ドラゴンライダー〜唯一の邪龍乗りは世界最強を目指す〜 作:他鍋海狸
蹴り飛ばした黒フードは、壁に激突した。
激突音を皮切りに、ズルズルと地面に倒れる。が、何事も無かったかのように、起き上がり向かってくる。
「っ……ちぃ!
結構本気で蹴り飛ばしたぞ、ゼノ」
『身体強化はした。
多分だけど、何かしらの装甲があるよ』
と、言われたが感触的には装甲という硬い感触では無いと感じる。完全に急所を捉えた訳では無いが、ダメージが入っていないのは流石におかしい。
「リズベットちゃん、カペラちゃんを連れて逃げて!」
僕の後ろに居る二人にむかって言う。
様子は分からないが、まずは二人を逃がしてタイマンに持ち込むのが得策だろう。
(ここじゃあ、ゼノは出せない。何とか武器を奪えないか……)
武器がないこと状況では、短剣をもっている敵が有利だ。幾ら身体強化をしていても、何ヶ所か刺されたら命が危ない。
「……で、でも、アベリオくんも危ないわ!」
「今、カペラちゃんを守れるのは君だけだ、急いで!」
「お兄ちゃん、来るよ」
カペラの言葉で敵の攻撃を理解し、ギリギリで受け流す事ができた。
この状況で最も幼い少女が一番落ち着いているのが不思議でならない。
「と、とりあえず離れて、誰でもいいから人を呼んできて」
「助けになら私がなれるわ!
待って!今杖出すから」
「お姉ちゃん、今杖無いよ。お部屋に置いてきた」
「え!?
嘘!毎日持ち歩いてのに、
「何してるの!?」
何故逃げない二人に若干の怒りを覚えつつ、敵に向き直る。
どう考えても敵の狙いはカペラ、もしくは盗品を持ったままの逃走だろう。盗品だけで満足してくれれば良いのだか、もしそのお宝が重要な物なら逃がす訳にはいけない。
『まずは相手を二人に近づけないこと、教導本を持ってるらしいから、何とかなるかもしれない』
と、ゼノが言う。しかし、教導本が何か俺には分からない。
「ゼノなんで俺の知らない事を知ってるんだよ」
敵の攻撃をいなしながら、聞く。
『フェリスタから聞いた。
てか、もしかして余裕?』
なるほど、先生に聞いたなら、まぁ納得できる。
余裕か余裕でないかと聞かれれば、今は余裕だ。敵の攻撃は素早いがワンパターンなので、身体強化している今ならどうとでもなる。
「今は大丈夫。
だけど、身体強化切れたヤバい」
『まだ、頑張れるけど急いで。ここ、繋げづらい』
此処にて魔道具の知らない弊害が現れる。
「ゼノが言うなら本当にヤバいな。急ごう」
俺は敵の腕を掴み腹を蹴り、そのまま短剣を持っている腕の間接を捻じ曲げにかかる、が……顔面に鈍い痛みが走る。
「っ……いった」
痛みで思わず手を離してしまう。
空いていたもう片方の手で殴られたらしい、大した威力では無かったが、顔面に直撃したのでふらついてしまった。
『アベリオ来るよ!』
ゼノの声で崩れた体勢を立て直す。
敵は変わらず真っ直ぐに向かってくる。
真っ直ぐに突っ込んで来るなら此方にも考えはある。俺は狙いを定めて、敵を待つ。
「いい加減……面を見せやがれ!」
掛け声と共に直進してくる敵の顔面を殴り飛ばす。
多少短剣で掠めようが、身体強化をしている今なら関係はない。
顔面パンチが当たり、フードの隙間から顔を見せる。
「な!か、顔が、、
フードから見えた顔は茶色であり、顔を構成するパーツの一切は存在していない。
あまりの驚きに硬直していると、敵はドロドロした泥に変化した。手には生あたたかい泥がへばりつき、気持ちが悪い。
「アベリオくん、そいつは
「泥人形?何それ?」
リズベットは泥人形と言うが、俺にはそれがなんなのか分からない。
「え、知らないの?後で、説明するわ!
今
「壊すって……どうやって?」
『アベリオ、彼女の言う通りにして。
大丈夫、教導本がある』
そうゼノが言う。目をやると、泥は集まり半分ほど人間の形を取り戻している。
「水魔の加護ありて、我の
リズベットは言葉を紡ぐ。
魔術の知識が無い俺でも、それが詠唱という事はわかる。
『アベリオ、さっさと避けないと多分死ぬよ』
「え?」
あまりに突拍子もない言葉にこの場に似合わないほおけた声が出る。
「型は槍、素材は水、
彼女の周囲の水はみるみるうちに形を変えて、槍状に変化する。
ここで、本当にヤバい事を察知し、回避する体勢をとる。
「━━━━
詠唱の完了と同時に数十本の水の槍が泥人形に襲いかかる。
まだ完全に人型に戻れていない泥人形に避けるすべはなく、全弾命中する。穴だらけになった泥人形から、「パキ」と言う硝子が割れる音がし、泥人形は乾燥した土となり崩れ落ち地面と混ざった。
「ふぅ……
何とかなりましたね、アベリオくん殴られたけど大丈夫?」
「え?あ?うん?
ま、まぁ、大丈夫だけど……何今の?」
あまりの突然の攻撃に唖然としてしまい、挙動不審になる。
「何って、魔術よ、今のは上級だったけど」
「上級魔術って……。
リズベットちゃん、もしかしてめちゃくちゃ凄い魔術師だったりする?」
魔術に疎い俺でも今のを見て上級魔法が凄いのはわかる。
「まぁ、魔術は学年で上の方よ」
「あの学園の学年で上の方って、相当だと思うけど」
これで、何故頑なに逃げようとしない事に合点がいった。
(リズベットちゃん割と戦えるから逃げなかったのか、今日杖持ってきてると勘違いしてたし)
納得は出来なくはないが、あの状況では逃げて欲しかった。しかしながら、結果的には助かったので文句は言えない。
「私はアベリオくんが教導本も泥人形も知らない事の方が驚きよ」
「だって、俺は魔術使えないから」
「得意不得意の話じゃなくてね、知識の問題よ。
使えないって言っても基礎魔術は使えるわよね?」
「使えないよ、俺、基礎魔術」
「……嘘でしょ?」
「嘘はついてないよ、ホントもほんと」
俺の一言にリズベットがフリーズする。
確かに、基礎魔術はこの世界の誰でも使える魔術らしいが、俺には使えない。
理由はさまざまあるが、フェリスタ先生曰く
「うん、無理だよ、センス無さ過ぎ」
らしい。
出来ないものは仕方ないので、魔術の事は全く勉強していない、ゼノの方が詳しいしまつだ。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、寒いよ」
二人の微妙な空気を切り裂くように、幼子の無邪気な正論が降り注ぐ雨音の中に響いた。
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泥人形の件を護衛師に報告した。
護衛師はマーレの治安維持の役割を持っている組織のことを指す。護衛や傭兵のようなものである。
「泥人形に襲われたか知らないけど、まずは逃げて助けを呼ぶ。
緊急事態みたいだったから仕方ないけど、上級魔術の使用は許可地区以外許されてないよ!?」
「すみません」
「ごめんなさい」
俺とリズベットの二人は、リズベットの家で護衛師の人の怒られていた。
緊急事態だったとはいえ、上級魔術を道端でぶっぱなした影響で道には穴が開き、家の壁には衝撃でヒビがはいっている。
「今後こんなことがあったら直ぐに人を呼ぶこと、いいね?」
「分かりました」
「以後気をつけます」
こうして護衛師は撤収して行った。道の修理費の請求書を残して。
(フェリスタ先生に渡しとこ)
修理費を押し付ける算段をしつつ、リズベットの方を見る。やはり疲れているようで、背を伸ばしている。
「リズベットちゃん疲れてる?魔力使ったし、もう休んだ方がいいよ。
カペラちゃんも寝てるだろうし」
俺が話すと、「まだ、大丈夫よ」と彼女は言う。
「今日は本当にありがとうね、アベリオくん」
「俺だってリズベットちゃんが居てくれて助かったよ。
まぁ、あそこで逃げて欲しかったけど」
「あれは、杖持ってると思ってるから……。
結果的には助かったし、良かったじゃない」
「確かに、言えてる」
図星を疲れて笑ってしまう。
俺の様を見て、隣に座っている少女も笑みをこぼす。戦闘時の砕けた口調が続いている。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。
次会う時は学園だね、同じクラスになれるといいよな」
「私もよ、アベリオくんと一緒だと楽しそう。
だって、基礎魔術も使えない人なんて初めて見たもの」
リズベットは相当俺の魔術歴を気に入ったようで、色々聞かれてしまい、情報を選択しながらの会話が大変な事を再認識する事になった。
「じゃあ、また」
「ええ、おやすみなさい。良い夢を」
言葉を交わして目を疑う豪邸から、いつもの宿場に戻る為に扉を開け、屋敷の外に出る。
「やぁ、アベリオ。
災難だったね、泥人形に襲われたんだって?」
声の方向にはフェリスタ先生立っている。
薄々いる気はしていたが、本当に居ると驚いてしまうもので、フリーズしてしまった。
「泥人形の構成核から犯人を特定できるように、調べてみるよ」
「俺は力試し的な意味で先生の刺客だと思ってましたけど」
「存外失礼だな君は」
「冗談です、安心して下さい」
それを聞くといつものように、いたずらっ子の様に微笑む。
「まぁ、今回のようなことは滅多に起きないから安心しなさい。気をつけ帰りなさい」
「ありがとうございます、大丈夫ですよ、子どもでは無いんですから」
「それを生徒に言われると複雑だね」
言いながら先生は学園の方に向かって帰って行った。
「さぁ、帰ろうかゼノ」
『そうしよう、アベリオ。流石に疲れちゃったよ。
でも、あれは、面白かったなぁ』
「え?なんだよ、面白い事って」
幾つかは思い出すが、俺が楽しくてもゼノが楽しいとは限らないことばかりだ。
『リズベットちゃんに、「アベリオくんって戦闘中ずっと独り言いってたけど、何かあるの?」って聞かれた時のアベリオの返し、あれは傑作だったよ』
「その話はいい、さっさと帰って寝るぞ」
たわいもない雑談をしながら、夜の道を歩いた。
いつの間にか、雨はやんでいた。
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入学式までの、数日間は何事もなく過ぎ、当日となる。
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「準備完了、ゼノ行くよ!」
『おー!出発だぁ〜!』
制服に身を包み、俺は宿場の扉を開けて学園に向かって歩き出した。