はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!- 作:白澤建吾
イレーネと一緒にロペスとペドロの様子をみる。
「全員躾けてやるからかかってこい。だれがリーダーか教えてやる」
ロペスとペドロがそういうと彼らの部下は顔を真っ赤にして立ち上がる。
臨時でリーダーをしていたらしい2人がそれぞれ他のメンバーを抑えロペスとペドロと対峙する。
リノさんは結果がわかっているのか涼しい顔でことの成り行きを見守り、エッジオはバツの悪い顔で困っていた。
「おい、嬢ちゃん達よ」
嬢ちゃん呼ばわりに軽くイラっとする。
イレーネも同じだったらしく視線で凍らせられそうなくらい冷たい目をしていた。
「どうしました? やっぱり実力もわからないやつのいうことなんか聞けないって話ですかね」
「すっ裸で指揮するならリーダーとして認めてやるよ、言うことを聞くかどうかはわからんが」
ハビエルが口を開いた所でヨンが口を挟んできてハビエルが大きなため息をついた。
「そんなちんちくりん脱がせたって面白くないだろう?」
ゲスが増える。
たしかこいつはホルヘだ。
イレーネのところからもゲスが1人来てそれ以上のことをしてくれるとありがてえと参加してきた。
こんな言い方されると流石に私だって腹が立つし、イレーネをそういう視線にさらさせるのも腹が立つ。
「女子供のちんちくりんに負けるのが怖くてしょうがないから口で勝負してるってことなんですかね? あ、汚いので近づかないでくださいね」
「優しくしてりゃあ、調子に乗りやがって」
「あれが優しいとか。やっぱり頭の中も獣並なのね」
「ああ、分かった。どっちがやるんだ? おれが2人相手すりゃあ満足か」
ヨンが手に持った戦斧を手放し、ガランと金属音をさせて転がった。
「私1人で十分ですよ、彼女は力加減ができないので私がやります。負けたらちゃんという事聞いてくださいね」
「顔の形変えて慰み者にしてやるから楽しみにしてろ」
ヨンが忌々しそうに吐き捨て指を鳴らした。
ハビエルは苦々しい顔をしているが他のやつらはやれーとか1枚ずつ脱がしてやれとか好き勝手やじを飛ばしている。
まったく……と思っているとイレーネもやっちゃえー! と叫んでいたので思わず苦笑いしてしまった。
「ニヤニヤしやがって」
言うが否や右手を振り上げ殴りかかってくる。
手甲を付けたままでは怪我をさせてしまう! と慌てて身体強化をかけ上から叩きつけるように殴る手をつかんでかがみ込みながら体の下に潜り込んで飛び上がる様に一気に立ち上がった。
ヨンの殴りかかる勢いを利用して背負投げをして地面に叩きつける。
勢い余って私も浮いてしまってヨンの腹に落ちてしまった。
ぐえっ! という声を聞いてこれで私の勝ちだな、と思っていると空いた手が私を拘束しようと動くのを感じ、首を閉められてしまう! と慌てて転がりヨンから離れる。
「どうです? 負けましたか?」
「なめやがって!」
そういうヨンは姿勢を低くして抱きしめる様に走り込んでくる。
タックルから馬乗りになるつもりか、もっと早く気づいていれば同じくらい体勢を低くして頭突きをすれば意表を付けそうだけど怪我をさせてしまうか。
じゃあ、どうしようか。
とは言え、悩んでいる時間もないので急いで対処する。
飛び越すのが見え見えだったら立ち上がって捕まえられてしまうか? と思ったので一瞬沈み込んでからヨンの肩に手をかけて飛び越した。
目標物がなくなったのと上から肩をおされてしまったせいで立ち上がれずに地面に顔から突っ込んでいった。
背後からごしゃあと地面となにかが擦れる音がしてイレーネがうわっ痛そーと声を上げた。
「ちょこまか動いてるだけじゃねえか!」
私に対してやじが飛ぶ。すでに手遅れになってしまったが怪我をさせたくないだけなんだれど。
そんな私の思いとは裏腹にヨンは顔と手に深い擦り傷を負ってしまった。
ギラギラと血走った殺意のこもった目で私をにらみつけるヨン。
これは失敗したなと思ったが時はすでに遅し。
「次はおれだ」
ヨンを押し留めてフアンという男が私の前に立つ。
フアンはヨンと違い痩せていてパワーがあるタイプには見えないが身長が高く素早そうだ。
ファイティングポーズをとって軽いステップを踏みながら私に迫るフアンに対して重心を後ろに半身でかまえた。
フアンの拳が私の脇腹めがけて突き出され、前に出した手で払い空いた胸を殴ろうとしたが払われた手の勢いを利用して反対の手が私の顔めがけて振り回されとっさに上に弾いた。
腕を振り上げた勢いを利用して後ろに下げたままの足でフアンの胸めがけて突き出した。
弾かれて手を開いたままになっているため払うことも守ることもできずにまっすぐに突き刺さって吹っ飛んだ。
「どうです?」
「じゃあ、最後におれとやろうか」
ハビエルがニヤリとして私の前に立った。
「えぇ……もういいでしょう?」
「まあ、そういうなよ。きっと楽しいぜ」
「そんなものに楽しみを覚えたことなんてないですよ」
「いうことを聞くなら強いやつの方がいいだろう?」
はあ、と大きくため息をついて構えをとる。
ハビエルも少し前傾に構え拳を軽く前に突き出し、ボクシングに似ている気がした。
左右に揺れながらゆっくりと私の回りを反時計回りに回りながら間合いを詰めてくる。
身長差は20cm以上。体重差はきっと倍はありそうだ。
ゆっくりと迫ってくるせいでいつものように相手の勢いを利用して突破するのも難しそうで、かと言ってこちらから飛び込んでいこうにもよほどの身体強化をかけていないと手がとどく前に向こうの手に私が突き刺さりに行くことになりそうだ。
ハビエルもそれがわかっているようで左右にゆっくり揺れながら少しずつ間合いを詰め向こうの間合いに私が入る。
間合いを開けてもいいのだけど、魔法もなしにただ離れても打開できる手が見つからないのでハビエルに合わせて動くことにした。
ハビエルから繰り出されるパンチは
やはりボクシングだ。
元々あったものが発展したものなのか召喚者が伝えたものなのかはわからないがまともにやりあったら勝てる要素はなさそうだ。
ジャブの速さをみた所、ジャブに合わせて飛び込んでも右からフックが飛んでくることは間違いなさそう。
試しに飛び込むかとも思えずちゃんとした訓練を積んでいるわけじゃないので早速ジリ貧になった。
「見てるだけでいいのかい?」
「私は後の先を取るんだ、わかってて言ってるくせに」
そう言いながら私を間合いから逃さないように、私の後ろ側にジリジリと動き続けジャブを挟んでくる。
間合いの遠い私には反撃する隙を見つけることができずに防戦を強いられる。
しかし身体強化によって『見えて』いる私はジャブを放つ左手首の内側をこれもパーリングというのだろうか? と思いながら手甲をぶつけて弾き返す。
ちょっとずつダメージが溜まっているのかジャブのスピードが少しずつだが目に見えて衰えきた。
何と言っても私の手甲は鉄製だ。
防戦一方なわけだけれど、私のダメージは皆無でハビエルは手首の痛みに合わせていくら細かく手を出しても捉えられない苛立ちから目に見えて動きが雑になる。
私も手を出しているのだけれど、長さが足りないためにこまめにジャブを出されると近づけないために攻めあぐねて苛立って来る。
それでもなんとか無理にでも手を出そうとしてスレスレでかわすことが多くなり、ニコレッタに頭を布でガチガチに巻かれてなかったら髪の毛を掴まれてしまっていたかもしれない。
フードだと顔にかかって視界を妨げるのか、と少しだけ冷静にフードを出されなかった理由を推測した。