はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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神殿の夜と甘い香り

 こうなっては一か八かで出すことになりそうだ。

 鞄を漁って銀貨を取り出す。

 多めに取り出し銅貨を袋に戻して銀貨を2枚手のひらに乗せた。

 横目で門番を見ると眉がピクリと動いた。

 はずれらしい。

「あ、まだあるんですみません」

 そういうと貫頭衣の男は姿勢を崩さずに待っていてくれる。

 銀貨と大銅貨を数枚取り出す。

 その瞬間、門番の男の眉が緩んだことを見逃さなかった。

 正解は銀貨4枚と大銅貨5枚だった。

 大家族が1か月お腹いっぱい食べられるくらいの金額。

「はい、お収めください」

 私がそう言うと貫頭衣の男は手のひらで硬貨の重みを確かめて頭を上げた。

「ようこそおいでくださいました」

 許されたらしい。

 

 貫頭衣の男が腰の小さな袋に受け取った硬貨を仕舞って門番の男に目配せをする。

 門番の男は頷いて反対側にいた門番と一緒に左右の重そうな扉をそれぞれ開いた。

 1枚で私が3人~4人ならんで歩いても通れるような大きさなのだから片側だけでいいのに、と思いながら扉を開いたまま深々と礼をする門番の前を通り過ぎた。

 巨大な扉と装飾の着いた神殿に立ち入ると思うと、緊張してカチコチになりながら先頭を歩く。

 後ろから聞こえるイレーネやロペスの足跡も心なしか固い気がする。

 

 外観が大きすぎたので中の想像がつかず門をくぐれば神殿の中なのかと思っていたが、外の壁は神殿への侵入者を拒む塀だったようだ。

 もしくは、中の物を外に出さないためか。

 門をくぐると神殿らしき建物へと石畳の道が続いていた。

 敷地は随分と広いようで、全体を取り囲んでいる建物の陰になっていることもあり、塀の終端が見えない。

 1枚の石から切り出した様な綺麗な塀は私の背よりも遙か高く、ネズミ返しの様に笠木が伸びていた。

 石畳の左右は数十人がならんで軽い運動ができそうな位の広さの土のスペースが広がっていた。

「ここは特になにもないのですが、神官達が武術の腕を鍛えるためにつかっています。腕に覚えがあればご参加ください」

 突然、背後から声をかけられた。

 貫頭衣の男が後ろから付いてきていたらしい。

 

「私はカリムと申します」

 肩まで伸ばした灰色の髪を揺らして頭を下げた。

「あ、カオルといいます」

 自分が答えて名乗ると続いてイレーネやロペスが名乗り、最後にオケアノが名乗った。

「ご丁寧にありがとうございます。今晩お泊りいただくお部屋へと案内いたします」

 カリムは「さ、こちらへ」と言って歩き出した。

 正面にある大きな建物が礼拝堂で奥には女神の間があるらしい。

 礼拝堂から向かって右は神官たちが暮らす所なので立ち入りは禁止で、私達が泊まるのは左側の宿泊棟だと説明を受けた。

 宿泊棟の観音開きの扉を開けてもらい、中へ入る。

 ファラスにいた頃、宿屋の1階が食堂になっていたが、薄汚い宿屋の食堂と違ってとても清潔でチリ一つ落ちていないと言ってもいい位だった。

「さすが神殿の建物」

 ロペスがそう呟いたのを聞いて頷いた。

 カリムは案内を続ける。

「1階は食堂です。神殿の外から来た人にも解放されていますが、料金はかかります」

 メニューはどこだろうか。

「夜も時間は限られていますが営業しているのでご利用ください」

「夜でも人は来るのですか?」

「神殿の外からは来ませんが中には門番など寝ずの番の食事も必要ですし、そのために開けてあります」

「なるほど、では普通に食事ができそうですね」

 そう答えると優しく頷いて答えた。

 カウンターに向かってカリムが手を上げると奥から貫頭衣を着た水色の髪をまとめた女性が現れた。

「宿泊する部屋へと案内しましょう。彼女は3階の案内をするアデルです」

 アデルは深く礼をするとご案内いたします。と答えた。

 カリムを先頭に全員で2階へ上がる。

「2階は男性用、3階は女性用の区画になっています。アデルが案内します」

 カリムはロペスを連れて2階の廊下へ向かった。

 アデルが先頭になって3階へ向かう。

「ここは女性用のみ使用できるので安心してお使いください」

 破った場合はどうなるのだろうか。挑戦する気はないので聞く気はないが。

「お部屋はこちらです」

 言うと貫頭衣のどこからか鍵を3つ取り出して私とイレーネとオケアノへ手渡した。

 私の鍵には3と掘ってあった。

「鍵はなくさぬようお願い致します。お互いの部屋への行き来は自由ですが、室内では飲食禁止です。必要であれば1階の食堂は夜でも開いているのでそちらをご利用ください」

 とのことだった。

 シャワーは有料で、神官棟のシャワーが借りられるらしいが日が落ちたら借りられないと言われた。

 宿泊棟にない理由は大量の排水が大変だからだそうだ。

「荷物を置いたら食事にしようと思ってたけどカオルちゃんとイレーネちゃんはどうする?」

 乾燥したバドーリャに住む人はそもそも余り風呂には入らない。

 夜によく梳り1日の埃を落とす程度で十分だった。

 

「あたしは浴びたいかな。」

 イレーネがそう言うので試しに自分の頭を触ると砂と埃が指先にざらりとした感触がした。

「大銅貨2枚です」

 イレーネはポケットに手を入れるとアデルに大銅貨を2枚支払った。

 だが、今日シャワーを浴びたとしても明日また砂埃が舞う岩山を登るのだから余り意味が無いかもしれない。

 1度触って気になってしまったらどうにもならなくなってきた。

「じゃあ、私もお願いします」

 アデルに大銅貨を2枚渡す。

「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」

「じゃあ、また後でね」

 ーーカオルとイレーネが部屋を出ていくと、部屋には静寂が訪れた。

 オケアノは自分の部屋で持ってきた荷物から櫛を取り出して丁寧に髪を梳き始めた。

 イレーネちゃんは気さくな感じはするが、所作が綺麗で良いところのお嬢さんだったんだろうなとは思っていたが、平気な顔して血まみれになっていたカオルちゃんは実は綺麗好きだったんだな、と新しい発見をした。

 ベッドの上に置かれたアデル達が着ていたグレーの貫頭衣の色違いの淡い茶色の貫頭衣に着替えて、今まで着ていた服の砂埃を簡単に払った。

 ふう、と息を吐いて1階の食堂に向かう。

 オケアノはあまり酒を飲まないので酒場の様な場所で飲み食いできるものがあるかと思ったが、甘いジュースのような物やお茶もおいてあった。

 カオルちゃん達を待つ間なにか飲んでいようとカウンターに座ると白い調理師の服を着た男性が巻いた紙を差し出した。

 あちこち染みがついた紙を広げるとメニューと料金表だった。

 パン焼きパンという耳慣れない物とバルダオル山脈に生息する植物で淹れたお茶を頼んだ。

 最初にティーカップと熱いお茶が入ったポットが置かれた。

「そのままでも美味しいですが、バターやシロップをかけても美味しいですよ」

 しばらく待つと給仕の男がカウンター越しにパン焼きパンが2枚乗った皿をわたしの前に置いたのでお茶と合わせて支払いをした。

 いつも食べている平たいパンと比べてしっとりと焼き上がったパンの様なものからパンとは違う甘く香ばしい匂いが立ち上る。

 まじまじと見つめているといつのまにかナイフとフォークが置かれていた。

 湯気の立ち上るパン焼きパンにナイフを突き立てると驚くほど柔らかく刃が通り、フォークで突き刺して見ると断面は確かにパンの様な姿を見せた。

 だが、気泡を見るとまるで安いパンの様な細かい気泡なのに少し高いパンほどに柔らかい。

 一口食べると口いっぱいにバターの香りと甘みが広がる。

 しっとりしているのであっという間に溶けて消えてしまった。

 1枚だけだったらあっという間になくなってしまっていただろう。

「あ、オケアノさん。何食べてるんですか?」

 不意に声がかけられた。二人を見送ってからずいぶんと時間が経っていたようで、カオルとイレーネが戻ってきていた。

「ここの名物のパン焼きパンですって」

 メニューを渡した。

 カオルちゃんが隣に座り、イレーネちゃんがその隣に座る。

「なんでしたっけ、パン焼きパン?」

 カオルちゃんがパン焼きパンを覗き込んだ。

「変な名前だよね」

 小声でいうとカオルちゃんは同意するように笑った。

「あ、ホットケーキのことですか。パン焼きパン、フライパンで焼いたパン。なるほど」

 カオルちゃんは知っているらしい。ファラスの物なのだろうか?

「イレーネちゃんは知ってる?」

「ううん、初めて見たよ」

 ファラスの物ではないらしい。どうしてだれもしらないものの名前を知っているのだろうか。

「ホットケーキ……、いや、パン焼きパンか。食べてみたいけど大銅貨かー」

「あたしはお腹に溜まるものがいいかな、肉のグリルとパンとあとビール」

「パン焼きパンって1枚だけできますか? じゃあ、1枚だけ。あと肉のグリルに腸詰めとビールと、カチャカってこれなんですか?」

 メニューの端の方を指さして聞くと

「ここで作っている砂糖竹の絞り粕から作ったお酒です、とても強いですよ」

「じゃあ、それ1つ」

「強いですよ」

「少しなら大丈夫です」

「わかりました。テーブルに移りますか?」

 3人で食べるにはカウンターは会話するのも難しいし、料理も乗らなそうだ。

「そうします」と答えるとオケアノのティーセットとホットケーキと共に3人で開いているテーブルに移動した。

 移動と同時にイレーネと私のビールとカチャカがショットグラスで届いた。

 

 私の前にイレーネとオケアノが並ぶ。

 冷める前に食べなきゃねとオケアノがホットケーキを食べ終わり、空いた皿を持ってカウンターへ向かって調理をしている最中の調理師にパンと肉のグリルを頼んだ。

 オケアノが料理を持ってくる間に適当に話をしているとすぐに皿を2枚持ってオケアノが戻ってきた。

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