別サイトで二次創作書いてました笑
一夜明け、翌日……つまり四日目。
流石は違法なパーティー。参加人数は少なくはないが決して多くはないらしく、これだけ廊下を走り回っていても誰にも遭遇しない。今はそれが助かるのだが、逆に少し不気味でもある。
「めぐみん、あと何階だ!?」
「ええっと、今三階の廊下なので……あと二、三階ですね。どちらに居るかは分かりませんが……」
ああ、団体行動しなければならないのがもどかしい。二手に分かれて探した方が絶対早いだろうに。
けれど、どれだけ二手に分かれたくても、それはできない相談だ。……だって、恋人が私のことを心配してくれているのだから、できるはずないだろう。
「――待ちな、そこの君たち」
「「!?」」
廊下の端に設置されていた赤いコーナーソファ。そこに座っていた黒髪黒目の女の人がすっと立ち上がり、私たちの行く手を塞ぐように廊下の真ん中に仁王立ちする。
「な……んなんですか貴方!」
「いや待てめぐみん、この声は――」
「ふふふ……流石はダクネス。普段とは全然違う見た目なのに気づいてくれるなんてね……!」
そう言ったかと思うと、女の人は背後から取り出した黒い布をバサリと広げ……!
「あたしはクリス。本物のクリス。女神エリス様から指示を受けてこの世界にやってきたのだー! ……ね、ねえ、なんで二人ともそんな目であたしを見るの? そんな、親の仇でも見るような……ってああっ、やめてー! 髪引っ張らないで、変装じゃないから! 本物だからっ!!」
◇◆◇
「よく考えたら、クリスの一人称は『わたし』ではなく『あたし』だな。すまないクリス、さっきまであのクリスが偽者だと見抜けなくて……」
「ううっ……折角のパーティーだから髪の毛整えてきたのに……ぐすっ……」
「全く、エリス様から指示を受けてきたのだというのに、そんなザマとは情けないですね。髪の毛ひとつで大袈裟な」
「ねえ、この髪キミがボサボサにしたんだよ!? 何を真面目な顔してバカなこと言ってるの!?」
そして本物のクリスは話し始めた。
「あの天使、あたしの姿に化けて、話に信憑性を持たせることで、中原中也っていう強い後ろ盾を得たかったんだよ。チュウヤはこの世界の裏社会じゃ有名な異能者だからね」
「だが、どうしてそんなことをしているのか分からんな」
「そうですよね……偽クリスからちょこっと聞いた話だと、カズマに恨みがあるとかなんとか……」
「でも、それも偽者の自談だからね。事実かどうかは分からないよ?」
誰も居ない廊下を、三人で呑気に話しながら歩く。今私達が立っているこの船のどこかで、怪しいクスリのやり取りだとか、人身売買だとかが行われているとはとてもじゃないが思えない。
「……ということだそうですが、聞いていましたか、チュウヤ?」
「「!?」」
驚く二人を尻目に、右耳のインカムから返事を待っていると……。
『――なるほどな。そういうことか、クソ天使。いい加減に正体見せやがれ』
『ふ……バレてしまっては仕方が無いな。だがこの状況、貴様に手出しはできまい!』
『この野郎! 人間じゃねえからってンなことしていいとでも思ってんのか!』
『さあ、こいつを返して欲しければオレのここでの行動の全てを見逃すんだな!』
『くそ、あっ、ちょ待っ……。……あああああああああああああーーーーっ!』
「「「……」」」
切羽詰まった、インカムの向こうのチュウヤと偽クリスの会話に、ダクネスもクリスも何となく状況を理解したらしい。
「凄いなめぐみん。今の私達の会話をインカム越しにチュウヤに伝えたのか」
「ええそうです。さっきカズマにもそうしたように」
「えっ、めぐみんってば助手君とも繋がってるの? やるうー!」
……ダクネスの表情に影が射したように思えたのは私の見間違いだろうか。
というか、チュウヤが今どんな状況にあるのかぼんやりし過ぎている。詳細が全く分からない!
「チュウヤっ、チュウヤ! 今どの客室にいるのですか!?」
『……503』
「ごーまるさん! 二人とも、五階に向かいますよっ!」
「「了解!」」
私達は全速力で階段を駆け上がった!
◆◇◆
「……えっと……」
「チュウヤ。天使に人質を取られて逃げられた、という判断で良い……のだな?」
中也は紙のような顔色をしてそこにいた。
豪華な客室の窓際。海を覗くことができるその分厚いガラスにもたれかかり、焦点の定まらない瞳でさっきから一心不乱に……。
「あはは……母さん……俺の帽子は一体何処へ行ってしまったのでしょうか……」
「帽子を取られたぐらいで何を言っているのですか」
――帽子を人質に取られて精神崩壊した、ポートなんとかの自称幹部の頭を杖で殴りつけた。
「どうしようめぐみん、今のチュウヤは私が惚れそうなレベルで駄目男だ!」
「もう貴方は黙っていてください」
チュウヤの異能力は重力を操る、らしい。派手に使っている場面を実際に見たことはないが、その異能がどれ程強力なのかは本能で理解出来る。だからこそ、天使を捕まえる上でかなり頼りにしていたのだが……。
「うわあああああああああん! 俺の帽子があああああああああ!!」
「わっ、ちょ、窓叩かないで! キミ力強いんだから、割れちゃう! ああ! 窓ガラスにヒビが……!」
「くっ、お、落ち着けチュウヤ! それはなんだか私が望む駄目男では無いぞ……!」
放心状態から一転、泣き喚いて窓ガラスを叩き出した自称なんとか遣い。
……この分だと、帽子を返してもらうまで使い物になりそうにない。
「仕方ありませんね。クリス、ダクネス。今日一日だけ待って、作戦を練りましょう。あと、一日待てばチュウヤが元に戻るかもしれませんし」
「……それもいいんだけどさあ、めぐみん。まずはこの窓を直す方法を考えよう」
私は綺麗に無くなっている窓、再び放心状態になっているチュウヤ、慌てるダクネス、諦めたような表情のクリスを順番に眺めると……。
「待てめぐみん、爆裂魔法の詠唱を始めるな! ああもう、チュウヤはこんなで、めぐみんもこんな……! ああ、この状況まで楽しくなってきた私はもう駄目なのだろうか……」
◆◇◆
その日の夜。
……帽子を盗られたことはショックだったが、今はもう平気だ。腑抜けている暇などない。俺には任務があるのだ。
俺達は客室を分けて泊まることになった。なんでも、俺が窓ガラスを異能で吹き飛ばした部屋の主は今朝売られたばかりなのだと。悲しい裏社会事情だ。
俺が窓ガラスを吹き飛ばした部屋に俺一人。元の部屋に女三人。
変なやつらだが、性別から考えてこれが妥当だろう。
スマホで首領に報告のメールを送っていると……。
「……チュウヤ。少しいいか?」
「あァ?」
ドアをノックして部屋に入ってきたのは、ネグリジェ姿のダクネスだった。
ダクネスは何故か暗い顔をしている。
「何なんだ、こんな時間に。『私を罵ってくれ……!』とかつまらねェことほざきやがったら、そこの空いてる窓から海に投げ落とすぞ」
「ん……っ! そ、それも中々……」
「手前!」
「……いや、今回はそんな用事では無いのだ。少し頼みがあってな」
「はァ……? 頼みだァ?」
どうせろくでもない頼みなのだろうと身構えると、ダクネスは決意したように顔を上げ。
「私を……私を殺してくれ」
瞬間、俺は飲んでいた珈琲を噴き出した。