はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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砂漠を生きる生き物を見る

「ねえ、カオル」

 ルディの背中越しに外にもれないように気をつけた小声。

「なに?」

「ピエールフさんのことどうおもう?」

「いつもはあんなんじゃないってエッジオさんが言ってたね」

「やっぱりそうなんだ」

「なに? 脈アリ?」

「ないよ!」

「じゃあ、突っぱねたらいいじゃない」

「まだ告白されたわけでもないのにどう断っていいかわからなくて」

「あーまだそこまで行ってないもんね」

「その割にすごい距離近くてどうしたらいいか」

「あーわかるけど私もどうしたらいいかわかんないね」

「だよね……」

「あ、昼間移動したら暑いからくっつくなって言えるかもね」

「命の危険を冒してまでやることじゃないよ」

「死ぬほど嫌なわけじゃないんだね」

 ルディが言葉に詰まったのを感じて思わず笑ってしまい、そのまま寝ることにした。

 

 夕方、汗びっしょりで目が覚めるとルディはまだ寝ているようだった。

 首を伝う汗を拭って体に溜まった熱を吐き出すように深くため息をつく。

 

「寝てる間に干からびてしまいそうだ……」

 (アグーラ)を口の前に持ってきて吸い込むと体中が潤い生き返った感じがする。

 フードを被って凍える風(グリエール・カエンテ)で火照った体を冷やしながらテントから出る。

 日が傾きかけた灼熱の大地でロペスとイレーネとピエールフにエッジオの4人でバレーの様な遊びをしていた。

 この暑いのに何してんだ、と見ていると私が起きてきたことに気づいたエッジオが駆け寄ってくる。

 

「おはようカオル。カオルの髪は光が当たると白く綺麗に輝くね、まるで水の女神が」

「そうかい、おはよう」

 喋っている途中だったが、長くなりそうだし興味がなかったので中断した。

「で、あれは何をしてるの?」

「あれは旅に出た召喚者が言い伝えたという砂の上で行うスポーツなんだ。バドーリャの先にあるアレブレムという海の街の砂浜をみた召喚者が砂浜の上ではこれをやるものだと伝えたものらしいよ」

 やっぱり召喚者絡みだったか。

「やったことがないだろうから、興味があるなら僕が優しく教えてあげようか」

「暑いから嫌です」

 

 身体強化をかけすぎたか、イレーネの打ち上げたボールは見当違いの方向へ飛んでいき、砂の上にぽすっとバウンドせずに落ちた。

 取りに行こうとするイレーネに手で合図してロペスが走り出した瞬間、ボールの下の地面が盛り上がり地面の下から巨大な柱が立ち上がったかに見え、ラグビーボールの様な楕円の先端が開き、ボールを飲み込んで砂の中に飛び込んだ。

 

 黒い頭に黄土色の体、蛇のようにも見えるが、砂を蹴るためか後ろ足だけ体から生えていて、

 まるで砂の上でクジラのジャンプを見ているような非現実的な様を目の当たりにして思わず思考停止してしまった。

 

「砂獣だ! 音を立てるな」

 エッジオは私にそういうと、剛力な竜(ポデラゴ)を呼んだ。

「乗って!」

「私よりイレーネとジョアンナを」

 頷いたエッジオは音もなく駆け出すとイレーネを後ろから抱き上げて剛力な竜(ポデラゴ)に乗せ、ジョアンナを連れて逃げ出した。

  

 砂獣と呼ばれたクジラの様な生き物はエッジオを追って地面を進み始めたが速度は剛力な竜(ポデラゴ)ほどではない様なので、おそらくエッジオとイレーネは無事だろう。

「逃げるぞ!ルディとリノを起こせ!キャンプを片付けろ!」

 慌ててルディを起こし、ロペスとキャンプを片付けると、エッジオの逃げていった方に追っていくか待つか、リノ達はどうするのだろう。

 

 ピエールフは誇り高き竜(プーダレッゴ)にまたがると共に駆け出し、叫んだ。

「リノはジョアンナと彼らを頼む、おれはエッジオと合流して追いかける! ルディ! 無事でな!」

「分かった!」

 リノは熱き砂漠の風(サーリーオ)とジョアンナを紐でつなぐと歩き出した。

「さあ、砂獣が戻ってくる前に行こうか」

 

ターク(らくだ)長脚種(グランターク)一財産(ひとざいさん)だからね、砂獣が出た時は優先して逃がすんだ。場合によってはおれだけが逃げることになることもあるから済まないがわかってほしい」

「その時はターク(らくだ)を返しておいてください」

「荷物は1ヶ月だけ預かっててくださいね、生きてるかもしれませんから!」

「なんでもいいですけど、ピエールフさんを止めてください」

 だれかの心の叫びが聞こえたが聞かなかったことにした。

 

 まだまだ日が落ちきっていない中歩き始めたので少しの時間で汗が滴ってくる。

 夕方とは言え日が落ちて気温が下がるには体感で2時間くらいはありそうな気がする。

 砂の上を吹く熱く乾いた風が服が湿った瞬間に水分を奪っていき、直後にまた汗をかく。

 汗を拭おうと顔を触ってみると塩の結晶のざり、とした感触がした。

 

「どうした、熱き砂漠の風(サーリーオ)。落ち着かないか?」

 落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見回している熱き砂漠の風(サーリーオ)の首筋を撫でてなだめているが効果はないらしい。

 そうこうしているうちに大人しかったジョアンナにも伝染し、熱き砂漠の風(サーリーオ)とジョアンナを繋いだ革紐が邪魔になりそうだった。

「まさか他のに見つかったのか。ロペス! ジョアンナと繋いだ紐をはずしてジョアンナを逃がせ!」

「ルディ、ジョアンナを頼む!」

 ジョアンナの紐を切ったロペスはルディにまかせて送り出した。

「ロペス!カオルちゃん!すまないが熱き砂漠の風(サーリーオ)を逃がしたい!安全に音をだすことはできるか」

「まかせろ!」

 ロペスが胸を張って言った。

 

熱き砂漠の風(サーリーオ)! ジョアンナと先に行っててくれ!」

 リノがそう言って熱き砂漠の風(サーリーオ)の尻を叩くと熱き砂漠の風(サーリーオ)はその場に座り込んで動かなくなってしまった。

「おれのことなら大丈夫だから先に逃げててくれ! な!」

 リノが熱き砂漠の風(サーリーオ)の手綱を引っ張っても頑として動かなくなってしまった。

「リノ! おれたちなら大丈夫だ! な? カオル」

「ああ、そうだな」

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