End Of The GATE ーBio Organic Weaponー 作:食卓の英雄
フロッグとアリゲーターは、指示された通り、当初の集合予定地であった中央の広場へと辿り着いた。その場にはリーダーを含め、共に集落探索へと当たったメンバーが集っていた。
その中の一人であるフォックスがこちらに気づくと、アリゲーターの傷を見て驚く。
『アリゲーター、その傷はどうした?』
『報告した後に、射殺したと思った現地民に噛みちぎられた…!救急キットをくれ』
『手伝いはいるか?』
『いや、いい。そのくらい一人で出来る』
そのやり取りを傍目に、周囲の警戒をしている中、フロッグはリーダーへと自らの見解を話していた。
『…成程、ソイツは死兵より酷かったか』
『酷いなんてもんじゃねぇ、最悪だ。獣みてぇな唸り声で噛み付く上に、心臓に鉛玉をブチ込まれた上にナイフで刺しまくってもノーリアクションだ!不気味ったらありゃしねぇ…人間味って奴が欠片も感じられなかったぜ』
怒り混じりに吐き散らすフロッグだが、躍起になっている訳ではない。口に出しながら情報を整理しているのだ。
『…おい、リーダーよ。村中にあったハーブってセンはないか?』
『ああ、今俺も思い至った。聞いた所、確認できただけでも錯乱、痛覚麻痺、凶暴性の発露、生存欲求の損失か…。まともな生物じゃ無いことは確かだ。となると、何か理由がある筈だ』
『それが、あのハーブってとこか…』
収集品であるソレをケースの外から一瞥する。
『ああ、だが断言は出来んひょっとしたら狂犬病の様な物かも知れない。こちらの病も、動植物も未知のものが多いからな…』
『狂犬病だと!?ならアリゲーターの奴はどうなる!?』
『落ち着け、あくまであり得るという話だ。これでより一層現地民と交渉する必要性が出来た…それだけだ』
そう言うと、彼はハーブを直し、撤退命令を下す。彼らはテキパキと準備を完了し、そのまま警戒中のメンバーにも連絡を取る。
『〈こちらレックス、集落の調査は概ね完了した。こちらと合流しろ。撤退だ〉』
無線機へと語りかけるが、返事は無い。代わりに、何かが遠くで動く様な音がした。
『〈どうした、応答しろ!〉』
二度言っても、期待した応答は得られない。
『総員警戒!外の奴らに何かあった!』
同時、彼らは円を描く様に陣取り、周囲を見渡す。勿論、即座に発砲出来る様にして。
すると、村の外周部から血塗れの人々―数にして30程―が幽鬼の様にゆらゆらと体を揺らしながら向かってきていた。
肉や骨が露出していたり、片腕が千切れた痕のある者までがいた。
『オイオイ何だアイツら、何処から現れやがった!』
『あの傷で動くのか!?下半身が無い奴までいるぞ!?』
『イカレ野郎の仲間かっ!』
現れた存在に動揺が広がり硬直する中、レックスだけが真っ先に射撃。放たれた弾丸は寸分違わず頭に吸い込まれ、先頭の一体が崩れ落ちた。
『落ち着け、頭部を狙うんだ。距離は充分、動きものろい。恐れる必要は無い』
そのいつもと変わらない姿勢に気を取り直した彼らの蹂躙劇が始まった。
サプレッサー付きの銃身が火を吹くたび、醜悪な影は次々と崩れ落ち、交戦時間にして僅か1分でそのいずれもが地に伏した。
『何だ……全然大したこと無かったな』
『ああ、拍子抜けだ』
斃れた彼らの死体を足蹴にし、脈を確かめる。完全に停止しており、起き上がる予兆も無い。呆気なく終わった戦闘に安堵の息をもらす者達。だが、それに疑問を抱く者が一人。
(莫迦な、この程度の脅威にリザード達はやられたのか…?いや、絶対にあり得ん。咄嗟の遭遇にしても、余程油断でもしていない限り、対処は充分に可能な筈だ…。…つまりは)
――戦闘は終わっていない!
そう叫ぼうとした瞬間、広場の中央にある物が投げ込まれた。
『な…ニュート!?』
それは彼らの仲間の一人であるニュート。その上半身が、べちゃりと生々しい音を立てた。
『オーマイガー!クソッどこのどいつだ!』
言うが早いか、ソイツは現れた。
肥大した脳と口だけの顔に、長過ぎる舌。皮を剥がれた様な体に、巨大な爪を併せ持つ異形。家の屋根に陣取るソイツは最も近くにいたカメレオンへと舌を射出する。
『うっ、ぬわぁぁぁっ!?』
足を貫かれ、そのまま持ち上げられる。
『この野郎!』
『待て!撃つな!撃たないでくれ!』
『くっ…』
咄嗟に狙いをつけるも、射線上に盾のようにカメレオンを動かされる為に躊躇してしまう。
『回り込め!』
数人が側面へと回り込もうとするが時すでに遅し。
『待てっ、嫌っ待て!待て待て嫌だあぁぁぁっ!!?』
『ああっ!畜生が!』
脳味噌を撒き散らして死んだ仲間の仇討ちだとばかりに銃撃を開始するが、ネコ科動物を想起させる三次元的な動きにより照準
をつけることすら難しい。
『がっ』
その結果、翻弄される余りに味方に誤射。胸に数発程埋まっており、手を施さないとこのまま死亡することは明らかだろう。
だが、状況はそれを許してくれない。
『このっ、バケモンがぁぁっ!』
また一人。銃弾の雨をその身に受けながら猛進するそれにスライスされて絶命。
運悪く着地先にいたメンバーはそのままはらわたを引きずり出された。
大立ち回りを演じたリッカーだったが、無傷という訳にいかない。身体は着実に傷ついていく。
『くたばれ!』
トドメを刺そうと近づいたメンバーの首が飛んだ。
物陰から飛び出したのは爬虫類と人間の中間の様な生物。とある製薬企業により開発された高い戦闘能力を誇る生体兵器。名前をハンター。
首を刈ったハンターに続き、もう一匹が現れる。その爪には血濡れた隊服が張り付いている。
『新手だ!気をつけろ!チッ、もう俺達3人しか残ってないぞ…!』
『あ…あぁ…』
『何を言ってるアリゲーター!気でもくぅぅがぁっ…!?』
フロッグの首に激痛が走る。噛み付いているのは他でもないアリゲーターだ。
『ファック!何しやがる!』
振り返り際に押し返し、深く傷ついた首元に手を当てる。
たたらを踏んで後退したアリゲーターの口元には、今しがた噛みちぎったばかりの肉片が垂れ下がり、アリゲーターはそらをクチャクチャと咀嚼する。その目から理性の光を感じる事は出来ない。
『おい、アリゲーター…?……マジ、かよ…』
「ゔぉああぁあ……」
『何でだオイ…治療にハーブを使ったのか…?』
目の前の光景が信じられないとばかりに目を見開くが、迫りくる現実を否が応でも認識させられる。
『……おい、待て、嘘だろ…まさか、そんな…オイ、噛まれたのが駄目だって、事か…?巫山戯んなよ…!おい、おいっ…!オレもじゃねぇかよ!!』
アリゲーターは答えない。ただ呻き声を上げるだけだ。
『クソックソッ…!何でだクソが!感染症か?ああクソッ!どうすりゃいい…!』
『落ち着け、今は目の前の脅威に集中しろ』
『落ち着けだと!?あんなバケモンになっちまうんだぞ!』
レックスはハンドガンでアリゲーターだったそれを撃ち殺し、「仕方ないか」と呟いてあるポーチを投げ渡した。
『これは…』
『抗ウイルス薬が入っている。先に調査した自衛隊から買い取った物だ。奴らも一枚岩ではない。…出来る限り使用は避けたがったが、どうしてもというのなら許そう』
それを聞いた途端、フロッグの顔に安堵の表情が浮かぶ。
『なんだよリーダー!そんなもんがあるなら先に言ってくれればいいじゃっ…!?』
それを手にしたフロッグは、突如襲い来る背後からの衝撃に、訳のわからないといった表情に変わり――
『何を』
――3方向からズタズタに引き裂かれた。
『…そんなものがある訳ないだろう』
冷徹にそう零すと、フロッグへと集まったクリーチャーに目を向ける。
『お前らも終わりだ』
放たれた一発の弾丸が向かった先は、フロッグの抱えたポーチ。僅かに開け放たれた隙間からは、赤い円筒や幾つもの手榴弾が除くことが出来た。
『Goodbye』
強烈な閃光と爆音と共に、大きな爆発が生じて3体をゴムボールの様に吹き飛ばした。物の動く気配は、もうない。
『フロッグ、騙してすまないとは思うが、納得してくれ』
日頃より吸っているお気に入りの煙草を咥え、年代物のジッポで火を点ける。健康に悪いその煙を思いっきりに口内に溜め、一気に吐き出す。
しかし、世界は彼に勝利の余韻も仲間を弔う時間も与えてはくれなかった。
『……お出ましか』
ゾロゾロと、活性死体の群れが南から現れる。その背後には高速で移動するリッカーの姿を捉え、ハンターは地を駆ける。
絶望的としかいえない状況だが、彼の目にその色は見られない。むしろ、常時とあまりに変わらない事に、他に人間が居たのなら指摘していた事だろう。
しっかりと煙を吸いだめし、マガジンを交代して言った 。
『攻撃された時点で嬲り殺しに合う上、感染の恐れアリ…か。……コイツは腕の見せ所だな』
彼はいつもと変わらない口調で、一度だけ銃身を撫でた。
一番可愛いのはタイラント受付嬢。異論は認める。
因みにこのレックス隊長、地味に0.6ハンク位の強さがあります