はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!- 作:白澤建吾
「すぐできるものってあんまりなくて」
そう言って皿を置いてキッチンに向かった。
皿の上にはパスタが盛り付けられ、フォークを持ってくるのを忘れられた私は一瞬、素手で食べるかとも思ったが熱と油まみれになるのは嫌なのでキッチンに向かう。
「すみません、フォークかなにか」
壁から顔をだして、そう言った所で口いっぱいにパスタを頬張ったニコレッタと目が合った。
「私の用を聞かなくては」という使命感と、「口に頬張ったままの姿は見せられない」という羞恥心がニコレッタの中で綱引きをしている。私は彼女が迷っている様をしばらく観察した。
「フォーク、フォークですよね。すみません」
口の中を大急ぎで片付けたニコレッタがフォークを持ってきてくれた。
「そんなに急がなくてもよかったんですが」
「温かい物なので大急ぎです! なんかすごくお腹が空いてしまってすいませんでした」
「魔力を使ったせいですかね?」
「そうでしょうか」
改めて、ありがとうとフォークをひらひらさせて自分のパスタの元に向かった。
一緒に食べようと誘おうと思ったがキッチンの自分のテーブルで食べ始めてしまったので断念した。
簡単で早いものとして出されたのはペペロンチーノの唐辛子がないいわゆるアーリオオーリオといわれるものだった。
使われているオイルも知っているものとは違うハーブの様な不思議な香りがした。
しばらくすると食後のお茶をもってニコレッタが戻ってきた。
さっき口いっぱいに頬張った姿で慌てふためいたとは思えない優雅さで私の前にかちゃり、とティーカップを置いた。
「匂いが強いものを食べた後はこのハーブティを飲むと匂いが気にならないのですよ」
そうお茶の説明をした。
その後、ニコレッタが洗い物を終えて戻ってくると待ちきれないように座ったと同時に人差し指に魔力を集中させた。
これから寝るまで魔力の扱い方の続きだ。
私はニコレッタの様子を見ながら本を読んで過ごす。
たまに視線を上げてニコレッタの様子を見てみると、覚え始めたばかりの魔力を使うのは大変な様で、額に汗を浮かべながら指先に
「なかなかうまくいきませんね、カオル様の時はどうでしたか?」
休憩がてら私の時の話を聞こうと思ったらしい。
正直に話してしまっていいものか悩んだが、嘘をついてもしょうがない。
「始めはこんなもんでしたよ」
正直に当時を思い出しながら魔力の触手をうねうねと動かして見せた。
「えっ?! あのっ?! ちょっと見た目が悪いというか……」
精一杯気を使ってくれたのだろうが、あまりにも素直な反応に思わず笑ってしまった。
「それにしてもすごい量ですね」
「参考にならなくてすみません」
「そうですよね、魔法使いなんですから才能の差みたいなものですね」
ちょっとがっかりした表情で言った。
それから指先を見つめ、しばらく考え込んで口を開いた。
「でも、これくらいの魔法でも使い捨ての召使からずいぶんいい仕事先も見つかるんです。教えていただいてありがとうございます」
真剣な目で私を見つめてそういうニコレッタに言う。
「こんなことでよければいつでも教えるよ」
ニコレッタはうれしそうに微笑んで「はい!」と元気よく答えた。
もう夜も遅いので、今日はここまでにしておこうと立ち上がる。
「じゃあ、私はもう寝るので」
「はい、おやすみなさい」
それから何日かはだらだらと過ごした。
だらだらと散歩に出て、だらだらと読んでいた本も読み終わってしまい、今度はバドーリャの下町で食べ歩きでもしようかと着替えたところだった。
ドアノッカーの音が響いた。
ニコレッタが対応してくれている間に着替えを済ませる。
階段を降りるとロペスが立っていた。
「急で済まない、
「
「ああ、よくわからないがどうも大事らしい。準備をしてから来るようにとの事だった」
詳細がよくわからないままロペスに言われた通りに準備をして出かけることにした。
部屋に戻り、手甲や皮鎧を装備して出かける。
「武器がないから行くときに寄ってってもいいかな」
「もちろんだ」
「じゃあ、行ってくるよ。帰りはいつになるかわからないから早く帰れた場合は食べて帰ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ニコレッタに見送られながら出発した。
バドーリャの武器屋は岩山のもっとも下層の21層目にある。
火を使う関係で上層に炉を置けないらしいが下町に住むほど生活に困っているわけではないという立場らしい。
下町にある武器屋は中古の武器を取扱う店となっている。
道から店の角にある入口へ続く道と、柵で囲んであるなにもないスペースがあった。
「どんなのを探してるんだ? 今度はカタールなんかどうだ?」
ロペスが飾ってある武器を指差して言った。
腕にベルトで固定して使う短剣の様な武器だ。
刃渡りは30cmほどで、刃の先端が尖っている。
「悪くはないけどでかい爪とか
「そうか」
私がロングソードを持ち上げて掲げてみる。
魔力を多めに込めると片手で振り回せるので重さは気にするほどではないが、そもそも剣の扱い方がわからない。
ロペスが店主に「長くて取り回しが悪いものはあるか」と変な質問をし、案内されたのは店の隅の埃っぽい場所だった。
「そこは試しに作ってみたやつと注文したやつが取りに来る前に死んだから置いといたやつだ」
店主はふんと鼻を鳴らしてそう言った。
実用性のなさそうな革ひもに刃物が縫い付けられている鞭のようなものや柔らかくてどう使うかわからないぐるぐるに巻いてある剣のようなものが置いてあった。
金属の薄い板がまとめられている剣のようなものを手に取る。
「ああ、それはいくらでもいいから買い取ってくれといわれて買ってみたが使い方がわからなかった剣でな、剣なのにペラペラで切ろうにも切れないんだ。振り回せば剣先が暴れまわるが人相手でも恐らく細かい傷だらけで致命傷にはならないから硬い魔物なぞ相手にできなさそうな武器でな、安くするから気が向いたら買ってくれ」
なるほど、と手に取ったそれを棚に戻すと少しがっかりした表情を浮かべた。
次は振り回せる有刺鉄線とでもいえばいいのか、刃物がついた革ひもが巻き付けられたものを手に取る。
「そっちの
「返品ですか?」
「どうやら重さが分散してるせいで広い場所で伸ばしてから慎重に振り回さないと腕に絡みついてくるんだそうだ」
自信作だと思ったが難しいものだな。と、つぶやいた。
テストもせずにそんな危ない武器を売らないでほしい。
刃物だらけの鞭のような武器が腕に絡みついている様を思い浮かべると前の持ち主はどうなってしまったのかと考えてしまう。
安くてもへんてこな武器はいらないな、と小声でロペスにいうと土壁を出す棒を作ったお前がそれをいうのか? と笑われた。
しばらく考えていたが、長めで丈夫そうな剣を身体強化かけて振り回せばどうにかなるんじゃないかと思ってロペスに相談した。
「たしかに間違ってはいないが」
そうだよね、と思いながら装飾もない無骨なデザインの長剣を手に取る。
それは刃渡りは剣先を地面に突き立てると柄に近い部分は胸くらいまでの長さがあった。
ロングソードより若干長めになっている。
それよりも特筆すべき点は、鍔が2つあるようなデザインで、鍔と鍔の間は刃がなく握れるようになっていた。
いわゆるリカッソという部分だろうか。
そして、3人が一緒に持てるほど長い握りの長さ。
相当な長さを両手を広げて握れる様になっている。
「力自慢のバカが普通の剣としても槍みたいにも使える特注品を作ってくれと言われて打ったやつだな。自分の力量以上の重さに負けたか買ってったその日に死んで売り払われてきた」
もの好きにしか売れなそうだから安くしとくよ、と言われた。
「確かに刃が厚いな。あと重い。生身で使うような重さじゃない」
軽く持ってみるというほど重いのか? という疑問を持った。
「とっさに振り回すと遠心力で思ったより持っていかれるからな、前の持ち主はそこら辺を見誤ったんだろう。ご主人、軽く振り回せる場所はあるか?」
「店の前で振り回していいが怪我すんなよ」
店主はそう言って入ってきた扉と違う出口から外に出ていき、店主について表に出る。
なにもないスペースだと思っていたのは試し斬りをするための場所だった。
店主はスペースの端から木の台に50cmほどの長さの太めの植物の茎が縛り付けられている案山子を中央に設置した。
木は貴重だがとうもろこしの様な乾燥に強い植物の茎は手に入るのでまとめて試し斬りができるようになっている。
持ってみると確かに重いが持てないほどじゃない。
長く持って構えてみると、つばぜり合いが難しそうだ。
長く持つ時は遠心力で叩き潰すように使えばいいのだろうか。
対人戦の場合は短く持たないとつばぜり合いをして柄で受けたら指が落とされてしまいそうだ。
リカッソと握りで広く持てば槍の様に使うこともできるかもしれない。
何はなくともまずは試し斬りだ。
分厚い刃を持つ剣を短く持って斜めに切り下ろす。
乾燥した植物の茎は刃に当たると音を立てて切れたが、柄が長すぎて少し扱いづらい。
今度は槍のように幅を広く持って構え、細かく動かして案山子に突き刺したり薙ぎ払ったりしてみる。
短く持つよりは取り回しがしやすい。
その後も持つ長さを変えて振り回してみたが普通の剣3本分ほどの重さの剣に重心が先の方にあるので少し力を抜くと遠心力で体が持っていかれてしまう。
魔力さえ込めれば振り回すことも可能だがそれではただの柄の長い剣でしかない。
「どうだ? 使えそうか?」
ロペスが心配そうに聞いてきたので試しに渡してみた。
私と同じように色々と持ち手を変えて試してみたロペスは
「柄が長すぎるが短く持つと柄が邪魔になるな。あと単純に重すぎる」と感想を言うと私に返した。
使っていれば慣れるかもしれないししばらく使ってみてもいいかな、と思った私は高かったらやめておこうと思って店主に聞いた。
「これ、いくらですか?」
売れない商品が売れるチャンスと見た店主は喜色を浮かべた。
「銀貨3枚ってところでどうだ? 注文は15枚で受けたんだから相当安いだろう?」
必死さも見える売り込みにどれだけ長い間売れなかったのだろう。
「じゃあ、これをください」
「ありがとうな、仕上げをしてくるから待っててくれ」
店主は剣を持って工房に向かった。