永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
「おーおーあいも変わらず元気そうじゃねぇか。安心したぜ」
わたくしの併走相手としてウッドチップコースへと現れたバンダナ先輩。最近なかなか遭遇しないなぁとは思ってはいたのですが、不意のエンカウントによってわたくしは少々テンションが上がっていた。
とはいえこの前の騒動、ファンクラブ事件の際にはこの人はいなかったのです。問題児の管轄は貴方なのですからしっかりしてくれないととか、おかげでシンザン会長が大変だったとか・・・そんなわけで肩に回された手が滑らかにチョークスリーパーへと移行するわけです。
まぁわたくしが不用意に失言を口走る癖は前からなので想定の範囲内。わたくしの全力タップをんー聞こえんなぁと言わんばかりに無視されわたくしは息ができない。ぐ、ぐるじぃ。
『説明はいらないだろうが、併走相手は君の知り合いに声をかけておいた。まあ実力は申し分ないので問題はないだろう』
トレーナがなんか言っていますが、ぐええと呻き声を上げながらわたくしの抵抗は空回り。それにしてもトレーナーからのバンダナ先輩の評価が高い。バンダナ先輩は確かに強いのは強いですけど、そこまでかなぁ?
「お前のトレーナーから頼まれてな。俺様の所謂サブのバイトみたいなもんだ。後輩をしばくだけで金が貰えるなんていい身分だとは思わねぇか?」
な、なんて恐ろしい事を言うのですか!わたくしはわたくしの扱いについて抗議声明を挙げさせていただきます!可愛い後輩には優しくしましょう!ほらチヤホヤしてください!
「い・や・だ・ぜ」
わたくしは目の前がまっくらになった!
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危うく絞め落とされかけると言う状態の寸前でバンダナ先輩から解放される。バンダナ先輩がウォームアップしている間、わたくしも体を動かしながら話題を振る。
そういえば・・・これからバンダナ先輩と走るのわけですが、一緒に走るのって初めてですわね。背中を向けてウォームアップしている先輩を見る。
世間一般で言えばバンダナ先輩はマルゼンスキー先輩世代・・・つまり不作の年の1人としてしか思われていない。あまりに実力が隔絶したマルゼンスキー先輩と比べられるせいで色々言われているのは有名です。
だけどこうしてバンダナ先輩の近くにいると感じる圧は決して弱いものではない。ぶっちゃけ学園でも上澄の方なんですけどね。このクラスのウマ娘を無双ゲームのように叩き潰したマルゼンスキー先輩はやっぱりおかしいですわ・・・。
「うっしアップおわりっと。お前も最近そこそこやるようになったみたいだからな。俺様がかるーく揉んでやるよ」
軽く足踏みしながらバンダナ先輩がこっちに目を向けてくる。バンダナ先輩のことは尊敬していますが・・・舐められるのは嫌いなので挑発の一つくらいは入れておきましょう。
先輩先輩。併走トレーニングは闘争心を高める目的である以上、相手はそれなりに格上でなくてはならないそうですわよ?会ったばかりの頃ならともかく、今のわたくし相手に先輩で相手が務まりますか?
わたくしの挑発を聞いてバンダナ先輩の目の色は変わる。怒っているわけではないですが、バンダナ先輩の目の奥がギラギラとした色を帯びている。
「言うじゃねぇか・・・まあそこら辺は走っていればわかるだろ」
生意気な後輩を締めるのも先輩の仕事だからな、と言って先輩はわたくしに背を向けて歩き出す。わぁ挑発は結構効果がありましたわ。マルゼンスキー先輩にはいつも軽く流されるので新鮮ですわね。よしよしこれで実りのある時間が過ごせそうですわ。
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「クチュン!」
一緒にトレーニングを行なっていたマルゼンスキー先輩が唐突に可愛らしくくしゃみをする。先輩風邪でもひきましたか?
「んー?そんなことはないんだけど・・・誰かが噂をしているのかもしれないわね。風邪をひいたなんてなったらおハナちゃんが慌てちゃうから、体調管理には結構気を遣っているのよ」
マルゼンスキー先輩の返事を聞いてとりあえず安心する。確かに東条トレーナーはいつもマルゼンスキー先輩の事をかなり気にかけてますからね、そんなことになったら慌てるかもしれませんね。
ここで言う気にかけていると言うのはかなり控えめな表現だ。東条トレーナーは確かに管理主義的な考えをする人ではあるが、それ以上にマルゼンスキー第一主義者。最初の担当ウマ娘として本当に目に入れても痛くないくらい可愛がっている。
でもそれについて掘り下げるのはやめておこう。いわゆる打草驚蛇だ。ミカドのように東条トレーナーの過保護っぷりをからかって怒られる趣味は私にはない。
それにマルゼンスキー先輩はみんなに噂されている事が多いですからね。学園でも知らない人はいませんし。
「そうねぇ。でも最近はルドルフちゃんの方が噂になっている方かもしれないわね」
マルゼンスキー先輩の言葉に思い出したくない事を思い出す。ファンクラブ騒動が鎮静化し、トレーニングに集中できる環境が戻ってきた。なんとか頭痛の種くらいに収まってくれて万々歳なのは間違いないのだ。
あの騒動が大事になる前に解決できたとは言え、デビュー前に公式ファンクラブができるのは前代未聞ですからね・・・。どうしてこうなったんでしょうか?
「まぁまぁ、人気があるのはチョベリグじゃない。それに一番噂されてるのはミカドちゃんだし」
それはまぁ・・・ミカドですから。
「ミカドちゃんだからねぇ・・・」
思わず思考が完全に被りマルゼンスキー先輩は軽く吹き出す。本当にあいつはいなくても話題に欠がないやつだ。
なぜか私のファンクラブ会長になったあいつは今何をしているのだろうか?私のようにトレーニングをしているのだろうか。何故か最近ターフグラウンドには全然来ないので何をしているかさっぱりだ。
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バンダナ先輩との併走トレーニング。全力でないとはいえそれなりの速度で競い合うわけです。パワーアップを果たしたわたくしは確かにいい勝負ができて、なおかつ効果的に練習できている気がします。
でもわたくしはヘトヘト。対するバンダナ先輩はピンピンしています。もしかしてスタミナの差でしょうか?ぐへぇ・・・。
「おいおいもうへばったのか?リギル杯とかいうイベントでマルゼンスキーを追い抜いたって聞いたがそんなもんか?」
疲労困憊のわたくしをニヤニヤしながら眺めているバンダナ先輩。腹は立ちますしなんか納得いきません。
ぜ、全力で走ってる訳ではないとはいえ、こう何本も走っていたら疲れるに決まってますわ。大体なんかバンダナ先輩と走っていると・・・こうなんかすっごい疲れるんですわ!
「そりゃ色々やってるからな。年季の違いってやつだ」
確かにバンダナ先輩の言葉の通り全然気持ちよく走れませんでした。何本か併走トレーニングを重ねて気づきましたが、この先輩は相手にするととにかく面倒くさい走りをしてきます。でもこんなの練習でやる事じゃないでしょう!
「そりゃ仕方がない。お前のトレーナーには、実戦形式でやってくれと言われているからな」
ぐぬぬ反省が見られない!大体走りながら話しかけてきたり、ストライドを変えてペースを狂わせてきたり、わたくしの加速をギリギリのラフプレーで潰されたりしましたけど、こっすい小技に頼らず正々堂々と勝負してくださいよ!
「テクニックと呼べ。簡単な小技でも実戦では結構効果的なんだよ。それにシニア級じゃこんなもん挨拶みたいなもんだ」
本番だと泥ひっかぶせたり肘入れたりするんだぜと楽しげに笑うバンダナ先輩。わぁシニアになりたくなくなってきましたわ。スポーツマンシップはバカンスにでも行ったのでしょうか?わたくし怖い。
「シニアくらいの実力があればならこのくらい軽く流せるんだよ。逆に全部引っかかるお前の方がすげぇよ。頭の中スポンジでも詰まってんのか?」
失礼な!!
こういう日常生活を写す事で深みが増すと思いませんか?
バンダナ先輩主人公でもやっていけるくらいの活躍させたい。