山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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第八部 Chain of Dreamers
気付いたらトレーナーを出来なくなって学園政治の第三勢力筆頭になっちゃった話


 

 

 

 

 

「.........っ」

 

 

 秋の肌寒さが身に染みる早朝。足早に動く人影がトレセン学園に一人。それは男であり、トレーナーであった。

 数々のウマ娘の育成を手掛け、史上最年少でベテラントレーナーの地位まで上り詰めた男であるが、その表情はそんなものなど感じさせないほど切羽詰まったものだった。

 

 

 男の名は[東 颯一郎]。今学園を巻き込んで起こっている[アオハル杯]の開催の原因の一端であった。

 

 

 先日、そのアオハル杯の[Bブロック予選決勝]が行われた。相手は樫本理事長代理が率いるチーム[ファースト]。打倒を臨んだが、その結果は接戦の末、敗退。

 学園の風土を変えたくない。という願いは、いとも簡単に潰えてしまったのだ。

 

 

 しかし、それは自分一人だけだったらの話だ。

 

 

 彼には宛があった。ウマ娘を管理するのではなく、自由にトレーニングさせ、飽くまで[夢]を叶える為の[青春]として、この学生生活を送らせる。

 言葉や意志などではなく、行動でそれを示す男が、[Aブロック]の決勝を取り切り、樫本理事長代理と相対する。

 

 

 ならば、その男に託すしかほか無い。そんな強い熱意に押されるままに足を進め辿り着いたトレセン学園のトレーニンググラウンド。その隅に連なる[チーム小屋]の一角の扉を勢い良く開ける。

 

 

東「桜木ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 ―――ガラン。と、扉を開けた先にはそんな一言が似合うほどに誰も居なかった。

 

 

 おかしい。朝のミーティングに居ないのならここに居ると思っていたんだが.........

 

 

「―――なぁにやってんすか?」

 

 

東「っ!桜木ッ!お前に.........頼みたい.........事、が.........ぁ」

 

 

桜木「.........んぁ?」

 

 

 背後から声を掛けられ驚いたが、その声は間違いなく探していた彼だった。

 

 

 [桜木 玲皇]。チーム[レグルス]のトレーナーであり、少数精鋭ながらも、出場したウマ娘全員をURAファイナルズの決勝にまで進出させ、長距離部門では見事、あの[繋靭帯炎]を患ったメジロマックイーンを優勝に導いた[稀代の執才]。

 

 

 しかし、その表情はあまりにも覇気がなく、俺になど興味が無いと言わんばかりに隣を素通りしていき、手に持っていた雑誌を広げて奥の机へと座り込み、両足をそこへ乗せた。

 

 

東「.........何だ、それは」

 

 

桜木「え、[少年ジャンプ]っすけど?知らないんすか?まっさかぁ!今ジャンプヤバいの知らないんすかぁ!!?」

 

 

東「そ、そんなに面白いのか.........?」

 

 

桜木「いや全く。だから[ヤバい]」

 

 

 .........会話が出来ない。おかしい。あまりにもおかしい。確かに変な事を言う奴ではあった。だがこれほどまでに通じないという事は今までになかった。

 今目の前に居る男は漫画雑誌を横目で見ながら窓を開け、その隙間から外に向かって何故か持ってきたシャボン玉セットを吹き放って居た。

 

 

 .........いや、そんな事は良い。今はもっと大事な事がある。

 

 

東「なぁ桜木。聞いてくれ。[アオハル杯]の事だ。これは単なるレースじゃ無くて「知ってますよぉ〜」―――!」

 

 

桜木「ウマ娘を[使った]学園内の[代理政治闘争]でしょ〜?やんなっちゃうわよね〜。そういうのが嫌で仕事辞めたってのにさぁ〜」

 

 

東「.........そうだ。俺も間違っていると思う。だがこれくらいしか無かった。経営ノウハウも無い俺が、理事長代理の管理主義に対抗するには、同じ[トレーナー]である土俵に立たせるしか無かったんだ」

 

 

東「頼む.........トレセン学園を.........ウマ娘達の[夢]を叶える場所を、奪わせないでくれ.........!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

 雑誌で顔を覆い隠した桜木に向かって、俺は頭を下げた。彼は何も言わない。その代わり、呆れた様なニュアンスの強い鼻息が聞こえ、雑誌が机に置かれた。

 

 

桜木「あのね東さん?正直言うよ?俺、[樫本理事長派]なんですよ」

 

 

東「な、ぇ.........?」

 

 

桜木「[友情・努力・勝利]。青春はそんな綺麗な色を全面に押し出して、裏側にある[泥]を見せようとしない」

 

 

桜木「そして[社会]はそれを綺麗事として、一般人を[泥]の中に沈めようとする。それに気付けるのは学生時代、[泥]に足を取られた若者だけ」

 

 

桜木「人ってのはある程度行かないと[消耗品]止まりなの。他者に使い潰されるか自分で使い潰すか。そのどちらかでしかない」

 

 

桜木「正直、今現状で憂うべきは[未来に来るトレセン学生]じゃなく、[未来に去るトレセン卒業生]だ」

 

 

東「.........」

 

 

桜木「.........な〜んてっ!意味深な事言っちゃってみたりっ!」

 

 

東「.........いや、お前の言う通りだよ。傲慢だった」

 

 

 捲し立てられる様に言われた言葉が全て刺さった。考えてみれば確かに、俺が考えていたのはウマ娘達の未来じゃない。

 彼女達には[こうあって欲しい]という[願い]。俺の[エゴ]だ。本当に彼女達の事を考えるなら、それこそ理事長代理の様に管理した方が良いに決まっている。

 

 

東「.........邪魔したな。ちょっと、頭を冷やすよ」

 

 

桜木「いやいや。良い気分転換になりましたよ。あ、そうだ。次いでと言っちゃなんですけど東さん」

 

 

東「ん?」

 

 

 

 

 

 ―――ひとしきりの会話と要望を終え、東さんはトレーナー室へと戻って行った。その背中を見送った俺はふぅっとため息を吐いた。

 

 

桜木(今の戯言、結構その場の思い付きなんだけどなぁ)

 

 

 なんともまぁ不思議な物で、未来の事を考えられないと思っていたが、それは少し[誤り]があった。

 

 

 正確には[トレーニングの見通し全て]に関する事。らしい。

 

 

 先程受診した黒津木が紹介してくれたお医者さんが言うには、特定分野で使い過ぎた脳が異常を来した際、その分野への思考に対して急ブレーキを踏む形でロックを掛ける。

 幸い他の事。人生設計の想像とかそこら辺には強い影響出ていないので、薬で経過治療していきましょうとの事だ。

 

 

桜木(ホント、難しい話よね〜)

 

 

 お陰で俺はトレーニングを作る事が出来なくなった。それどころか、見る事すら意味が無い。

 感覚的に言えば、パワプロの育成を目隠しでやってる様な物だ。怪我率が分かるのだけが唯一の救いだが、それ以外のポイント上昇やコツLv。取得ステータスは全く見えない。

 

 

 そんな俺がどうやってトレーナーをやるのかだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私にも分からん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、まぁ[アオハル杯までは]何とか出来る。そうするように努力はした。後は根回しして行くだけの作業だ。

 

 

 俺の[出番]は、そこで終了だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はい。という訳でね。今日のトレーニングはそれぞれ元の担当トレーナーに従ってやってください。ウチは沖野さんと桐生院さんに見てもらうんで」

 

 

全員「.........」

 

 

 昼休みに収拾が掛かった私達は、トレーナーさんのその言葉を黙って聞き入れました。

 それぞれトレーニング方法と、それに付随して強化される身体。レース知識をまとめられた一枚のプリントをそれぞれ手渡されています。

 

 

桜木「はい。以上で事前ミーティングは終わり。質問ある人は?」

 

 

ポッケ「.........いやおかしいだろッッ!!!アンタは何すんだよ!!!」

 

 

桜木「男のミステリーを暴くのはマナー違反だよ?」

 

 

ポッケ「〜〜〜!!!」

 

 

フジ「まぁまぁ、でもトレーニングは見て欲しいかな。まだ出走メンバーも固まって無いと思うし」

 

 

桜木「そこら辺は各々の担当トレーナーさんと話し合うから大丈夫よ〜。伸び伸びトレーニングしてけろ〜」

 

 

 拳をワナワナと震わせながら怒りを顕にするジャングルポケットさん。エアシャカールさんやシリウスシンボリさんも同様、投げやりなその態度が気に入らない様子。

 しかし数名は久しぶりの担当の方とトレーニング出来るとあって、気合いが入り直した様です。特にサクラバクシンオーさんは喜びの余り今しがた小屋を飛び出して行きました。

 

 

シエル「だ、大丈夫かな.........私、トレーナーに無理言っちゃったし.........今更どんな顔してトレーニングすれば.........」

 

 

桜木「ああ、シエルには黒沼さんともトレーニングして貰うよ。芝は辞めてダートに戻って」

 

 

シエル「はァ!!?」

 

 

桜木「ごめんよ〜!サンちゃんが抜けたからダートまともに走れるがデジタルしか居なくてさ〜!」

 

 

カフェ「.........[お友達]も、ごめんって言ってます」

 

 

桜木「後ブルボンも黒沼さんに見てもらうから。よろしく〜」

 

 

ブルボン「!分かりました。予定データ上書き。黒沼トレーナーに管理権限を移行します」

 

 

 手早くチームの疑問を答えて行きながら、彼は手に持ったジュースを煽りました。最後の一口だったのでしょう。追加を購入する為に、この集まりは一旦解散するように言いました。

 

 

カレン「ねぇねぇマックイーンさん。桜木トレーナーさん、なんか雰囲気変わったよね?」

 

 

ファイン「そうですよね?なんかこう、やる気が無いとまでは言いませんけど、熱が無いと言うべきでしょうか.........?」

 

 

マック「そうですわね。ですが誰にだって疲れる事はあります。それに.........」

 

 

二人「?」

 

 

マック「軽薄なトレーナーさんも偶には.........♡♡♡」ポッ///

 

 

二人「!キャーーー♪♪♪」

 

 

 

 

 

『.........アイツ、食えねぇなぁ』

 

 

カフェ「え.........?」

 

 

 ―――頬を染めて両手をそこに添えるメジロマックイーン。その姿を見てオレは思わず呟いちまった。

 前までだったらカフェにもぼんやりとした姿しか見えなかったが、今は完全に姿を[確立]させちまった[幽霊]だ。声もはっきり聞かれちまう。

 

 

 何でもねぇ。と冷やかす様にして誤魔化したが、ある訳もねぇ心臓がバクバクしちまった。お喋り相手が増えたのは暇潰しには良いが、慣れないうちは無駄口を叩かない方が良い。

 

 

(.........[言う]べきか、迷ったんだよな?)

 

 

マック「―――.........」

 

 

 様子からして惚気は本心だが、アイツも話を聞いてるはずだ。だが、本人の意志を尊重した上で本心の一部を吐露した。中々出来る事じゃ無い。

 

 

(途中で降りた身でどの口がって感じだが、今回ばかりは最後まで見届けてやる)

 

 

(だから、[後悔]させるなよ.........[相棒])

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........書類は揃っていますね。受理いたしましょう」

 

 

「すみません理事長。忙しい時期に」

 

 

「構いません。貴方はこの学園の職員であり、私はその管理者です。いついかなる時も、その権利を行使する事に異議はありません」

 

 

(.........ありません、が)

 

 

 受け取った書類を机に置き、目の前に居る彼の目を見る。そこに以前までの覇気は無く、近頃の若者特有の無気力さが感じられた。

 私は秋川理事長の代わりとして一年近くこの業務に携わってきた。こういう事は珍しくなく、むしろ正常な事だと思う。

 

 

 大きな[夢]と矮小な[現実]の軋轢に揉まれてしまえば、常人は誰だって耐える事は出来ない。

 

 

 彼は[違う]と思っていたけど、過大評価してしまっていた。彼もまた、[普通]の存在なのだ。

 

 

 .........私は未だに、[夢]との軋轢を見極めきれずに居る。

 

 

樫本「話辛いかもしれませんが、こうなるまでに至った経緯を教えて頂けますか?[桜木トレーナー]。今後の離職率の低下の為に」

 

 

桜木「.........別に構いませんけど、かなりぶっちゃけちゃいますよ?」

 

 

 気まずそうに目を逸らして頭を搔く青年。何と言えば良いのかと思考を回し、遠慮がちでありながらもその口を開いた。

 

 

桜木「.........[アオハル杯]やってて思ったのは、皆[今]を見すぎなんだなーって思ったんすよ」

 

 

樫本「.........そうですか。貴方はそこに、何らかの問題が生じていると?」

 

 

桜木「そうっすよ。ウマ娘は兎も角、トレーナーだってそうじゃないですか」

 

 

桜木「俺達も学生の頃は向こう見ずな事ばかりやったり、夢見て無謀な挑戦したりとかしましたけど、軌道修正してくれたのはいつだって周りの大人です」

 

 

桜木「どっぷりし過ぎなんですよ。1回ぽっきりの[勝負事]に[人生賭けちゃってる]んです。本人は良いとしても、周りはいつもそれで後悔するんすよ」

 

 

桜木「[プロ]になるだけが人生じゃない。それを言葉でも具体案でも出せない今の現状じゃ、俺は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[壊れます]よ。ここにいたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう断言した彼の目はやはり、覇気が無かった。それでも私の事を真っ直ぐと射抜く様に捉え、それを伝えてくれた。

 .........やはり、何も[変わっていない]。トレセン学園は、私が去った[あの頃]から.........私と[同じ人間]を、生み出し続けている.........

 

 

樫本「.........ありがとうございます。桜木トレーナー。今後の学園作りの参考とさせていただきます」

 

 

桜木「お願いします。俺も樫本理事長の考え方には賛同していますので」

 

 

 そう言って、彼は私の目の前に手を差し出してきた。その手を取るのが私の使命。私がこの学園で成すべき事。

 これ以上、[理想]と[現実]とのギャップに轢かれる人が生まれない為に、私がこの学園を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[やり方はどうかと思いますけど]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樫本「.........分かりませんね。先程の貴方の話を聞くに、この[管理体制]は生徒達。そしてトレーナーを壊さない為の物。何ら矛盾はしていないと思いますが」

 

 

桜木「まぁ確かにそうですね。理事長の方針はウマ娘の[未来]を大切にする良いものだと思います」

 

 

桜木「でも、[未来に目を向けすぎ]じゃないです?」

 

 

 .........伸ばしかけた手を引き、彼の顔をもう一度見る。情熱はやはり無い。冷めた視線。しかし逆に言えば、[今]を客観的に捉えている。今、この[トレセン学園]を取り巻く[情勢]を。

 彼は私が引いた手に対して疑問を持ちながらも、手持ち無沙汰になったその手を操る形で説明を続けた。

 

 

桜木「他の皆はこの[学園生活]しか見えてないですけど、理事長は逆に[卒業後]しか見てないですよね?」

 

 

桜木「そりゃ、人生の大半は[社会生活]ですし、重視はするべきでしょうけど、[思い出]に残るのはいつだって[学生生活]ですよ」

 

 

樫本「.........つまり?」

 

 

桜木「うーん、と。理事長はウマ娘の[過去]と[今]を蔑ろにしてる?」

 

 

 首を傾げて視線を上げ、人差し指を口元に添える。わざとらしい程にあざとい仕草。この場で取るべき振る舞いでは無い。

 壊れているのか、壊れているのを装っているのか、判別が付かない。一つだけこの男に言える事は.........

 

 

 [侮れない]。それに尽きる。

 

 

樫本「.........まさかここに来て、[第三勢力]が出てくるとは思いませんでした」

 

 

樫本「しかし、貴方の[目的]。[着地点]が不明瞭です。聞かせて頂いても良いですか」

 

 

桜木「あはは、そんな大層なお題目は無いですよ〜。強いて言うなら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな[政治闘争]。二度と出来ないくらいトレセン学園を[ぐちゃぐちゃ]にしたいな、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「そういう話はもっと大きな日本の未来と、[格ゲーキャラ]のTier操作だけで十分ですから」

 

 

 彼は冷めた目を細めて、確かにそう言った。それだけ言って背中を向け、理事長室の出口へと向かっていく。

 じゃ、また明日とか。とおどけた口調で振り返ったその表情は元通り、人畜無害なそれへと戻っていた。

 

 

樫本(.........[政治闘争])

 

 

樫本([以前]までは、それこそが[正しい近道]だと考えていましたが.........)

 

 

 確かに私は、この[理想の管理体制]を目標にここまで上り詰めてきた。トレセン学園を辞め、URAに入り、この地位まで漕ぎ着けて来た。

 けれど[あの日].........[アオハル杯予選決勝]が終わってから明確に、私の中の[熱]が、何故か急激に冷めきって行った。

 

 

 最早、私は何をしたいのか、何をしたかったのかが明確に出来ない。それでもここまで来てしまった。その責任は取らなければならない。

 

 

 綻んだ思考回路に目線を逸らす為に、私は今日送られてきたチームメンバーの状態確認を始めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピカーン.........

 

 

「皆さん。お集まり頂けましたわね」

 

 

 ピカーン.........

 

 

「急な招集だったが、何とかなったよ」

 

 

 ピカ、ピ.........

 

 

「あ、ごめんなさい。マスターに催眠を掛けられて居ないので懐中電灯が壊れました」

 

 

「何やってんだよ.........NERVごっこか?」

 

 

 .........コホン。今は使用されていない[チームルーム]。トレーニングを終えた[レグルス]の特定メンバーを集め、私達は[緊急会議]という名目で集まりました。

 メンバーは私達[原初レグルスメンバー]。そこにゴールドシップさんとその姉の方々を加えた総勢9名。

 

 

 こういうのは雰囲気が大事ですから、私も仕舞っていたパーティグッズ用のヒゲメガネを掛けて顎の前で手を合わせて居ましたが、フェスタさんが電気を付けた事でその必要も無くなりました。

 

 

フェスタ「んで?話ってのは?」

 

 

オル「えー!!?フェスタちゃん電気付けちゃったの!!?折角アタシもモノマネしたかったのに!!!」

 

 

フェスタ「何のだよ」

 

 

オル「暴走初号機」

 

 

マック「集まって頂いのは他でもありません「無視ー!!?」トレーナーさんに関連する[情報の共有]ですわ」

 

 

 余談が長くなりそうな為早々に切り捨ててしまいました。泣きそうになっているオルフェーヴルさんを促し、長机を前に座らせます。

 

 

 現状、[あの日]から何が起き、何が変わったのかを伝えて行きます。

 

 

 まずは、[IMUNI]という[AI]との決戦に、トレーナーさんの勝利で決着が着いた事。

 

 

 その代償として、トレーナーさんが今の状態になってしまった事。

 

 

 そして、[花道サブトレーナー]が皆さんの認識や記録媒体から、完全に[別人]に置き換わった事を伝えました。

 

 

ライス「凄い.........!創お兄さまがオススメしてくれた小説のストーリーみたいっ」

 

 

ウララ「えーっと、えーっと、皆、サブトレーナーの事。忘れちゃったってこと?」

 

 

マック「[AI]の暴走によって色々起きてしまいましたが、花道さんは元々そういうつもりだった様です。要件を終えたら歴史を大きく変えないよう、全て書き換えると」

 

 

フェスタ「まぁ、無理じゃねぇな。[IMUNI]って言や[介護用ロボット]のOS。[認知症患者]を大人しくさせる為にかなり強い[催眠]が使えるって噂だ」

 

 

ゴルシ「.........いやでも記録媒体書き換えはヤベーだろ!!?本当にソイツだけがやったのか!!?誰か手を貸したんじゃ「ゴホっ」.........え嘘マックイーン?」

 

 

マック「その、ね?ほらっ!あるでしょう?そういう事も.........」

 

 

ゴルシ(あこれやったのおっちゃんだな)

 

 

 .........ゴールドシップさんが何やら察したような、げんなりとした顔で私を見てきますが、流しましょう。起きてしまった事は仕方ありません。

 実際にトレーナーさんが行ったのは、夜のトレセン学園に来てハッキングを行い、文書の[花道トレーナー]に関する部分の全てを書き換え、そして写真を全て[AI生成]の物に取り替えたのです。

 操られている間もメディア露出が少なかったのが大きいでしょう。未来の[AI]の手に掛かれば学園のセキュリティなど脆いものです。

 

 

 しかし、やった事はそれだけではありません。夜の学園で彼が[行った事]。その成果の全てが、このチームルームに置かれた[金庫]に入っています。

 

 

ゴルシ「すっげー立派な金庫だな!ルパン28期生の名が龍上りしてくるぜ!!」

 

 

マック「[これ]の中身は私も知らされておりませんが、[ネタばらし]はする。と言質を取っています」

 

 

マック「ですがそれを聞く時は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[彼がトレーナーを辞める時]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........だろう?」

 

 

 .........諦観にも似た声の抑揚で、タキオンさんは答えました。この場に居るレグルスメンバーは今日の様子から察していながらも、その言葉を素直に受け入れられない。

 重い雰囲気の中、今まで黙って話を聞いていたアグネスデジタルさんが口を開きました。

 

 

デジ「そ、そんなに深刻なんですか.........?病院に行ったとは、聞いてますけど.........」

 

 

マック「表に出ると騒ぎになりますから公表はされていません。お医者様から断りを得て、私も同席させて頂きました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[重度の適応障害]。との事です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........」

 

 

ゴルシ「.........な、はは!障害だってー!!?芝レースやってダートやって!次は障害レースって!!はははっ!!」

 

 

ゴルシ「ははっ......は.........」

 

 

ゴルシ「.........マジ、なのかよ」

 

 

 そう。誰も、予想だにしていなかったのです。今まで見てきた彼の[バイタリティ]は全て、あの[王冠のネックレス].........[願望器]となったそれが私達の[願い]を通し、彼を元気の良すぎる青年にしてくれていたのです。

 けれど、それももうありません。となるならば、残されているのは.........治療を一度も受けていない精神的疾患を知らぬまま10年近く抱えていたあの人だけです。

 

 

デジ「あの!それでもやっぱり諦めるのは、少し、いえ.........デジたん的視点でしかありませんが.........希望を.........捨てる、程では.........」

 

 

フェスタ「.........気持ちは分かるし、言いたい事も分かる。だが、腐ってもあの[爺さん]になる予定の男だ。多少なりとも性格は分かる」

 

 

フェスタ「テメェの身体だけならいざ知らず、その回復に[生徒]を待たせる義理は無ぇ」

 

 

フェスタ「ダラダラと時間を食い潰して他人の[夢]に寄生するくらいなら、すっぱり辞めるだろうさ」

 

 

デジ「そんなっ!み、皆さんはそれで良いんですか!!?」

 

 

 強い困惑の表情を見せながら立ち上がり、デジタルさんは声を上げました。勿論、それに賛同する方は居ません。

 しかし、彼の今までの道のり、そして今の現状を鑑みても[もう良いでしょう]としか言えないのです。

 

 

タキオン「君の気持ちも痛い程に分かるが、彼は十分尽くしてくれたよ。トレーナーとしても、私の被検体としてもね」

 

 

デジ「だからって!!何とかならないんですか!!?それこそ未来にはそういうのを治す特効薬とか!!!」

 

 

オル「え、と.........そういうのを無理やりお薬で治す事もしてたんだけど、ね.........」

 

 

ゴルシ「あんま言いたくねぇけど、[強い薬]の副作用とか中毒性は半端じゃねぇんだ」

 

 

フェスタ「[事件]を起こさねぇ為にGPSやら何やらで監視されんだよ。色々起きたりしたからな。そんな中で[こっち]に来るのはまず無理だ」

 

 

 .........完全に八方塞がり。道はただ一つ。目の前に続く[完]へ至る道のりだけ。それこそが私達にとっての[絶望]であり、彼にとっての[希望]でもあります。

 

 

マック「今の彼にとって、この場所は目まぐるしいだけの場所なんです」

 

 

マック「苦しい状態でしがみついて居られたとして、そんな彼が誰かの[夢]を、ましてや[人生の根幹]を支えられるとは到底思えないのです」

 

 

マック「そうなってしまった時、彼は必ず自分を責めるでしょう。私の時の様に.........」

 

 

マック「.........そうなってしまったら、今度こそ[壊れてしまう]」

 

 

デジ「っ.........」

 

 

 苦しそうに唇をキッと結び、顔を伏せる彼女。悔しそうに肩を震わせながらも私の言葉に納得する様に席へ座り直しました。

 

 

 その後、私達は今後どうするべきかの話し合いを続けました。彼をどう支えるか。他の皆さんにはどう説明して行くのか。

 今日の話し合いは、日が落ち切るまでに終わる事はありませんでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 21:40 トレセン学園 完全施錠20分前

 

 

桜木「明日のトレーニングの分は〜っと.........」

 

 

 既にほとんど使われなくなって来ているチームルームに置かれた[金庫]のダイヤルを回し、ロックを解除していく。

 本来ならば生徒のトレーニング中の貴重品保管の為に使用される物だが、面倒だしウチのチームメンバーはそんな事しない子達だと思っていたので使って居なかった。

 

 

 それが今、この[秘密]を守る為に使えるってのは嬉しい限りだ。

 

 

 完全解錠。金庫の扉の向こう側にあるのは大量の[ルーズリーフノート]だ。

 

 

 ここに、[アオハル杯]の決勝に至るまでの各々ウマ娘達のトレーニングとそこに至るまでの習得スキルの目安。成長度合いが記されている。

 絶対に見つかりたくない奥の方には、[スタメン]選定に置ける基準値。その基準は理論値で構成されている。

 

 

 これを作ったのは、サンちゃんが消えたあの日の夜。あの子の[勝負服]を関係者と思われる三人の男に渡したあの後だ。

 

 

桜木(ホント、[AI]には参るね)

 

 

 あの後、俺は寝ずにこの資料を作り続けていた。あの[IMUNI]を相棒に添え、湧き上がる疑問を全てぶつけて作り上げた物だ。

 しかも、ただの[AI]じゃない。俺の[脳]をスキャンし、完全に人格。思考を模倣した物(未来では完全模倣は法に触れる行為)だ。

 

 

 模倣した経歴は残る使用となっており、未来に戻した瞬間に感知される仕組みとなっている為に持って帰れない。だからと言って、この世界に残して置く訳にもいかない。

 故に、たった一度きりの[禁じ手]。死んだ人間を甦らせるのと同等の暴挙。既に[IMUNI]は完全リセットされてしまい、今まで未来で行ってきた実験経験すらも真っ白にされてしまったらしい。

 

 

桜木(.........本当、驚くよ。俺がこんな凄い奴だったなんてさ)

 

 

『[強さ]とは[光]そのものだ』

 

 

『[光]は[奇跡]を必然にし、[時空]をも[超える]』

 

 

 そんな臭いセリフをあの[能面]に伝えられた時は酷く鳥肌が立った物だが.........今では別の意味で鳥肌が立っている。

 

 

 人の持つ[可能性]は、確かに[時間]を超えてくれる。

 

 

桜木(.........俺が居なくなっても、これさえ残せれば、後は他のトレーナーが―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――[桜木 玲皇]をやってくれる.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これから先、俺が居なくなったとしてもやって行ける。ここには俺の考え方や見方が詰まっている。懇切丁寧に書き記す事は出来なかったが、どういう子をどういう視点で見れば良いのかを書いている。

 分かる奴には分かる。そういう書き方じゃ無いと、このやり方を[出来る]レベルには持って行けない。

 

 

 これは[攻略本]じゃない。俺という[システム]の[説明書]だ。穴を見つけてバグを見つけて、初めて[桜木 玲皇]なんだ。

 

 

「―――施錠10分前となりました。残っている職員の方は速やかに退勤してください」

 

 

桜木「げぇ〜.........こんな所にもホワイト化の波が.........はいはい。今まで定時退勤してた分大目に見てくださいよ〜」

 

 

 誰かが廊下を通って見つかる前に明日分の資料をまとめあげる。これもまた樫本理事長の影響なのだろう。昔は喜んで帰っていたが、のめり込むとどうも時間を忘れてしまう。

 各担当に渡す分の資料をファイルにしまい込み、金庫を再度閉める。これで今日のやる事はおしまいだ。

 

 

 荷物をまとめてチームルームの電気を消す為にスイッチに手を置いて部屋を見渡す。すると窓の外に動いている存在が居た。

 

 

桜木(?おかしいな。樫本理事長体制で気を使ってる筈なんだけど.........)

 

 

 窓に近付き、それが誰なのかを見定める為にじっと目を細める。

 

 

 それは.........理事長のチームである[ファースト]のメンバーだった。

 

 

桜木(.........これマジ?やってる事があまりにもロック過ぎるだろ.........)

 

 

 こんな時間に自主練。理事長が黙っていませんね案件が現在目の前で勃発している。止める?いや、止めるでしょ常識的に考えて。

 過去の経験上、夜の自主練にはあまりにも良い記憶を持ち合わせていないので俺は慌ててチームルームの灯りを消して施錠し、急いでグラウンドへ向かったのであった。

 

 

 

 

 

......To be continued

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