この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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第16話 見えない敵との騙し合い(ライアーゲーム)

 一夜明け、三日目の朝。

 

 「どうかな幹部様、聞き込みの状況は?」

 「見て分かんだろ、最悪の状況だよ……」

 

 クリスの客室にて――俺はクリスと向かい合い、ソファに座って考え込む。

 ――昨日の『鷹野』は違った。主催者では無かった。何処にでも居そうな小物の犯罪者といった雰囲気だった。あれが異能者だと云うのなら樋口も異能者ということになるだろう。いや、寧ろまだ樋口の方が異能者だと云われても納得出来る。

 

 「で、手前はどうなんだ?」

 「私も船を回って色々気づいたことがあるんだよね。まずひとつは」

 「待て」

 

 俺はクリスの言葉を遮った。怪訝そうな顔をするクリスの目を見て云う。

 

 「もう正体がどうとか云ってる場合じゃねえだろ。……今からめぐみんとダクネスの所に向かって、集めた情報を二人に提供する。考えは多く集まる方が良い」

 「えっ……いやまあそうだけど……でもチュウヤ君、自首するには早過ぎるんじゃない?」

 「莫迦野郎、誰が彼奴らと一緒に牢に入るっつったんだ! 今情報を二人に提供するって云ったばっかじゃねェか!」

 

 俺に怒鳴られたクリスは「うう……でも正常なツッコミが嬉しい……助手君はいつもセクハラしてきたから……」とか何とかかなり怪しいことを口走っている。佐藤和真の周りにはこんなのしかいないのか? というか佐藤和真って大物過ぎねェか?

 

 「うーん……。……仕方ないなあ。"正体"バレたらキミが責任取ってよね?」

 「バレねぇようにすりゃいいんだろ。手前の演技に乗っかる。心配すんな」

 

 ということで、不安気なクリスを連れて牢へ向かう。牢は本来、パーティーの平穏な進行を阻害するような真似をした、凶悪で凶暴人間が入れられる場所なのだが……。ま、まあ、ある意味では凶悪だし凶暴だし、ダクネスを牢に入れた警備員の判断は正しいと云える。と思う。

 それにしても、いくら彼奴が悪いと云っても、正義感の強い彼奴を此処にいつまでも閉じ込めておくのは流石に可哀想だ。早く警備員に話をつけて出してやるか、と頬を緩めた時だった。

 

 「く、くうっ……! なんて、なんて縛られ心地の良いロープ!! ……めぐみん、何故このような物を持っているのだ?」

 「ええとですね……。……貴女のけしからん身体を締めつけてあげるためですよ!」

 「な……! そ、そんな……! 私は、私は一体どうなってしまうんだ……!」

 「何もさせねえに決まってんだろ」

 「「あっ」」

 

 牢屋の前に立った俺とクリスに冷めた目で見つめられたドS娘とドM令嬢は、ぴしりと効果音がつきそうな勢いで固まった。

 

                  ◇◆◇

 

 「えっとね、エリス様のお告げを受けて、目が覚めたらこの世界に居たんだ。やることはエリス様に指示されてたからあんまり苦じゃないよ……難しくはあるけどね」

 

 俺とクリスは今日までに得た情報を全てダクネスとめぐみんに伝えた。二人は先程のふざけた遊びを中断して真剣な表情で話を聞いていたが、一通り話し終えるとめぐみんが口を開いた。

 

 「その天使……どんなに雰囲気が独特だろうと、その神がかった力を持つキャンバスがあるのなら、雰囲気ぐらいは自在に変えられるのではないですか?」

 「「……あっ」」

 「気づかなかったんですね? そうなんですね?」

 「「鈍くてすいませんでした」」

 

 ……一瞬、めぐみんの瞳に鋭い光がよぎった、ような気がしたのだが気のせいか。

 めぐみんははぁと溜息をつき。

 

 「……貴方達だけでは少し時間がかかりそうですね。仕方がありません、私も行きます」

 「はァ? 行くっつっても、手前今牢屋の中だぞ?」

 

 問いかけながら考える。もしかしたら俺に頼むつもりなのかもしれない。そうしたらそのときは異能でサクッと鉄格子を歪曲させて隙間からめぐみんを出してやろう。

 ……しかし、めぐみんの判断は俺の予想の斜め上を行った。

 

 「ダクネス、出番ですよ」

 「うう……仕方が無い……」

 

 呼ばれたダクネスは頬を赤らめて鉄格子の前に立つ。そして鉄格子を握り締め……!

 

 「ふんっ!」――バキッ。

 

 嫌な音と共に、鉄格子が折れた。

 

 「「……」」

 「……よし、これで良いですね。さあ行きましょう」

 「めぐみん、ダクネスってこんなに力強かったんだね……知ってたけど知らなかった……」

 「……異能も無いのにこんなに力が強い女が居てたまるかああぁぁぁぁあ!!」

 

 俺は異能で鉄格子を蹴り砕いた。

 音に気づいてやって来た警備員に全力で土下座した。

 

                 ◆◇◆

 

 「ただ聞き込みをするだけではダメですね。こうなったら客室を一つ一つ点検して、キャンバスがあるかどうかを確認していきましょう」

 「よし分かった。クリス、手前はめぐみんと組め。中に客が居て、中に入れてくれないようであれば強行突破してもいい。ただ、殺すのはやめとけよ。後処理まで手を回せる可能性は低い。バレる確率が高くなる」

 「オッケー。じゃあ行こうかめぐみん!」

 「ええ。高レベル冒険者の力を見せてやります!」

 

 意気揚々と客室フロアに向かった二人。……めぐみんは力が強いアピールをしているが、本当に大丈夫なのだろうか。もしもの時は"スティール"やその他スキルを持っているらしいクリスがいるから大丈夫……か?

 

 七階建ての豪華客船。その内五階と六階が客室になっている。五階はめぐみん達に向かわせたので、俺が向かうのは六階だ。

 六階にある客室は二十。一日で調べ切れるだろうか。

 ……調べ切れなかったら明日も使うまでだ。脳内をチラつく弱音を振り払い、最初の客室の扉をノックする。

 

 「……どちら様でしょうか?」低い。……男の声だ。

 「警備の者ですが。重要危険物の所持者がいると発覚しましたので、客室点検にやって参りました。良ければ中へ入らせていただけないでしょうか」

 「嫌だね。何が重要危険物だ、このパーティーでそんな単語は子供の言葉遊びも同然だろう」

 「……拒否されるのですか?」

 「当然だ」

 「――なら仕方ねェな」

 

 次の瞬間、異能は使わずにドアを蹴破った。錠の破壊音を置き去りにし、ドアを破った勢いのまま、開かれたドアの正面に立っていた細身の男の腹に全体重を乗せた蹴りを食らわせる。

 男は声すら出せずに失神した。

 

 「はぁ……さて、部屋の中を点検するか……」

 

 こんな所でも結局最後は強硬手段に走るしかないという事実に苦笑しつつ、部屋の奥へ足を踏み入れようと――

 

 「――『エクスプロージョン』!」

 

 船が振動し、遠くの海上で核爆発かと見紛うような大爆発が起きた。

 ……聞き間違いでなければ、爆発音の一瞬前、聞き慣れた呪文の詠唱が聞こえたような気がしたのだが。

 見間違いで無ければ、美しく煌めく光の筋がワンフロア下の客室から遠くの海上に伸びて炸裂したような気がしたのだが。

 

 「彼奴ら早速何やらかして……。……まあいいか」

 

 俺は二人を見捨てて自分の仕事に集中することにした。

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