生きているなら呪霊だって殺してみせるし、誰であろうと救ってみせる 作:皐月の王
肝試しの舞台に選ばれた廃病院では、女子生徒達の悲鳴が木霊していた。楽しいという感情から来るものではなく、心の底からの恐怖、迫る死から必死に逃げているのだ。異形の怪物から
「▪️▼▪️▼⚫!!!」
「なんなのアレ!!!あの化け物は!!!」
「あんなのいるなんて聞いてないよ!!!」
「足を止めないで!!!急いで逃げないと!!!」
美香を含む三人と朱桜は院内を走っていた。廃病院に入り肝試しに興じていた。しかし、雰囲気が変わり、異形の怪物が姿を表した。固まる美香達だったが、朱桜が声を出して逃げるように叫んだため、すぐさま逃げに移ることが出来た。しかし、如何に走ろうとも廃病院から出れずに二十分間ほぼ走りっぱなしとなっていた。
そんな中、朱桜が転けてしまう。
「朱桜!!!」
「「朱桜ちゃん!!!」」
美香と他2人が朱桜が転けたことに気づき直ぐに駆け寄ろうとするが、朱桜のすぐ近くには異形の怪物が迫っていた。
「私の……事は、いいから!逃げて……!」
息も絶え絶えで朱桜は言う。心臓は限界まで動いて胸が痛いし、足は限界まで動かした。体力はもう走るだけの力を残し切れていない。
「何言ってるのよ!私が誘ってこうなっている以上、私が見捨てることはしないわ!二人は先に行きなさい、私は朱桜と必ず追いつくわ!」
美香は朱桜に肩を貸し、立ち上がらせて他二人に指示を飛ばす。「だけど…」と言い淀む二人に
「私が約束を違えたことがあると!?」
「「は、はいぃ!!!」」
二人の女の子は走り出す。美香の言葉を信じて生き残るためになりふり構わず走り出す。それを見届けた美香は朱桜と共に歩き出すが
「きゃあ!?」
「っ!?」
異形の怪物の腕に捕まってしまう。二人は引き離され、強く握られる。ミシミシと嫌な音を立てながら激痛が体を巡る。意識すらも飛びそうなほどの激痛、走馬灯が駆け巡る。
遊んだことや、怒られた事、共に笑った事や、驚いたこと、嬉しかったことなどが鮮明に巡る。そんな中、彩華の事を思い出す。最後の会話が肝試しについての事だ。まだ、いっぱい話したいことや遊びに行きたい所があると思う。
(いやだ……死にたくないよ……いやだよぉ……)
朱桜は涙を流していた。そんなのお構い無しに、異形の怪物は朱桜を自身の口元まで運ぶ。
「朱桜!!」
美香は朱桜の名を叫ぶ。これから起きる事柄が容易に想像で来たからだ。その通りになれば目も当てられない光景になるだろう。異形の怪物は朱桜を喰らうべく、掴んでいる手を離した。
朱桜の体は、重力に逆らうこと無く口の中に落ちて、異形の怪物に食われる運命だった。現在進行形でそうなろうとしていた。しかし、朱桜の体は怪物の胃の中に落ちること無く静止していた。
「え?」
「『縫』」
第三者の声が二人の耳に届く。それと同時に朱桜の体は引っ張られる。体には青白い糸の様なものが巻きついていた。後ろに引っ張られるのと同時に、人影が入れ違いに異形の怪物に向かって飛び出す。黒い外套と黒い髪を靡かせ飛び出す。その人影は、両手に短刀を持ち切りかかる。怪物は空いた手で掴もうとするが、一本の短刀に薙ぎ払われた。すかさず、人影は怪物に飛びかかり、二本の短刀で怪物を縦に切り裂く。鮮やかな手さばきだった、怪物はそのまま絶命し姿を消す。捕まっていた美香も怪物が殺られた事により解放される。月明かりがその人影を照らし出す。
見覚えのある黒い髪に、青黒い瞳。見覚えのない和服に身を包み、短刀を持つ少女がそこにはいた。本来いるはずの無い人物。
「さ、彩ちゃん……?」
「彩華……さん?」
「危機一髪、って所だったね?朱桜、美香さん」
土御門彩華がその場に居たのだ。
――――――――――――――――
「これに懲りたらこういう所に来るのは……控えてよ。分かった?」
「「はい……分かりました……」」
彩華は歩きながらに説教をしていた。彩華が到着して"浄眼"を頼りに人の思念を探していたら、二人を発見したと言う事だ。発見したらしたで、朱桜と美香は二級クラスの呪霊に喰われそうになっていた。何とか間に合ったが、彩華が居なければ死んでいただろう。そうなれば、彩華は自分を呪い、土御門家を呪っていただろう。しかし、何とか無事に二人を救出する事に成功したのだ。
「そ、それで……彩ちゃんはどうしてここに?だって家の用事で来れないって……」
朱桜が前を歩く彩華に問いを投げる。美香もそれは気になっていた。朱桜から「家の用事があるから来れない」と聞いていたからだ。いざ蓋を開けてみると、現代にはそぐわない服装を身にまとい、銃刀法違反を犯し、怪物を……呪霊という存在を祓った特異な存在だ。朱桜と言う共通の友人を持つ者として、彩華とも仲良くありたいと思った。だから親交を深めるべく美香は今回、肝試しを企画した。
そして今に至る。美香の疑問は、彩華がどういう存在かというものだ。朱桜の質問に彩華は答える。
「これが家の用事。こういう如何にもという所に足を運んで、呪霊を祓ったり、あとは家での鍛錬かな。厳しくて毎日嫌になるけど……」
なんて無いふうに言う。彩華はここで誤魔化すより、ある程度話した方が良いと考えていた。下手に誤魔化して混乱させるよりも良いと。
「そうなんだなんかカッコイイね!!!」
朱桜はそんなのお構い無しに目を輝かせていた。美香も彩華もずっこけそうになる。
「聞いていた?朱桜、彩華さんは……」
「人知れず悪霊退散する陰陽師的なことをしているんだよね!カッコイイじゃん!!!カッコイイよね美香ちゃん!」
自分がさっき死にそうになった筈なのに能天気というのか、アドレナリンが出すぎてハイになっているのか分からない。彩華と美香は溜息をつき苦笑いをうかべる。
「散々怖い目にあったと言うのになんと言うか、相変わらずね」
「本当に、私ならそんな言葉浮かばないよ」
彩華は二人と話しながら、廃病院の呪霊を祓って行く。さっきは短刀を使っていたが今は呪力で体を強化し、呪力を纏った体術で祓っている。人に見せるようなものでは無いが、だからと言って別行動する方が危険になる。先の二人には護符を渡してあるから下級の呪霊なら近寄ることも出来ないようにしているため、彩華は朱桜と美香に着いている。一階から五階までの確認を終え、最後は屋上となっている。
(ここまで来て、最大で二級クラスが一体だけ……。拍子抜けと言えば拍子抜けだけど、皆が無事でよかった。死人が出ていたら、当主を呪っていたかもしれない……けど、)
物騒な事を考えながら、彩華は揺れていた。内心でそう考えていても、呪術師の土御門彩華として考えた時、果たしてこの二人を守る事を優先すべきか、呪術師として任務を優先すべきかと……。
考えるなと否定しても、積み上げてきたものがお勤めを優先させようとする。この時の自分ほど嫌いになると、内心彩華はため息をついていた。
廃病院の探索は一階から五階までの確認を終え、最後は屋上となっている。
「ここが最後の場所なんだよね?」
「そうだよ、スリリングな肝試し大会も終わり。今日のことは正直に言うと忘れて欲しいよ」
「私はそうする。軽い気持ちで誘ったら死にそうになったなんて嫌だし」
屋上を確認すると、さっきまでとは異なり、呪霊の姿は見られない。クリアと言っても差し支えないだろうと思う。
「異常なし、祓うのも祓ったし帰ろう…」
振り向き、朱桜と美香に言おうとした瞬間。二人の足元の床が歪み手の形のようなものになろうとしていた。さらに後ろの床はあきらかに別の形へと変貌を遂げようとしていた。
「っ!」
彩華の体は動いていた。頭で考えるより先に、体が二人を助けようと動いていた。二人に手を伸ばして腕を掴み、後ろに逃がすように投げる。二人は理解できないような表情を浮かべるが、彩華は短く端的に言う
「逃げて」
直後、手は彩華を捉えた。土煙を巻き上げながら屋上の一角が崩壊する。
「彩ちゃん!……っ!」
土煙が晴れて見えた光景は、大きな呪霊に掴まれて身動き出来ない彩華の姿だった。瓦礫の破片が頭部に当たったのか、頭からは出血している。
「この……!『縫』!?」
彩華が術式を使おうとしたタイミングで呪霊は彩華を壁に叩きつける。
「がっ……!」
そのまま開け天井に向けて投げ、其れを追いかけ、追撃をし屋上に叩きつける。
ドゴォオオン!!
轟音を立て、再び舞台は屋上に戻る。彩華はフラつきながらも立ち上がる。
(痛い……痛い……全身が痛いな。頭も打って回らないし……。多少呪力で体を守ったから動くには問題ない……かぁ。問題は相手かぁ……)
頭を振りながら呪霊の方を見る。ざっと準一級か一級かもしれないと。流石に辛いものがあると愚痴を零したくなる。勝てなくは無いが、楽な戦いにならないし、こっちはそこそこダメージを受けてしまっている。
(とりあえず、術式も使って祓わない……と……)
呪霊を見て思考が途切れる。呪霊は朱桜と美香を拘束して、取り込もうとしていたのだ。それを見た彩華は短刀を抜刀し走り出した……が
「クルナ……コイツラ……コロス」
呪霊が脅しをかけてきた。思わず足を止め、睨みつける。
「彩ちゃん!」
「彩華さん!」
「朱桜!美香さん!」
彩華は拳を強く握る。自分の考えが甘かったと。先に二人を世話人の所に送っていれば、こんな事にならなかったと。
(考えが甘かった……!)
「コイツラ……タスケタイカ……?」
呪霊が話しかけて来たことに彩華は驚く。しかし、今はそれどころでは無い。
「当たり前でしょ!その二人は私の友人!助けたいに決まっているわ!」
呪霊が下卑た笑いを浮かべながらに言う。
「タスケタイナラ……ソノ刃ヲ、オマエノ首二、突キタテロ」
刃、それは彩華が持つ短刀を指す事だろう。そして首に突き立てろ時た……つまり、二人を助けたくば自害しろと言うことだろう。
「こんな奴の言うこと聞く必要は無いわ!」
「そうだよ彩ちゃん!こんな奴やっつけちゃえ!!」
呪霊は取り込む力を強めるのと同時に、拘束している部位に口を出し噛み付く。その痛みに悲鳴をあげる二人。
「朱桜!美香!」
「二人ガドウナッテモ…イイノカ?薄情ダナ!?」
どうすればいいかを考える彩華。二人を見捨てるか、自分を死なすか……。後のこと考えるなら、今ここで目の前の呪霊を祓う方が正解だ。他の術師の被害だってここで祓えば抑えられる。術師の被害だけじゃない、これから他にも目の前の呪霊に殺される非術師も出るはず。そう考えれば、目の前の二人の犠牲で呪霊が祓えるなら良い方だ。
(……しか無いよね。死にたくないしなぁ……)
彩華は短刀を持ち構える。
「ひぐ……あっ……!お願い彩ちゃん…!私だってどうなるか事くらい分かるよ……だから……!」
「あっ……ぐぅ!!私だって死にたくないけど、私達二人に構わなければ倒せるよね?なら敵討ちは任せるわ!」
二人はにへらと無理やり恐怖を押さえ込んだ、涙を流した笑みを浮かべて言う。しかし彩華には
(本当は死にたくないし、怖いし、泣き叫びたい気持ちでいっぱいなくせに……)
二人の本当の思いを見ていた。浄眼はそういう物も見える。そして彩華は確認する。
「条件を呑めばいいんだよね?」
「アァ、拘束ヲ解イテ、解放シテヤル……」
それを聞いて彩華は――――
(賭けるしかない……かぁ。死にたくないなぁ……。でも、二人の犠牲を出すくらいなら……私の責でもあるし、賭けるしか無いよね)
決めた。
短刀を自身の首に突き立てる。躊躇なく持っていく。
(二人の傷になるだろうなぁ。私だって嫌だもん。自分のために命を張られるのは……)
「彩ちゃんダメ!やめて!!!」
「彩華さん!」
二人は必死に叫び彩華を止めようとする。彩華は二人に"笑顔"を向けて
「ごめんね?巻き込んじゃって……。今回の事は悪い夢とでも思ってよ。じゃあ、バイバイ」
なんて無い風に別れを告げて、自身の首に短刀を突き刺した。
「ぐっ…ぎっ……が……」
苦悶の声を漏らし鮮血が飛び散る。刃は首を通り、月明かりに照らされて深紅の華が咲く。
「あ……が…――――」
鉄の臭いがする紅き"彩り"を以て"華"は散った。
刃は引き抜かれもう一度華が咲く。そして茎が折れるように倒れ、屋上に紅き色で彩った。
次回もお楽しみに、どうなるかは……これからです!
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