自由が死んだ社会の奥底に、自由の名残を守る砦があった。

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求めるモノと守るモノ

 

 

 

きらびやかな大都市、メガロポリストウキョウ。

平等と平和の為に、自由と人間性を犠牲にしたこの街の最下層には、上層に住まうニンゲン達に見捨てられたスラム街が広がっていた。

そのスラム街の片隅に、街の情景に似合わない小さな小洒落た喫茶店が営業していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカランと、来店を告げるベルの音にボクは読んでいた本から目を離して顔を上げる。

そこには、恐る恐る店の敷居を跨ぐ育ちの良さそうな格好をした青年の姿があった。

 

 

「……いらっしゃい」

 

「…ッ!?」

 

 

ボクが素っ気なく声をかけると、青年はあからさまにビックリしたように肩を踊らせた。

初見様かなとアタリをつけたボクは、ゆっくりと立ち上がってスカートのシワを伸ばしながら接客の為に青年に近付いた。

 

 

「……お客様、お一人様ですか?」

 

「……あっ、えっと、はい」

 

 

オドオドとしながらボクの問いかけに答える青年に、心の中で小さくため息をつきながらボクはこちらへと声をかけて青年を席に案内する為に歩き出す。

 

 

「あっ、あのッ!」

 

「……なにか?」

 

 

青年はボクの手を取って声を張り上げる。

チラリと掴まれた手を見やったボクは、青年に面倒くさげな視線を向ける。

 

 

「えっとその……」

 

 

青年はなにか迷っているように言葉を濁す。

ボクは黙ってその様子をしばらく眺めていると、やがて青年は意を決したようにこっちの目を見据えてきた。

 

 

「……その、『トーストサンドとオニオンスープのセットと店長のオリジナルブレンドティー』をいただけますか……?」

 

「……」

 

 

彼が出した『注文』に、ボクはあぁやっぱりと思い、小さくため息を漏らす。

そのため息に青年はビクリと肩を震わせ、顔を少しずつ青くさせていった。

その様子を尻目に緩んだ青年の手を剥ぎ取ると、ボクは出入口へと足を向けた。

 

 

「あっ……あの……」

 

 

何事か言おうとしている青年の言葉を無視しながら、ボクは扉を開けて「open」を「close」へとひっくり返すと、呆然と立ち尽くす青年の側に戻って声をかける。

 

 

「お客様」

 

「はっ、はいぃ!」

 

 

青年の緊張まみれの上擦った声に少し辟易としながら、ボクは先ほどまで案内しようとしていた場所とは少しずれた場所にある、店に似つかわしくない大きな石像に手をかざす。

 

 

「『ご注文』は承りました。こちらへどうぞ」

 

 

その言葉にようやくホッとしたのか、青年は青くしていた顔に血の気を戻らせ、ボクの後に続いた。

ボクは石像の前に来ると、リズムよく鼻と胸と右足を叩いていく。

すると、石像はズリズリと音をたてながら横へとずれていく。

そこには、人一人がようやく通れそうな縦穴があり、そこには地下へと続く石段があった。

 

 

「……さぁ、どうぞお客様。暗いですからお足元にご注意ください」

 

「あっ、あぁ、はい……」

 

 

石像に引っ掻けてあった小さなランプを手に、ボクは青年と共に縦穴へと入って階段を下りていく。

ズリズリと背後の石像が閉まっていく音を聞きながら視界不良の石段を数分ほど降りていくと、やがて視界の端に光が差し込んできた。

その光を目指して進み、遂に光の漏れる場所へとたどり着いた。

 

 

「お待たせ致しました、お客様。ご注文の品でございます」

 

 

光に目をしばたたかせていた青年に、ボクはスカートの裾を軽く持ち上げやや芝居掛かった態度で目的の部屋へと招き入れる。

そこには、数多の本棚と政府によって発禁処分となった膨大な書籍が並べられた巨大な図書館が広がっていた。

 

 

「おぉ……!!」

 

 

図書館の全容を眺めた青年は感嘆のため息を漏らす。

そんな彼に、ボクは緩く笑みを浮かべながら問い掛ける。

 

 

「ここは自由の砦、ヘヴンズライブラリー。さぁ、お客様。お好きなジャンルはどれですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘヴンズライブラリー

ここは人が自由を愛し、自由を謳歌していた時代の名残を守る、唯一にして最後の砦である。




(続か)ないです

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