はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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正気じゃない!脳天気な仲間たち

 待ってる間にカウンターに置いてある椅子に座って店主を待つ。

 大人の男性向けなのか、少し高めの椅子に飛び乗るとロペスが隣に座った。

「今日はどのくらいの人数で? 私の所とロペスの所とイレーネの所で20人くらい?」

「いや、4人だ、カオル、イレーネ、おれ。あとつい最近加入した強い魔法使いが道案内で来るらしい」

「逆に本気な感じだね」

「そうだな、その間ルディがイレーネとおれの所のリーダーをやるらしい」

「復帰してたんだ」

 片腕を失ったルディの姿を思い出した。

 無事に、とは言わないが復帰できたようで良かった。

「傷自体はすぐに塞がるが片手で戦えるように訓練してたらしい。おれもまだ顔を合わせてはいないが、早く稼ぎたいって言ってたらしいから早めに復帰したんだろう」

 新しい生活もあるからな、とロペスはつぶやいた。

 しばらく沈黙が続いた。

 

「お待たせ、剣と鞘で銀貨4枚だ」

 店主が戻ってきて革の鞘に入った剣をカウンターに置いた。

 何枚かの革を縫い合わせて二つ折りにした様な鞘に入った剣を見る。

 剣先の部分は金属で補強され、剣先から半ばまでは丈夫な革ひもで縫い合わされていた。

 勝手に抜けないようにするため、鍔を含めて鞘に納めてフックで口が開かないように止める形になっている。

 カウンターに銀貨4枚を置くと店主は気の変わらないうちにと思ったのか、素早く回収すると鞘について説明を始めた。

「普通の鞘だと抜けるやつがいないから袋状になってる。このフックを外して開いたら抜けるからその辺に転がしてくれ。こんな長い鞘、どこに付けても邪魔になるからな」

 考えてもみなかった欠点を購入後に告げられた。

 やられた! と思わなくもなかったが合わせた鞘も作ってもらったし、すでにお金を払ってしまったので仕方がない。

 剣の重心にベルトへ引っ掛けるためのフックが付いている。

 カウンターから剣を持ち上げ、ベルトに掛ける。

 これが刀の様に腰に刺すような形だったらいざ必要な時に抜いて鞘を外して構えるまでに時間がかかっていただろう。

「じゃあ、行こうか」

 ロペスに声をかけると「ああ」と答えて店を出た。

 

 色々と無駄な時間を過ごしてしまったので、黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)へは道を使わずに縦に登る。

 マナー違反だが人の家の屋根へ飛び乗り、屋根を伝って上層にある黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)までまっすぐ進んだ。

 さほど時間をかけずに黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)の建物の前に着く。

 ロペスが先に開け放たれた扉をくぐり、私は後に続く。

 中に入ると、すでに集まっている人たちがいた。

 私達の気配に気づいたイレーネが顔を上げ、ぱっと笑顔になった。

「カオル! 久しぶり!」

「イレーネも」

 軽く上げた手を細かく振るイレーネに軽く手を上げて答えた。

 隣にはオケアノが座っていた。

「もう1人くる魔法使いってオケアノさんですか」

「なんだ知ってるのか」

「ここの魔法の師匠になりますかね」

「教え子なんて長くやってるんだからそれなりにいるよ」

 最後までやったのはカオルちゃんとイレーネちゃんだけね、と付け加えた。

 後半ものすごいお金を取られたし、前半に覚える魔法は使い物にならないから意地になって全部習得した気がする。

 

 会っていなかった暫くの間の話をする。

 イレーネもロペスも大怪鳥(コカトリス)やら大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)なんていう魔物を倒していたらしい。

 大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)は群れで砂の中に潜み、獲物を待ち伏せして襲う魔物で、砂漠の中では非常に危険な魔物だ。

 バラバラに広がって砂の中で待ち構えて中の1頭が獲物に噛みつくと周辺に潜んだ大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)が一斉に飛び出して獲物を襲う性質を持つ。

 臭いがあって動物を使って探せたり、よく見たらわかるというものではないらしく地道に長い棒を持って砂をつついて大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)を誘い出すしかない。

 炎天下、砂漠の中で長い棒を持って砂をつついて歩いてなんの成果もなくへとへとになって帰ってきたらしい。

 そしてその後、まったく関係のない場所で商隊が襲われ、2人が犠牲になったという話を聞いた。

 いくらもらってももう2度とやりたくないと二人は口を揃えて言った。

「カオルはどうだったんだ?」

 ロペスが私に聞いてきた。

「私は砂熊(アローソ)を倒してきたよ」

 刃物が通らず、炎にも強い毛皮を持つ砂熊(アローソ)にすべての攻撃が通じなくて背中に張り付いた間抜けな話をしたらイレーネは大層気に入ったらしくポーズを再現させられたりした。

 

「いっつも楽しそうだな、おまえら」

 階段を降りてきたルイスさんがそう言って呆れたように呟いた。

「呼んでおいていつも遅れて出てきますね」

 嫌味を言っておいた。

「すまんすまん、おれだって上で仕事があるんだよ」

 そう言って顎を上にしゃくって見せた。

「まあ、そういうこともあるでしょう」

「じゃあ、今回の仕事の話だが、東にあるバルダオル山脈に石蜥蜴(バジリスク)が出たから討伐してほしいと依頼があった」

 オケアノが息を飲む。

「バルダオル山脈にしか生息しない魔物だ。魔法障壁(マァヒ・ヴァル)が無いと石化の呪いを持った視線で石にされてしまう」

大怪鳥(コカトリス)みたいな?」

「あれより強力だな、見られただけで石化が始まるからな。だから魔法障壁(マァヒ・ヴァル)で防ぐ必要があるというわけだ。ま、石化さえ防げれば大したことないやつらだから」

 オケアノは背丈を超える大型のトカゲの姿を思い浮かべて大したことないだろうか、と逡巡した。

 こちらの魔法で対応しようとすると9段階目の魔法障壁(強)(マジックプロテクション)を使える魔法使いが3人、8段階目以上の魔法が使える魔法使いが1人か2人、弓兵が最低4人、近接戦闘職が3人必要なので討伐するというのは街にとっても負担が大きい。

 魔法障壁(強)(マジックプロテクション)は強力な魔法攻撃を無効化できるバドーリャの魔法の中では強力な守りの魔法だが、張っている間は動くことができない。

 魔眼は魔法障壁(強)(マジックプロテクション)で抑えるが一度見られると魔法の壁は破られてしまうので、3人の魔法使いが交代しながら維持し続ける必要がある。

 そしてその後ろで弓兵が目を狙った攻撃をし、8段階目以上の魔法が使える魔法使いがなるべく強力な魔法を撃ち続ける。

 近接戦闘職は万が一接近された時のために魔法使いと弓兵を守る盾となる。

 バドーリャの街にはそんな大魔法を使える魔法使いはいないため、どれだけの犠牲がでるかわからない。

 所が、黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)はたった4人で倒してみせるという。

 まあ、カオルちゃんがいる所ならそんなもんか、と考えるのをやめた。

 

 名前をなんと言ったか、確かルイスというわたしより少し年下なのに妙に疲れていて老けて見える男が「まあ、そういうわけだから」とだけ言って事務所がある2階へと向かった。

 

 ルイスを2階に見送るとロペスが言った。

「おれは準備できているがおまえらはどうだ?」

「あたしは食料がないかな」

「日帰りだからいらないと思ってたよ」

「いくらカオルちゃんが足早くても1日じゃ無理よー」

 無理らしい。

「では、道すがら適当に買って行くとするか」

 それがいい、と答えて立ち上がると続いてイレーネとオケアノも立ち上がった。

 

 黄金の夜明け団(ゴールデンドーン)を出て、バドーリャの下町へと向かう。

 その道中、イレーネとロペスの大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)の捜索が大変だったという話が止まらない。

 長い棒を持って延々といそうな場所を10人並んでつついて歩く大変さについて語り続ける。

 明確な目標がないまま日の出から日没後も歩き続けたらしい。

 炎天下、汗も出なくなり横を歩いてる男が倒れ、復帰するまではそこが空いたまま黙々と歩き続ける。

 その後、日が暮れても歩き続け、かいた汗が夜の冷気で体温を奪う。

 そこでようやく大砂蜥蜴(グラール・ラーガ)の捜索が打ち切られ次の日、別の部隊が捜索を引き継ぐ。

 食事以外の休憩はほとんどなく、ただ歩き続ける。

 聞いているだけで疲れてしまいそうな話だった。

 イレーネは「あたしの時はもう少し休憩あったのにそれより休憩なしだったの…」と絶句していた。

 女性のイレーネがいたから配慮してくれたのだろうか。

 それにしても1日中歩き続けるのは無理がある。

 

 下町に着くと、まずは食料を買いに行く。

 固く焼き締めたパンと乾燥肉と乾燥野菜に調味料を少し買った。

 ロペスはパスタと乾燥野菜にチーズを買い、皮の水筒にワインを詰めてもらっていた。

 オケアノも同じような物を買っていた。

 一方イレーネはロペスがワインを持っていっているのを見て欲しくなってしまったらしいが水筒がないので買えず歯噛みしていた。

 それぞれ必要なものを買い込んでバルダオル山脈へ向かうことにした。

 バルダオル山脈へはバドーリャを出て東に向かう。

 遠くに見える山の影を正面に捉えて身体強化をかけて走り始める。

 道は整備されているわけではないがバルダオル山脈に向かってぐねぐねと続いている。

 道と言っても前の人の足跡を踏んでいった結果、道のようになっているだけで、道幅は狭いがはみ出た所で歩きづらいということもない。

 石蜥蜴(バジリスク)の恐ろしさを知っているオケアノは血の気も引き、緊張に体を固くするが、ルイスに魔法障壁(マァヒ・ヴァル)さえ張っていれば大丈夫と聞いている3人は気楽なもので、軽く雑談しながら足早に進んでいた。

 オケアノには緊張で雑談に加わることもできず会話も耳に入らなかった。

 徒歩でいくと4日半かかる距離だったが、身体強化に慣れていないオケアノに気を使って少し遅めのペースで進んだのにもかかわらず、夕方には麓までたどり着いたが、山登りをするには危険があったため、キャンプすることになる。

 

 いくらカオルが強くてもカオルを含めたたった4人で石蜥蜴(バジリスク)を倒しに行くなんて全員無事に帰ってこられるわけないと思ってるオケアノは、能天気に火を焚き休む準備をしている三人をみて、こいつらは正気なのだろうかと我が目を疑った。

 それと同時に、なんて残酷な仕事をさせるのかとルイスに恨みを覚えた。

 

 それからも明日出会うであろう石蜥蜴(バジリスク)のことばかり考えていて何も耳に入っていなかった。

 心配そうにオケアノをみるカオルとイレーネにちょっと緊張してるだけだから大丈夫だと力のない笑顔で答える。

 焼いたパンと付け合せの乾燥野菜、肉を戻して作ったスープを渡されたが、ぼうっとして口をつけずにいるとイレーネが自分のマントを外してオケアノにかけて包み込むように後ろから抱きしめた。

「大丈夫よ、砂鮫(アル・ベレオ)だって3人で倒したんだから」

 砂鮫(アル・ベレオ)なんて見ただけで石化する石蜥蜴(バジリスク)と比べたら大したことないよ、と言おうとしてもう一度咀嚼する。

 砂鮫(アル・ベレオ)?!

 このバドーリャに住む恐ろしい魔物はいくつかいるが、大怪鳥(コカトリス)石蜥蜴(バジリスク)砂熊(アローソ)砂鮫(アル・ベレオ)の4つは特に恐ろしい魔物だ。

 砂にしか住めないという特性を考慮しても出会った瞬間、死を覚悟する必要がある。

 逃げるだけなら大怪鳥(コカトリス)石蜥蜴(バジリスク)の方がまだ逃げられる可能性は高い。

 大怪鳥(コカトリス)石蜥蜴(バジリスク)は見つかっても目眩ましさえできれば運が良ければ逃げられる。

 砂熊(アローソ)は鼻が利く上に凶暴で食欲がなくても襲い、そのうち食べるつもりで保存する。

 足は人の数倍早く、入り組んだ地形で遭遇した場合は小回りを利かせて逃げることもできるが、執着心の強い砂熊(アローソ)は中々諦めることはない。

 砂鮫(アル・ベレオ)は獲物の少ない砂漠に住み、砂中を高速で進むため岩のような皮膚を持ち、馬のような大きさのものまで一呑みにしようとする大きさの魔物だ。

 獲物が少ないことからどんなに食べても満足するということがない。

 どんなに食べても次食べられるのはいつになるかわからないことからか、見つけた獲物はその時にすべて食べてしまわないといけない本能があり、砂漠での音は空気中より伝わりやすいため、1度見つけた獲物の音はすべて記憶して捕食しようとする。

 唯一の対処法は岩山に登ることだが、万が一岩山に逃げ込んでしまえば砂鮫(アル・ベレオ)は鳴りを潜めて獲物が降りてくるか死ぬまで待つ。

 唯一の弱点は常に飢えていることを利用して爆発する石(エゾプレア)を肉に埋めて食べさせることだが、傷をつけて数秒後に爆発する爆発する石(エゾプレア)のタイミングを外すと学習して不審なものは食べなくなる。

 そんな魔物を3人で倒したのか? とオケアノは驚愕した。

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