はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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1章 士官学校編
召喚魔法は落とし穴


 私の顔をした男は元の体の持ち主である私に向かってとんでもないことを言い出した。

「お前、前のおれの体だな、ってことはこの体の持ち主か、なんだ?自分に抱かれに来たか」

 下卑た笑いを浮かべていう元の私の顔を見て怒りを通り越して、ああ、私はあんな顔で笑うこともあるんだな、と妙な感心をしたが、本題を思い出して言った。

「そんな気色悪いこと思うわけ無いだろう? 体を返してもらいに来たんだよ!」

 

 私が用件を口に出した瞬間、恐ろしく、そして禍々しさすら感じるほどの魔力を放出する元の体に心臓を握りつぶされる様な恐怖と威圧感を覚え、なんとかこらえる。

 奥歯をぐっと噛み締め、私の敵に私の体の返還を要求した。

「まあ、そうだよな。おれだってお前の立場ならそういうだろうな」

 これは可能性があるか、と期待すると

「そもそも元に戻す方法なんてあるか知らんし、戻そうとも思わねえが」

 たしかに、魂だけを取り出して入れ替えるなんてできるのかわからないが、方法が判れば交渉もできるかもしれない、という思いはいとも簡単に打ち砕かれた。

「取り戻しに来ると思えばやっぱり答えは一つしかねえよな? 殺す!」

 

 明らかに格上の力を持った私の元の体は、ギラリ、と怒りと殺意を込めた眼差しを私とイレーネに向けた。

 

 ──どうしてこうなった。

 

 あの日はいつもの通りの朝が来ていたはずだ。

 

 いつもいつも終電で帰ってきて最寄り駅からコンビニでおにぎりを買い、

 歩きながら食べ家に着くとさっとシャワーを浴びて寝る。

 そんな生活になって3か月、これは転職失敗したなぁと思いつつ転職活動をする時間がない。

 これは中々に詰みかけてるな、とは思うがどうしたもんだろうか、と考えが次に進まないのは無意識に諦めてしまったのか疲労とストレスで思考力が落ちていたのか。

 

 いつものように髭を適当に剃り、ヨレヨレのスーツを着てギリギリの時間に家を出る。

 玄関のドアを開けて空を見た。

 こんなに明るくて気持ちのいい朝なのに帰るころには日が変わる頃か、と陰鬱な気持ちで1歩踏み出す。

 少し低くなっているドアの外に1歩足を踏み出したとき、足がマンションの廊下をすり抜けてしまった。

 

 とっさに地面に手を付こうとするが穴の向こう側が思ったより手前にあり肘を強打したあと顎を強打した。

 目の前がチカチカしたまま真っ暗な穴の中を落ちていった。

 

 どれくらい時間がたったか、電球とも松明とも違う光が薄ぼんやりと真っ白な石造りの部屋を照らし、硬い石の床の上で目が覚めた。

 

 床に書かれた魔法陣と囲むように埋められた宝石のようなものが光ってる。

 周りを見渡すが人はいないし見覚えのない場所。

 部屋の中をウロウロして扉を見つけ、とりあえず表に出てみようかとドアノブを探してみるがそれらしい取っ手が見当たらなかった。

 両開きに見えて引き戸かな、とも思ったがそんなこともない様で扉には鍵がかかっているようだった。

 

 どうにも行き場がなくなってしまったので

 そういえば肘と顎打ったな、と思い出し顎を触ってみると、剃り残したひげの感触がせず、柔らかくてすべすべしていた。

 首も細いし喉仏がない。

 変に思ってあちこち触ってみると胸は膨らんでるし股間にあるはずのものがなかった。

 女になっていた。

 初めから女だったか? と無意味に疑ってみたが思い当たることもなく現実逃避は失敗に終わった。

 

 しかも服装をみると年のころは高校生か。

 何かの間違いだとおもって色々触ってみるが、やはり自分の体が女になってるという現実は変わらなかった。

 

 扉の方でバタバタと音がして鍵が開いた音がした。

 ゆっくりと音もなく扉が開くと逆光で顔がよく見えないが白いローブ姿の男が入ってきた。

「ようこそ召喚者の方」

 そう言って胸の前で拳をぐるぐる回した。

 挨拶だろうか。

 

「我が国の召喚に答えていただきありがとうございます。」

 確認された覚えはないのだが・・・。

 それとも穴に落ちるのが快く答えたということになるのだろうか。

 

「わたくしの名前はワモン・パレデス、聖王国ファラスの神の言葉に所属する神官長です。召喚者の方のお名前をお聞かせ願いたい。」

 

「オオヌキカオルです。」

 自分の声が高いことに驚いた。

 

「うら若きお嬢様にこのような場に来ていただき申し訳ないのですが、我が国は異世界から召喚した英雄と共に大きな戦いを乗り越える必要があるのです。」

 こっちの都合はお構いなしで戦うことは決定しているようだ。

 しかし偉そうな人の前では借りてきた猫になる習性が身についているため突っ込みもせずに次の言葉を待つ。

 

「戦いの心得もあれば名を上げ貴族となることもできるのですが、いかがいたしましょうか。」

「いかがとは・・・。」

「そうですね、その説明も必要でしょう。」

「邪悪な者たちを打ち滅ぼす正義の使命を帯びた聖騎士団の一員として戦ってほしいのです。」

 

 邪悪なものとは一体、と思い説明の続きがあるかと思ってぼーっと見ているとどうやらこれで終わりらしい。

「邪悪な者というとなんでしょう、魔王とか魔族とかなんかそういうのですか?」

 いちいち説明を求めないとちゃんと説明してくれないのだろうか。

 

「魔王については250年ほど前に召喚人に滅ぼされたので大丈夫です。

 魔族については滅多にあるものでもないので気にする必要はありませんが、魔族討伐にでるのは精鋭にのみ与えられる命令になるのでよほど強くない限りは行く必要はありません。」

 

 魔王も魔族もいるのか、何がどう違うのかよくわからないが。

 ワモンは続ける。

「目下、討伐しなければならないのは魔物と邪教徒になりますね。」

 魔物はともかく邪教徒となると人かぁ、それは急に人を殺せと言われても抵抗がある。

 

「崇高な使命を胸に戦えるという機会を与えられたことはうれしいのですが、生まれてこの方、人を殴ったこともないので戦力になるとは思えないのですが」

「異世界から来ていただいた方はやはり魔力を扱う素質があるようですね、直接戦闘に参加せずとも支援もできましょう」

 私の育成プランを独り言の様につぶやくと

「士官学校に入るといいでしょう。

 兵士として戦う基礎や魔法による支援に魔道具の作り方を覚えればそれだけでも戦力になります。

 素質があれば将として人を率いることもできるでしょう。」

 

 将来の軍人とはいえ、いきなり敵と戦ってこいとは言われないだろう。

 1年か2年、長ければ3年ほどの時間稼ぎに成功したと思う。

 

 元の体は取り戻したい。

 元の世界に帰る・・・のは悩む所だがこのまま宗教戦争に駆り出されるのは勘弁してもらいたい。

 

「ではひとまず入学の方向でお願いします。」

 時間稼ぎをすることにしたんだ。

 

 




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