永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
二つの影がトレセン学園中庭の十字路にて向かい合うように立っている。そしてその周りを囲うように多数の特殊夜間警備隊の影があった。
「久しぶりですね、私のこと覚えていますか?」
中央で向かい合う影の一つ、いつもは蛍光緑の制服が眩しい我等が理事長秘書。だが今日は真新しいスポーツウェアを着込んでいる。相対する影に向かって話しかけながら奥ゆかしく微笑んだ。カワイイ!
相対する影は囲まれていることに動揺する様子も見せずに堂々と振る舞っていた。まるでこの程度の状況は些事であるといわんばかり。
周りを囲う警備隊は冷や汗すらかいていた。明らかに只者ではない。なぜこの状況でそのように振る舞える?すぐにでも取り押さえたい。だがそれはできない。
この黒尽くめの影は先輩の獲物だからだ。
黒尽くめは周りを一切見ず、たづなさんだけを見ながら口を開く。
忘れる訳がなかろうたづな=サン。オヌシがワタシの事を探しているのはミカドから聞いて知っていた。いきなりの呼び出しとはいえ、その衣装にシューズを履いてきたという事は・・・そういう事でいいのだろう?
あの時はアイサツ抜きのアンブッシュだったからな。改めてアイサツをさせてもらおう。アイサツをしないのはスゴクシツレイだからな。
そう言うと黒装束は一定の距離を保ったまま、合掌し頭を下げてアイサツを行う。
ドーモ。ハジメマシテたづな=サン。ウマニンジャです。
ワタシのアイサツを見て、たづな=サンも戸惑いながら少し会釈するように頭を下げる。
「はじめましてでもないですが・・・どうも駿川たづなです。ウマニンジャさん。衣装を変えたんですね」
ウム。此度の闘いの為にワタシもアップデートしたのだ。オヌシのようにな。
アイサツとはウマ娘がレースにおいて絶対の礼儀として重んじる行為。たとえ相手が何者であったとしてもアイサツは欠かせない。ウマ古事記にもそう書かれている。
草木も眠るウシミツ・アワー、荘厳なるトレセン学園は壮絶なレースの開始点と化す!
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レース確約から2週間後、ついにルドルフとの勝負の日程が決まった。
勝負の日は4月の初め、入学式の日。新入生歓迎のプログラムの一つとしてエキシビジョンマッチをねじ込んだ。
上級生が新入生に学園の設備について案内をするのは例年通り。わたくし達も去年同じように案内をされましたわ。
勿論その日にはターフグラウンドも案内される。その際先輩として初々しい後輩達に歓迎の意を込めて走るわけです。
勿論デビュー前のわたくし達がメインを張れるわけではないです。学園のスターウマ娘のエキシビジョンレースの前座として行う、わたくし達の同期だけのレース。
去年にはなかった催しですが、わたくしとルドルフの勝負を面白がったシンザン会長の鶴の一声で決まったらしい。
8人立て2000m・・・ブルーにも声はかかったそうですが、辞退したそうです。水を差すような真似はしたくないからだそうですが。
ルドルフはブルーが参加しない事を残念がっていましたが、目標も定まって練習が身が入っているらしいとおハナちゃんトレーナーから聞きました。
でもふわふわルドルフがばちばちルドルフになってしまっているそう。いい傾向なのでしょうか?わたくし分かんない!
「いい傾向なわけがないだろう。流石にあれには勝てんぞ」
はいトレーナーは盛り下がることを言わない!わたくしの隠された才能を開花させることでこっから逆転しますので!それよりも、レースの為にたづなさんを釣り上げる作戦はうまくいきそうなんですか?
トレーナーにニンジャの事を話したら、普通に犯人は君だろう?と言い当てられてビックリはしました。ですが説明の手間が省けたという点では悪い事ばかりではありませんわ。
なんでもトレーナーが裏から手を回してわたくしを容疑者から外したそうです。どういう手を使ったのかは分かりませんが、そのおかげでニンジャは学園外から来た産業スパイ説が濃厚らしい。
いやぁ会った事もない生徒を庇うなんて・・・トレーナーも結構やりますのね!うりうり!
「腹を突くな。張り倒すぞ」
またまたぁ〜。トレーナーは実は捻くれているだけでウマ娘が大好きだってわたくし分かってますのよ!そんなことする筈あいたぁ!!
勢い良く振り落ろされたトレーナーの拳骨がわたくしの脳天を揺らす。ああ!星が見えましたわ!
「バ鹿やってないでプランと台本を頭に叩き込め。嫌ならもう一回拳骨を叩き込むぞ」
むぐぐぐ・・・はーい。それにしてもこんなのでたづなさんを呼び出せますの?普通に練習に付き合ってくださいじゃダメなんですか?
「ダメだ。理事長秘書に肉体の限界を攻めるのに付き合ってくれと言っても断るに決まっている。それよりもウマ娘に匹敵する足の速さなんて本当にそれは人間なのか?未だに信じられないんだが」
実は夜間警備隊のウマ娘と勘違いしてるんじゃないのか?というトレーナーの言葉にわたくしははっきりとたづなさんだったと告げる。超至近距離で見たのですから間違いありませんわ。
トレーナーと情報を出し合い2人で考えた作戦としてはこうだ。どうもたづなさんはニンジャに負けた事に大変御立腹らしい。そして今でもリベンジをしようとニンジャを探し回っている。
なのでボイスチェンジャーを使ってトレーナーがニンジャに扮してたづなさんと電話をする。深夜のトレセン学園におう勝負しろよと呼び出す。たづなさんが乗って来たらわたくしは覆面とボイスチェンジャーで正体を隠したまま勝負をする。大まかな筋書きがこれです。
細かい詰めや準備はトレーナーがしてくれるとのこと。わたくしがするのは殆ど走ることだけですわ。でもわたくし夜間警備隊に囲んで棒で叩かれそうではあります。でもトレーナーはそうはならないだろうと言っていた。本当かなぁ。
「理事長秘書の経歴は後で洗い直しておくとしてだ。こちらにとっては理事長秘書をミスターシービーの代用として扱う。そのくらいは速いんだろう?なら問題ない」
シービー先輩のような力強さはありませんが、まるで風のように駆けるとはまさにあのこと。なぜあの時は逃げ切れたのかは未だによく分かりませんが、相手にとって不足はありません。
何を掴むのかは分かりませんが、必ずものにして見せますわ!わたくしとブレンボちゃんの底力!見せてやりますとも!さあさあ!いつ連絡しますか?連絡先は抑えていますわよ!
「・・・・よく考えたらそんな目立つシューズで行ったら、一発でバレるんじゃないのか?」
・・・・あっ!
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ブレンボちゃんは擦れば落ちる塗料で表面を黒く仕上げました。ブレンボちゃんの真っ赤なボディが闇夜のように真っ黒くろすけになってしまいました。
最初は戸惑いましたが、ブレンボちゃんは塗ってもいいけど速く走れよと言っているような気がしたので、まぁセーフ判定なのでしょう。多分。
それに合わせて衣装も新調しました。目出し帽は相変わらずですが、全体的にニンジャっぽくしてきました。ボイスチェンジャーも仕込んだのでわたくしとは気づかれないはず。
「それでどういう風の吹き回しですか?貴方の事を知っているミカドさんに催促しても、延々引き伸ばしていたのに・・・急に私に電話を掛けてきて勝負をするだなんて」
おっと過去を振り返っている場合じゃない。わたくしはたづなさんとお話し中なのですから。頑張ってニンジャを演じなければ。ワタシは・・・ウマムスメの!ニンジャ!
おほん!ワタシは新しい仕事を請け負うことになった。その為の調整の一環としてオヌシと闘う事にした。
「・・・へぇ。私は当てウマですか」
そうでなければわざわざ闘う理由もあるまい?オヌシは違うのか?
「ええ違います自分から逃げ切った人がいる。それだけで十分でしょう?」
ギラギラと闘志を燃やす瞳はコワイ。実際コワイ。闘争心バリバリですわ。本気を出させる為の挑発としてトレーナーの考えた台本通りの対応ですがなんとも強そう。
今まで見たことがないたづなさんです。実は双子の姉妹とかではないのですか?マジな時のマルゼンスキー先輩くらいの圧があります。
夜間警備隊の方々なんて、毅然と立っているように見えて、何人か尻尾を股の間に挟んで怖がってますわよ。ほらあの女騎士の人とか。
「それでどういう勝負にしますか?」
ターフ2000m、暗いがグラウンドには照明は付いている。不足はなかろう?
「ええ受けて立ちます」
もはや背景が歪むほどの圧力を放ちながらたづなさんは先行する。肩で風を切って歩く様は本当にサマになっている。なんというか超強いスターウマ娘のよう。
マルゼンスキー先輩やシンザン会長、ミスターシービー先輩とも引けを取らないような気がします。いや・・・もしかしてそれ以上かも。
うーん。これはわたくし早まってしまったような気がしますわ。まあなんとかなるでしょう!多分!
次回レース回。当て馬の方がつよい!もうおしまいだ!勝てるわけがない!あいつは伝説のスーパーウマ娘なんだぞ!
たづなさんの経歴を洗い直したトトロは顔を真っ青にした模様。なんでなんですかね?僕よく分かんない。