はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!- 作:白澤建吾
エッジオの家を後にして日が登り始めたバドーリャの街並みを歩く。
石造りの街並みは独特なひんやりとした雰囲気で人が歩いていないということもあって寒々しい感じがした。
そんな街並みの中を歩くとエッジオの言う安くてまともだという宿にたどり着いた。
『オアシスのしずく亭』という名前の外観は1階は巨大な岩をくりぬいて作った石造りで2,3階はレンガで増築しているようだ。
中に入ると灯りは消され、日も登り始めなので差し込んでこないので薄暗い。
おまけに日の出なので食堂の1階にはだれもおらず、待っていても出てこないので受付に置いてあるベルを鳴らした。
「ふぁ~、お早いおつきで。食事ですか、宿泊ですか」
ベルの乾いた甲高い音が響き髭面の太ったおじさんがターバンを直しながら眠そうに出てきた。
「宿泊で。2部屋」
「朝晩付きで、1部屋銀貨1枚だよ。魔石に残ってる分で出る水はただだけど魔力の補充が必要なら別料金だ。石けんがいるなら1個銅貨5枚だ」
「はい、2人分の銀貨2枚と石けん代の10枚」
「こりゃあ、ファラスの金か」
支払った銀貨を透かして見るように器用にくるくると回しながら銀貨を確かめる。
「部屋は3階だよ。ほい鍵と石けん」
カウンターに木のプレートがついた鍵と小さく切り分けられた石けんが放り出された。
木製のキーホルダーが着いた鍵がガチャリと音を立てて滑る。
イレーネと鍵を受け取り一旦私の部屋で今後についてちょっと話した。
あちこちでファラスの硬貨で払っていては、逃げてきているのにファラスから来たと宣伝しているようなものなのでどうにかしたいな、と。
両替するにも金額が大きく、換金する物はあるが換金所がわからない。
なんにせよ早くルイスさん達と合流したいね、というところで解散して寝ることにした。
寝る前にシャワーを浴びたかったが徹夜で走り回ったせいか砂漠超えの疲れがでたか異常に体が重い。
これはもう無理だ、とベッドに体を横たえるとまぶたを閉じた瞬間に眠りに落ちた。
目が覚めたのは次の日の朝、丸1日部屋から出てこず、食事も取った様子がないことを不審に思ったか心配をしたか店のおじさんによる大音量のノックの音で起こされた。
「お客さん! 大丈夫ですか!」
無理に起こされたためか、目眩のような眠気を振り払い重い体をひきずってドアを開けた。
「はい、どうしました?」
「丸1日部屋からでてこないので」
「ああ、すみませんね、すごく疲れていたので。はいこれ、追加で2人分」
ほっとした表情を浮かべたおじさんに銀貨を2枚渡して無造作にドアを閉めた。
ベッドまで歩きながら宙に浮かべた
その次に目が覚めたのは夜だった。
再びおじさんが起こしに来たわけじゃない所を鑑みると、丸1日寝てたということはなさそうだ。
と、いうことは通算でいうと36時間くらい寝てしまった様で部屋は真っ暗だった。
なにか食べるものはないかと家探ししてみるがウェルカムなんとかなんて物はあるわけがなく、1階に降りなければならないようだった。
ため息を付きながら顔にかかる髪の毛を避けて耳にかけるとゴワゴワに固まった毛が指に引っかかり不快感を覚えた。
「シャワーか……」
ぽつりとつぶやきノロノロと服をまとめるとシャワー室に持ち込み下着も上着も関係なく
あっというまに水は砂色に濁り、洗いは捨てを4度ほど繰り返してやっと濁らなくなった。
水を捨てたたらいを足で隅に追いやると据え付けられている魔石に魔力の補充をしてシャワーを浴びる。
温水が出ると思い込んだまま頭から冷水をかぶってひぃ! と声がでて1人なのに恥ずかしい思いをしてしまった。
汚れすぎて泡が立たなかったためだ。
芯まで冷えた所で体も洗わなければいけないと思い出し、再度シャワーの出水ボタンに恐怖を覚える。
これもせっかく泡立てた石けんがあっというまに消えていってしまい、何度か冷水を浴びる羽目になった。
やっと汚れを落とし終えたので今度はたらいの中の服を脱水して
そういえばこの平民の服とやらの洗い方はこんなんで問題なかったのか心配になったが乾かしてみたら大丈夫なようで安心した。
手ぐしで髪を乾かしながらシャワー室から出ると身支度をし、姿見で最初全体を確認してから顔を確認するために姿見に近づいた。
髪を直して口を突き出してみたりして結構イケてるじゃん、と思ってはっとする。
何を言ってるんだ! 自分じゃないんだぞ! と自分の考えを否定した。
思わずよぎった考えに目眩を覚えさっさと忘れようと部屋を出て階下に急いだ。
薄暗い階段を駆け下りる。
2階から1階への階段は段々と明るくなってガヤガヤと人の話す声が聞こえ、食事に降りてきたついでに受付にいたおじさんにもう1泊するから、と銀貨2枚置いて食事を摂ることにする。
昨日の朝来たときは眠気のあまり受付以外目に入っていなかったけれどもそこそこ広い食堂があり、宿泊客らしき男たちが食事と酒を楽しんでいた。
カウンター席とテーブル席が9席、テーブルが全部埋まっていたので私はカウンター席に座りなにか腹にたまるものを、と注文した。
しばらくするとミートボールが乗った赤いソースのパスタが出され、銅貨5枚だと言われてポケットから取り出しとカウンターの上に積み重ねて置いた。
1口食べてみるとやはりトマトであり、紫色のタタンプではないよく知ったトマトで妙に感動してしまった。
「チーズありますか」
「別料金だよ、銅貨2枚」
高いな、と一瞬思ったが、まあいいかと追加でカウンターの上に置いた。
引き換えにカウンターに粉チーズがこんもり盛られた小皿が置かれた。
なんのチーズかはわからないが少し臭いが強い気がする。
かけて食べられなくなったらどうしようと心配しながら小皿を逆さにしてパスタと混ぜる。
1口食べてみると強いと思った臭いもいい具合にトマトの香りと一緒に食欲をそそる匂いになっていた。
これはおいしい! と再び感動する。
元々食にこだわりがないので流されるように食べていたけれど、私は本当は向こうで食べていた物を求めていたのかもしれない。