ドラゴンライダー〜唯一の邪龍乗りは世界最強を目指す〜   作:他鍋海狸

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第四話・呼び出し

 学長室には、豪勢な調度品は無く割と質素だ。

 学園の資料を保管している本棚や来客用の長机や椅子、事務処理のデスクは、何処にでも売っていそうな印象を受ける。

 しかし、フェリスタ先生の座っている椅子だけは、かなり豪華なものになっている。

 

「まぁ、座ってくれて。

 ミロスの生活はどうだい、慣れた?」

「俺には綺麗過ぎて、正直慣れませんが、いい街ですよ」

「今までの状況が特殊なだけと思うが、ともかく、気に入ってくれて良かったよ」

 

 先生は言いながら、カップに入れたお茶を飲んだ。

 

「お茶です。どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 アルマさんから、お茶が入ったカップが渡される。

 

「……美味しいですね、おのお茶!」

 

 一口飲むの芳醇な味わいと香りが鼻腔を撫で、口の中を美味しさで満たす。

 

「そうだろう、特別に取り寄せただけはあるよ」

「そうなんですか?

 ありがとうございます」

 

(とんでもなく高いんだろうな)と、思いながらもう一口飲む。やはり美味しい。

 

「で、今日はどうして俺を呼び出したんですか?」

「あ、別に大した用事では無いよ。

 入学後は寮に入ってもらう予定だったが、少し都合が悪くなってね、今の宿泊場所を延泊して欲しいんだ。あとは、お喋りだね」

「なるほど、はい、分かりました」

 

 本当に大したことではなくて良かった。もし今になって、入学出来ないと言われたらたまったものではない。

 

「君の心配はしていないさ、なんせ君は何年も秘密を守ってきたんだ。

 ここでも上手くやると思っているよ」

「それは、若干買いかぶりな気もしますが」

 

 率直な意見を話す。

 正直、ここに来るまでに何度か死にかけたし、天ノ橋(あまのはしだて)を通る時なんて、貰い物がなければ無理だった。

 

「買いかぶりもするさ。

 君は私の命の恩人だからね」

「住居の前で死にかけた人がいれば助けますよ、誰だって」

「かもしれないね。

 しかし、私を助けたのは君だろ?じゃあ、恩人さ」

「はぁ……まぁ、お陰で入学出来ましたし。

 俺としても嬉しい限りです」

 

「あ、そうだ」カップを置き、先生は、僕の目を見て、再確認するように問う。

 

「まだ、君もの目標はアレなのか?」

「俺の目標は、あの友達ですよ。

 今も昔も、だから、言ったじゃないですか。俺は最強を目指します、って」

「だろうね、じゃないと私も張り合いが無い」

 

 俺の回答が好みだったのか、「そうか、そうか」と、何度も反芻(はんすう)しながら笑う。

 

「頑張りたまえよ、未来ある若者。

 私は勝ち目のない勝負にベットしない主義だ、期待してるよ」

「約束を違える気はありませんので、楽しみにしてて下さい」

「あぁ、楽しみにさせて貰うさ」

 

 聞きたかった言葉が聞けたのか、何処と無く嬉しそうだ。

 

()()君は元気かい?」

 

 思い出したかのように先生は聞く。

 

「元気ですよ、今は寝てますけど」

「彼とは随分会ってないからね、まぁ、会わないに越したことはないが」

「じゃあ、今から会いますか?」

「やめてくれ、あの魔道具は高いんだ、特注だしね」

「………え?高いんですか?スペア合わせて三つも貰ったので安いのかと」

 

 この人が高いというのは相当だ。

 急に身につけるのが怖くなってきた。

 

「まぁ、かなりいい値段はするね。

 必要経費だったから、気にしなくていいよ。此方が資金面を支援するのも約束の一つだしね」

「なんか急に壊すのが怖くなってきました」

「ハハハ、私としても壊さない方がいいが、君がゼノを必要とする時は壊して貰って構わないよ」

「ありがとうございます。

 正直、ホッとしています」

 

 俺とゼノは二人で一人だ。

 俺単体では、何百年かけても最強になる事は出来ない。

 

「あ、そうだ。

 リズベット・アース・ガルドと言う生徒を知ってますか?」

 

 学園生であると名乗った女の子を思い出したので、先生に聞いてみる。

 

「うん?リズベットくんの名前が出るのは意外だね」

「今日、助けた迷子が妹さんだったんです。

 学園生と言ってたので、どんな人かなって思って」

 

(まぁ、明日会うんだけど)と、思いながらもどんな人が聞いてみる。

 村には同年代の子どもは居なかったし、ここ数年は友達を作ることは出来なかったので、初めて友達になれそうな同年代の子なので、単純に興味が湧いた。

 

「成績も優秀だし、素行も悪い訳じゃないし、クラスでも中心に居る。典型的な優秀生徒だ」

「やっぱりそうなんですね。

 仲良くなれそうで良かったです」

 

(まぁ、想定内)という印象だ、逆に凄い不良生徒でなくてよかった。

 

「運命の出会いじゃないか、憧れるねぇ〜」

「そんなもんじゃないですよ」

「でも、彼女貴族だよ。

 大丈夫なのかい?アベリオ、苦手だろ」

 

 [貴族]

 その言葉を聞いて背筋に寒気が走る。

 自分の失言気づいた先生は、慌ててフォローする。

 

「ま、まぁ、大丈夫ですよ。

 奴らとは違います、もし同じなら、その時はその時です。」

「いや、済まない。

 嫌がらせに言ったんじゃないんだ。ただ、許せない人側の人間と知らずに一緒に居るのは、君が辛いと思ったんだ」

「お気遣い感謝します。

 もう昔とは違いますから、それに、ここは貴族の方が多いですし、当たり前ですよ。

 慣れないとダメですね……ハハハ」

「済まないな、アベリオ」

 

 悲しいそうな顔で俺を見る。

 先生は昔から表情をコロコロ変える。俺を同情していることが伝わる。

 昔のしがらみに縛られている俺を。

 

「君とは学園(ここ)で多くの人と出会って欲しいんだ。中には嫌な奴だっているし、君を目の敵にしてるだろう」

「はい」

「だから、友達や恋人、なんでもいいさ。

 大切な人を作って欲しい。君の目標は最強でも、使命じゃないんだ。安心してくれ、ここは辛いことを強制する場所では無いよ」

「言ってくれると助かります」

 

「ふぅ〜」と、先生は力んだ肩を落とす。

 

「長く話し過ぎたね。

 今日は終わりにしようか、次は式の時かな?」

「そうなりますね」

「じゃあ、後二日、ゆっくり休むんだよ」

「お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」

 

 俺は立ち上がり、「失礼しました」と、残し部屋を出る。出る時に見えた先生の表情は、いつもの優しい表情だった。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

(そっか、貴族なんだ彼女)

 

 長い廊下を歩きながら、考える。

 別に、貴族という訳で悪人と決めつける訳でも無いし、良い貴族も見てきたが、何年経っても、いい印象は抱かない。

 

(ここは、貴族の方が多いんだから)

 

 この学園の学費は高い、特別手当がない限り、絶対に平民の子どもは入学できない。

 平民出の俺がここに入れたのは、紛れもなく幸運だろう。

 

(ま、今は平民ですらないがな)

 

「はぁ……」と、ため息をこぼす。

 階級の事を考えると、故郷のことを思い出すのであまりしたくない。

 

『おはよう、アベリオ』

 

 何処からから声がする。

 

「あ、やっと起きたのか、()()

『だってさ、ここめちゃくちゃ寝心地いいんだよね』

「良かったな、もう地べたで寝なくて良くて」

『でもさぁ、暇なんだよ、この中。

 だから、出してよ〜まだスペアあるじゃん!』

「また、今度。それに、お前を出すのは重要な時だけ、窮屈だが我慢してくれ」

 

 あの先生が高いと言ったものだ。

 一軒家位の値段は覚悟しなければならない。

 

『じゃあ、出た時はいっぱい遊んでよ!』

「はいはい、分かってるよ」

 

 はたから見たら、独り言だが、俺には話し相手が居る。何年も一緒に生活してきた家族だ。離ればなれにはなりたくない、俺と白の約束の為にも。

 

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ふぅ〜中々に話し込んでしまったね」

 

 アベリオが帰った後、時刻版を見る。16刻を示しているので、かなり長い時間話した事が分かる。

 

「お疲れ様でした」

「別に疲れた事はしていなよ、ただ、生徒と話しただけさ」

 

 アルマが労いの言葉をかけるが、その言葉を貰う様なことを私はしていない。

 

「苦手かい?彼」

「いいイメージはありませんでした。

 でも、話してみるとあまりに普通の人で驚いたのが本音です」

「だろうね、私もそうだった」

 

 アルマの言葉で彼と私の運命を変えた時を思い出す。

 

『君は命の恩人だ、可能な限りのお礼はするよ』

『じゃあ、()()、特権が欲しい』

 

 死害との戦闘で死にかけていた私を助けたのボロボロのアベリオは、この世界で最も強欲な要求を出す。

 

『特権か……それは無理だ。

 望んで手に入れられるレベルじゃない』

『そう……』

 

 落ち込む彼を見て思ったんだ。

(面白いな)とね。

 

「そこで面白いと思うんですか?」

 

 アルマくんが狂人を見るような目で見てくる。

 彼女からすれば、不相応な望みをした彼を面白いと思った私を、性格の悪い奴とでも思ったんだろう。

 

「そんな目で見ないでくれ」

「別になんとも思ってません。

 こういう人だなっと、再確認しました」

「手厳しいな。まぁ、私は教師だからね。

 若い芽を摘むことはしないよ、だから提案したんだ」

 

 

『なら、こうしようか。

 私が特権を与える事はできないが、特権を手に入れるまでの手伝いをしよう』

『本当?どうやって、手伝ってくれるの?』

『私の学園に来なさい、マール島にある学園国家。ラティス学園へ』

『学園に行けば特権が手に入るの?』

『確約はできないが、手伝いはできるさ。

 そうだな、手始めに最強を目指そうか』

 

 

 あの時は安請け合いしてしまったな、と後悔した時もあったが、今は違う。

 最強には程遠いが、彼は強くなった、パートナーと二人で、私が願った結果を出してくれた。

 

「彼らなら手に入れられると思ってるよ、私はね」

「はぁ……そうですか」

 

 心底興味がなさそうに彼女は言う。

 

「アルマくんもしっかり働いてくれよ、彼の監視役としてね」

「当然です、仕事ですから。

 それに、放っておけませんよ」

 

「世界でただ一人の()()使()()なんて、危険な存在を」

 

 その言葉に、私は微笑む。

 

(彼の前になら、本当に現れるかもしれないな)

 

 自分がベットした人間の行く末を見据えるように、窓の外を見る。

 窓の外には、いつもと変わらない風景が拡がっていたが、雨が降りそうだった。

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