はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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砕かれた盾、折れた剣

 岩山の(ふもと)でエッジオと合流して祝福をかけて少しの距離を移動するとそこが現場らしい。

 街の人の畑なのだからそう離れては居ないかと納得した。

 畑が荒らされ、トウモロコシの様な植物が折られ、1口かじって捨てられた未成熟な実があちこちに転がっている。

 倒れた作物を踏み越えて畑の中央まで進むと、土が盛られて山の様になっていた。

 この畑は街からも遠くないので手入れにきた人間と砂熊(アローソ)が遭遇し、人が弱く食べられることを学習してしまうともしかしたら街まで襲いに来てしまうかもしれない。

 

 砂熊(アローソ)はほかの熊と同じく一度餌をとった場所は餌場として縄張りにするため、この土と食べかけの山を荒らせばそれに気づいた砂熊(アローソ)が大急ぎでやってきて我々の排除をしようとするだろう。

 砂熊(アローソ)が手を付けた農作物は食べられて無くても臭いが付くので売り物にもならないし、もちろんそんなものは自分で食べることもしないから好きにしていいといわれている。

 ヨンが八つ当たりをするように忌々しげに土の山に戦斧を突き立てると少し崩れて、中に埋められた牛が姿を現した。

 その姿をみてぎょっとして言った。

「ちっ、わざわざここまで持ってきて埋めたのかよ」

 

 さあ、害魔獣退治だ。

 

 荒らせば戻ってくるという話だったので身構えたが襲ってくることもなく。

 緊張を切らせた頃に襲ってくるかもしれないと気を張っていたがくる気配は見せない。

 その後も軽く休憩にしながら代わる代わる見張りをして過ごすがやはり現れることはなかった。

 そうしているうちに日も傾き、日帰りの予定が延長になってしまった。

 ニコレッタに連絡したいが携帯電話のような便利な物はないので心配をかけてしまうだろうか。

 いつものことと1人で過ごしているだろうか。

 「(イ・ヘロ)よ」

 輝度の高い光球を頭上に上げる。

 「嬢ちゃんが作ると光の玉も全然違うもんだなあ」

 薄暗闇の中でホルヘが腕組みをして感心した声をあげる。

 ホルヘとヨンはいつまでたっても私のことを嬢ちゃん呼ばわりすることをやめない。

 「こればっかりは練習しかないですからね」

 「だよな~、地道にがんばるより一発でどうにかできないもんかねえ」

 そう言って指先にほの暗い火の玉を作ると足元を照らしながら歩いて行った。 

 「あいつはコツコツ積み重ねるのが苦手だからな、もっと言ってやってもいいぞ」

 「そうなんですか」

 「そこそこ器用で実家の商売が大物をドカンとする商売だったせいかそうなんだ」

 声をかけて短時間ずつでもやる時間を作った方がいいのだろうか、訓練するのは私の仕事なのだろうか?

 日が落ちて(イ・ヘロ)の光が照らす範囲の外は墨を塗ったように真っ暗な闇が広がり、遠くにバドーリャの街の明かりが見える。

 リラックスはしていないが緊張もしすぎてはいない、体力を温存して砂熊(アローソ)が立てる音を聞き逃さないように各々自由な体勢で過ごしていた。

 エッジオに渡していたパンを受け取りちぎらずにそのままかぶりつく。

 いつもならスープの1つくらいは作るのだけど、たき火は足下を荒らすことになるので今回は無しだそうだ。

 「僕は魔力の練習してて良いかな」というお気楽なエッジオの声に「まあ、いいんじゃない?」と答える。

 その答えを聞くや否や(イ・ヘロ)を明滅させる。

 しばらく続けるとぐったりし、休憩が終わるとまた明滅させて魔力量を増やすための訓練する。

 明滅といってもはっきり明るい(イ・ヘロ)を作り出せるわけは無く、蛍とどっちが明るいかというレベルのものなのだけど。

 それでも遠くからはよく見えるらしく、しばらくして怒号が聞こえてきた。

 「砂熊(アローソ)だ!」

 ハビエルとヨンが同時に叫ぶ。

 弾かれるように立ち上がり戦闘準備を整える。

 「リーダー! 灯りをもう2、3個と1つ盾の近くに出せるか?」

 その声に答えて3つの(イ・ヘロ)をばら撒き、アーテーナへの祝詞を上げ身体強化の祝福をかけ、1つを盾に張り付かせた。

 「盾にくっつければいいんですよね?」

 「ああ、助かる! 荷運び(ポーター)離れていろ!」ぐっと腰を落としたハビエルが叫んだ。

 (イ・ヘロ)をちかちかさせていたエッジオはうなづいたと同時に背の高い植物の影へすばやく身を隠した。

 ハビエルを先頭にし陰にフアンが付き、ホルヘ達はゆっくりと散開して砂熊(アローソ)を取り囲む。

 身長の高いハビエルより倍近くも大きい砂色の熊が涎を垂らしながら走ってきた。

 体臭か、涎の臭いかはわからないがひどい獣臭をさせてハビエルの前で立ち上がり威嚇の姿勢をとる。

 祝福があってもいくらなんでも盾で受けきれないんじゃないかと心配しながらハビエルの後ろで待機。

 体躯の大きさと威圧感に気圧されて思わず後ずさりしてしまう。

 しかし、今回の私の仕事は戦うことじゃない。あくまでサポートをすることなのだ。

 「ハードスキン」

 これで直接の致命傷を避けることはできるだろう。

 鉄板の盾をガンガン叩いて大声を出して挑発をする。

 「こいよ! おら!」

 ハビエルと対峙する砂熊(アローソ)の意識の外でホルヘやヘスス、ヨンが足音を消して忍び寄る。

 その気配に気づいた砂熊(アローソ)が近寄るホルヘに向いた瞬間、背中に向かってフアンが矢を射る。

 深い傷にはならないが痛みを感じハビエルの方を向き直す。

 ハビエルはその鉄板の両手盾で砂熊(アローソ)の爪を受け流しながらフアンを背に隠し、砂熊(アローソ)の意識を引きつけ、その間に取り囲んだホルヘ達が飛びかかりナイフや剣を突き刺して離脱する。

 砂熊(アローソ)はどこを向いても戦いに専念できないような、そういう戦い方をするらしい。

 ハビエルの盾の陰から遠巻きにみているとそれぞれの役割が機能的に働いて砂熊(アローソ)を封じ込められているように見える。

 切りつけられ振り向くとすでにそこにはおらず、死角からの攻撃がくる。

 まるでいじめの現場を見つけたような気がしてきた。

 これこれ、熊をいじめちゃいけないよ、ありがとう浦島さんなんて熊宮城に連れて行かれるところまで想像した所で我に返った。

 戦いは一進一退の攻防を見せていた。

 攻めあぐねるが防御力の高い砂熊(アローソ)と優勢だが決定打の無い人間達。

 

 大人の顔よりも大きい手を振り回し間違って触れてしまうとそれだけで致命傷になりそうだ。

 祝福のおかげで軽く動けるようになったと言っても重量級の武器を担いだヨンはヒットアンドアウェイなんてできるはずもなく。

 フアンやヘススが大きな隙を作ってくれるのをまっている。

 背中を狙われないよう背中を気にして取り囲んだハビエル達を威嚇している砂熊(アローソ)の隙をみてホルヘが駆け寄るフェイントをかけながら隙を作る様動き回る。

 身体強化されているおかげで簡単には捕まえられないらしい。

 わざと音を出しながら気をひき、近くで音をさせ振り向かせた隙をフアンの矢が襲う。

 刺さった矢に驚いてフアンを狙おうとした瞬間、足音を隠したヘススが、短剣を逆手に持ち、背中に深く突き立てる。

 思ったより深く突き刺さってしまったのか引き抜き損ねて体勢を崩した。

 

 転がって回避を試みるが救うように突き出された砂熊(アローソ)の爪はヘススを襲う。

 硬質な音をさせてヘススが宙を舞い、地面にどさりと落ちた後、勢いはなくならず少し転がって止まった。

 狙うべき獲物が定まってしまうと、フアンの矢も騒音を立てることも効果がなくなる。

 うなり声を上げながら地面に伏したヘススの元へゆっくりと近づく。

 ハードスキンのおかげで怪我は無いようだが衝撃は殺せず気を失ってしまったようだ。

 ホルヘが突き立てる剣だけは刺さった直後に振り払うがそれでも足は止まらない。

 

 ハビエルが走り盾をかまえて立ちふさがるが数発受けてよろめいた。

 私も何かした方がいいのか手を出してはいけないのかと迷った瞬間、ハビエルと目があう。

 力強いまなざしは私に「頼む」と言った気がして身体強化をかけて地面を蹴った。

 私の放った渾身の飛び蹴りは砂熊(アローソ)の無抵抗な脇腹に突き刺さりその巨体を転がした。

「ヘススは無事だ、気を失っているだけだ」

 フアンが息を確認して無事をたしかめた。

 倒れた砂熊(アローソ)の足にホルヘが思い切り体重をかけて突き刺した。

 毛が硬くほとんど刺さらなかったが後ろ側の下からから毛の流れに逆らわないように刺すと刺さるらしい。

 意図したものかなんとなく刺しやすい体勢をとっただけなのかはわからないが。

 

 剣を刺しっぱなしにして手ぶらになってしまったホルヘは慌ててハビエルの後ろに逃げ込んだ。

 ヘススの剣と盾を勝手に借りて砂熊(アローソ)の前に立つ。

「イリュージョンボディ!」

 私に集中してもらうために彼らの存在を少し感じづらくなってもらう。

 

 ゆっくりと立ち上がった砂熊(アローソ)は足の根本に刺さった短剣をみて忌々しげに引き抜くと憎しみを込めて私をにらみつけた。

 おそらく足に刺さった剣も私のせいにしているのだろう。

 大きく間違ってはいないが。

 

 いつもの様に逃げ回りながら戦おうとすると私を無視してハビエル達の方に向かわれると間にたった意味が無い。

 盾を構えて重心を落として一撃に備える。

 刺された側の足を引きずってゆっくりと私の前に歩いてくると、後ろ足で立ち上がり威嚇の姿勢を取った。

 大きさは私の3倍くらいありそうで、前に立ったことを少し後悔した。

 まともに食らうと首ごと持って行かれそうな一撃が目の前をかすめて地面をえぐった。

 盾で受けようと思ったが盾が持たないと思わず1歩下がってしまった。

龍鱗(コン・カーラ)!」

 魔力で防御力を上げて砂熊(アローソ)の一撃を受ける覚悟を決める。

 反対の手で薙ぎ払われる爪を盾を使って打ち上げて軌道を逸らしてがら空きになった脇腹に短剣を突き刺した。

 痛みでむやみやたらと振り回す爪を左手に持った盾だけで捌かなければいけない。

 躱したり盾で逸らし続けること数回、爪を受け止め方向を変えようと力を込めた瞬間、持った盾がバラバラに分解した。

 思ってもみない事態に思わず声をあげて手に持ったままの壊れた盾の取っ手を砂熊(アローソ)に向かって投げつけた。

 砂熊(アローソ)は投げつけられた鉄製の取っ手を意に介すことなく、盾を壊したことで余裕が生まれたのか攻撃の手を止めて私の様子見をする。

炎の矢(フェゴ・エクハ)

 苦し紛れに炎の矢を打ち出してみると毛皮は火に強いのか焦がすこともなく消えてしまった。

 その後も氷の矢(ヒェロ・エクハ)土の弾丸(ティラ・ヴァラ)も使ってみたがこっちは表面が硬いのか砕けて落ちた。

 こっちに住むの魔物にはバドーリャの魔法の方がいいのかと思って使った火炎弾(ファイアボム)氷結の爪(アイスクロウ)炎の矢(フェゴ・エクハ)氷の矢(ヒェロ・エクハ)と変わらず単純に威力が足りないという結論に至った。

 詠唱が必要な魔法は手の届く距離では使えないし、手詰まりとなった。

 

 交互に襲ってくる大人の頭より大きい手と爪を剣で受け流す。

 まるで棍棒と戦っているような気がするくらい重い一撃を受け止め続ける。

 砂熊(アローソ)の爪と剣がぶつかる音を立てて数合打ち合う。

 数合打ち合わせた時だった、硬質な音を立てて根元から折れた。

 

 盾は壊れ、剣が折れ、思わず驚いて声をあげると砂熊(アローソ)も威嚇されたと勘違いして攻撃の手を止めて吠えた。

 逃げるわけにもいかず、戦うすべもなくなった私は思わず砂熊(アローソ)に向かって飛びついた、が、正面から見た砂熊(アローソ)が恐ろしすぎて身をかがめて飛び込み股の下を潜り抜けて背後から砂熊(アローソ)の背中に飛びついた。

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