いや、やっぱり真面目じゃないかも。
自称貴族の娘、異世界で変態クルセイダーをやっていたと云う金髪の女は云いました。
「私を……私を殺してくれ」
「……手前、遂にドMだけじゃ飽き足らず自殺が趣味の駄目人間になりやがったか……」
「ち、違う! いや、私の言い方が悪かったかもしれないが……そういうことでは無いのだ!」
「じゃあどういうことか云ってみろやコラ」
するとダクネスは再び暗い顔になり。
「…………私の、恋心を殺してくれ」
「………………は?」
――聞いてみれば、意外とちゃんとした理由だった。
「お前には言っていなかったが……私はカズマのことが好きだ」
「ヘェ……あんな男のどこがいいんだか」
「最初は、彼奴が私好みの駄目人間だったから惹かれていったのだが……」
聞き捨てならない発言をした後、ダクネスはふふっと笑い。
「彼奴は弱い。ただの冒険者ではない、職業としての"冒険者"……まあ簡単に言えば、クルセイダーの私は騎士系統の上級職ということになるのだが、冒険者はあらゆる職業の最下層の職業だ。最弱職というヤツだな」
「お前が上級職ってことが驚きだよ」
「……なのに彼奴は、冒険者の特性を逆手にとって色々な職業のスキルや魔法を覚えて……私達に指示を出し、自らも動きながら魔王軍の幹部を次々に葬って。私が貴族の領主と結婚させられそうになった時なんか、領主の目の前に札束を撒き散らし、私を結婚式場から攫ったことだってある。力だけならばめぐみんにも及ばない程の弱さなのにだぞ?」
「おい待て、十四歳の女に力で負ける男ってヤバくねェか?」
「まあめぐみんもああ見えて高レベルのアークウィザードだからな。……そう。私は段々と、あの弱さでありえないことばかり成し遂げてしまう彼奴そのものが好きになっていた」
普段は変態で、口を開けばドM発言が飛び出すダクネス。
鉄格子を素手で折ったダクネス。
そんなダクネスが、瞳を潤ませ、真剣な表情で恋心を語っている。
……俺に殺しを止めろなどと莫迦な提案をしてくるぐらいなのだから、根は純粋で真面目なのだろう。
「だが、彼奴はめぐみんと付き合っている。そして私は彼奴に一度告白してはっきりフラれている。だからこんな私が彼奴に何かする権利は無い。二人とも私より年下だし、尚のこと横取りだの邪魔だのという真似はできない」
ダクネスの声が段々と震え始める。……これはもしや。何だかとてつもなく嫌な予感がする。
「なのにっ……なのに、めぐみんがカズマの名前を出す度に、カズマと秘密の会話をする度に、私の心はどうしようも無い嫉妬で満ちてしまうのだ! どうしてそこにいるのが私ではないのか。どうして私ではダメなのか。何度考えても分からないし……こんなことを考えてしまう自分が嫌になる……っ」
――とうとう、切れた。
その青い瞳から一筋涙が伝った瞬間、次々に大粒の涙が零れ落ちる。ダクネスは顔を両手で覆い、しゃがみ込んで身体を震わせた。
……俺は恋愛をしたことが無い。
幹部になる前まで、自分は人間ではないのだから真っ当な恋愛などする意味も必要も無いと思っていたし、人間だと分かった今であっても、マフィアであるという事実が重くのしかかってきて、誰かを心から愛する気になどなれない。
だから、佐藤和真を純粋に愛し、叶わない恋に涙する目の前の女が、ひどく綺麗なものに見えても仕方が無いだろう。
俺は黙ってダクネスを立たせ、近くにあった椅子に座らせる。その間もダクネスはただ泣きじゃくっていた。
「……今お前はそんな状態だから答えたくなければ答えなくていいんだが。……それで俺に恋心を殺してほしいってワケか。どうやって殺してほしいんだ? つーか恋心を殺すなんて方法あンのか?」
「…………多分、ひとつある」
暫くの沈黙の後、嗚咽混じりの声でダクネスが云う。そして無言で立ち上がり……。
「……ッ!?」
――俺の肩を強く押した。
先程まで傷心状態で泣いていた女の突然の奇行に、俺は為す術なくベッドに倒れ込む。背中とぶつかったスプリングが軋み、ギシッと嫌な音を立てた。
すぐさま体勢を立て直して反撃に移ろうとする前に、素早く俺の両肩と両太腿をそれぞれ手の平と膝で押さえつけたダクネス。……この位置を押えられては上手く動けない。いや待て、いくらこの位置を押さえられたからってこんなに動けないわけが……。
……。
「おい、お前太ってない癖になんでこんな重いんだよ……! まさか俺より重いんじゃ……」
「し、失礼な! そんなわけ……ない……と思う……」
「自信なさそうだな」
「うるさい!」
というかこれはどういう事だ。混乱していると、ダクネスがずいっと顔を近づけて。
「私を抱け」
「…………ダクネスさんすいません冗談キツイです」
「なんなんだ貴様! ヘタレか! マフィア幹部ともあろう者がそんなヘタレで良いのか! まさか童貞なのか!」
「違ぇわ莫迦! 何が悲しくて手前みたいなドMとワンナイトしなきゃなんねぇんだ! つーか俺達このパーティーであの天使捕まえなきゃならねェんだろ!? だったらこんなことしてる暇無いだろが!」
「言ったな!? 捕まえると言ったな!? 殺さないんだな!?」
「もうめんどくせえんだよ手前はあああああああああああ!!」
しかしまずい。このままだとダクネスに襲われてしまう!
打開策を考えている間にも、ダクネスは勝手に俺の服を脱がそうと……。
「……なっ、」
「!」
そうか、そういえばこの手があったか。
ダクネスが怯んだ隙に『ソレ』を握ると、ダクネスの首元に突きつけた。
「退け。死にたくなければな」
――俺のベルトに手をかけたダクネスが目にしたのは、ベルトのウエストポーチに入ったナイフだった。
その鋭利で危険な輝きに一瞬目を奪われたダクネス。俺はそのナイフを抜いたのだ。
「……そんなに私が嫌か? 一応満足はさせられると思うのだが……」
「そーいうことじゃねェよ。過去の恋愛を忘れたくて襲いかかってくるような痴女はお断りだって云ってんだ」
「誰が痴女だ、誰が! ……それに、」
そんなに私を甘く見てもらっては困る。
ダクネスは不敵な笑みを浮かべると、上体を逸らしてナイフの届く範囲から首を脱出させると同時に、俺のナイフの刃を素手で掴んだ!
「おい莫迦、怪我……!」
するぞ、と云いかけて言葉を呑み込む。……ダクネスの掌には傷ひとつついていない。
「悪いが、硬いのが取り柄のクルセイダーなのでな。こんな危険な物は捨ててしまおう」
「あっ」
ダクネスはナイフを取って投げ捨て、再び俺を押し倒し……!
「ダクネス何やってんの!?」
「この痴女どうにかしてくれクリス!」
俺は部屋の扉を開け放ったクリスに全力で助けを求めた。
あと一、二話でパーティー編終わるつもりです。