はるけき世界の英雄譚-召喚されたら女になってんですけど元の体どこですか!-   作:白澤建吾

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世の理不尽と採寸

「なんだあれ! ねえ! 私隠匿魔法使ってた!?」

 感情のままにロペスに苛立ちを吐き出した。

 結局、ロペスに八つ当たりしてしまった。

 

「そうだな、今の店では面食らってしまったが次からはおれは関係ないっていうよ」

 と言ってくれたのでひとまずは振り上げた拳を下げることにした。

 

 隣の鍛冶職人の工房に入り、受付に防具を作ってもらいたい、と私がいうと

 やはり一旦ロペスの方を見てから私の対応を始め、

「おれは関係ないから彼女から話を聞いてくれ」

 とまるで丸投げしたような言い方で私から離れて工房内を見て回るが、早々に飽きて私の後ろにやってきた。

 工房の既製品よりどんな物を作るのか興味があるらしい。

 

 詳細な仕様を詰めようとするとやはりロペスに許可を取るような話し方になり、もういいです。

 と言って、店をでた。

「私は透明人間か! だんだん消えていくのか!」

「人間は透明じゃないぞ、そっちの世界には随分変なのがいるんだな」

 絶望の限りを叫み、もうやだこの体!とじたんだを踏んだ。 

 ロペスは冷静だった。

 

 その後いくつか順番に入ってみたが、どこにいってもそういう扱いで疲れ果てた。

「時間、無駄に使わせて悪いね」

 と、言うといい笑顔で答えてくれた。

「好きでやってることだから大丈夫さ」

 

 いけ好かなそうな受付がいる工房に入らないようにして工房を探していたらとうとう端で外側に近いこぢんまりとした工房まで来てしまった。

 中を覗いてみると赤子を抱いた女の人が暇そうに受付に座っていた。

 

 女の人ならあるいは、と思い

「ここにしよう」

 と、ロペスに言った。

 

「ずいぶん小さいし、暇そうにしてる工房だがいいのか」

「背に腹は変えられないからね」

 

 ごめんくださーいと言って工房に入ると暇そうに赤子をあやしていた女の人が営業スマイルで迎えてくれた。

 

 こういう手甲がほしいのですが、という話をするとやはり一旦ロペス経由で確認された。

 そしてロペスがおれが使うわけじゃないから直接聞いてくれと言ってもなんだかロペスに気を使った様な接客がされ、がっかりして帰ろうと思った時だった。

「おまえなにしてんだ!」

 と、怒号が響き渡った。

 

「客を間違えるな!嬢ちゃんが使うものを坊主に聞いてどうする!」

 当たり前といえば当たり前のことなのだが。

「ちょっとすまんね」と奥さんらしき受付の女の人を引っ張っていき奥で言い争いをしていた。

 

 奥から女がでしゃばるなんてとか色々聞こえるのをロペスと見合わせてお互い苦笑いで聞きつつ待った。

 

「すまんな、あいつは奥に引っ込めたから注文を聞かせてくれ」

 と言って椅子を出してきた。

「ぼ、あんちゃんの方はなんもないんだな?」

 と確認し、ロペスは頷いて

「暇だからついてきただけだ」

 と、言った。

 

「そうか、じゃあどんなものがほしいか言ってくれ」

 と言って、私の目を見た。

 

「助かります」

 内側に強い革を使って指の根元から肘のあたりまでの指出しグローブに手甲を付けたような、と概要を伝えた。

 

 指は自由に動かせるようにしてほしい。

 手首の可動はある程度犠牲になってもいい。

 他の工房だとたったこれだけのために革の素材とか手甲の厚みとかいちいちロペス経由で聞いてきて、いや、忘れよう。

 

 そして工房の中を案内してもらって金属部分の厚みや加工を指定した。

 両手分の注文をして、普通の対応なんだけど、良くしてくれた店主に追加注文をした。

「内側に革を張ったチェインメイルなんてありますかね?」

「聞いたことがないが作れるぞ、だが蒸れそうだな」

「レザーアーマーだと思えば、まあしょうがないですね」

「じゃあ、採寸だな」

 と言って、生活感あふれるダイニングに案内された。

 

「おい、採寸だ、終わったら声かけてくれ」

 と、言うと私を置いて表に出ていった。

 

「女の子なのにハンターやってるのかい?」

「士官学校生なんですよ」

 と、半裸に剥かれながら答えると

 

「ご令嬢様ですのね、この通り学もない身ですからご無礼があったらすみません」

 と、緊張して言った。 

 

「緊張しなくても大丈夫ですよ、私は魔力があると言われただけの平民です、貴族はあっちですよ」

 と親指でロペスがいる方を示すと心配そうに扉の向こうを見た。

 扉の向こうから何を言っているかわからないが、店主の声が聞こえていた。

 

「心配ないですよ、いいやつですから」

 と言って、手を広げて足を肩幅に開いた。

 

 首とか肩、腕上、腕下と書いてある布を一巻きされ、布を針で止めた。

 メジャーがあれば図ってメモをするだけなのに面倒なことだ、と思いながら作業を見守った。

 背中やら肩やら取り終わって、服を着直した。

 

 店の方にでると、ロペスが身体強化をかけて大ぶりのグレートソードを振り回して見せて店主のおじさんが大喜びしていた。

 

「さすがに重いですね!」

 と、楽しげに言って棚に立て掛けた。

 

「お、嬢ちゃんの方の採寸も終わったか、武器もほしいんだったよな」

 そう言って自分の店の商品を眺めて

「これなんてどうだ、重心が手元にあるから断つ力はでかい剣ほどじゃないが遠心力で斬れるから取り回しがしやすい」

 竹刀よりいくらか柄の短い両手剣を渡された。

 

「ちゃんと鍛造だからよく切れるが剣身の根本は刃を潰して固くしてあるから受ける場合はここで受けるんだ」

 そう言ってロペスに模造刀を渡すと軽く打ち込ませたものを受けてみせた。

 

 振ってみるとたしかに手元に重心があるので振り回される感じがしないので振り回してみると楽しくなってくる。

 身体強化をかければ片手でも両手でも運用できそうなのでちょうどいい長さかもしれない。

「これもらいます」

 と言って値段を聞くと鞘とセットで銀貨20枚だった、安物ショートソードと違ってちゃんとした値段だ! と驚いた。

 

「あとはチェインメイルと革の加工で金貨1と銀貨20、手甲は2つで金貨2って所だな、前金で納期は1ヶ月半後だ」

 すこし質の悪い紙に内訳を書いて良ければサインを書いてくれと紙を差し出した。

 控えとかないよねー、と思ってると、サインの箇所になにか書いて私の名前を上下で分かれるように切り取って受け取り証だ、と言って渡された。

「え? 無くしそうですね」

 というと、

「あー、拠点ここにあるわけじゃねえんだもんな、ま、嬢ちゃんならなくてもわかるから大丈夫だ」

 といってがははと笑った。

 

 そろそろ嬢ちゃん呼ばわりをやめてほしいのだが、代わりになんと言ってもらえば自分が満足するのかわからないので我慢した。

 ジョー・チャンなんてどうだろうと一瞬頭をよぎったがなかったことにした。

 

「じゃあ、よろしくおねがいします」

 と剣だけ受け取って鍛冶職人の工房を後にして表通りに着くと、もう夕方になっていた。

 

「悪いね、こんな夕方まで付き合ってもらっちゃって、なにか食べて帰ろうか、お礼におごるよ」

 というと、そうか? と言ってそんなに高くないパスタ料理の店を指定した。

 

 注文したものを待っている間、ロペスに

「剣を買ったんだからこれからは剣の練習をしないとな」

 と、言われ、そりゃあそうだよな、とげんなりした。

 

 ひき肉にタタンプの紫色の野菜の汁が絡まったあまり美味しい感じがしない色のペンネが出されて、うえっと思ったが食べてみたら普通にトマト味だったので美味しかった。

 ささっと食事を済ませて表に出ると日も落ちかけていて、夕日はつい私達の足を急がせた。

 

 宿に戻ると、そろそろ迷宮から帰ったハンターたちが夕食と晩酌をしに来る頃だった。

 見回してみてもルイス教官をはじめだれもいないので部屋に帰ることにした。

 イレーネはまだ寝てるかもしれないと、ゆっくり開けると中で薄手のセーターとスカートを履いたイレーネが1人で食事をとっている所だった。

「元気? 大丈夫?」

 と、聞くとスープを飲んでいたイレーネがスプーンを咥えたまま頷いた。

 テーブルマナーはどこかに忘れてきたようだ。

 

「今日は久々にしんどかったよー、カオルのおかげで助かった」

 ありがとう、と頭を下げた。

 

「役に立ててよかったよ」

 と言って、向かいに座ると

「カオルの晩御飯は?」

 と、聞かれたので昼間はずっと鍛冶職人の工房を回って腹立たしい思いをした! という話を訴えた。

「その後食べてきたから食べたばかりなんだ」

 

「まあ、こっちだとそうだよね。

 あたしのドレスを買いに行ったときもね、レースとフリルの数をあたしじゃなくてお父様に聞くのよ」

 と、思い出して笑っていた。

 

「貴族相手でもハンター相手でも一緒なんだね、さすがに使う人に直接聞いてほしいよ」

 そう言ってイレーネに食後の紅茶を出してあげた。

 

「カオルのいた所はちゃんと使う人に聞いてくれてたんだね」

 と聞かれ、服屋では逆に私が放置されたことを思い出した。

「服屋だと彼氏は放置で店員と彼女が盛り上がるのが常だね」

 と、答えるといいなぁと羨ましがっていた。

 

「でも私はこっちのほうがいいな、イレーネもいるし、ロペスもいるしさ、社会制度は変えることができるけど友達はできないからね」

 というと、可愛そうな人を見る目で見られた。


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