はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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丸焼きにすると肉は食べられない

 若く有望な新人ギルド員ことカオルの奮闘を小屋の陰から見てオケアノは思う。どうにかして加勢しなくては。と。

 普通、大怪鳥(コカトリス)を狩るためには発見の報告を受け、ハンターギルドで尻尾の蛇を引き付ける剣士を2、3人、正面から石化(くちばし)と爪を受ける大盾、攻撃の要の槍を何人か、援護のための弓使いを3人以上用意してもらい、魔法ギルドで若く体力のある3段階目までを終えた魔法使いを何人か、できたら5人以上編成してやっと戦闘面でのメンバーは最低限揃う。

 それに長期になるなら荷運び(ポーター)も何人か雇って、下品でがさつが服を着て歩いているハンターギルドの人たちはいらないというけれど、小規模でもキャラバン規模になると料理番だって必要になる。

 塩水みたいなスープとカラッカラに焼き締めたパンを食べて耐えることが一人前のハンターになることなんだって偉そうにふんぞり返って言っていたのを思い出した。

 

 その間にも(くちばし)を掴むと尻尾の蛇の牙をひらりと避けて(くちばし)を中心にくるりとまわって着地する。

 あの怪物を相手にするには囲んで叩けるくらいの人数をもって当たらないと死人が出たり石化の呪いを受けたりして全滅だってありえる、それを経った1人で立ち向かい渡り合っているのだ。(避けるたびに変な悲鳴をあげながらだけれども)

 わたしが手を出すときはトドメか致命傷を狙える場合にだけ限らないとあの娘の頑張りを無駄にした上に犠牲まで出してしまうかもしれない。

 声を殺し、祈るように厳つ霊(サンダーボルト)の詠唱を絞り出すと最後の手を掲げる手前で止めて置く。

 遠くから「わっ」や「うわっ」、「おわあ!」という年頃の娘があげる悲鳴ではない様な悲鳴を聞きながら今か今かと発動を待つ。

 もう少し可愛く叫べないものかしら。

 

 そのうち足が滑ったのか疲労によりミスをしたか、尻尾の蛇が大きく口を開けて襲いかかるのを両手で上下から挟み込んで強引に口を閉じると、首を振るのに合わせて吹き飛ばされバランスを崩した。

「危ない!」そう叫ぼうとしたとき、石化(くちばし)があの娘に向かって突き出される。

 あの娘が石になる瞬間なら厳つ霊(サンダーボルト)が直撃しても破損が少なくて済む。

 それで大怪鳥(コカトリス)に直撃で倒したら身体強化をかけて神殿まで運べば呪いを解いて元通りになるはず。

 これが最初で最後のチャンス、そう思って厳つ霊(サンダーボルト)の詠唱の終わり、人差し指を空に向かって掲げ叫んだ。

厳つ霊(サンダーボルト)!」

 わたしを守って戦ってくれていた娘が今にも襲われるというのに悠長に魔力の雲が集まっていく様子を見て、必要な時に使えないからここの魔法は嫌いなのよ! と心の中でこの魔法を作った昔の魔法使いを罵倒しながら見守り、もう少しという所で石化(くちばし)があの娘を襲った。

 もうだめ、途中でも良いから一か八か落とさないと! そう思って指を振り下ろそうとした時、硬質な物が割れる音がしてあの娘が変な悲鳴を上げて吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。

 何かが割れて驚いた大怪鳥(コカトリス)は、自分でつついて壊したにも関わらずあの娘が出した音だと思い込みで腹を立て追撃しようと歩き出した。

 

「いてててて」

 吹き飛ばされた勢いを利用して転がりながら起き上がりながら魔法障壁(マァヒ・ヴァル)をかける。

 強めにかけた魔法障壁(マァヒ・ヴァル)はオケアノからは一瞬ぼうっと光ってみえ、またしらない魔法を使ったのかと想像した。

 オケアノは大怪鳥(コカトリス)がカオルに近づく前にオケアノが雷を落とすために指を振る。

 魔力の雲が収縮し、雷が落ちる瞬間、大怪鳥(コカトリス)はなにかを感じ取ったか一瞬早く、カオルを狙って駆け出した。

 オケアノが避けられた! と次の魔法の準備をしようとした時、地面に落ちた雷があちこちでスパークしながら大地を濡らしていた水を伝って大怪鳥(コカトリス)の足を這い羽を焼いた。

 これはオケアノも知らない効果で、雷は水を伝って広がるということ自体、水の少ないこの地域では知りようがないことだった。

 分散してしまって致命傷にはならなかったが、すぐには動けない様子。

 今のうちに止めを刺さなければ、そう思って走りながら燃える龍の牙(ドラゴンバイト)の詠唱を唱え大怪鳥(コカトリス)に近づく。

 

 オケアノがカオルの方を見ると同じ様に詠唱をしていた。

 全力疾走しながら詠唱したため、息が切れてしまってこんなに走ったのはいつぶりだろうと思いながら射程内で「燃える龍の牙(ドラゴンバイト)!」と叫び、右手を高く掲げた。

 同時にカオルは「双頭の風の牙(ストームバイト)!」と唱え両手を大きく広げた。

 感電によるショックから意識を取り戻した大怪鳥(コカトリス)が直上にある燃える龍の牙(ドラゴンバイト)に気づいて逃げ出そうとしたが輝く風の牙が行く手を阻む。

 頭の上と左右を抑えられ、自棄になったかカオルの方に向かって駆け出した瞬間、左右から双頭の風の牙(ストームバイト)がその牙でずたずたに引き裂き、燃える龍の牙(ドラゴンバイト)の焔の牙が押しつぶした。

 

「だー! もう無理!」

 そう叫んでローブが汚れるのも気にせず乾きかけの地面に大の字になって大きく伸びた。

 オケアノも年甲斐もなく叫びだして喜びたいのをこらえてカオルの無事を確認する。

 カオルが石化の呪いを受けたのなら固まる前に神殿に連れて行ってあげなくてはいけないからだ。

 ボロボロのローブで横になっている姿はとてもじゃないが無傷には見えないが大きな怪我をしていたり、石化が始まっている様子も見えない。

 恐る恐る様子を伺ってみると横になったまま首だけを回して言った。

「危なかったですね!」

 危なかったのはあなた1人よ、そう心のなかでつぶやくとカオルの手を取って引き起こして一緒に休憩所に歩いた。

 

 わたしは新たな英雄の誕生を見たのかもしれない、砂鮫(アル・ベレオ)を倒し単独で砂狼(アル・ロッブ)の群れを倒し、今日は大怪鳥(コカトリス)だ。

 短期間で普通の人間がこんなことできるはずがない。

 きちんとした装備さえあれば砂熊(アローソ)だって1人で倒してしまうのかもしれない。

 

 休憩所でオケアノはカオルのローブを脱がせて簡単に洗ってあげた。

 どうせ人は来ないし、外に干しておけば乾くのにそう時間がかかるものではないだろう。

 カオルはすみません、と言いながらローブを渡して下着姿のまま椅子にどかっと座り、空中に(アグーラ)を浮かせて吸い付いて水を飲み、大きくため息をついた。

 オケアノはこの娘に羞恥心は無いのかしらとか、水を魔法で出したまではわかるのだけど、どうやって浮かせているのか教えてもらいたい、と思いながら今やるべきことをやるために大怪鳥(コカトリス)の元へ向かった。

 

体を鋼とし剣を持て(カーフィ・カント・フォス)

 手刀を刃に変えると、大怪鳥(コカトリス)の背中側から羽の根元に切り込みを入れ、解体を始める。

 厳つ霊(サンダーボルト)だけならともかく、その後に燃える龍の牙(ドラゴンバイト)双頭の風の牙(ストームバイト)を同時に使ってしまったため焼け焦げた上にズタズタになってしまっていて、肉としての価値はほとんどなさそうだ。

 肉を取るなら首を落とすか、心臓を1撃で狙わなくてはだめね、とつぶやく。

 きちんと処理をすれば高級食材として売れたのに少しもったいない気もするが、命には替えられない。

 大怪鳥(コカトリス)の肉は血抜きもせずに芯まで焼いてしまったのできっと臭みで食べられたものじゃないだろう。

 そう思いながら手早く解体し、体の奥にある魔石を取る。

 羽の根本に刃を入れ、背中を割り、水で洗って奥に魔石が見える。

 肉も骨もすべて捨てるつもりでいるので丁寧にしなくていいから楽でいい。

 呪いの元になる魔力をたたえた握りこぶし3個分にもなろうという大きさの魔石を見つけ、ずるりと引き出した。

 

 さすがに大怪鳥(コカトリス)の魔石は大きい。

 両手で魔石を持ち上げて太陽に透かして輝きと透明度を確認する。

 濁りはなく、傷付けずに倒せたのできっと良い値が付くはずだ。

 こんなに充実した気持ちで戦利品を見るのは何年ぶりだろうか。

 まだ駆け出しだった頃はどうにかして安全に狩りができないかと工夫をしたのに安全な環境に慣れるとまた昔の環境に戻りたいと思うのはなんてわがままな生き物なんだろうと我ながら呆れる。

 安全な狩りも大事だけれど、持てる手段の中で何ができるか考えて強敵を倒すという狩りのなんと充実することか、魔法使いは後ろで構えて援護するものだなんて言ったのは一体だれだったか。

 カオルに聞かせると「ほとんど隠れてたじゃないか!」と抗議されそうなことを考え、またハンターとして活動してみてもいいかもしれないとオケアノは新しい冒険に思いを馳せた。

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