はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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あっちの世界の話

「辛いことじゃなくて楽しいものはなかったの?」

 イレーネが慌てて話題を変えてくれた。

「ああ、娯楽はたくさんあったね。隠居した国の偉い人が旅をしながら悪人を懲らしめる劇とか不思議な力を身に着けた人が変身して人知れず悪と戦ったり、学園の恋愛模様の劇とかを劇場にいかないで家でみれたりね」

「え? 劇団を家に呼ぶの?」

「そうじゃなくてカメラとテレビってのがあってね、カメラを通して見たものがテレビっていうのに映るものがあってね、テレビがあればそこに行かなくても見れるのよ」

 こんな感じで、と図を書いて説明してみる。

「便利なんだね」

「そうだね、あとはこっちには小説はあるけど、漫画っていう本があって絵で話を読めるから子供でも楽しめたりね」

「こっちだとなんでできないんだろう?」

「印刷の問題かな?」

「印刷?」

「こっちの印刷って判子で紙にうちこんでいくじゃない? それだと絵は1枚ずつ書き写さないといけないから」

「高くなる」

「そう」

「あとは、そうだなぁ。食べ物が余ってたから何十人分のご飯を早食いするのを見たり」

「面白いの?!」

「面白いんだよ」

「あとはスポーツしたり見たりかな」

「スポーツ?」

「野球とかサッカーとかゴルフとか」

 1つずつ簡単にルールを説明する。

「あー、貴族が狩りをするようなものね」

「それもあったね」

「あとは夜しかやれないけど、遠くの知らない人と話ししたり」

「サロンみたいなもの?」

「そうだね、昼間だとお金がかかるんだけど、夜だとお金かからないから……。まあ、あんまり参加できてなかったんだけどね」

「あと酒の種類はやたらと多かった。甘くていくらでも飲めちゃうのから舐めるだけで燃えるくらい強いのとか」

「へえ、1回飲んでみたいね。でもさっき言ってた不思議な力を身に着けて変身した人が悪と戦うのなんてカオルっぽい」

「そうかな? 変身!」

 変身ポーズを取ってみた。

 

「カオルが変身するのは花かな? 蝶かな? 変身して誘惑するなら是非僕にお願いしたいね」

 ぜえぜえと荒い息のエッジオがふらふらになりながら待合室の入り口にすがりつくように立っていた。

「変身したら悪を倒すのさ」

 そう言って必殺技の名前を言いながらエッジオにキックを寸止めしてみせた。

 

「ずいぶんと余裕だね、僕はこんなに死にそうなのに」

「銀貨40枚も取られたよ」

「げっ、でもまあ、命が助かったと思えば……カオルもイレーネちゃんもありがとう」

「連れてきただけだからね、癒やすのはここの神官だよ」

「後はロペス達を待たなきゃね」

「リノ達はまだかかるからアジトに案内するよ、下まで降りないといけないから気が重いけど」

 はあ、と深くため息をついてさ、行こうか。と歩き出した。

 

 疲れて口を開くのも億劫で、黙々とエッジオの後ろをゆっくりとついていき、岩山を降り切ると路地裏の1軒の家に着いた。

「さ、お姫様方、我が城へようこそ」

 演技掛かって恭しく礼をしながら部屋の中へ案内するエッジオ。

 

「今お茶入れるから座ってまってておくれ」

 板張りの室内の中央にあるダイニングテーブルに座らされると、エッジオは奥に行きお茶を用意してくれるらしい。

「なんてこった」

 なにかトラブルがあったらしくエッジオのぼやく声が聞こえた。

 

「座っててくれと言った直後ですまないがカオルにお願いがあるんだ」

 ちょっと弱った表情をしたエッジオに呼ばれキッチンに行くと火の着いていないかまどの前で腕組みをするエッジオ。

「薪を切らしていたようでね、炎をもらえないだろうか」

 バツが悪そうに頬を掻きながらいうエッジオに

「そんなことか、しばらく消えないようにしておくよ」

 そうやって多めに魔力を込めて(フェゴ)をかまどの中に置いてきたついでに空の瓶に(アグーラ)を満たしておく。

「助かるよ」

 そういうエッジオに背中で手をひらひらと振ってダイニングに戻った。

 薄暗い(イ・ヘロ)の光の下で向こうの娯楽の話の続きをしていると、マグカップを持ったエッジオも加わってきた。

「カオルは本でも書いたほうがいいんじゃないかな」

「私が考えた話じゃないから記憶にあるのを出しきったら終わりだしそもそも盗作だからね」

「じゃあ、吟遊詩人なんてどうかな? あれもだれかが考えた歌を歌ってお金もらってるからね。ここで語られるは、はるけき世界の英雄譚、なんてどう?」

 ハープを爪弾く真似をしながら期待を込めて桜色の瞳が輝いた。

 

「人前で歌うのなんて無理だよ」

「こんなに面白そうなのに」

 不服そうにつんと口を尖らせた。

 

 それからイレーネが久々にブラックジャックをやりたいと言い出し、ロペス達が来るまでの暇つぶしならいいだろうとディーラーをすることを許された。

 荷物から干し肉を配り、チップ代わりに置いたりチップを食べたりしながら過ごすと、一向にこないロペスを気にしながらエッジオの干し肉をすべて取り上げ、イレーネはニヤニヤしてエッジオが負ける様を楽しんだ。

 

 そろそろ夜が明ける。

「ここは砂漠からだいぶ離れているから昼間は少し暑い程度で済むよ、今もそこまで冷えないだろう?」

 普通に過ごせていたから忘れていたが、砂漠の夜は冷え込むのだった。

 

「リノ達はまだかかりそうだから宿でも取ってまっててもらってもいいか? ここは女性が寝るのに向いてないからね」

「ここの宿はどこにあるの?」

「山を少し登った所が一番安くてまともな所だね、隣にハンター協会もあるから気が向いたら見てみるといいよ」

「じゃあ、そこに行こうか」

「そうだね」

 

「こっちは大型の魔獣も多いからね、ハンターは組織を作って共同で狩りをしたりするんだ。多ければ15人とかチームを組んだりしてね。

 普通は功績を上げて認められたら魔力の扱いなんか教えてもらってもっと実入りがよくなるんだけど、僕のいるギルドはもっと早く教えてくれるのさ」

「それならなんでエッジオは使えないの?」

「まだ順番が来てないからだよ」

「結構時間かかるんだね」

「そういうこともあってバドーリャのハンターギルドの中じゃ新進気鋭の有望なギルドだからカオル達もどうだい? 将来幹部になる僕が口を聞いてあげるよ」

「順番待ちの下っ端なのに~?」

「将来の話だからね。他のギルドに行くのなら僕の所においでよ」

 

「行くところはもう決まってるんだ」

「そうそう、なんてったっけ?」

「なんだっけ」

「そんな名前も忘れちゃうようなギルドじゃなくて僕のいる黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)にしなよ」

「どっかで聞いた様な」

「まあ、私たちは行く所があるからそこが潰れてたらね」

「一緒に狩りができるのを楽しみにしてるよ」

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