ドラゴンライダー〜唯一の邪龍乗りは世界最強を目指す〜 作:他鍋海狸
「……暑い、まだ春だぞ」
島国で比較的南に位置しているマールは、春でも比較的暑い気候だ。その証拠に、ここら辺の森の植物は、南の海国に分布しているものに近い。
「森と言うよりは、林だな。この規模だと」
周辺を見渡し呟く。
昔居た場所に比べると、森では無く林に近い印象を受けた。しかし、此処が最も植物が群生している場所であり、害獣が生息している地域でもある。
『害獣』
世界全体にいる人間に害をなす獣の総称。地域によって魔獣や魔物と呼ぶ所もあったらしいが、現在は害獣と呼ぶのが主流。森や海、地下などに生息しているが、時々人里におりては人間を喰らう。
(此処も一応、害獣区域だったか)
思い出しながら、足を進める。害獣区域は名の通り、害獣が生息している地域である。
俺のような物好きか、害獣狩りしか居ない場所だ。
「だ、誰か助けてぇ?」
声が聞こえる。子どもの声だと一瞬分かるほどの幼い男の子の声が、危険なこの場所の奥地から聞こえてくる。
「お〜い、少年、大丈夫か?」
「あ、た、助けて足を挫いちゃって…!」
「よし、今行くから待ってろよ、少年」
若干の違和感を声に覚えつつ足を進める。歩いている間も叫び声は続き、声の居所は直ぐに検討がついた。
邪魔な植物をなぎ払いなが、一歩一歩声の方に近づく。遠くに少し開けた場所が見える、声はそこから聞こえてくる。
「少年、助けにきたぞ」
言いながら、開けた場所に出る。だが、誰もおらず俺の声が響いているだけだ。
本当に居ないか周囲を見渡し、地面に目をやった時に違和感を覚えた。そこに、何かの足跡があり、よく見ると草や花が踏まれて折れている。
触ろうとして屈んだ瞬間、頭上の木の上から何かが落下してくる。
「っと、危ないな」
体制崩し、横方向に回避する。目をやると、そこには、
「何年経っても変わらないよな、お前達は。逆に安心するわ」
『ニンゲン……グゥグゥゥ』
『タヘモノ……』
大体、ただでさえ人がいないこの場所に、早朝に子供が一人でいる訳が無い。
「残念だけど食べられてやらない。逃げてくれるなら、手荒な事はしないが」
『…………』
「反応は無し…か」
(お前と同じ事は難しいな)言葉を浮かべながら、腰に着けた魔道具に手をかける。
俺の動きに反応したのか、二匹の狒々は爪を立、飛びかかってくる。
魔道具は箱の形状をしており俺が手をかけると、三つのうちのひとつから、剣の柄の部分が浮き上がる。
俺は剣の柄を引き抜き、飛んでいる狒々を避け、際に体を刀身で撫でる。
着地した二匹は片方は腹、もう片方は腕から血が滲む。短い時間、唖然として痛みが発生したのか、痛みを感じたのか、情けない泣けない叫びを上げながら、奥に逃げて行った。
「ふぅ、まぁそこそこだな」
狒々は元来臆病な害獣であり、自分より弱い生き物しか狙わない。だから、大きな音や少しの反撃で逃げてしまう。
剣を収納し、避けた時の汚れをはらう。
ばん、と、短い銃声が森林に響く。顔を上げ、耳を澄ます。一定のリズムで銃声は聞こえてくる、一発打ち静寂の後もう一発。単発式の銃はこの辺りの害獣狩りが好んで使用するタイプの道具である事を思い出す。
どうも、害獣狩りが害獣と接敵したようだ。
「今日は随分と騒がしいな……行くか」
魔道具から再び剣を取りだし、音の方に走り出す。
幸い音の大きさから、位置は分かっているし、さほど遠くは無い事が分かる。
道中、一定間隔だった銃声が止む。ならば、害獣を殺したか、害獣の攻撃で死んだかだ。
(前者であってくれよ!)願いながら疾走する。存外、銃声の主の元に辿り着いた。
銃弾の硝煙が上がり、折れ曲がっている銃が転がり、俺の身長の倍はある灰色の害獣が年老いた男と向かい合っている。
男は右手から血を流し、それを左手で抑えている。
害獣は何発も弾丸を食らったはずだが、あまり出血は見られない。
(
鎧猿は山の奥深くに生息している害獣だ。特徴として、外皮が異常に硬く、力も強い。動きは遅いが厄介な害獣だ。
害獣は俺の存在に気付いてはいない、背後は簡単に取れるだろう。
大きく息を吸い、ゆっくりと気付かれないように足を進める。
鎧猿が俺の剣の間合い入る。瞬間、右腕にある外皮の隙間に突き刺す。
重い低音の咆哮が、重量のような見えない圧力になり俺を襲う。鎧猿の関節部は柔らかくなっている事は知っていた。
突き立てた剣を隙間を通すように上方向に振り切る。鎧猿の肉は柔らかい果物の様に切れ、大量の血液が噴出する。
「大丈夫ですか?お爺さん」
「お、おう何とか生きとるわい。
それはそうと、一体何者じゃ君は」
お爺さんに話しかけ、状況を確認する。お爺さんは目をぱちぱちさせながら、答える。
生存確認が終わったが、脅威はまだ居る。右腕をだらんと垂らしながら、血走った形相で襲いかかってくる。
「お爺さん、すぐ終わらせるから少し下がって」
言いながら、回避体制に入る。鎧猿はお構い無しに、未だ動く左腕を振り下ろし押し潰そうとする。
直線的な攻撃であり、避けるのは容易い。攻撃を避け後ろに回り込み弱点を露出している肩を切り裂く。
再び叫び声を上げ地面に倒れ、先程とは違う短く高音の唸りを上げて事切れた。
「終わりましたよ、お爺さん」
「君のおかげで助かったわい、ありがとうな」
後方の木の影に隠れていたお爺さんが出てくる。
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「所で君は何者なんじゃ?この辺りの害獣狩りでは、あるまい、見たことがない」
お爺さんを背負いながら、森の外を目指しながら先程通った道を歩く、彼の家は森を出てすぐの場所にあるらしくそこを目指す。道中、お爺さんは俺に質問をする。
「ただの通りすがりの一般人ですよ」
「通りすがりの一般人が、鎧猿をあんなに容易く倒す訳ではあるまい。凄腕の害獣狩りかい?」
「害獣狩りでは無いですよ。これはほんとです」
俺の答えに「ほぅ」と呟き目を見開く。
「まぁ、何でもいいわい。お主のお陰で助かったしな」
「ずっと疑問だったんですけど、どうしてこんな朝早く害獣区域に居たんですか?」
「なぁに、毎朝のパトロールじゃよ。この辺の害獣狩りは今北の帝国に居るからなぁ。儂しか人手がないのじゃよ」
「で、鎧猿に遭遇したと。災難でしたね」
「いやはや儂も歳をとったのう、もう昔のように体が動かん」
ハハハと笑いをうべながら、(中々、危険なことをするお爺さんだなぁ)と、思う。
まぁ、人の事は言えないだろうが。
「どうじゃ、若いの害獣狩りにならんか。儂が鍛えるまでもないが、色々教えてやれるぞ。からなず、凄腕の害獣狩りになれるぞ」
「有難いですけど、お断りします。これでも、夢を追いかけている身なので」
「夢かぁ、どんな夢じゃ?」
「えっと、それはですね……」
俺が答えようと首を開いた時、出かけた言葉は前方からの轟音と土煙によって飲み込んでしまった。
森林の木々よりも高い巨躯が俺とお爺さんの前に立場だがる。それは、先程と同じ鎧猿だったが、大きさが先程の個体よりもふた周り程大きい。
未だに距離があり、鎧猿は一歩一歩ゆっくり歩いている。かなり離れているはずなのに目視でき、プレシャーを放っている。
「降ろしなさい、若いの」
「えっでも……」
「いいから、降ろすんじゃ」
俺は言われるがままお爺さんの指さす場所に降ろす。
「やつは雄じゃな、先程の鎧猿のつがいじゃろう。
若いの儂を置いて逃げなさない、流石に奴を倒すのは無理じゃひきつけておくから、逃げなさい」
お爺さんは冷静に状況を判断し言いながら害獣狩りの銃に弾丸を込める。落ち着いているようで、足が震え、応急手当した手には汗が滲んでいる。
「いや、落ち着いて下さい。お爺さん。逃げませんよ、俺は」
「何を馬鹿言っとる死ぬ気か!」
俺の発言に怒りが混じった声で言葉を浴びせる。
「馬鹿で結構ですよ、ここでお爺さんを見捨てたら、アイツに怒られちゃいますから」
「アイツ?」
俺の言葉に不思議そうに首を傾げる。
「それに俺、まだ死ねないんですよ。言いましたけど、叶えないといけない夢……目標かもしれないですけど。あるんです」
言葉を紡ぎながら、剣を収納する。
確かにあの巨躯に、斬撃の攻撃は時間がかかり過ぎる。俺は大丈夫だが、もしお爺さんが巻き込まれたら俺も対応出来ないかもしれない。
「ゼノ起きてるか?」
俺の言葉に反応はない。未だに眠っているようだ。
魔道具の別の箱に手をかけ開封する。開いた箱の中からは、銃のグリップ部分が露出する。俺はグリップを掴み引き抜く、引き抜かれたグリップから、順々に単発式の銃の形を構成していく。
『魔道具』
魔術を誰でも使用できるように最構築し、体系化された物。様々な形で千差万別の魔術をだれでも簡単に使用できてしまう恐ろしい製品。
俺が使用しているのは武器構築の魔道具である。魔術が苦手な俺は、武器を扱いながら戦闘する事を選ぶのは必然であった。
「お爺さん、一般人って言ったの。うそじゃないですけど、少し語弊がありました」
「はぁ?」
銃を構えながら、全く無関係な事を語る俺の姿があまりに理解不能だったのか、気の抜ける言葉が零れる。
「俺は、
話しながら、魔弾を銃を込める。風魔術を使用した速度上昇と特殊な形状からなる回転数の増加により発生する圧倒的貫通力の性質を持つ魔弾。
呼吸を整え狙いを定める。
「まさか、お主。頭部を狙っているのか!?
鎧猿は頭部が最も硬いのだぞ!」
俺の狙いを見抜いたお爺さんは、焦ったように言う。
「この魔弾音切りって言うんですけど、めちゃくちゃ値段高かったので一発もか用意してないんです。
だから…………
言い放った言葉と同時に引き金を引く。瞬間、凄まじい衝撃と爆音が俺を襲う。
通常の弾丸では、ありえない速度で鎧猿の頭に向かって一本の線になり直進する。遅く巨躯な鎧猿が避ける事は叶わず、着弾する。
魔弾は頭部の脳点を貫通し向こうの空に向かって突き抜けていった。
何が起こったか理解できないのか、それとも気付いていなのか、鎧猿は足を上にあげる。途端に、頭部から血が滲み白目をむいて声すら挙げずに倒れ伏した。
「な……ほ、本当に一撃で倒しおった」
お爺さんはありえない映像でも見せられたかのように、目の前の状況が信じられていないようだ。
「ほ、本当に君はなんなんじゃ?」
「だから言ったじゃないですか?騎乗士だって」
「そんな馬鹿な事があるか、ただの騎乗士がこんなにも容易く鎧猿の雄をたすわけが無いじゃろ。それに、相棒もおらんじゃないか」
「ハハハ……相棒は寝坊助なので」
苦笑いを浮かべながら、興奮と衝撃が抑えられないお爺さんに言う。
「あと、
俺は、言葉を綴る。
「最強を目指してるんです。それが俺の夢なんです」
笑いながら、俺はそう言った。