船内は予想通り、高級そうな黒いスーツに身を包んだ男が七割、高級そうなパーティードレスに身を包んだ女が三割といった様子だった。
男の外見はホストのようだったり如何にもなチンピラ風だったり誠実そうな青年だったりと様々だが、女の方はどうにも娼婦のような雰囲気を纏っているのは何故だろう。先程から女の粘つくような視線がまとわりついてきて鬱陶しい。
「チュウヤチュウヤ、かなり見られてますね。あ、あの女の人綺麗じゃないですか? どうですか、タイプですか?」
「あのなあ、そういう目的で来てる訳じゃねェんだよ。大体、此処に来てる女は多分殆ど自分の身体と目当ての商品を交換するつもりだろうよ」
「なっ、か、身体……! ……チュウヤ、まだ私は何も言っていないのだが、なぜそんな目で私を見るのだ」
「頼むからそのまま何も云わないでいてくれると助かる」
渡された鍵番号の客室まで向かう道すがら、男に甘い声で媚を売る女が掃いて捨てるほど居た。矢張り此処は"そういう"場所なのだ。めぐみんはともかく、ダクネスは放置しておくと危険かもしれない。
「おい、どうして今私をともかく枠に入れたのか聞こうじゃないか」
「だからなんで手前は人の脳内に割り込んでくるんだ?」
客室は三人で一部屋を使用する。マフィア本部ビルの俺の執務室を三人で過ごすのと同じ感覚だ。理由は勿論、此奴らを野放しにしておくと何を仕出かすか分からないから……ではなく、女二人をこんな場所に放り出すのは危険だからだ。別に此奴らを野放しにしたら船が爆発しているかもとか、気づいたら乗客全員からドン引きされているかもしれないとか考えた訳では無い。断じて。
「……さて。このパーティーの主催者を見に行きましょう」
「そうだな、どんな人間か把握しておくのが先決だろう」
客室に入り、少ない荷物を置き、慣れないドレスが窮屈らしい二人が二つあるダブルベッドの内の一つに勢いよく腰掛けた。めぐみんの黒いドレスのフリルが、ダクネスの青いカーディガンがふわりと揺れる。
主催者を見に行く、か……。
二人の言葉を聞いて、俺は一言。
「手前らには云ってなかったかもしれねェが、主催者は身分を隠してこのパーティーに参加している」
「「えっ!?」」
なんでも、このパーティーの主催者は厄介な異能力者で、裏社会でも懸賞金を賭けられている。しかしまだ面は割れていないらしく、異能力と名前、ぼんやりとした外見の特徴のみが知られているのだとか。それ故に、自分が主催者だとノコノコ名乗り出て殺されないよう、ひっそりとパーティーに紛れ込んでパーティーの状況を監視し、パーティーの進行自体は特別に依頼した人間にやらせているらしい。
そのことを二人に説明すると、二人は顔を見合せた。
「面倒臭いですね……チュウヤはどうやって探すつもりなんですか?」
「船の航行期間は七日間だ。最初の六日は地道に観察と聞き込み。異能者は雰囲気が独特だから、上手くいけば外見の大まかな特徴と照らし合わせるだけで見つけられる」
「ではもし見つけられなかったらどうするんだ?」
「……あまり気は進まねェが、最後の手段だ。最終日にやろうと思ってる。……これはその時になってから云う」
「「……?」」
首を捻るダクネスとめぐみん。この作戦を発表したが最後、二人は喜び勇んで最終日を待ち出すだろうからこの策は敢えて云わないでおくことにする。
「主催者の異能は、"キャンバスに描いた絵を現実にする能力"だ。但し、絵はプロ画家並の精度で仕上げないといけない。それが出来ない場合、異能は発動しない」
「ならば、一人一人に似顔絵を描いてもらうというのはどうだ?」
「いやいや、ここはやはり爆裂魔法が放たれる瞬間の絵を描いてもらうのが一番でしょう。私が見れば一発で見分けられます」
「手前俺の話聞いてたか? もしそれが現実になったらどうするんだ?」
「爆裂死……ええ、そんな華々しい最後ならば寧ろ望むところです!」
「莫迦野郎!」
俺に引っぱたかれた頭を押さえてベッドにダウンしためぐみんを無視し、ダクネスに話を振る。
「まあ、方法は色々ある。何の為に三人もいると思ってンだ、手分けして探す為だろ」
「だが、このパーティーは……」
目を伏せて不安そうな表情を浮かべるダクネス。云いたいことは分かる、こんな危険なパーティーは幾ら異世界の冒険に慣れたこいつらでもキツいものがあるだろう。
「無理はしなくていい。もし危険な目に遭いそうであれば、このインカムで……」
「こんなパーティー、興奮するなと云う方が無理だろう! 怪しいクスリで開発される女騎士……そして陵辱……ああどうしようチュウヤ、この状況に興奮してしまう私はもう駄目なのだろうか!」
「分かったインカムは要らねえんだな」
窓からインカムを投げ捨てようとした俺を、正気に戻ったダクネスが慌てて止めた。
◇◆◇
「インカムは着けたな?」
「ああ」「バッチリです」
「やることは、主催者探し。異能力は先程云った通り。外見は……詳しくは明らかにされてねェが、茶髪の若い男らしい。目立たないならどんなやり方でもいいから、自分にできる範囲でやれ。インカムで連絡をとる」
「了解した」「分かりました」
「じゃあ――そっちは任せたぜ!」
まずは初日。
初日は大したイベントは無い。夕食は広間に集まって行うバイキング形式というだけだ。
客室から出て、ダクネスとめぐみんとは反対の方向に向かう。
「あの、そこのお兄さん」
ふと声をかけられて振り向くと、そこには艶やかな顔立ちの女が居た。
こちらを向いて微笑んでいる。……まあ、目的は恐らくクスリか闇商品か……。
断ろうとした直後、女は意外な一言を発した。
「貴方のことは知っています。ポートマフィア幹部の方ですよね? 大丈夫、私は口は固い方なんです。……情報交換しませんか?」
「……拒否権は無ェんだろ?」
女はすぐ傍の空の客室に俺を招き入れる。
……調査開始早々、波乱の予感がした。
◆◇◆
「ダクネス、どうしますか?」
「そうだな……私は力には自信がある。いざとなれば相手を殴ってでも逃げ出せる筈だ。だがめぐみんは……」
「大丈夫ですよ、魔法使い職とはいえ私は高レベル冒険者です。普通の大人の男よりは力がある自信があります」
客室が多くある道へ進んだチュウヤとは反対の方向に進んだ私達は、広間ほどではないのだろうがそこそこ人を収納出来るスペースの部屋にやってきていた。数人の男女が仲睦まじく話しているように見えるが、その手には怪しげな白い粉が入った袋や大量の札束が握られていて。
「これは止めた方が良いのでしょうか……」
「貴方達、そこで何をしていらっしゃるのですか?」
ダクネスに判断を仰ごうとした瞬間、ダクネスはダスティネス家のララティーナお嬢様の仮面を被ってその中の一組に話しかけた。
微笑を湛えた気品のある巨乳美女に、男の方は瞬時に目がハートになった。
……何かいい策でもあるのだろうかと、あのダクネスに期待して事を静観していた私が馬鹿だった。
「あら、そのクスリ……良いですね。きっと貴方はこのクスリをそこの女性に飲ませた後、『覚悟はいいな』と彼女を下卑た視線で舐め回すように見つめ、薄いドレスを剥ぎ取ると……!」
「私の連れが大変失礼しましたっ!!」
紅潮した頬、荒い鼻息。豹変した美女の異常性に気づいた二人がダクネスから逃げ出す前に、私が先にダクネスを引っ掴んでその場から退散した。
……ごめんなさい、チュウヤ。早速やらかしてしまいました。
私は内心で、この船の何処かにいるであろう小柄な青年に土下座した。