はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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一人、置いて行かれた

 息を整えて立ち上がるニコレッタに手を貸して一緒に洗い場を出る。

 暴れたせいで下着姿のニコレッタもびしょびしょになってしまったので出るついでに洗濯用の桶にいれる。

 置いてあった大き目のタオルを手に取り自分で拭こうとしたらニコレッタに「自分でするなんていけません」と取り上げられ全身くまなく拭かれた。

「お返しにやってあげますよ!」

「主人が奴隷の体を拭くなんてありえません!」

 と断られてしまった。

「じゃあ、乾燥だけでも」

 なお食い下がると諦めたようにため息交じりに吐き出した。

「しょうがないですね」

 質のよくないタオルでのタオルドライだけで全然水分が取り切れていない濡れた髪は不快だったからか、ニコレッタは快く受け入れてくれた。

 熱風(アレ・カエンテ)が出る手櫛で自分の髪をわしゃわしゃと乾かしてからニコレッタの濡れた髪をなるべくぼさぼさにならないようにやさしく乾かした。

 

「お着換えは部屋に用意してあります、お食事の用意ができたらお呼びします」

「はい、よろしくおねがいします」

 ペタペタと足音を立てながら全裸で自室に向かい、テーブルの上に置かれた着替えを着てリビングへ戻る。

 そんなに時間がかからないと思ってリビングに戻ったが元々何も用意してなかったらしく、ぼーっと待ってみたが一向にできる気配がなく待ちつかれて寝てしまった。

 

「カオル様! こんな所で寝られては困ります!」

 大声で起こされ思わず体が跳ねて目が覚めた。

「わあ! びっくりした!」

 驚いて頭を上げるとニコレッタがいたずら成功とばかりににっこりと笑って「おはようございます。夕食できましたよ、テーブルの上を開けていただけますか?」と軽い皮肉を私に言った。

 すみません、とテーブルに垂れた涎をニコレッタに見つからないように袖で拭った。

 

 ニコレッタが夕食をテーブルに食事を並べていく様を見守る。

「今日はカオル様が持ってきていただいた大怪鳥(コカトリス)の肉をつかいましたよ」

 見ると煮込みと香草焼きが並んでいる。

 そして、バターの香るパンにポタージュが出された。

「さ、ニコレッタも一緒に食べましょう」

 ニコレッタが席に着くための儀式じみたいつもの言葉をいい、ニコレッタが自分の分をテーブルに並べ向かいに着席した。

「いただきます」

 そういうとニコレッタも「イタダキマス」と復唱した。

 

 最初に香草焼きにナイフを入れる。

 とんでもなく弾力がある肉の塊にナイフを押し込んで1口大に切って口に放り込む。

 筋肉質で歯ごたえがあり廃鶏は固いと聞くがこの肉と比べるとどうだろうか。

 そんなことを考えながら咀嚼すると噛む毎にうまみがあふれだしてくる。

 少し残念なのがあまり脂が乗ってないことなのだけれど、暑い土地で大型の体を維持しようとするとあまり脂が乗らないのかもしれない。

 

 

「歯ごたえがすごいですね! 噂に聞いていたとおりとてもおいしいです!」

「そう? 少し固くない?」

「何を言っているんですか! 肉は歯ごたえがあった方がおいしいじゃないですか」

 歯ごたえというには力強すぎる野生の味にここではそういうものなのかと納得した。

 その間もニコレッタはこの大怪鳥(コカトリス)肉の良さについて語り続ける。

「そんなに喜んでもらえてよかったよ」

「価値わかってないですねカオル様! 少し羽振りの良い商人が年に1回食べられるかどうかって高級品なんですよ?!」

「それは味より希少さのせいなんじゃないの」

「それも……あるでしょうけど、味だってこんなにいいんですから! 煮込んでもパサパサにならないのにこんなにも旨みがでてるんですから!」

 大怪鳥(コカトリス)肉に思い入れでもあるのだろうか? ムキになって反論するニコレッタに「そういうもんなんですね、こっちの常識がわからなかったので」

「そういえばそうでしたね、とにかく大怪鳥(コカトリス)の肉は希少でおいしい! と、いうことだけ覚えてください」

 ニコレッタの迫力に押されてうなづいて返事をすると満足そうに大怪鳥(コカトリス)の肉の出汁が出たスープにパンを浸けて食べ、表情豊かにその美味しさを伝えてくる。

 

 

 馴染みがないと初めから美味しさを感じるのが難しいのかもしれない。

 そう思いながらニコレッタの少し茶色がかったパンと違う白いパンにスープを浸して食べてみる。

 おいしいはおいしいのだけど。

 もしかしたらニコレッタの茶色いパンの方がいいのかもしれない。

 そう思いついてニコレッタに1口分のパンの交換を申し出る。

「いけません! カオル様のパンはちゃんとしたパンであたしのパンは混ざりものの安いパンなんですから!」

 ニコレッタは上下の線引きを気にする。

 私は気にしないので気楽にしてほしい。

 1口だけと頼み込んで少しだけちぎってニコレッタの皿に置き、ニコレッタはしぶしぶ同じくらいちぎって私のパンの皿に置いた。

 その1口大のパンをちょっとだけちぎって食べる。

 パサパサで、ちょっと酸っぱくて、でもちょっとだけ白いパンより香ばしい、水分があればこれはこれでいいんじゃないかとも思う。

 

 スープが滴るパンを口に入れる。

 ニコレッタはやっぱりいいパンだと違いますね! とかいうのだけどやっぱり私にはそこまで感動するほどの違いや美味しさは感じなかった。

 

 パンの味に関してはたまにこういう味の認識がずれることがある。

 高級なパンを食べても安いパンを食べてもパンだな、と思う程度で小麦の味がと言われてもピンとこないのだ。

 そして味のわからないやつめ、とがっかりされる。

 米なら多少の違いはわかるのだが。

 それでも多少なんだけれども。

 

 幸せそうに大怪鳥(コカトリス)肉を頬張るニコレッタを見守って晩御飯を終えた。

 夕食後はいつもならお風呂なのだがもう入ってしまったので片づけをニコレッタに任せて部屋に戻る。

 どうせ明日からしばらく休みになる。

 ニコレッタが買ってきてくれた度数が高い割に妙に甘ったるいお酒を飲みながら眠くなるまで本を読んで過ごした。

 

 2、3日休みを取って仕事に行こうかと黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)に行くと、ハビエル達はすでに出発した後だった。

 黙って置いて行かれたらしい。

 仲間はずれにされたようでちょっと悲しくてちょっと心が痛んだ。

 1人で行けないこともないけれど、ちょっとそんな気分じゃなくなってしまったので黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)の受付でちょっとお金を下ろして本と強めの酒を買って帰った。

「まあ、カオル様。どうされたのですが?」

「気が変わったので帰ってきました」

 置いて行かれて傷ついたのでとは言えずに適当な言い訳をした。

 心の傷が癒えるのをまた2、3日自室で本を読んで癒やした。

 

 次の仕事をいつから始めるとか特になにも話してなかったから、合わないのもしょうがないと思いつくことで少し心が軽くなった。

 合計1週間近く休んでしまったのでそろそろ仕事でもしようかと黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)に向かう。

 

「おう、リーダーじゃねえか。もう仕事始めるのか?」

「ギルドに雇わされてる家で働いてる子に給料払わなければなりませんからね」

「奴隷いるのか、大変だな。じゃあ、もう少し誘うことにするわ」

「そこまで高いわけじゃないですけど、やっぱりそこそこ払いますから助かります」

「リーダー金持ってそうだからもっとのんびりするもんだと思ってな、この間声かけなくてすまねえな」

 仲間はずれにされてたわけじゃなくてよかった。

 

「じゃあ、今日は何をするんですか?」

「今日はたいしたもんじゃない、安いがどうする? 畑を耕す牛が砂熊(アローソ)に襲われたそうだ」

「それが安いんですか?」

「頭数が多いとどうしてもな」

「確かにそうですね」

 報酬は銀貨80枚と肉やら革を売った金だ。1人で倒せればいいが5人と荷運び(ポーター)で平等に分けるとなると大体15枚、1日で1ヶ月くらいの生活費が稼げると言っても命の危険の割に実入りは少ない気はする。

 活躍の具合で分けるとなると荷運び(ポーター)のエッジオやヘスス、ホルヘ辺りはもう少し少ないかもしれない。

 

「かといって人を減らせば帰ってこれるかわからんしな」

「痛し痒しですね」

「なんだそりゃ」

「かけば痛いし、かかなければ痒いしどうしたらいいかわからないという意味です」

「初めて聞いたが確かにそんな感じだな」

 なるほどと納得して顎を撫でるハビエルにヨンが割り込んで来た。

「と、いうわけで来たかったら来てもいいぞ。分け前たいした額にならんが日帰りだからこのまま出るがどうだ」

「じゃあ、行きましょうか」

 ギルドの端に無造作に立てかけられている引き取り手のない誰かの武器の中から堅そうだからこんなものかな、と両手剣を手に取った。

 手が小さいのでよほど小さいものでなければ大体両手剣として使えるのだが。

 

「分け前が減るから危ないとき以外寝ててもいいからな」

 と、ホルヘがいうと、ハビエルが軽く小突いた。

「何馬鹿なことを言ってるんだ。さっさと行くぞ」

「頼りにしてる」

 そう私にだけ聞こえる小声で呟き、小突かれた頭をポリポリと掻くと足早に後を追っていった。

 

 

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