生きているなら呪霊だって殺してみせるし、誰であろうと救ってみせる 作:皐月の王
廃病院の一件から一週間が経った。女子生徒三人の葬儀も行われ、日常が少しづつだが戻ろうとしていた。のだが、生き残った二人はそう簡単に日常にもどる術が無かった。朱桜は精神的ショックを受け登校出来なくなっていた。食事は取れているらしいが、夜な夜な誰かに謝っているそうだ。
彩華の方は……
「くっ……ぁぁああ!!!」
変質した浄眼に苦しめられていた。彩華が見ている線と点は死の情報である。いつか来る終わりの概念を見るものである。しかし、それを見ると言うことは、世界の脆さ、自分の手で簡単に殺せてしまうと言う状態に"常に"晒されるという事になる。精神的に多大な負担を背負う。さらに、自身の失態で三人の人間が死んだという事実が更に輪をかける。
彩華の精神状態は何時自殺しても可笑しくないと言う極めて危ないものとなっている。
自害されては溜まったものじゃないと土御門家は地下牢に拘束し、目隠しをして、舌を噛みきらないように布を噛ませて幽閉した。その眼に慣れるか、制御できるまで拘束するのも考えだと思っているのだろう。
「はぁ……はぁ……っつう!」
目隠し越しにでも線、点は視えている。眠っている時以外は必然的に死の情報を見せられ続けている。
(くっそ……気が狂いそう……。こんな眼……!!!)
ジャリジャリと鎖が揺れる。彩華が暴れて拘束を解こうとするが、少女の素の力ではどうにもならない。
「まだ、己の命の価値が分からんか?」
老齢の声が耳に入る。土御門家の現当主にして、彩華の祖父に当たる人物、土御門宗治。
「……命の価値なんて……"こんな脆い世界"のどこにあるのですか……?」
「……脆い世界だと?お前には何が見えている?」
宗治は腰の刀を抜き、彩華の目隠しだけを切り裂く。寸分の狂い無く、彩華を傷つける事無く目隠しだけ切って落とした。
そして……死を見る眼と対面する。
青白く輝く眼は五条家の六眼を連想させたが、宗治が感じたものは
(何だ……!?この眼に見られた時の寒気は……!まるで、首に鎌をかけられている……いや、魂を掴まれている気分じゃ!次の瞬間にも殺されてしまいそうな錯覚すら覚えたわい……!)
己の死を予感した。元の相伝された浄眼なんて比じゃない程の恐怖と初めて対峙する変質した眼。だが、これはより彩華を強くし、術式と組み合わせた時、今まで辿り着かなかった境地に行けるのではないかと。その可能性に思わず笑ってしまった。
「ふっ……。出ろ、彩華。貴様の為に用意した物がある」
牢屋の扉を開け拘束を解く。彩華は自分の為に用意された物が何なのが気になった。しかし、今まで繋がれて座っていたため、立ち上がろうとすると崩れ落ちてしまう。
「秋三、彩華を連れて儂の部屋に来い」
「仰せのままに」
彩華の体術の先生である秋三と呼ばれる人物が彩華を抱き抱えて運ぶ。
「あまり、眠れていないのでは?」
「……そんな事は無いです。眠っている時の方が休まりますし」
「嘘が下手ですね。眼の下にクマができていますよ。大方救えなかった命に心を痛めていたのでしょうね」
図星を疲れたのか彩華は黙りを決め込みそのまま運ばれる。
そして、運ばれ辿り着くは当主の部屋。和室で飾り付けは掛軸程度のシンプルな内装となっている。外からは鳥のさえずりや風で草が靡くのが見て和やかな気分になる。しかし、部屋の雰囲気はそんなものを殺す。部屋には当主が座っており、それだけで厳格な雰囲気となる。
「来たか……。うむ、秋三は下がっても良い」
「はい」
そう言うと秋三は彩華をゆっくり部屋に下ろし、退出する。下ろされた彩華は少し嫌な表情を浮かべるが、直ぐに表情を改めて当主の前に正座する。
「では、本題に入るとするか、貴様の為に用意した物がこれだ」
当主がそう言うと出したのは木箱だった。当主は木箱の蓋を取るとそこにあったのは眼鏡であった。
「眼鏡……でございますか?」
「呪具のな。この眼鏡は、浄眼等の眼の力を抑える呪具だ。"眼"を持つ者は普段からその力で必要以上に消耗する。それを抑える為にあしらわれた物なんだが、眼を受け継いだものはお前を除き近いのは儂の祖父にあたる。それ故に蔵に寝っていたが、此度の件の折出すことにした」
「どうして、今まで出さなかったのですか?」
彩華の疑問は最もだ。消耗を抑えるための眼鏡であり、それを今の今まで出さないのはおかしな話である。
「何、まだ必要ではないと判断していたまでだ。だが、眼で狂わされて自害するとなれば話は別だ……かけてみろ」
当主から手渡された眼鏡を受け取り、彩華は眼鏡をかける。すると視界に映っていた線と点が消えたのだ。
「え!?うそ……!」
眼鏡を外すと再び線と点が見える。ズキリと頭の痛みも走る。彩華は顔を歪めると再び眼鏡をかけた。
「効果はあったみたいだな……?」
「ええ、驚きました」
「では、もう、馬鹿な真似は止すことだ。お前は自分が思っている以上に命の価値があるのだ。土御門家の命運を、将来を背負っておること努努忘れるな……」
「はい、当主様。失礼します」
彩華は立ち上がり、部屋を後にする。1週間ぶりの陽の光を見て眩しさで目を瞑る。再び目を開いても、眼鏡をかけているため、線、点は視界に入ることは無かった。久々に心に落ち着きが取り戻せた気がするが、すぐさま朱桜の事が頭によぎる。
一般人があんな目に遭って、何も無いはずだと。ましてや、自分が死にかけたり、友人の死を目の前で見たりとまともじゃない。一生に出会うか出会わないかの悲劇を、惨劇を見た。彩華ですら、同じような光景を見たら二日三日は立ち直るのに時間がかかるだろう。そう、呪術師としての彩華ですらかかるのに、日向の一般人である朱桜が立ち直れるとは到底思えない。
「……私の術式と、この眼があれば……」
彩華は考える。もし可能であれば、朱桜はもう苦しまなくてもいいだろう。その代わりに、思い出の一つを奪うことになるとしても……。
彩華は次の日、私服に着替え、世話人を呼び朱桜の家まで送らせた。事前に電話で行くことを、お見舞いに行くことを伝えていた。朱桜の母は彩華ならと言って通してくれることとなった。
朱桜の家に着き、上がらせてもらい部屋に向かって歩む。
(……今から私がやろうとしている事は……許されない事だろうけど、縛られたまま生きて欲しくはないし)
呪術師としての考えでこの場に居る。可哀想だと一般人には重すぎると、しかし
(けど、それは……!)
友人としての彩華を苦しめる。行おうという行為は……記憶を消すことであるのだから。変質した眼と術式を持ってすれば可能では無いかと思い、今ここに居る。
扉の前に立ち、ノックする。
「誰?」
ドアの向こうから朱桜の声がする。何時もの明るい声ではなく、聞くだけでも分かるように窶れている。
「私、彩華よ。少し話いい?」
そう言うと、扉が開いた。目にクマを作り、窶れた朱桜がそこに居た。
「……入って」
「ええ」
招き入れられ、部屋に入る彩華。部屋の様子はあまり変化ないが、カーテンは締切って、部屋の電気はつけられていなかった。
「もう、大丈夫なの?彩ちゃんは」
「まぁ……ね。そう言う朱桜は窶れたわね。寝れて無さそうだし、ご飯も食べれて居ないんじゃないの?」
「……うん、眠れてないかな。そう言う彩ちゃんもじゃない?クマがあるよ」
「互いに嫌なこと体験しちゃったということだよ」
「……そうだね」
重い沈黙が場を支配する。そんな沈黙を朱桜がポツリと破る。
「……私、怖いんだ。また、怪物が来ないかとか、また死にそうになるんじゃないかとか、また、大切な人が目の前で死ぬんじゃないかと思うと怖くて怖くて、どうしようもないんだよ。美香ちゃんや皆が目の前で……死んでいく光景が……頭から離れなくて……もう嫌で……!」
「っ!」
彩華は拳を固く握りしめる。自分の無力さを呪う。親友をここまで追い詰めたのは、あの呪霊だけでは無く、間違いなく自分もその一人だと。守りたかった日常、平穏の象徴を自分が壊したのだと。
「ねぇ……そんな悪夢、悪い記憶消す?」
「え?」
突拍子も無い彩華の発言に朱桜は目を丸くする。彩華は朱桜の目を見ながら話す。
「私の眼は元から異常だったけど、今回の一件でさらに異常性をましたんだ。それこそ、死を直で見るような感じにね……」
「死を……直で?」
「うん、それで……私の術式を組み合わせたら、朱桜の忘れたい記憶を消すことだって出来ると思うんだ……やる?」
「記憶を……消す……」
朱桜は考え込む。そして彩華は内心で選択肢を相手に委ねたことを少し迷う。問答無用でやった方が良かったのでは無いかと、こういう世界に来るべきではない人を引き込んでしまう可能性があるということを躊躇う。また、繰り返すのかと……。
「本当は……覚えていないとダメ……なんだと思うだ……けど、ごめん。私、もう……耐えられないんだ……助けて……彩ちゃん……」
もう少し早かったら、この選択肢には朱桜は至ら無かったかもしれないが、もう、耐えれる程の精神状態ではなかった。救いの手が伸びればその手を掴むほどに。
「……分かった。私が、救って見せる」
彩華は眼鏡を外す。そして眼を見開き、限界まで眼の力を使い、朱桜の頭を見る。殺すべきものを見据える。そして、それを取り除くために
術式を使う。しかし、消すのはあの悪夢の日だけではない。もう一切関わらないようにするために
「さようなら、私の親友。色んなこと教えてくれて、こんな私に優しくしてくれて……ありがとう」
「え?彩……ちゃん…?」
「――――――『切除』」
―――――――――――――――――
彩華は眠った朱桜をベットに寝かし、朱桜の家を後にした。そして、世話人の待つ車に乗り込み家に帰るように指示を出す。
結論から言えば上手くいった。初めての試みだったが、何とかなった。その代わりに、彩華は凄まじい頭痛に襲われ、気が狂いそうになったが抑え込み、何とかなった。車の後部座席で目を瞑りながら休んでいる。が……
「ご苦労様ですお嬢様。……お嬢様?」
「……っ。ええ、貴方……も…付き合ってくれて…ありが……とう」
世話人は彩華の涙を堪えながらに言う言葉に少し胸を痛めた。十三歳で背負うものでは無いと思ったが家が環境が才能がそれを許さないのだと彼女の強がりを見てそう思った。だから、
「少し遠回りをします。私は何も聞かなかったことにしますので」
気持ちを共有することは不可能、慰めるなんて以ての外、だから少しでも時間を稼ぐことしか出来ない。後ろから、静かに無く彩華を声を聞きながら車を動かす。
そして時間は流れる
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