End Of The GATE ーBio Organic Weaponー 作:食卓の英雄
―――三部隊、共に消息を絶っている。
「「「なっ!?」」」
瞬く間に動揺と困惑が広がる。中にはあまりの衝撃に腰を浮かせる者もいた。
「…それは機材トラブル、或いはやむを得ない事情があって連絡を控えているという考えはないんでしょうか?」
現にこの男、伊丹も私情を挟んだとはいえ難民の保護という事情はあった。
その疑問に、ウム…と頷き返し、隣の1佐に何かを指示した。
「無論、その可能性も充分にあり得る。…だが、我々の憶測では第4偵察隊はほぼ壊滅状態に近いと見ている。これを聞いてくれ」
用意されたスピーカーからはガタガタと音を立てながら走行する音と共に男たちの会話が聞こえてくる。言語は日本語。それも当然、これは第4偵察隊の一車両の中から送られていた音声なのだから。
「これは記録用に配備させていた通信機からの発信だ。この通り、こちらに送られた音声を残すための物だが…問題はこの後だ」
〈これが特地の村…。建築物は日本というよりは、中東のスラム街に近いな。高い技術力は期待できないってありましたけど、発想力は結構あるんですね〉
〈村田。流石にそれは侮りすぎだ。地球だってこの位の時期はあった。先に出来たか出来なかったか、だ。発想力自体は変わらんだろう〉
どうやら、この部隊は伊丹達が発見した村とはまた別の村を見つけた様で、規模もこちらが段違いに広いらしい。
ガチャガチャと音を立てながら降り立つ男たちの声が聞こえる。中には聞き覚えのある声も混じっていた。
〈村人は……いた。かなり遠巻きに見てるな〉
〈ふむ、聞き慣れない音に見慣れない集団。そりゃ警戒もするさ〉
〈友好的とも限らん。銀座の兵士みたいな例もある。とにかく、気を抜くな〉
〈ん?誰か近づいてきたぞ?〉
〈そうだな…村田、対応してくれ〉
〈え、僕ですか?〉
〈お前が一番人当たりがよさそうだからな〉
〈はいはい…。………えーと、『何かご用ですか』〉
〈…なんか、あの人おかしくないですか?〉
〈何がだ?〉
〈いや、ほら、視線が定まっていないっていうか…何か変だと思うんですよ〉
〈…気の所為じゃ〉
〈てちょっと、何するんですか、止めてください。い、痛っ!まっ止めっ〉
〈どうした!〉
〈あの、新田二尉。この人が腕を握って「Nimepata wa adui!」…えぁ?〉
〈村田!?…離れろっ!〉
衝突音。土嚢を落としたような音と金属音が響き、その先住民が敵意を持っていたと分かる。
そこからは、続々と現れる村人の喧騒や、パパパと渇いた音の連続。どうやら戦闘になったらしいのだが、何か様子がおかしい。
〈嘘だろ…!?7.62mm弾に何で怯まず向かって来れんだよ!?〉
〈明らかに致命傷…いや、即死レベルだぞ…?〉
〈ぐっ!?〉
〈中居!くそっ、気味が悪い〉
戦況は良いとは言えず、寧ろその雰囲気に呑まれかけている。
翼竜とは違い、銃弾は確りと肉体に欠損を与えている。しかし、この普通じゃない戦い方に根源的な恐怖が芽生えてきていた。
〈…!こんな時に弾詰まりかよ〉
〈お…太田一曹!死んだ筈の奴らが…〉
〈莫迦な…頭を破壊しているんだぞ…!?生きてるはずが…〉
〈ひっ…〉
〈何だよこれ…!?〉
〈か、顔が…!?〉
〈こ、このっ…バケモンが!〉
〈うああぁああああァァっっ!!?〉
〈中居っ!クソッ何処に連れて行くつもりだ!誰か俺に付いてこい!救出に行く!〉
〈私が!〉
〈新田ニ尉!香取!今離れるのは…くそっ〉
〈……何だ?全員離れていくぞ〉
〈退いたのか…?〉
〈じゃ、じゃあニ尉達の方に行きましょうよ。確か、こっちの家から奥に…〉
〈笛出!上だ!〉
〈え…〉
〈笛出えぇぇーっっっ!!!〉
〈で、デカい…〉
突如轟音と共に振動が発生し、同時に果実を潰したような水っぽい音が響き渡る。そこからは、阿鼻叫喚と行った様子で、喚き立てる声と連射される銃声。時折起こる悲鳴と不快な破裂音の狂騒曲。
しかし、招かれざる客の咆哮は鳴り止まず、次第に銃声も小さくなりつつある。
〈クソッ…通常火器じゃ拉致が開かない!パンツァーファウストをぺっ…!〉
ぶちゃり。
またしても一人が地面の赤い染みとなり、軽快とは言えない足音が近づき、ドアを開く。
〈ハァ…ハァ…っ……クソ!何なんだ一体!あんな奴がいるなんて聞いてないっ。うっ…。みんな、みんな死んじまった。虫を潰すみたいにぷちぷちぷちぷち!畜生……そうだ、パンツァーファウスト…パンツァーファウストがあった筈だ。あれを生物が食らって生きてるはずがねえ…。あ、アイツを倒して、か、帰らないと……!〉
〈「ウボァァァアァァァッ!!!」よ、よし。そこから動くなよデカブツが…。…狙いはバッチリ、ガク引きもしない。大丈夫だ、外さなきゃいい。…それだけだろ。…後方の……いるわけ無いか〉
〈「
突如、現場に乱入する第三者(声の低さから男性と思われる)の声。直後、スヒュンッという軽い音と共にピチャピチャと水が垂れ落ちる。ガリガリと装甲を掻き毟った後、最後の自衛官は息絶えた。
〈|It appears that God didn't give up on me《どうやら神は俺を見放していなかったようだな》〉
〈
〈
硬い破砕音が鳴り響き、ザーザーと砂嵐と意味不明な電子音を出した所で記録は終了した。
「「「………」」」
場に静寂が満ちる。集った者たちはその衝撃から脱することが出来ず、言葉を失っていた。
まず第一に、十分な装備をした一隊が全滅の憂いにあったという恐怖。そしてそれをほぼ単騎で成したと思われる怪異の存在。 最後に、謎の闖入者。問答無用で自衛隊員を殺害したと見られるその人物は明確な英語を発しており、通信機に気付く前にも話していたため、英語圏の人間だと予測できる。
ようやくまともな思考を取り戻したときには大荒れだ。もとより厳重な警備をして門付近や銀座、ひいては出入国にまで確りと警戒網を張っていた筈だが、今回の案件でそれにも穴があると懸念された。
そしてそれ以上に困惑が強いのは、同じ偵察隊として顔も見合わせていた隊員たちだ。詳しい状況までは把握できなかったが、現場で真っ先にそれらと遭遇する可能性があるのは彼らなのだ。
当たり前だが、今の通信を聞いて楽観的な者は居ない。それは彼らを自分達と同等以上に思っているからだ。
第3偵察隊にも不安は伝染しており、居心地の悪い空気が流れ始める。
「あの、ちょっと悲観的になりすぎなんじゃないですかね?」
自然、声を上げた伊丹に視線は集中する。一斉に険しい顔を向けられた伊丹は僅かにたじろぐも、狭間陸将が許可する。
「おれ…私共は特地という未知の領域の調査に踏み出したばかりのいわば新参者。 故に、そういった脅威に対しては未だ理解しているとは言えません。銃弾をものともしない怪異ならば銀座に出現した飛龍も同じでしょう。 我々第3偵察隊が遭遇したドラゴンも、ロケランレベルじゃなきゃダメージは与えられませんでした。……正直、驚くべきことですが、可能性としては検討されていた内です。 この謎の人物に関しても、早いうちに確認できた事が不幸中の幸いとも言えるんじゃないでしょうか?」
アハハ…と何処か惚けた風に頬を掻く伊丹に毒気を抜かれたのか、強張った表情ではあるものの、心中の言葉を呑み込んだ。
「ウム、伊丹の言う通り、あり得ない話ではない。これから本部へと連絡を取り、より一層の警戒と疑わしい人物のピックアップを行う手筈だ。これは後に全体に発令するが、現場で活動するお前達に知ってほしかった、ということだ。今こちらで騒いでもどうにかなるものではないしなあ。 まあ、頭の片隅にでも置いて、それらしき影をみたらよろしく頼む。…それでは解散!」
「俺、あんなキャラじゃないんだがなぁ…」
「まあまあ、そんな恥ずかしがることないじゃないですか。自分は結構見直しましたよ。 あんな空気で言うなんて、流石は銀座の英雄と呼ばれるだけありますね。ここぞという時の力が違うっていうか」
「倉田……お前ここでまでからかうか。やめてくれよまじで。そんなの俺には似合わないってーの。第一知ってるだろ?俺のモットーはさ」
「『喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生』ですよね。まあいいじゃないですか、こんな事態じゃなきゃあんな感じの体験も出来ない訳ですし」
その楽観的というべきか、対岸の火事とでも思っているのか、伊丹は一つため息を溢した。
「伊丹ニ尉、これから避難民の対応もしましょうか。急な招集で待たせたままですし、困惑していると思います。……この世界の事も聞けるかもしれません」
「ねえクロ、俺疲れてるの。後は他のみんなに任せても…」
「ダメです」
「だよね〜」
がっくりと項垂れ、半ば引き摺るようにしながら歩を進めていった。
☣☣☣
『フン…』
赤いベレー帽を被った金髪の男は、目の前の死体をつまらなそうに見つめ、高機動車を漁り弾薬などの物資を回収している。 彼はこの惨状に対して不憫に思うことも、仄暗い愉悦を抱くこともない。何故なら、それは男にとって当然のことなのだから。
『こんなものか……。さて、日本の軍隊か。実戦経験はほぼ無いが、練度は高水準との評価だが…。この地獄はその程度では乗り越えられんぞ?』
嘲るように吐き捨てると、自らの獲物である特徴的なナイフを空に放る。
――ザンッ
振り抜かれたそのナイフは高機動車の装甲をいとも容易く切り裂き、その爪痕を刻み込む。
『WELLCOME to Resident Evil』
非常に洗練された肉体を持つ男は、ナイフに刃こぼれ一つ無いのを確認すると、顎から左目に走る傷を撫でながらそう呟いた。
今回からちょっとしたバイオネタを混ぜ込むようにしました。勿論無い話もありますが、もし気付かれたら感想欄にでも感想と共に書いてみてください。
気づいてくれると作者のモチベーションが上がります