はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!- 作:白澤建吾
砂まみれになりながら転がっていく
砂の鮫というくらいだから魚っぽいのかと思ったが、尾びれや尻尾のようなものはなく、砂をかいて進むためであろう小さな手足がまばらに、無数に生えてワキワキと気持ち悪い動きをしていた。
「なにあれ! きもっちわるい!」
イレーネが異形の生物を見て悲鳴を上げた。
「エッジオ、あの動きはなんだ?」
「見たことが無い動きだけど、きっとカオルの魔法がなにかしたんだろう?」
「あれはただの氷ですよ」
「飛び降りて突き刺してやれば1発じゃないか?」
こともなげにロペスがいうとリオさんが
「表面は岩のように硬いんだ。昔、死骸を持って帰って力自慢が斧で叩いてみたが、表面が削れただけだったそうだ」
「じゃあ、剣だと難しいか」
「リオさん、いつもはどうやって倒すんですか」
ロペスが
「
「
リュックの中で爆発して背中が大変なことになる想像をして眉をひそめた。
「今は大丈夫だが今日中に運べないと持たないぞ、特にピエールフは出血量が多い」
「ロペスとカオルでけが人を担いで全員でバラバラに走って逃げるか」
「1人は確実に逃げられないぞ」
「おれとカオルが降りていって戦うしかなさそうだな」
「女の子にそんなことをさせるなら僕がいく」
私を女の子扱いしたいエッジオがロペスに言うが、エッジオは魔法が使えない普通の人なのだ。
「まあまあ、危ないと思ったら帰ってくるから」
ルディの荷物から剣を借りて
「気をつけてね」
心配そうにいうイレーネに力強く頷いて答えると、ゆっくりと砂の上におりる。
ロペスは大岩の上で剣を構え、いつでも飛び出せるように準備をした。
昔、手長熊を狩ったときの様に飛び降りる勢いで突き刺すとそのまま噛みつかれるおそれがあるので斬りかかるつもりらしい。
イレーネは
私の剣より少し長いルディのシャープソードを借りて剣先で砂を動かして気配をさせる。
動きがないので少しずつ動かしながら砂に切っ先を叩きつけてみる。
しばらくウロウロさせてみると、少し離れた所でゆっくりと砂が盛り上がるのが見え、やっと釣れた!と一安心した。
やはり近くで待っていたらしい。
しらないふりをして切っ先をトストスと砂に打ち付けると砂が盛り上がっていた所が凹むようにして動きがなくなり、気づかれたか、と少し焦る。
「来るぞ!」
頭の上でリノさんが叫んだ。
ん? どこだ? と思ってリノさんの視線を確認しようとした瞬間、剣先の下の砂がごっそりとなくなり、大きな顎とぐちゃぐちゃの口の中が砂の中から現れた。
イレーネの放った
思わず手を放してしまい、後でルディに謝らなくてはいけなくなってしまった。
悲鳴を上げながらヘドロの様な深い緑と黒を混ぜたような血をばらまきながら悶える。
「効いてるぞ!」
頭上から嬉しそうなエッジオの声が聞こえた。
開かれたままの喉に向かってなるべく魔力を込めた
私は立ち上がって振り回した頭にタイミングを合わせてヌリカベスティックで顎の先端をホームランする。
本当はもっと頭の方を叩きたかったのだけど暴れまわるおかげで近づけない。
効いたのか効いてないのか
ロペスは
太陽によって温められるよりも3人で行う氷攻めの冷却の方が勝ったらしくだんだんと動かなくなってくる。
外側からじゃとてもじゃないが致命傷を与えられているようには見えないのが恐ろしい。
ヌリカベスティックも身体強化してホームランしてしまったせいで曲がってしまった。
動かなくなったので攻撃をやめて様子をみていると太陽の熱で氷が溶け始めるので慌てて水浸しにしてから氷漬けにする。
溶けたときにまた動き出したら次はこうはいかないかもしれないので心底おっかなびっくりで遠巻きに魔法を使う。
そう思いながら袖で汗を拭った。
そうだ、魔力が尽きるより暑さで大変なことになる。
「ロペス、魔力持たないからなんとか心臓を探してとどめさしてよ」
一緒に
「足元も悪いし、ものすごい硬いんだ。
はあ、と息を吐くと身体強化をかけておそらく心臓だろうと思う箇所に向かって何度も何度も疾風の剣を叩きつけて表面を削っていく。
相当に魔力を込めているらしく、剣を振るごとに疾風の剣から吹き出る風の音がゴウと鳴る。
ある程度削ったところで鍔に足をかけて体重を乗せて一気に突き立てる。
突き立てる所を見に行くと、削り取った表皮は5センチはありそうで、ドロドロのどす黒い血が脈拍に合わせてどろり、どろり、と吹き出す。
寒さで動けなくなっただけで生命活動自体が止まったわけではなかったと知り戦慄した。
とどめは刺したとロペスが剣を引き抜くとヘドロの様な血が吹き出し、ロペスをヘドロまみれにして視界を奪い、
死んだ、はずだ。
弾き飛ばされたヘドロと砂まみれになったロペスに駆け寄り、
「なんとか倒したがもう2度とやりたくないな」
「でかいし硬いし臭いし怖いし最低だったね」
ハイタッチをして皆が待つ大岩の上に這い上がった。