はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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頂点に立つ生き物の余裕

 オケアノと顔を合わせ、「入り口を開けて気を引くので後から出てきてください」と伝えて土壁を蹴破って走り出した。

 

 おもちゃの中から餌をほじくり出そうとしていたら餌の方が飛び出てきてしまったことが不満なのか、追い出した喜びか雄叫びと小屋を蹴りつけた音が背中越しに聞こえた。

 私とオケアノが大豪雨(ファラードレイン)で降らせた雨を含んだ地面が、足の下でずるりと滑り軽く足を取られながら少し走って振り向く。

 元々水はけの良い乾いた土地なのでしばらくすれば気温も上がり土も乾くと思う。

 

 オケアノからは見えないだろうと魔法障壁(マァヒ・ヴァル)龍鱗(コン・カーラ)で防御力をあげ大怪鳥(コカトリス)と対峙する。きっとないよりはマシなはずだ。

 頭の頂点が2階建ての家の屋根くらいある細身の鳥。

 尻尾の長いジャイアントモア、それが私の見た第1印象だった。

 大怪鳥(コカトリス)の向こうでオケアノがこっそりと出てきて小屋の影に隠れるのが見えた。

 

 好奇心か、興味深そうに私のことを観察して首をかしげたり上げ下げしたりして私の周りをウロウロする。

 小屋の周りには殺されて啄まれた死骸や壊された石像が点在してみえた。

 

 いつでも反応できるよう重心を落として構える。

 しばらく私の周りで観察していたかと思うと急に飛び上がり、羽を広げて威嚇の姿勢を取った。

 ただ突っ立っている私の何が気に食わなかったのか。

 目を合わせ続けたせいかもしれない。

 

 頭を下げ、泥を跳ね上げながらまっすぐに私の元へ来ようとする大怪鳥(コカトリス)は滑って転べという私の願いが届くことはなく眼の前までやってきた。

 眼の前と言っても私の手からは遠く、首を少し伸ばせば(くちばし)が私に届くという絶妙に攻めづらい守りづらい距離。

 私を見るというより風でひらひらするローブの裾が気になるのか、裾に注目して動きを目で追っている。

 本体の頭と尻尾の蛇では興味を持つものが違うらしく、ひらひらと動く裾には尻尾の蛇は見向きもしないようだ。

 いい疑似餌だな、と闘牛士(マタドール)のマントを翻してひらひら動くようにローブの裾を掴んで動かしながら避けた。

 尻尾の蛇は脇から顔をのぞかせ、私のことを観察しているようにチロチロと舌をだしている。

 

 遠くで見守るオケアノを尻目にしばらく闘牛士(マタドール)ごっこを続けると狩猟を楽しむようにひらひらする裾を追う大怪鳥(コカトリス)の動きを操れるようになってきた。

 何度か大きく動かして首が伸び切った瞬間に首に手刀を入れようと振り下ろす。

 力んでしまって不自然な動きをしてしまったのか、野生の勘が働いたのか、振り下ろす瞬間に首が動き、手刀は大怪鳥(コカトリス)の羽をいくらか散らして表面を少しだけ傷つけた。

 毒でもあるならともかくナイフでちょっと指切った程度の切り傷では怒りを買うだけに終わってしまって見ているだけだった尻尾の蛇もシャーともカーとも言えないような威嚇の音を私に向かって出し始める。

 

 バッと羽を広げて怒りの声を上げ威嚇、羽ばたいて姿勢を安定させその足に生えた鋭く黒い爪を突き立ててくる。

 剣となった手は爪を弾いても大丈夫なのだろうかと思いながら爪に引っ掻かれないようにギリギリで避け、時間差で蛇の頭が襲ってくるのを転がって避ける。

 転がった私を踏み潰そうと大げさに足踏みをしながら襲ってくるのを見て追加で転がると蹴爪にローブの左袖の端を踏みつけられてしまい、動けなくなってしまった。

 これはまずいと、無理に引っ張って袖を引きちぎって開放されたと同時に飛び退いて大怪鳥(コカトリス)から距離を取った。

 袖を持ち上げてほつれた後を見てニコレッタがなんというか、と少し頭をかすめた。

 大怪鳥(コカトリス)をみると足に引っかかったローブの切れ端が足に絡まっていて、(くちばし)と尻尾の蛇が苛立たしげに引き裂き私のことは意識の外に放り投げられてしまった様で体勢を立て直すことができた。

 いっそ脱いでしまって足にローブを絡ませられたら、と閃いたがうまくいかないだろうし、成功してもほぼ全裸になってしまうことになるので、今はやらないことにする。

 

 小屋に隠れて詠唱をしているオケアノに手で示して魔法を使うのを止めてもらう。

 今のままオケアノに魔法で援護してもらうと、敵意がオケアノに向いて襲われてしまい、オケアノが食べられるか石にされてしまう。

 オケアノに援護をしてもらうためには、私、大怪鳥(コカトリス)、オケアノとあんらんでいるのをオケアノと大怪鳥(コカトリス)の間に入ってオケアノに向かおうとするのを邪魔できるようにしないといけない。

 

 カオルはオケアノにはいくつ秘密にしてもらわなければならなくなるかわからないな、と思いながら久々に(イ・ヘロ)を最大光量で炸裂させ目潰しと同時に大怪鳥(コカトリス)脇を駆け抜ける。

 目潰しされた怒りでギャーギャーと騒ぎながら大暴れする大怪鳥(コカトリス)と尻尾の蛇。

 大怪鳥(コカトリス)は目潰しをされてしまったが、尻尾の蛇はピット器官によって熱を見られるため、目潰しは無駄だったのだが、大怪鳥(コカトリス)が足踏みしながら騒ぐものだから脇を駆け抜けていくカオルを狙って体を伸ばしたが蛇は振り回されてしまったせいで届かずに大怪鳥(コカトリス)本体に威嚇の声を上げた。

 

 剣となった手刀で少しでもダメージを与えられればとすれ違いざまに腹に向かって突き刺してみたが手が届く範囲に肉が見当たらずに通り抜けた。

 思ったより羽毛の量が多く、いわゆるもふもふの塊だったようで大小様々な羽が濡れた砂地に飛び散っただけだった。

 視界がもどり、散らされた羽に気づいた大怪鳥(コカトリス)は怒り狂って地団太を踏んでくやしがり、尻尾の蛇はまた振り回された。

 

 大怪鳥(コカトリス)とオケアノの間に入ったがオケアノのことなど目に入らない様子で爪と(くちばし)と尻尾の蛇が私を狙う。

 突き出された爪に手刀を突き刺そうとすると上から(くちばし)が、(くちばし)に対応しようとすると尻尾の蛇が襲ってくる。

 巨体に似合わぬ素早さで防具なしでの戦いはきついものだった。

 オケアノの支援を待つにもうまく隙を作ってあげられないのでオケアノは手をだすことができない。

 当のオケアノは小屋からでて小屋の影でことの成り行きを見守っていつでも魔法を放てる様に準備しているのだけれども。

 

 大怪鳥(コカトリス)とオケアノの間にいながら不意打ちで魔法を使ってもらうことは不可能なんじゃないかと思いついた。

 無理になにか放ってもらうとターゲットが私からオケアノに移ってしまうだろうし、そもそも詠唱は長いし、とっさにぶつけられるものは無いし、中近距離で使える魔法は爪とか牙がでる魔法なんだが、1回で消えてしまう使い捨てなので、近接戦闘に向かないし。

 近接戦闘が上手ければきっとそれで戦えるんだと思うのだけど、あいにく私もオケアノも専門外でどう戦っていいかまったく思いつかない。

 

 こんなことだったらオケアノに逃げてもらう時間稼ぎをしながら自由に戦えていた方がよかった。と小さな声でぼやいた。

 それに捕食者という物がまさかこんな大きくて速くて反応が良くて、獲物をいたぶるのが好きなやつだとは思わなかった。

 食物連鎖の頂点にいるこいつは強者という立場にいる余裕だと思うのだけれど、反応が鈍いというか、少し様子を見て痛そうだなと思ってからカウンターをしているというか、そういう印象を受けた。

 挑発をすれば楽しそうに深追いしてくるし、深追いにカウンターしようとすると少し慌てたようにカウンターが帰ってくる。

 おもちゃや弱ったネズミのような小動物を遊びで狩りをする猫を思わせるその姿に、油断を誘ってなんとか足元を掬えないか観察する。

 

 私とオケアノが降らせた雨のせいで柔らかくなっていた地面の水分が抜けて固くなってきた地面を踏みしめて手刀を構えた。

 改めて戦う姿勢を取ったとて大怪鳥(コカトリス)にしてみれば武器も持たない貧弱な小動物が威嚇のポーズを取っているのとなんら変わりがないと思う。

 そう言っても大人しくやられてあげる義理もないわけで! と、威勢の良いことを言いつつも、ちょっとしたミス、つつかれたり、爪の先が体のどこかにひっかかることすら命取りになる状況で、石化(くちばし)と尻尾の蛇、それに忘れた頃に振り回される足の爪は反撃の暇もなくひたすら避けるだけに追い込まれ正直ジリ貧だった。

 

 だれか、手甲とヌリカベスティック持ってきてよ!

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