永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話   作:ぐっちSKG

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新章突入前の山場。バトルオブトレセン。

修正によりこのレースは6人から8人へ変更しました。理由はなんとなくです。


決戦 トレセン学園 2000m(中距離) 右

ターフグラウンドにはスタートゲートが設置され、いつでも走り出せる状態。レースを目前にわたくし達はストレッチや準備運動をしていた。

 

コースの枠の外周りを新入生が覆うように取り囲んで、準備をしているわたくし達に注目している。主な視線の先は前座のわたくし達ではなく、メインの先輩達なのでしょうが。

 

まぁそれは仕方がない。実績のないわたくし達よりも注目されるのは当たり前ですもの。

 

準備運動を終えたルドルフがジャージを脱ぎ体操服姿になる。新入生達のうち何人かは息を飲むようにびっくりしている。

 

わたくし達は見慣れてはいますが、おハナちゃんトレーナーの手によって仕上げられたルドルフは、それはもう完璧と言っていい仕上がり。クラシック級でも通用するであろうことは、見る目のあるものならば理解できる筈。

 

ルドルフに倣ってわたくしもジャージを脱ぎ捨て、ゼッケンに袖を通す。ブレンボちゃんをソフトケースから取り出し履く。そして調整する様に少し走り調子を確かめる。

 

いける。トレーナーの練習は強度が緩いと思っていましたが調子はかなりいい。不思議なくらい調子がいい。

 

「ミカドちゃん調子はかなり良さそうね。おハナちゃんが心配してたけど問題ないみたいね」

 

おやマルゼンスキー先輩じゃないですか。おはようございます。ふふん!今日はバリバリいけますわ!賭けをしてるならわたくしに賭けることをお勧めしますわ!

 

「レースに賭けは御法度だぞ」

 

マルゼンスキー先輩おはようございますと言いながら、ルドルフがこちらに来る。マルゼンスキー先輩はおっはーと言い挨拶を返す。態々応援に来てくれたらしい。わーい。

 

軽く柔軟をしながら仲良く話しているとふと思う。それにしてもマルゼンスキー先輩わざわざ来たと言うことは何か用事があったのでは?

 

「先輩として可愛い後輩たちに激励に。あと実はおハナちゃんからミカドちゃんに伝言を預かってきてるの」

 

伝言?一体何ですか。

 

「じゃあ伝えるわね・・・こほん。ミカドランサー貴方には悪いとは思うけど、今日のレースの為にシンボリルドルフは完璧に仕上げたわ。今日の彼女に負けても誰も責めないけど・・・勝てるものなら勝ってみなさい。怪我だけはしない様に」

 

以上。と言ってマルゼンスキー先輩は言葉を切る。おハナちゃんトレーナーの物真似似てますわね。そっくりでしたわ。

 

チームリギルのトレーナーとして、チームメイトのルドルフだけを応援するのが筋といったものでしょう。その上で一見挑発に見える激励をおハナちゃんトレーナーは送ってきた。

 

相変わらず人がいいと言うかなんというか・・・じゃあ先輩、おハナちゃんトレーナーに伝言返してもらっていいですか?

 

貴方のルドルフが完璧であれば、わたくしはその完璧の先へと行きます。わたくしは2人の素晴らしい指導者に鍛え上げられた。だから勝つのはわたくしです。・・・伝えてもらっていいですか?

 

モチのロンよと言ってマルゼンスキー先輩は手をブンブン振りながら去っていった。

 

マルゼンスキー先輩はいつも通りの先輩でしたわね。あっ新入生が気付いてキャーキャー言ってますわ。さすが人気者。

 

マルゼンスキー先輩とルドルフの3人で話していて、マルゼンスキー先輩が抜けてしまうと、ルドルフとすぐそばで2人っきり。

 

うーん親友とはいえ今からぶちのめすわけですからね。或いはぶちのめされる。あまり馴れ合うのもなぁ。まあいっかルドルフだし。ああルドルフ一つ言っておきます。手ぇ抜いたらぶっとばしますわよ。

 

「勿論だ。お前こそ全力で来てくれ」

 

お前の全てを凌駕してやると言いながら、ルドルフは拳を差し出して来る。わたくしもその拳に合わせるように拳を軽く合わせ、互いに並ぶように歩き出す。

 

そして2人別々のスタートゲートへと入った。選手も見学する新入生ももはや誰も喋らない。見学者は固唾を飲んで見守っている。

 

静かで暗いゲート内。聞こえるのは選手の呼吸の音と、わたくしの心音だけ。何も考えられない考えない。

 

集中力によって引き延ばされる意識というワイヤーがキリキリと音を立てる。わたくしの意識が極限まで引き延ばされる。今か今かと全員が飛び出す瞬間を窺っている。

 

ガコン

 

一気に差し込む日の光を感じると同時にわたくしはゲートから飛び出した。全員スタートはうまくいった。新入生の歓声を背にわたくしたちは駆けていく。

 

8人立て。逃げなし、前5、外横2、右後ろ1。ルドルフは最前より外側の2つ後ろで先頭を追い立てる。かなりいい位置に付いている。

 

わたくしは後方2番手。トレーナーの予想いや予定通り。内側は塞がっている。外から回るしかないがそこにはルドルフがいる。外を回っても大きなロスはない。そうなると純粋な実力勝負となります。

 

2000という距離。わたくしの適性には少し長いですが、何も起こらなければ難なく走り切れる距離。

 

そしておそらく何も起こらない。そうシービー先輩の時のように劇的な展開は起こらない。ルドルフはそういう展開を起こさせないように動いているのでしょう。

 

わたくしは前を走るルドルフの背中を見ながら考える。いつものようにルドルフは相手を牽制しつつ、レースをコントロールしている。この人数でも関係なく操れているようです。

 

これを見ている大半の新入生には理解できないでしょう。何も起こさせないというのがどれほど凄いことなのか。おハナちゃんトレーナーが皇帝の采配と称したあいつの走り。勝って当然という状況を作り上げるメソッドの脅威を。

 

ルドルフは実に計算された走りをしますからね。以前にルドルフのレース理論を聞いてもちんぷんかんぷんでしたもの。その上不慮のトラブルに対する対応が早い。レースにおいては実に隙がない。

 

その上おハナちゃんトレーナーが鍛え上げ教え込んでいる。マルゼンスキー先輩には仕込めなかった、おハナちゃんトレーナーの思う理想の走行理論の完成形。それがシンボリルドルフに惜しみなく注がれている。

 

そういう点ではわたくしは不利。わたくしのトレーナーがどういう風な未来像を見ているのか。さっぱりわかりませんもの。だから自分なりの走りを精一杯するしかない。わたくしのもちうる全てを出し切るしかない。

 

なら何をするか。ルドルフにはわたくしの手札は既にほぼ全て割れている。いつものように早じかけで押し切ろうとしても読まれているでしょう。

 

展開の読み合いでは勝てない。この勝負だけではなく今後一切。わたくしのトレーナーがそういう評価を下すほど、あまりに卓越したレースの流れを操る才能。まさに麒麟児。

 

なら・・・読まれた上で早じかけに乗る。トレーナーが考えたルドルフには一度しか通用しない博打技です。名付けて'スペースガール作戦'。こんな重賞でもない所で使うのはもったいない隠し玉かもしれませんが・・・出し惜しみはなしですわ!!

 

 

--------

 

「早くも仕掛けたみたいね」

 

横でマルゼンスキーが呟くのを聞きながら、私はレースの展開を瞬きもせずに観察する。

 

いつものような早じかけ。ミカドランサーお得意のレース荒らし。まるで以前のミスターシービーと走った時の焼き直しね。

 

あの時と同じように強引に前を切り開くつもりなのかしら。でも前を塞がれて加速を止められている。その対策を怠るほど、私もシンボリルドルフも怠慢じゃない。

 

あれは競り合う対象がいてこそのものだ。器用に受け流せばなんの問題もない。織り込み済みだし、対策は既に出来ている。むしろ釣り針にかかったと言ってもいい。

 

あの時のレースの後、ミスターシービーについて調べ直したが本当に不器用なウマ娘だった。そして波に乗ってしまえば手がつけられない事もミカドランサーにそっくりだった。

 

私がマルゼンスキーを鍛え上げる際、相手がどのような事を仕掛けて来るかを徹底的に考え研究した。マルゼンスキーの走りを高めることには使えなかったが、怪我の功名とはまさにこの事ね。

 

私の使う機会がなくてお蔵入りになった対マルゼンスキーの研究。その全てをシンボリルドルフに落とし込んだ。燻り埃をかぶっていた筈の理論は、未来の皇帝の勝利への道を舗装し盤石とした。

 

あまりに恐ろしい才能を掘り起こしてしまった。走る天才がマルゼンスキーなら、競争する天才がシンボリルドルフだ。正反対ではある筈の2人は補完しあい、強化された。

 

ミカドランサーはマルゼンスキーと同じ走る天才。だが競争する才能としては一流から一枚落ちる。シンボリルドルフはそこを突くわ。

 

トトロ・・・いや阿部トレーナーならそれは気付いている筈。それでも事前に授けられる策には限りがある。8人という人数ではシンボリルドルフの真価を発揮しきれないとはいえ、止める事は無理よ。

 

「そう上手くは行かないと思うわおハナちゃん・・・だって違うもの」

 

マルゼンスキーがこちらも向かずに口からよくわからない事を言う。違う?私が何か思い違いでもしてしまっているの?

 

「そうじゃないわ。ミカドちゃんは多分何かいつもと違う。さっき話した時にそう感じたの」

 

・・・直接話した貴方が言うのなら、きっと何か起こるわね。

 

 

-----------

 

 

前を塞がれた状態でその場を維持しながらトレーナーの言葉を思い出す。

 

『いいかミカドランサー。君は私が渡しているトレーニングメニューを軽いと感じている。違うか?』

 

『その事実は合っている。このメニューはあくまでも君のスペックを割り出す為のものだ。身体能力を高めるほど強度は高くない』

 

『詳しい説明は省くが結果だけ言う。このレースで相手と競り合うな、競い合うな。この人数であればルート取りとスタミナにだけ気をつけていれば、あれこれしなくても今の君なら1着になれる』

 

『お行儀よく勝とうなどと考えるな。最後の3ハロン以前はただの余興なんだ』

 

トレーナーがわたくしに授けた作戦。'スペースガール作戦'。それは最後の3ハロンでの競り合いで多段加速をかける事。宇宙へ飛び立つ多段式ロケットのようにトップギア全てを末脚にぶち込む。たづなさんとの死闘で掴んだわたくしの切り札。

 

ルドルフはわたくしが早じかけをすると読んで釣り餌を垂らしているそうです。いや行けるのなら行ってもいいとは言われましたけどね。でもルドルフはそんな甘い奴ではないので、行けばわたくしは釣られそうです。

 

なにせこちらを振り返ることもせず、的確に最短ルートを潰しに来ている。わたくしとブレンボちゃんには横方向への移動に難があるのは見切られているようです。加速が潰されて前には出れない。

 

事前のトレーナーの予想通りに事が運んでいるので動揺はない。言っていた通りルドルフがなかなか嫌らしい方法を使ってきた。

 

最短ルートへの道が開いたり閉じたりしている。前を塞がれたわたくしが好機とみて飛び込めば、直前で蓋をされて沈められるらしい。うわぁおっかない。

 

大人数でなくて本当によかった。大人数ならこういう罠を避けても、その上から閉じ込められることすらできるかもしれませんわ。

 

なので最短ルートには飛び込まず外から仕掛ける。とりあえずその時までは待機。頑張れわたくしの鋼の意思。ここで待機!

 

そう考えていると5本目のハロン棒を通り過ぎる。1000m経過・・・特に目立った事は起こってはいない。焦れて誰かが飛び出すようなことも起こっていない。

 

そろそろ準備をしましょう。一時的に僅かに速度を落とし、前に張り付いていたポジションを捨てる。遮られていた風がわたくしの体を打ち付ける。

 

途中で遅れてもいい、道中で最下位になってもいい。最後に全員ぶち抜けばいい。5ハロンから7ハロンの間で絶好の位置を取ることだけを考える。

 

一度下り距離が空いた事で道が見つかる。ジワジワと加速を初めてルドルフの真後ろと言ってもいい場所に着ける。ルドルフは全体をコントロールしながら、必ず自分が勝ちを狙えるラインだけは残している。ならルドルフの先に道はある。

 

運命の7本目のハロン棒を通り過ぎる。

 

それと同時に仕掛ける。わたくしは上体を倒しストライドを広げる。筋肉と関節の稼働限界ギリギリまで使い切り、外から圧をかけるルドルフよりも外。観客席側に一番近い言ってもいいほどのところから加速する。

 

ここにいる誰にも見せたことのないわたくしの隠し玉。熱く燃え滾る闘志をエンジンに注ぐ。全身の血が沸騰し、体中を暴れるように巡っている。

 

隠された本当のトップギアへと切り替わり、先ほどまでより早く景色が後ろへと吹っ飛んでいく。何処からともなく現れた稲妻を纏った幻影が私と競り合いを仕掛けて来る。

 

いつもの炸裂音より大きい豪雷の如き幻聴。ルドルフはわたくしが仕掛けた事に勘づいて手を打とうとする。ですが遅い。普段の加速ならともかく今のわたくしは止められない。

 

これこそスペースガール作戦。2段式ロケットはルドルフがわたくしに対応するよりも早く網を突き破る。華麗さのかけらもない派手で豪快で劇的な超加速。

 

ルドルフはわたくしの加速力がここまで上がっているとは計算に入れていない筈。故に真正面から不意を突く。

 

限界値に近い運動にわたくしの意識は途切れ途切れになり難しいことは考える事ができなくなる。ただただ本能に全てを委ねる。

 

そしてブレンボちゃんが狂気じみた歓喜の声を上げた。

 




長くなりすぎたので後編へと続きます。

ブレンボちゃんいつも超加速のたびに歓喜の声を上げてるな。やっぱり呪い装備なのでは?

スペースガール作戦。最初はオーバードブースト作戦としていましたが自重しました。
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