生きているなら呪霊だって殺してみせるし、誰であろうと救ってみせる 作:皐月の王
数日後、七海は京都での仕事の報告を終え、東京校の廊下を歩いていた。そんな七海に
「お疲れサマンサ~!今回の任務苦労したみたいだね七海」
軽いノリで声をかけたのは呪術師で最強の男であり、七海の先輩に当たる人物。
「はぁ……ええ、まぁ、苦労しましたよ」
「そう言えば、お土産無い?京都行ったんでしょ?生八つ橋とかさ」
「私は任務で京都に赴いていたんですよ?仮にお土産があったとしても、それは自分用です」
「七海のケチ」
「普通ですよ、五条さん」
五条悟。呪術高専東京校一年担任であり、呪術界御三家・五条家の現当主であり、日本に四人しか居ない特級呪術師の一人である。そして現代における最強の呪術師である。
「仕方ありません。せっかくお土産にいただいた物ですが、食べますか?」
七海は観念したかのように五条に言う。そのお土産と言うのは、お世話になったということで彩華が和菓子職人に依頼して作って貰った生八つ橋である。
「え?いいの!?さっすがーナナミン!」
「ひっぱたきますよ?」
二人は移動してお茶を用意し、七海はお土産にもらった生八つ橋を出す。
「これ、如何にも高そうだね」
「お抱えの職人さんが居るそうですよ。その方のお手製らしいです」
「流石、土御門家というところかな。うん!美味しい!」
五条は七海より先に手に取り生八つ橋を堪能する。七海も生八つ橋を口に運び
「美味しいですね」
その美味しさに顔が少しほころぶ。湯飲みに入れた緑茶を啜り、生八つ橋を堪能する二人の呪術師。そして話は京都での任務、そして土御門彩華の話となる。
「どうだったの?その土御門家の姫君は」
「そうですね、いい腕をしてました。一級に上がっても難なく任務をこなせるでしょうし、まだ余力を感じることも出来ました。一級に上がるには十分な実力がありますね」
「七海がそこまで言うなら問題無さそうだね。で、気になっていることがあるんだけど」
報告書をピラピラと振りながら五条は言う。七海はサングラスを上げて
「……二件目の報告書に書いてある。推定特級呪霊の領域を破壊したことですか?」
「そう!それ!領域展開は結界術の一種で「閉じ込める』ことに特化している。領域の対処は自分も領域を展開するか、呪力で守るか、領域からの脱出って言うけど、最初の二つ目のやつ以外現実的じゃない」
報告書を机の上に置き、生八つ橋を口に運び、お茶のおかわりを入れながら続ける。
「そりゃ、自分も領域展開出来れば綱引き状態になるか、押し切れる可能性が生まれる。でも、その子がしたのは、押し合いの末とかじゃないんだよね?報告書見る限り、領域の地面に短刀を突き立てたら領域が崩壊した。彼女の術式はそう言う術式で、『刀圭呪術』はブラフ?」
「……いいえ。彼女の術式は情報通り『刀圭呪術』でした。それは確認済みです。……恐らくですが、眼になにかあるのかも知れません」
「眼?」
五条はお茶を飲む七海の方を向きながら聞く。
「彼女の家系なんかそう言う眼あった?」
「情報に書いてますよね?"浄眼"というものがあるそうです。人の意識や呪力等を視覚化することが出来る眼と聞いていましたが……あの時のあの眼はそんなモノとは異なると思いましたね」
あの時の彩華の事を思い出し、天井を見ながらその時思った感想を吐露する。
「"死"を連想しましたね。死ぬかも知れないというものではなく、首に鎌をかけられている感じがしましたね」
「七海がそこまで言うなんてね……ビビった?ビビったんでしょ?」
「ビビってません」
五条は七海を揶揄うが七海はそれを受け流す。五条はつまらなそうに抗議しようとするが、思いついたように立ち上がる。
「よーっし、気になることは自分で動いて何とかしてみよう!七海、僕ちょっと京都に行ってくる!」
「どうぞご自由に……」
五条はスキップをしながら部屋を出ていく。七海はその後ろ姿を見送りながら。
(すいません、面倒な方が其方に行きそうです)
内心、常識人寄りの彩華に心の中で謝罪をする。そして自分以外誰も居なくなった部屋で、一人で生八つ橋とお茶を啜り、あの時の戦いを思い返す。
領域を破壊したことに驚いた。彩華にあんな力があるのかと。しかし、その後も驚きは続く。領域を展開される前は、少しダメージ与える程度だった彩華の斬撃が。領域を破壊後……眼鏡が外れてからは呪霊をバターを切るかのように短刀でバラバラに解体してしまった。強度を嘲笑うかのように容易に切って見せた。短刀を投げたかと思えば、天地を逆さまにした跳躍で短刀と同時に呪霊に迫り、呪霊が弾いたナイフをつかみ、頭部から尻尾まで凄まじい速度で切り裂いて見せた。
(アレは……どう見ても人間業じゃない。本当に……そこがしれませんね彼女は)
報告書に眼を落としながら彩華の事を考えていた七海だった。
二日後の京都にて、彩華は家の中にある道場にて、呪力を使わないでの体術の鍛錬を行っていた。相手は秋三であり、獲物無しの純粋な体術での組手である。
「ふっ!やぁあああ!!!」
「腕、大分上げられましたね。拳の威力も、蹴りの鋭さも、体捌きも、持久力も鍛錬を開始し始めた十年前とは比べ物になりませんね」
「何時の時と比べてるんですか……。私だって成長の一つや二つしますよっ!」
彩華は秋三の腕をつかみ投げ飛ばす。体格差なんて関係なしに技術と相手の力を利用した投げ飛ばしである。秋三は受身を取り難なく体勢を整える。距離が開いたことで、ゆっくりと出方を伺う二人、そして再び距離が詰めて組手を再会しようとした瞬間。
「彩華お嬢様!」
使用人の一人が彩華を大声で呼ぶ。その声で彩華と秋三が動きを止める。
「どうしたのですか。お嬢様は今鍛錬中……」
「大丈夫です秋三さん。私も一息入れたかったので。それでどうしたんですか?」
彩華は使用人に用を聞く。
「はい!特級呪術師で五条家の現当主・五条悟が用があると来ました!」
「……え?」
彩華は頭にハテナを浮かべてしばらく停止してから
「えええええぇぇぇ!!?」
五条悟が来たという情報に悲鳴をあげたのであった。そして、着替えて客室に向かう彩華。内心は緊張していた。
(五条悟って言えば五条家の現当主で、最強呪術師じゃない……どうしてそんな人が、呪術師としては落ちぶれたこんな家に来るの!?しかも当主様じゃなくて私にって……。考えるだけで緊張するよ……!)
彩華の現在の服装は黒い服にチェック柄のスカートにスパッツを履き、身なりを整える。そして客室の扉を開くと、白髪・長身・白い包帯で目元をおおった人物が座って出された茶菓子とお茶を楽しんでいた。彩華が入ってきたことに気がつき、立ち上がり彩華の方を見て
「お、君が土御門彩華ちゃんだね。初めまして僕は五条悟。呪術高専東京校で一年生の担任をしているよ」
「初めまして、土御門彩華です。よろしくお願いします」
彩華は一礼をして自分に構わず座るように促し、自分も座り、五条と向き合う。
「今日はどう言ったご要件で東京から来たんですか?まさか、準一級の話は無かったことにとか……!」
「違う違う。僕が来たのは……」
五条は身を乗り出して、彩華の眼鏡を取る。
「その眼について気になったから、直接見に来たんだ。領域を破壊するに至った眼の力を見るためにね」
彩華の視界は通常の視界から、死の線と点が見える世界へと変わる。今にも何もかもが崩れそうな世界に。五条も六眼を用いて彩華の眼を見る。
「なるほど、君の眼凄いね。凄まじい呪力だ。君には今、何にが見えているんだい?」
彩華は一瞬言うのを躊躇ったが、意を決して言う。
「"死"が見えます」
「誰かが死ぬ未来かい?それとも寿命とか?」
「"物事の終着点"いつか来る終わりだと思います。万物には綻びがある。人間は言うに及ばず、大気にも意志にも、時間にも、呪霊だって例外じゃない。始まりがあるのなら終わりがあるのも当然。私の眼はそんなモノの死が見える。勿論、私の死も、五条さんの纏っているモノも五条自身も」
それを聞き五条は冷や汗をかく。想像以上にヤバイ眼を持っていると。そして、それは彼女自身をも苦しめているというのも
「OK、ありがとう。知りたいことは知ることが出来たよ。その眼は呪霊を祓うのに必要な戦力の一つになるよ。制御できるようにね。そうしたら少しは楽になると思うよ。んじゃ用が終わったから帰るね!お疲れサマンサー!」
「お、お疲れサマンサ……」
眼鏡を彩華に返して歩き出す五条。彩華は五条につられてお疲れと言い見送る。
「そういえば準一級の件どうなったんだろ……」
その事だけが彩華にとっては気がかりであった。
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一級のに上げるか、特級にするかで迷ってます。どうしよう