この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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第一部
第12話 違法祝宴(パーティー)冒険者達(アドベンチャーズ)


 「なあ、チュウヤ」

 

 黙っていれば太宰が心中を申し込みそうな程の美人が、どこか哀しそうな表情で。

 綺麗な青色の双眸を揺らしながらこう云った。

 

 「人を殺すのではなくて、その……私をいたぶるのでは駄目なのだろうか……」

 「駄目です」

 

 本当、この女こそ殺して剥製にでもして飾っておくべきだと思う。

 

                 ◇◆◇

 

 佐藤和真とかいう奴含めた四人が政府の視界から僅かに逃げ出す事に成功して数日が経過したある日。

 めぐみんが「私を馬鹿にした彼奴に紅魔族の凄さを思い知らせてやる」とかトラブルが起こる予感しかしない台詞を残して去ってしまった為、部屋にはネグリジェ姿のダクネスとラフな部屋着姿の俺の二人きり。

 

 因みに、こいつら二人が来てから、何軒かある自宅には戻れていない。執務室での寝泊まりだ。悪くは無いのだが、執務室では酒が飲めないので困る。つまりこいつらの所為で酒が飲めない。しかもこいつらはびっくりする程迷惑行動しかとらない。……女を殴りたくなったのは初めてかもしれない。

 

 寝ようかとも思ったが眠気は一向に訪れず、どうやって暇を潰そうかと考えていた時だった。

 目の前の女が莫迦なことを口走ったのは。

 

 「……ったく、最初の俺のテンション返しやがれ。哀しそうな顔してやがるからどんな質問をするのかと思えば……本当に手前はブレねえのな」

 「い、いやっ、確かに後半は本心だが! 前半も本心だ!」

 

 何なんだこの前半のオマケ感。

 この変態女が云うから、人殺し云々よりも後半のマゾ発言の方が強調されて聞こえてしまうのも仕方が無いと思う。というか後半の方が本心じゃ……。

 

 「と、とにかく……。私は矢張り理解出来ない。育ちが違うのも、そもそも世界が違うというのもあるかもしれないが……チュウヤは人を殺すような人間には見えないのだ」

 「……」

 

 どこまでも真っ直ぐな青い瞳。俺と同じ色の筈のそれに、後ろめたさを覚えてしまうのは何故だろう。

 俺は別に快楽殺人者では無い。だが、殺さなければ生きてこられなかった。

 

 羊だってただの子供の集まりだ。働いて金を稼ぐことはできないから当然盗むか奪うことになる。盗めば追いかけられるし、奪おうとすれば戦闘になる。相手を殺すことは目的ではない。ただ、生きる為の手段でしか無かった。

 やがて羊は俺を利用して。俺は羊以外に居場所がなくて。そんな妙な共依存の関係をぶち壊した太宰にマフィアに無理矢理入れられるまで、俺はただの空っぽの化け物だったのだ。

 

 マフィアに入って、生きる意味を見つけた。自分がどうやっても上手くいかなかった、"組織の長"を務める人間。

 組織の本質を理解し、優れた頭脳で死線を掻い潜っていくその姿に憧れた。だが、そんなあの人にどこか似ていながらも正反対の印象を抱く相棒はどうしても好きになれなくて。何度もぶつかって殺し合った。 

 

 今も殺しは手段でしか無い。けれど、昔とは違う手段になっている。

 昔は"生きる為"。今は、己の敬愛する首領を――そして、そんなあの人が愛するこの街を守る為。

 

 「……まァ、手前には云っても分からねェだろうなァ」

 「なっ!? 貴様、私の頭が足りないと言うのか!」

 

 勇敢にも殴りかかってきた自称貴族令嬢をひらりとかわすと、ダクネスは不満そうに唇を尖らせた。つか短気過ぎねえか。今の一言でキレられるのは逆に才能だぞ。

 

 「……考えてたら眠くなってきた。悪ぃなダクネス、俺は先に寝る」

 「な……貴様は本当に、本当に! 私の扱いが荒いにも程が……。んっ……だがそれも悪くないな」

 

 此奴本当黙ってくれねぇかな。

 電気を消して布団に潜り込み――

 

 「おい手前何やってやがる」

 「ふふふ、この私を無下に扱ったことを後悔させてやろうと思ってな」

 

 金髪の変態女が覆い被さってきた。

 ……何故だろう。嘗て無い程の恐怖を感じるのは。

 

 「なあ待て、まずは話し合いを」

 「よくもこの私を馬鹿にしてくれたな? 代償は身体で払って貰うぞ」

 「いやいや、それ普通台詞逆じゃ……。何か酒臭くね?」

 「私は酒など飲んでいない。てきーらと書かれた瓶の中身を飲み干しただけだ」

 「莫迦野郎、それだよそれ! ってかおい、おま、なんでこんな力強いんだよ。こんな夜中に異能なんざ使いたくねェぞ?」

 「ならば使わずにされるがままにしているがいい!」

 「なっ、おい莫迦ふざけんなああああああああああ!!」

 

 その後、思わず110番通報をしたことで呼び出された市警の上層部である軍警に謝罪する羽目になり、その事がマフィア中に知れ渡って暫く任務に出られなかったのはまた別の話である。

 

                 ◇◆◇

 

 「ダクネス、チュウヤが可哀想じゃないですか。突然こんなに力の強い変態に襲われたら誰だって通報しますよ」

 「ち、力の強い変態……!? めぐみん、それは違う! 私が望んでいる罵倒では無い!」

 「もう罵倒を望むのをやめればいいんじゃねェのか?」

 「断る」

 

 夜の帳が下りる頃。

 俺、めぐみん、ダクネスは、再び三人で任務をこなしに来ていた。

 変態の度が過ぎるダクネスと睨み合いをしているが、本来ならばこんなことをしている余裕は無い程、今日の任務はかなり危険だ。この間の、ただ社長を殺せば良いという超絶イージーミッションとは訳が違う。

 

 「な、なあチュウヤ。イケナイパーティに潜入だなんて、それはなんて私好みな……! そう、きっと怪しいクスリを使った男どもが獣のような視線で私を舐め回すように見つめ……! 私をロープで拘束すると、『パーティは身体で楽しむモンだぜ』と言いながら――」

 「マジで黙れや変態」

 

 今まで会ったどの男のそれよりもキツい下ネタを、上気した頬で荒い息を吐きながら恍惚として吐き出す此奴は本当にヤバい気がする。男の俺ですら聞いていて恐怖を覚えるのだから相当なものだと思う。

 

 「パーティですか……私の爆裂魔法で全員爆死に追い込むのは駄目でしょうか」

 「それは俺の殺人行為に文句付けてた奴の台詞じゃ無ェだろ」

 

 ……とまぁ、ふざけた会話をしてはいるものの、今回の任務はぶっちぎりで荒事だ。

 一週間かけて横浜から近場の海をぐるりと回り、再び横浜に舞い戻ってくる単純な航路。船自体は問題では無い。船の中で行われる"社交パーティ"が問題なのだ。

 違法ドラッグ、人身売買、臓器売買、武器の密輸。日本の裏社会の犯罪事情を凝縮したようなパーティが、誰も手出しできない海上で一週間かけて行われるということ。

 

 俺達三人は、そのパーティに潜入し、タイミングを見計らって『ある人物』を殺さなければならないのだ。

 もっと単純に云えば、パーティの主催者を殺す任務だ。

 情報によれば、主催者は厄介な異能力者らしいが……。

 

 「ああ、森コーポレーションからご来訪の方々ですね! ええと、めぐみん? ……様、ダクネス様、中原様となっておりますが……」

 「おい、どうして疑問形なのか聞こうじゃないか!」

 「きゃあああ!? ちょ、ちょっ! どうして鈍器なんか持ってるんですか、しかも一応社交パーティなので正装してきて下さいと……。……そちらの金髪の方。鎧を着て何をなさるおつもりですか?」

 「手前らマジでいい加減にしろ! 俺がさっきドレス渡しただろうがあああああああ!!」

 

 ……もうこれは、敵の異能力を気にする以前の問題かもしれない。

 

 

 こうして、俺達三人の、俺にとっては史上最高に滅茶苦茶な任務が幕を開けた。

 

 

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