はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!- 作:白澤建吾
「ええっ?! あんたもかい?! いや、違うのよ、脅したいわけじゃなくて助けてほしいのよ」
浅黒い顔を真っ青にして首を振った。
「ロペスもいきなり脅しつけるもんじゃないよ」
「そうは言ってもだな」
「ただちょっと力を貸してほしかっただけなんだよ、あたしはバドーリャ出身なんだけどさバドーリャじゃあ、あたしみたいなのなんていくらでもいるからさ──」
彼女がいうにはホステスとして稼げない彼女は役者になろうと、一攫千金を狙ってファラスに行ったがファラスでは褐色の女というのは役者としてもホステスとしても人気がない。
バドーリャでは神官の治療と癒やしのお陰で高級ホステスはそこそこ地位のある職業だったが、ファラスではホステス職業の地位が低く、稼げないどころか危険が多い仕事だという現実を知った。
身の危険を感じてエルカルカピースに移ってみると主な産業が農業なので庶民仕事帰りに飲み歩くということが一般的でないらしく労働者のほとんどはまっすぐ家に帰ってしまい、たまにくるのはぶよぶよと太った大銅貨を投げつけてくるような商人で、失意のままエルカルカピースを後にし、行き場がなくなったマリアを雇ってくれたのがこの宿の女将さんだということだった。
ボーデュレアでこの宿の女将さんに助けてもらったから恩返しがしたい、という話しをだんだんと消え入るような声になりながらぽつりぽつりと話し終えると、気がつくと急に何事もなかったかのようにこの辺で食べられる美味しいものの話しをし始めるマリアにぎょっとすると、最後の客が帰るのを見計らって、マリアが声を潜めて言った。
「……でね! やってほしいことっていうのは氷室の冷却と、女将さんの魔力だともう動いてるものギリギリな氷の魔道具に魔力をいれてほしいのよ」
「急に美味しいものの話になったから何が起きたかと思ったよ」
私が思わず苦笑いしていうとマリアは一緒に苦笑いして言った。
「お客さんも帰るところだったけど話が終わっちゃったからなんか話ししてないとって思って」
マリアの女将さんのなにかしたいという思いと、なんだかんだで美人のマリアに頼られてロペスもほだされたか、やる気になってマリアにやろうというと、マリアは助かるよ! と言い、さっさと店を閉め女将さんとやらを呼びに行った。
「いくら客がいない日だからって急に閉められたら困るよ」
と文句を言いながら奥から押し出されるように連れられてきた女将さんは私達を見ると
「マリアがすまないね」
ロペスに握手を求めるとロペスたまに発症するかっこつけたい発作を起こし、空いた手で前髪をかきあげながら言った。
「いや、話しを聞いて是非協力したくなったのはこちらなのだ」
イレーネは鼻で笑い、女将さんは胡散臭そうな目でロペスを見て
「そうかい? じゃあ気が変わらないうちにお願いしようかね」
そう言ってマリアと一緒に店の奥へと案内を始めた。
カウンターを跳ね上げて通してもらうと調理場に触れないよう速やかに奥へと進み、暖簾というか目隠しのための布の仕切りを除けて進む。
元々は
古い木造の廊下の先は石の階段になっており、いい加減足元が危ないのでロペスに
「ほんとに魔法使いなんだね、あんた」
「まあな」
美人のマリアに驚いてもらえて、まんざらでもなく返事をした所で氷室に着いた。
「ここはわたしの爺さんの爺さんの……爺さん辺りが貴族だったんだけどなんかやらかしてね。追放されるほどの悪事が何かもう残ってないんだけど、魔力が扱えて魔道具が作れたから穴を掘って氷の魔道具を埋めて氷室にしてここで商売を始めたのさ」
氷室の扉の手間に壺が置いてあり、そこに火がついた松明を逆さにつっこんで火をけして扉を開けた。
「魔力の光は熱がでなくて便利だね、あたしももっと魔力があれば使いたいもんだよ。魔道具なんて余ってたりしないかね?」
「道具に頼る必要がないからもってないんだ」
ロペスは頷くと氷室の中に入り、入り口で立ち止まって中を見渡した。
入り口に立ち止まられて邪魔だったので、ちょっとだけ身体強化をかけてロペスを持ち上げて横に置いた。
中に入ってみると、以前見たデロール村の物とは違い、じっくり読み解きたいほど見事な紋様の刻まれた部屋だった。
中小様々なサイズの魔石と魔石に刻まれた紋様は魔石と魔石を結び、
ロペスが魔力を注ぎ始めると
ファラスでは魔石が比較的多く取れていたので、魔石に刻むということが一般的ではなく、1回切りの電池としてしか使われていなかったが、ここで使っている魔道具は魔力を注ぐと魔石の中に貯められるようになっているバッテリーの様になっている、と女将さんの説明で理解した。