ドラゴンライダー〜唯一の邪龍乗りは世界最強を目指す〜   作:他鍋海狸

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第一章・白龍と始まりの学園
第一話・白龍の遭遇、冒険の始まり


 俺はずっと悩んでいたんだ。

 

 荒廃した戦地でも、業火の樹海の中でも、厄災の嵐の中でも、深淵の渦中でも、分からなかった。

 

 でも、たった今、この××でわかった気がするよ。

 

『心の在り方に力は宿る』

 

 あぁ、やっぱり━━━━━━━━━━

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 深夜、西の国端にある名も無き森の中。

 虫や獣達も眠りにつき、害獣達が支配する時間である今は、微細な音しか森は起こさず、木々の隙間から零れる月光しか明かりが無い。

 

「……お、母さぁん…父さぁん、兄ちゃん……

 うぅう、怖いよぉ」

 

 真っ暗な森の中で一人、彷徨い泣く少年が居た。

 長時間歩いていたようで服はボロボロ、足や手には擦り傷ができ血が滲んでいる。

 

「……だ、誰かいなのぉ」

 

 誰も居ないのは見て分かるが、叫ばずには居られないのだろう。少年は夜闇に向かって声をかける。

 

『ぼく、迷ったの?』

「え!だ、誰かいるの?」

 

 木々の間から声が聞こえ、声色で女性と言うことが分かる。

 

『迷ったのね、可哀想に

 こっちよ、こっち』

「う、うん……」

 

 少年は声の方に駆けていく。

 年端もいかない少年が、真夜中の森の中で誰かも分からない声に耳を傾けるのは当然だ。しかし、今は害獣達が行動する時間帯であり、少年の行動は余りにも軽率であった。

 

「やっと、人に会え……た……」

 

 木の向こうには人間は居らず、居たのは気にぶら下がっている化け物であった。

 体は大きく少年の倍はあり、体毛は灰色、顔は人間に似ているが目は赤黒く光っている。

 

『こっちよ、こっち、こココぢぢごィ』

「ひ…ひぃ……」

 

 腰を抜かし尻もちを着き、少年は完全に硬直し弱々しく(うめ)いた。

 化け物は木から降り、少年に迫る。

 

「うぅ……く、来るな!」

 

 あまりの恐怖に腕を振り回す。

 化け物に、少年の攻撃にもならない攻撃が通用するはずもなく、鋭い爪が少年を襲う。

 

(うぅ……だ、誰か助けて!)

 

 少年は死を覚悟し目を瞑り、顔を逸らした。

 だが、いつまで経っても痛みも来ないし、意識も遠のく事は無い。

 恐る恐る目を開くと

 

「え……」

 

 開いた瞳が映したのは、ありえない光景であった。

 居たのだ、()()()()()。月光に照らされた鱗は白色で、森の木々を優に超す体躯、羽ばたけば少年など吹き飛ばしてしまいそうなほどに大きな翼、顔は凛々しく瞳は黄金に煌めいていた。

 風も音もなく現れた龍は口を開きゆっくりと語りだす。

 

『こんな夜中に不用心な、迷子か?』

「え……」

『迷子かと聞いているのだ、少年』

「う、うん、森で遊んでたら迷っちゃって」

『うむぅ…それは災難だったな。

 で、この狒々(シャーマ)に襲われたと』

 

 白龍は前腕で先程の化け物、狒々の首根っこを掴んでいる。

 狒々は暴れながら『おろせ!オロセ!』と、叫んでいる。

 

『此奴は言葉を話して、夜道で人間を誘き出して捕食する害獣だ。

 気をつけなければ簡単に殺されてしまう』

 

 言いながら白龍は、狒々を地面に下ろした。

 

『ひひぃぃ』

 

 狒々は叫びながら森の闇に姿を消した。

 

「どうして、殺さなかったの?

 人を食べる悪いやつじゃん!」

 

 助かった安心感からか、自分を殺そうとした化け物を逃がした疑問が湧き上がる。

 

『人間にとっては悪でも、私からすれば森に住む同族なのだ。

 それと、何か言うことは』

「あ、えっと。

 助けてくれてありがとうございます」

『うむ、よろしい』

 

 白龍はとても満足そうに頷いた。

 少年はなぜ自分を助けたのか、何処から現れたのか、こいつはなんなのか、何一つとして分からなかった。

 だか、白龍が悪いやつではないな、と何となく感じた。

 

『向こうに松明のあかりが見える。

 きっと、君を探しているのだろう、もう少しで家に帰れるな』

「ほんとに!!」

 

 嬉しそうに笑う少年を見ながら、白龍もまた微笑んだ。

 

『もう夜に森に来てはいけない』

「うん!分かった、気を付けるよ!

 ねぇ、龍さんには名前あるの?あるなら、教えて。

 僕は、アベリオ、アベリオ・アイオライト」

『名前か……。

 私の名前は無いが、人々は(アルブス)と呼ぶな』

「白、いい名前だね。

 ねぇねぇ、白は何処に住んでるの?また会える?」

 

 異種族、それも会話できる龍に出会える事など一生で一度あるかないかである。この事を、アベリオが知ってはいないだろう。

 アベリオは未知との遭遇に興奮し、巨大な龍に男心を(くすぐ)られ、友達になりたいと純粋に思ったのだ。

 

『私はラーナ大樹に住んでいる。

 危ないから来て欲しくは無いのだが、そうだな、日中のこの森の中で、君が一人で呼べば行くとしよう』

「やった!絶対にまた来るからね!

 ちゃんと来てね、約束だから」

『あぁ、勿論。約束は守る』

 

 

「あ!アベリオが居たぞ!」

 

 松明の火がアベリオを照らした。急に現れた光が眩しく思わず手をかざす。

 

「アベリオ!やっと見つけた、探したぞ!」

 

 男性の声と共にアベリオは抱きしめられる。

 

「父さん!痛い痛い、強すぎるよ」

「全く心配させて、母さんもベレルも心配したんだぞ!」

「ご、ごめんなさい」

「しかし、よく無事だったな。

 ここら辺夜は害獣がでたと思うんだが、襲われなかったか?」

「あ、そうだ!白が助けてくれたの。

 僕の後ろに……あれ?」

 

 振り向いたが、そこにはにもなく、ただ木の葉を夜風が揺らしていた。

 大きな白龍はまたしても、音もなく消えてしまった。

 

「あれ?白!何処にいるの?」

「何を言っているんだ。

 まぁ、いい無事だったんだからな。よし、帰ったらお説教だ!」

「ええー!」

 

 少年と父親の声が森中に響き渡った。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 時間は驚く程に早く進む。

 

 春が来て、夏が過ぎ、秋が枯れ、冬が溶け、また春が来る。

 

 世界は巡り、少年は成長し青年となる。

 成長した今でも時々夢に見る、あの時の情景を。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 炎に包まれる森の中で僕は白の前に立っている。

 何も出来ないと知っているのに、どうしてきてしまったんだろう、思考を巡らせても答えは出なかった。

 

『アベリオ』

「なに、(アルブス)

『最後に私の願いと、質問に答えて欲しい』

「……うん」

 

 地に伏せった白龍はゆっくりと話す。

 

『まず私の願いからだ。

 私の顎の下首の辺りに黒い鱗が一枚ある、それを剥がして、すぐに逃げろ。

 少々鬱陶しいかもしれないが、それはお前の役に立つ筈だ』

「分かった」

 

 白の顎の下を確認すると、一枚だけ逆さに生えた黒い鱗がある。

 

『質問はそうだな、私の正体を知ってどう思う?』

「白は白だよ。

 例え、皆が()()と呼んでも、俺の恩人で友達だ」

『……そうか、それは、良かっなぁ』

 

 心底安心したように笑う。

 本当に(こいつ)は人間みたいに笑う。そういう所があるから、友達になれたと、今になって思う。

 

『アベリオ…お前はいい人になれ』

「なんだよ急に」

『何でもない、ただの戯言だ。

 ただ私はお前がいい人であって欲しい』

「じゃあ分かった、いい人になる。

 いい人になって、絶対また会いに来るから!」

『ふふ……約束だぞ』

 

 白の言葉を最後に僕は鱗を剥ぎ取った

 

『━━━━━━━━━━━』

 

 天地を揺らす轟音が響く。

 轟音は圧力であり、暴力であり、悪意の表れであった。

 白龍の鱗は黒く染まり、自身の敵に向かって全身全霊の殺意をぶつける。

 

 俺は何も言わないまま、黒くなった白龍を背にして、遠く遠くに逃げた。

 

 

 その日、村から一人の青年が消え

 

 

 西の龍が死んだ。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「……!!

 また、あの夢か……」

 

 寝ていたベッドや衣類は汗でぐっしょりと濡れている。呼吸は荒く、運動の後のように脈が激しい。

 白の夢を見ると、何年も経った今でも罪悪感と無力感に押し潰されそうになる。

 

「切り替えないと、折角貰ったチャンスなんだから」

 

 呼吸を整えながら繰り返す。

 折角舞い込んだまたとないチャンスだ、逃す訳にはいけない。

 ベッドから起き、窓を開ける。

 まだ朝早く、人は殆ど居ない、まだ眠っているのだろう。

 気持ちのいい朝の空気を浴びながら、窓からの街並みを見渡す。

 

 海洋の島国、中央総括国家マール、海を挟み東西南北の国々に囲まれるこの国は、国でありながら学園でもある。

 つまり、マールは国でありながら、各国々の優秀な人材を集め教育する機関であり、別名知恵の島国(サピエンティア)と呼ばれる場所だ。

 

 今日から此処が、俺の居場所。

 

「やっと来たんだ、この時が」

 

 十五年間の思い出が溢れ出し、拳を握りしめて空に掲げる。

 

「待ってろよ白、俺が最強になってお前が良い奴だって事を証明してやる」

 

(そうすれば、俺はお前との約束を守れる気がするんだ)

 

 掲げた手に着けたブレスレットが、俺に答えたるかのように煌めいた。




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