思議のトトロであること。
たづなさんは頑なというかなんというか、もう絶対喋らないという固い決意すら感じますわ。トトロは一体全体何をしたのでしょう。
「トトロ・・・ああ、あのシューズの走り方を教えた人ね。私もあの後調べたけど、学園のトレーナーにはそんな人いなかったわよ」
ええ、たづなさんはあの人はトレーナーじゃないって言って取り合ってくれないのです。ですがわたくしには分かりますの。あの人はおそらくおハナちゃんくらいすごいトレーナーなんですわ。
あの的確な助言はおハナちゃんトレーナーも舌を巻いていた
はず。トトロにはトレーナーとしての知識や経験は間違いなくある。理由があれば諦めもつくのですが、それすらも話してくれないのですわ。
「何かしらの事情があるのかしら・・・分かったわ、明日にでも私からもたづなさんに聞いてみるわ」
おお、ありがとうございますおハナちゃんトレーナー!わたくしちょっとたづなさんと顔を合わせづらい事情があるのです。ニンジャの件とかで。
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———ということがあったのよ。
ミカドランサーがトレーナー室に駆け込んできた次の日、私は学園で見つけたたづなさんを呼び止めて中庭のベンチで話し合う。適当な缶コーヒーを買ってたづなさんへと手渡す。
最初は朗らかに微笑んでいたたづなさんも、話の途中からは真顔になり、苛立っているような雰囲気になった。明らかに話したくないといった雰囲気。普段の様子からはかけ離れたたづなさんの態度に私は驚いた。
あの子の言っているトトロって何者なのかしら?そんな人がいるなんて、私は1度も聞いたことがないもの。
「トトロ・・・がなんなのは私にはよく分かりませんが、ミカドさんが探している男性には心当たりがあります」
「が、東条トレーナーには申し訳ないのですが、ミカドさんに紹介することはできません。私からすれば東条トレーナーにはミカドさんを止めてほしいくらいです」
それでも根気よく聞き出そうとする。理由がなくては止めようもない、このままだと彼女だけが担当がつかないと言って説得する。
そのうちたづなさんも観念したのかなんとか事情を話してくれた。たづなさんは大きくため息をついた後、少しづつ話し出した。これを聞いたらミカドさんを説得してくださいと念を押して。
「これは・・・独り言だと思ってください」
「あの男は理事長が何処かから拾ってきた、企業チームの元トレーナーです」
企業チーム・・・ああなるほど。であれば確かにその線は調べてはないわね。学園では無名でもそれならあの子に的確な助言をできた事にも納得ができる。
「あちらの業界では相当名の売れたトレーナーらしいです。私は興味もないですが・・・実は中央のライセンスは持っています。現在のところ申請を通していないのでトレセン学園ではライセンスを持っていないということになっています」
それはおかしくないかしら?トレセン学園のトレーナーは数が全然足りてないもの。そんな有能なら遊ばせておく余裕なんて学園にはない。それにライセンスがあるなら明日にでもトレーナーとして働くこともできる筈よ。
「あの男はあくまでもサーバー管理の為に雇われているんです。ですのでトレーナーではないというのは紛れもない事実です」
・・・理由になってないわね。サーバー管理なら他にいくらでも雇えるわ。他にも何か事情があるのかしら。
事情を話し出してからたづなさんは初めて言い淀んだ。言うべきか言わざるべきか悩んでいるように見える。何か言いづらいことがあるのね。
そして直感的に理解した。おそらくここから先がミカドランサーにその男を紹介できない理由。
決心を固めるようにたづなさんは缶コーヒーを一気に飲み干した。そして空になったコーヒー缶を握りつぶしながら吐き出すように言う。
「・・・危険だからです。噂ではあの男の指導は的確で無慈悲で有名らしいんです」
的確で無慈悲?スパルタトレーニングということ?ハードなトレーニングをするトレーナーなら中央では珍しくはないわ。流石に限度はあるけど。
私は企業チームは詳しくはないけど、名の知られる程の腕を持つならそこら辺はきちんと線引きすることはできるでしょう。
「ここから先は企業の方には裏は取っていません、私が調べた眉唾の噂話程度だと思ってください」
「あの男は・・・今までに最低8人のウマ娘を担当しています。あの男の担当したウマ娘は、どの選手も企業間では伝説的な強さを持っていたらしいです。」
・・・・・・。
「ですがその全員が予後不良で引退しています。つまりあの男は最低8人のウマ娘を潰しているんです」
・・・っそれは!
「あの男は潰れると分かっていて、その上で教えていたんです。速く走らせる為ならそういうことをする男なんです。だからあの男は
設計・・・なるほどようやく全部が繋がったわ。どうしてたづなさんがミカドランサーに合わせようとしないか、話すらしようとしないのか。
「ですのでミカドさんに、いえ誰であっても紹介することはできません。どうか理解してください」
ミカドランサーが自身のトレーナーに据えようとしていた男。会ったことはないけれど今凄く嫌いになったわ。
そいつはレースを、ウマ娘を愛するものにとって絶対に許すことのできない人物だった。
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「トトロをトレーナーにするのは諦めなさい」
信じて送り出したおハナちゃんトレーナーが敵陣についた件というべきでしょうか。反対派に取り込まれて帰ってきました。
嫌ですわたくしは納得がいきませんの!だって理由もなく諦めるなんてわたくしのスタイルではありませんわ!
「どうしてもよ。トレーナー探しなら私も付き合うから。貴方にはスカウトの話か沢山来てるのよ」
嘘つきは泥棒の始まりですわよ!尻込みしてるトレーナーばっかりなのはわたくしも知ってますからね!
今残っているスカウトは後がなかったり、一発当てたい三流ばかりなんですわ!そんな舐めた態度のトレーナーはこっちからお断りですわ!
「学園にはトトロはいるらしいけど、トレーナーとしての活動の許可は間違いなく降りないわ。だったら新しいトレーナーを探した方が絶対いいわ」
む?そういう言いまわしをするのなら、おハナちゃんトレーナーは多分たづなさんから事情を聞いてますのね?訳くらい教えてくれますか?
おハナちゃんトレーナー少し迷った様子を見せた後、簡単に事情を話してくれた。経歴や噂などの話。
「———つまりトトロの指導は危険なの。担当ウマ娘を物みたいに扱って、潰して何も反省しないなんて私も許せないわ」
最後に吐き捨てるように言うおハナちゃんトレーナー。でもどうしても、そこはおかしいと思います。
・・・・違いますわ。
「え?」
絶っっ対!そんな人じゃないですわ!そんな人ならブレンボちゃんの履き方をわざわざ指導する訳ありませんわ!
物みたいに扱うなら、わざわざ担当でもない相手に時間を使って指導なんてしませんわ!
それにあの時、トトロはブレンボちゃんを履かない方が良いってアドバイスしてくれましたし、履くのは危ないからやめておけって言ってましたわ!
速く走らせたくても、絶対潰したかった訳ではない筈ですわ!自身の目でそれを確かめるまでは、次の担当なんてわたくしはお断りします!
わたくしはトレーナー室から飛び出した。こうなれば力づくでもたづなさんの首を縦に振らせなくてはならなくなった。
トトロは劇薬なので動かすのが難しい。
たづなさん、缶コーヒーの空き缶を握りつぶして潰せるなんてまるでウマ娘みたいっすね。