生きているなら呪霊だって殺してみせるし、誰であろうと救ってみせる 作:皐月の王
あれから二年の歳月が流れた。土御門彩華は中学校三年生となり、進学について考える時期になった。と言っても、術師なので呪術高専に行くことはほぼ確定しているようなものだ。
「あ……っい」
季節は現在夏真っ盛り。京都の夏は暑いと言われるだけはあり、気温も余裕の三十度超え、彩華は自室の戸を開けて扇風機をつけて、机に突っ伏していた。
「お金あるんだからクーラーの一つや二つ買ってくれてもいいのに……地獄かな?」
彩華の部屋にエアコンは無く、暑い日々を扇風機一個で乗り切らないと行けないと言う地獄を過ごしていた。さらにこの時期は呪霊が多く出る季節でもあり、繁忙期とも言われている。実戦経験に事欠かないと言えば聞こえは良いが、要するに猫の手も借りたい状況で彩華も駆り出されているというのだ。
「次が……準一級の昇任試験だっけ」
彩華は現在二級術師である。二年間の間で昇級し今現在二級呪術師としても活動しているが、実力だけなら一級と言ってもおかしくは無い。それだけの経験を積んできているのだが、色々あって次の任務が準一級になれるかなれないかの試験となっているのだ。
「梅雨が明ければ、猛暑、猛暑、猛暑、ああ、嫌になっちゃうよ……呪霊も増えているしね」
のだが、当の本人は暑さにやられており、項垂れていた。名家の令嬢、土御門家の姫君、最高傑作とか言われているが、今の彼女からはそう言った要素は皆無である。アイスの棒を口に咥えて暑さをどうにかしたいと考えているのだから
「……『ハズレ』ハズレかぁ……よし、準備しようかな」
咥えていたアイスの棒をゴミ箱に投げ入れ、手元のタオルで汗を拭う。そして時計を見て溜息をつき、着替える。動きやすい黒の和服に着替えて、家の玄関に出て世話人に
「清水寺までお願い、そのあとは連絡があるまで本家で休んでて、一級術師と試験だから」
「かしこまりました、お嬢様」
車に揺られて三十分位が経った頃に清水寺の駐車場に着く。彩華は車から降り、見送った後に清水寺に向かって歩を進める。
(なにかお土産渡した方が良いのかなぁ?でも、遊びじゃないと言われた嫌だしなぁ……。気を使いすぎかな?でもなぁ……嫌だしなぁ)
そんな事を考えながら歩を進め清水寺に入る。夏といえど観光客で賑わっており、人混みはある。そんな中から特定の人物……初対面の人間を探すのは一苦労という物だろう。と、思っていたが
(あ、あの人かな?聞いていた服装と似てるし、聞いてみようかな)
サラリーマンのようなスーツと、独特な形の眼鏡、七三分けの髪型の男性だ。彩華はその人物に近づき目の前に立ち尋ねる。
「あの、七海健人さんでしょうか?」
「ええ、そうです。そう言う貴女は、土御門彩華さんでよろしいでしょうか?」
「はい!私が土御門彩華です!今回よろしくお願いします!」
七海が抱いた彩華に対しての第一印象は普通だった。呪術師を出してはいるが、御三家程ではなく、落ちた名家と言われている土御門家の中で、相伝の術式と"眼"を継承して産まれた才女。土御門家と言うと録な話は聞かないことで呪術界では少し有名である。そんな話を聞いていた七海は今回の仕事を受ける際に面倒だと思ったし、その人物も色々とぶっ飛んだ人が来ると思っていたが、良い意味で裏切られた。
「はい、よろしくお願いします。件の話は聞いています。今回は一級の仕事が二件あります。この仕事を成し遂げましょう」
「分かりました!じゃあ、早速行きましょう!」
まず、一件目は廃ホテルで起こる失踪事件について出そうだ。経営者が経営不振で焼身自殺したという話や老婆の霊を見る等の話を聞いたことのある廃ホテル。そこで肝試しのために訪れた人達が行方不明になっているとの事で、呪術師が派遣されたのが呪霊は一級との事で、一級呪術師の七海に白羽の矢が立ち、その次いでに彩華の昇級の件が着いてきたのだ。
「肝試し……かぁ。いい思い出が無いんですよね」
「何かあったのですか?」
今現在二人は補助監督の車で現地に向かっていた。行く場所の情報を聞いた際に彩華が苦々しい表情を浮かべながらに呟いたのだ。七海はそんな表情を浮かべる彩華を気にかけ理由を尋ねた。
「二年前の話なんですけど……」
語られた話は、二年前の出来事、今の彩華を形成している原点に近しい地点の話。そして、人を三人も死なせた話だ。その話をしている時の彩華は悔しさを目に宿らせていた。片時も忘れることがないと、
「と言うことがあったので、肝試しと言うのは自分にとっては、忘れてはいけない呪いなんですよね」
思い返すは友達だった少女の事。自信に待つわる記憶を消したその日に彩華は転校した。その後、朱桜がどう過ごしているかは情報に入って来ていない。自ら距離を取り、呪術界から遠ざけたのだ。無駄な可能性もある。寧ろ、近くにいた方が守れた可能性もあるだろうが、その時の彩華にそんな考えは無かった。
「大変な思いをしたのですね」
七海は彩華の話を聞きそう零した。小学校から中学校に上がって間もないと言うのに、そのような決断を強いられたこと、そしてそんな少女独りに背負わせた土御門家に大人として腹が立った。
「そうですね……だからこそ、今の私がここに居る。って奴ですね、七海さんから見ればまだまだ子供でしょうが、私を甘やかさないでください」
「と言っても貴女はまだ子供です。呪術師としての覚悟、貴女個人の覚悟はよく分かりましたが、貴女はまだ子供だ。そんなに生き急ぐ必要は無いと思いますよ」
「いえ、私はそれでも進まないと行けないんです。止まっては行けないんです」
車の中で二人が話していると、目的地の廃ホテルに到着する。
「ここです。ここに居る呪霊は並の呪霊では無いのは先程説明した通りです。気を引き締め行きましょう」
「はい!」
二人の呪術師は廃ホテルに踏み入れる。踏み入れると同時に、雰囲気が一層重くなる。それと同時に低級の呪霊が大量に二人の前に姿を現す。
「早速ですね」
「ええ、手早く片付けますよ」
七海はナタのような武器と取り出し、彩華は短刀を抜刀する。そして、それぞれ呪霊に向かい走り出す。七海のナタ、彩華の短刀は呪霊を一撃で祓って行く。その動きの中で
(流石一級術師!呪力操作、体捌きが無駄が無く尋常じゃない!本当にすごい人だ!)
彩華は七海の動きを見て、その実力の高さに尊敬した。どれも一級術師を名乗るに相応しいレベルで高められている。たった数体の呪霊を祓うのを見るだけでもそれが分かる。それほどまでに七海の実力派高かった。
七海は呪霊を祓いながらも、彩華に意識を向ける。動きを見る、呪力操作を見るのもそうだが、危なくなったらフォローに入れるようにだ。が、彼も彩華が数体の呪霊を祓うの見た時にその心配が無いと知る。低級の呪霊の大半を祓い、一際大きい呪力を放っている部屋の前まで来る
「この先に恐らく今回の呪霊はこの先にいます。準備は良いですか?」
「はい、何時でも行けます」
七海の確認に彩華は頷く。大きく深呼吸をして準備を整えた。
七海が扉を開けると、少し開けた所に出た。どうやら宴会場的な場所に出たのだろう。しかし、視線を上に向けると、行方不明になったであろう人達が糸で吊り下げられていた。生きているか死んでいるかなんて分からない状態でグルグル巻にされている。そして、その犯人は大きい蜘蛛のような呪霊だった。その後ろには白い卵のようなものがあった。
「げっ!蜘蛛!」
彩華が思わず悲鳴を上げたことで蜘蛛の呪霊は七海達に気づき、糸を出して攻撃を仕掛けている。
「土御門さん?」
「すいません!」
「説教は後です。二人で祓います合わせてください」
「はいっ!」
彩華が返事をすると同時に七海は飛び出す。それを見るのと同時に彩華も走り出す。糸攻撃を掻い潜りながら、呪霊に近づくが!
『キシャアアア!!』
咆哮のようなものをあげると同時に、卵が割れ大量の小さい蜘蛛の呪霊が飛び出てくる。
「くっ!」
「ひゃあ!?」
一体一体は薙ぎ払えば祓える程度の呪霊だが、数が多く押し戻される。更に
「危ない!土御門さん!」
本体の蜘蛛の呪霊の脚が彩華を薙ぎ払うべく襲いかかる。彩華は間一髪短刀を間に入れることにより直撃を避けたが、踏ん張りきれずに壁に叩き込まれる。
「ぐっ……っつつ……!」
壁に激突し苦悶の声を上げながらもすぐ様その場から離れ小さい蜘蛛の呪霊の襲撃を回避する。七海も小さい蜘蛛を祓うのに苦労していた。
「七海さん!私が道を作ります!その隙に本体の大きい蜘蛛をお願いします!」
「出来ますか?」
「できるから言いました!」
「分かりました。では、お願いします!」
七海がそういうのと同時に彩華は手を小グモ呪霊に向けて術式を発動する
「『切』」
斬撃が部屋を走り、小グモを蹴散らす。一撃では止まず、二撃、三撃の斬撃が小グモ呪霊を祓う
「これが"刀圭呪術"ですか……凄まじい殲滅力ですね!」
七海はナタを構え蜘蛛の呪霊に振り下ろす。七海の術式、十劃呪法により蜘蛛の呪霊も足を切断し、顔も切りつける。
「これで終わり!七海さん右に避けて下さい!」
彩華の言葉を聞き七海は右に避ける。避けたタイミングで最後の斬撃が蜘蛛の呪霊に飛翔し両断する。蜘蛛の呪霊はピクピクと動いたがやがて崩れ落ちて姿を消した。蜘蛛の呪霊がいなくなるのと同時に、小さい蜘蛛の呪霊も姿を完全に消したのであった。こうして一件目の仕事が幕を閉じた。