はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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シャワーを浴びるのも一苦労

 昔見たアニメでならなくなったり増えたりしたものにドキドキワクワクして楽しそうだったのに実際に味わってみるとまったく別物で違和感だけが体にまとわりついてる気がしてこれが新しい体か、がんばるぞ! とはとてもじゃないけれども思えなかった。

 

 石鹸で髪を洗うことに関して無添加主義の美容師の友達に聞いていたが、石鹸だけだとキューティクルが広がって絡まるから酸性の液体でキューティクルを収縮させる必要があるんだよ、という無添加ブームに乗った話を思い出した。

 

 しかし、石鹸しかないので髪はギシギシになって大変だった。

 

 適当にタオルドライしてできることならシャワー用の使用人を雇いたいとボヤいた。

 もしくはもうめんどくさいので2度とシャワーを浴びたくないという思いでいっぱいだった。

 

 タオルドライしたまま何もかも面倒なのでベッドに倒れこみ顔に濡れた髪が張り付いて冷たいが何もかもどうでもいい気分でヤケになってそのまま寝てしまった。

 

 起きたのは夕飯でエリーが呼びに来た時だった。

 

「おはようございます。」朝ではないがエリーに挨拶をし、何か着るものがないか見渡したが着ていた服すらなくなっていた。

 

 エリーはきちんと察してくれて

「こちらをお召下さい、あと寝ぐせがすごいですよ」と服を一着渡してくれた。

 

 士官用の制服らしいがスカートだった。

「ズボンはないのですか?」と、スカートはなるべくなら履きたくないのでエリーに聞いてみる。

「制服のズボンというものは男性用のものしかありませんね、訓練用のものならズボンもありますが、それですと上下が合いません。」と言って笑った。

 まだ女性解放運動は起こっていないらしい。

 

「面倒でなければ女性向けの制服のズボンを作ってもらえるように手続きしてもらえるとありがたいです。軍だといつ何があるかわからないですから」

 と、エリーにお願いしておいた。

 

 ロングスカートだったのは不幸中の幸いでこれがミニとか貴族的なふんわりしたものだとかならますます気が滅入ってしまう所だった。

 

 次の問題はビスチェを差し出されたことだった。

 

 もう文句をいう気力も失せてつけ方がわからないといい回避しようとしたが、手伝ってほしいという意味だと伝わってしまいぎゅうぎゅうに絞められてしまった。

 

 苦しい、もっと緩めてと少し我慢してくださいの応酬と寝ぐせを取ってもらうために悲鳴を上げ続け、着替えるだけでものすごく時間がかかってしまった。

 

 制服への着替えの後は、エリーに食堂に案内してもらう。

 初日くらいは部屋でゆっくり食べたい、と思いつつ軍属になるんだもんな、と諦めてついていく。

 

 私に与えられた部屋はどうやら3階で、食堂は1階にあるらしい、2階は男性士官のフロアで3階の半分が女性士官でもう半分が倉庫になっているらしい。

 

 1階まで降りて廊下の突き当たりに観音開きの扉が開け放たれていて中で人がうごめいているのが見えた。

 

 5人くらいがかけられる長テーブルと長椅子がおいてあり好きな所に座って適当に食事をとるらしい。

 

 奥にはトレイを置くレールと厨房が見えた。

 社員食堂っぽいなぁと思いながら重ねられたお盆から1枚取り列に並んだ。

 

 私の世界でもおなじみのお盆をスライドさせて作り置きの料理を順番に受け取っていくスタイルだった。

 

 エリーの説明を聞きながら順番に並んで受け取っていく。

 

 蟹歩きをしながら周りを見渡してみるとだれかの使用人の姿もあってそこそこの身分の人以外はここで食事をとっているらしいことが分かる。

 

 今日の晩御飯はパンとスープとサラダ、主菜はスパイスを振って焼いた肉らしい。

 サラダには塩と油くらいしかないのかと思ったら過去に召喚された召喚者によってすでにマヨネーズの作り方が広まっているようだった。

 

 私が介入してお金持ちになる余地が残っててほしい、楽して大金持ちになって楽な暮らしができるならどこでもいいのだ。

 元の体には戻りたいが。

 

 適当に入口近くの席に座り、エリーと明日からの訓練について聞いてみる。

 

 朝は最初にこの食堂の隣の講堂に集まることになっているらしい。

 そこからそれぞれの部隊の訓練のために散るそうだ。

 私はまだどこに所属するかわからないため、とりあえず行ってみるしかない。

 

 料理の味は想像していたのと違い、普通の料理の味だった。

 

 食材とか文化が違うからこんなにおいしいとは思わなかったという話をエリーにしたところ異世界人の料理人が相当手をいれたらしい。

 

 マヨネーズもその料理人の残したレシピで、食堂の隅の棚にはリバーシもなんなら麻雀もあり、過去にそれを広めた召喚者は商人として大成功を収めたという話だった。

 

 何百年も前のことだとか。

 

「オオヌキカオル様は何か作ったりするのですか?」

 

 異世界人は何か新しいものを持ち込むのは当たり前なのだろうか。

 

「もうちょっとなにか作る隙間を残しておいてほしかったね。食事に関しては難しいかもしれないね、なんか作れたら収入になるんだけど。」

 

「では休暇の際にでも街に出てみましょう、私も必要なものがあるので案内しますよ」

 

「歌とか遊びなら年代によっては伝わってないものがあるかもしれないから儲かるかは別として文化は広げられるかもね」と答えた。

 

 ここで初めて知ったのだが、部屋は307号室だった。

 これで寮の中を探検しても帰ってこられる。

 ここに来て初めての良いニュースだった。

 

 朝になればエリーが迎えに来るらしい。

 

 少し早く目覚めてしまったのでベッドの中でだらだらと転がりつつ時間をつぶそうと思ったが、何もなく時間だけつぶすのは難しく悩んだ末に制服を着るということに思い至った。

 

 パジャマを脱ぎ、妙に固い素材のスカートを履き、

 ビスチェの扱いに困りはてた所でノックの後に

 お迎えに上がりましたと声がした。

 

 どうぞ、と入室を促してビスチェを掲げて見せる。

 

「やはり着なくてはいけませんか」

 

「異世界ではどのような服を着ていたのかはよく知りませんがこちらでは必要なものなのです。さ、後ろを向いてください、オオヌキカオル様」

 

 そういってビスチェを取ると後ろに回り込んだ。

 

「エリー、気になってたんだけど、なんでフルネームで呼ぶの?」

 

「一度に紹介されたので家名があるとは思いませんでした。なんと及びしたらいいですか?オーヌ様ですか? オル様ですか?」

 オーヌ・キカ・オル、ミドルネームが発生してしまった。

 

「カオルでお願いします。オオヌキはファミリーネームなんですよ。」

 

「それは失礼しました、カオル様」

 ポイントカードを持っていなかったくらいの失礼したと思ってなさそうな気はするがエリーがそう言ってビスチェを絞めた。

 

 上着を着、編み上げのブーツを履いて姿見で確認する。

 やはりそこに写るのは自分の姿ではなかったが、自分の体を取り戻すまではうまくやらなくては。

 

 元の体に戻ったら帰る方法を考えよう。

 元の世界に帰れても体がこのままでは記憶喪失の行方不明者みたいだからな。

 

 部屋を出てエリーに自分で行けるから大丈夫ですよ、と告げると

「お世話を仰せつかっているのでそういうわけにはまいりません。」と言われた。

「じゃあ、よろしく」と言って先導してもらった。

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