俺の名は佐藤和真。
めぐみんの爆裂魔法の衝撃でなぜか日本に飛ばされ、憂さ晴らしに子供と遊んでやった直後――
「待てこの野郎!! 街中で異能の乱用をするのは禁じられているんだぞ!!」
「なんなんだよ一体……!」
スーツ姿の男に追いかけられています。
イノウの乱用? 俺が乱用したのはスキルであってイノウとやらでは無いのでセーフでは?
最初にそう説明したが、「屁理屈言うな」と一蹴されてしまった。この野郎!
しかも最悪なことに、
「カズマっ、なんなんだこの状況は! そうか、恐らくこの男は私を追いかけて捕らえ、「反省しろ」と言いながら私に様々な辱めを……! くっ、やれるものならやってみろ! 私はそんなものに屈しは――!」
「この変態女! 男性から『変なことを言いながら追いかけてくる金髪の女がいる』と泣きながら通報を受けて来てみれば、こんな意味不明な女が……! 全く今日はどうなってるんだ!」
「この馬鹿ドM! お前は一体何をやってんだ!」
「お前もだ畜生おおおおお!!」
……まあ、その通りにダクネスは痴女行為を働いていたらしく。俺が声をかけられた時、偶然現れ、二人揃って追いかけられる羽目になったのだ。
ここで捕まったらどうなるか分からない。俺は逃走スキルをフルに使って逃げ続ける。ダクネスは持ち前の体力で必死に俺の後を着いてくるが、鎧がかなり重そうだ。
「ダクネス、その鎧を捨てろ!」
「いっ、嫌だ! 鎧が無ければ私はクルセイダーでは無いじゃないか!」
「変なプライド持ちやがって……!」この女はこれだから!
もう逃げるのも限界な気がしてきた。スーツ姿の男は身体能力が高いらしく、徐々に俺達との距離を詰めてきている。
……こうなったら仕方がない。
「『バインド』!」
「「なっ……!?」」
俺が背後に投げた特注ワイヤーが命中し、ダクネス諸共スーツ姿の男を拘束した。
「馬鹿野郎! なんでお前まで縛られてんだよ!?」
「すっ、済まない……私のことはいいから、他の二人と合流してくれ! またいつか会おう!」
凛々しい台詞を吐きながらも、ダクネスの頬は上気している。……もうやだこのドM。
「もう二度と会うことは無いかもな」
「ちょっ、カズマ!? 冗談も程々に……なあ、冗談だよな!? カズマ!」
俺は二人を縛ったままその場から全力で退避した。
◆◇◆
「うーん……」
椅子に縛り付けられた私を見て、黒髪の男性は一言。「ちょっと歳をとりすぎかな」
「おい、私が歳をとりすぎとはどういうことか説明してもらおうじゃないか!」
「首領、どうしますか。街中で大規模破壊異能を使用した少女なんですけど」
少年が堅い口調で黒髪の男性に問う。……ロリコンの癖して、このヤバそうな組織の長を務めているらしい。
……あの後。爆裂魔法をぶっぱなしていつも通りぶっ倒れた私を少年が担ぎあげ、超運動能力で建物の屋上を次から次へと飛び移り、この綺麗なビルに入った。エレベーターを見る限り、ここが最上階のようだ。
それにしても、大規模破壊……イノウってなんだろう。私が使ったのは爆裂魔法であって、イノウなんかではないはずなのだけど。
首を捻っていると、首領と呼ばれた男性は苦笑して。
「そんな異能者が居たらとっくに報告が入っていると思うんだよねえ。……君、名前は?」
「めぐみんです」
「「……」」二人は顔を見合わせると、目と目で何かを語り合った。
「えーと……めぐみ、じゃなくて? めぐみんに聞こえた気がするんだけど――」
「めぐみんです」
「「……」」二人の顔が明らかに呆れを含んだそれになる。
「おい、私の名前に何か文句があるのなら聞こうじゃないか!」
「「なんでもないです」」
……というか、帽子の少年に対しては一度名乗ったと思うのだけれど。まさか、信用されてなかった?
とまあ、なぜか私が名乗ると起こる恒例のイベントはさておき。
首領とやらは矢継ぎ早に私に質問の嵐を浴びせかける。私は優しいので質問全てに真面目に答えてあげた。
「紅魔族です。爆裂魔法が好きで、それ以外の魔法は覚えていません。レベルは現在四十超え、パーティメンバーは冒険者のカズマとクルセイダーのダクネスとアークプリーストのアクア。あっ、ちなみに私はアークウィザードですね。住んでいるのはアクセルという街なのですが、ここはどうやら違う場所のようですね。アクセルへの帰り方を教えてください」
「「……」」二人は本日二度目の視線会話を行うと。
「な、なあ、それって手前が創った物語の設定とかじゃ――」
「何を言っているんですか。そういうのが好きな子が紅魔の里に居ますけど、良ければ紹介しましょうか?」
「……いや、もういい。悪かったな」
少年はばつが悪そうな顔で私からほんの少し距離をとる。微妙に失礼な気がするのは気のせいか。
そして少年はそのまま首領の傍に行き、何やらひそひそと話し始めた。
結論が出たのか、少年が一歩前に出る。
「あー……手前のことはよく分からねえが、一度こちら側に来てる以上、マフィアの一員になってもらおうと思う」
「まふぃあ? なんですかそれ。この組織の名前ですか?」
「その通り。君のその力は、私達"ポートマフィア"に多大なる貢献をしてくれるだろうと思ってね。勿論、異論は認めないよ。宜しいかな、めぐみん君?」
「……ポートマフィアって響き、かっこいいですね」
「「えっ」」
素直に褒めただけなのに、なぜか二人に引かれた私はおかしいのでしょうか。
……後にこの二人は、「あれは普通怖がるところだ」とか何とか言ってくるのだが、それはまた別の話。
◆◇◆
――で、自身を女神だと名乗る変わった女の子を仕方無く社員寮に連れ帰って来た訳だけれど。
「その人は誰」
「ちょ、ちょっと何よ! 私より年下の癖に、脅迫なんて卑怯な真似しないでくれますー!?」
「えーっと……」
案の定、と云うべきか。
アクアさんは、部屋に入った瞬間、鏡花ちゃんの検問(物理)――小刀を首筋に突きつけられる――を受けていた。
騒ぐアクアさんと、静かな殺気を漲らせる鏡花ちゃん。……これはまずい気がする。
「鏡花ちゃん、待って。この人は敵じゃないよ……多分」
鏡花ちゃんの小刀を掴んでそっと下ろすと、アクアさんは青い顔で飛び退いた。
「もう、女神相手になんて乱暴な! 水溜まりが道路を塞いで通れない天罰を下すわよ!」
「それは天罰じゃなくてただの不運」
「……アクアさん、お願いですから黙ってください……」この人、太宰さん以上に厄介かもしれない。
僕はアクアさんと鏡花ちゃんを連れて茶の間に行き、ちゃぶ台を持ってきて三人分のお茶を淹れた。
アクアさんはそれを飲んで一言。
「お湯なんですけど」
「え? いや、ちゃんとお茶を――って、ほんとだ……」アクアさんの湯のみの中で、水が蒸気を立ち昇らせている。誰がどう見ても白湯だ。
慌てて淹れ直すと、一口啜ったアクアさんが一言。
「お湯なんですけど」
「あの、流石におかしくないですか!?」
「……うふふ。可哀想だからネタばらしね」
アクアさんはケラケラ笑って、鏡花ちゃんの湯呑みに指を突っ込んだ!
瞬時にして鏡花ちゃんの目尻がつり上がったので、「今度橘屋で奢るから!」と云って宥める。……僕のお財布が……とほほ。
「ちょ、アクアさん……」
「私、水の女神だから。どんな液体でも、触れた瞬間に真水にしちゃうのよ」
「……」
敢えて何も云わずに鏡花ちゃんが湯呑みの中身を飲み干し。
「……お湯になってる」
「えっ、でも僕はお茶を……」
「これで分かった? 私が女神だってこと」
「……」
考えられる可能性はひとつ。……アクアさんが、水を操る異能者であるということ。
鏡花ちゃんと目配せする。考えていることは恐らく同じ。
異能者ならば話は早い。……僕のことを知っていて接近してきた敵かもしれないのだ。
こんな、何も考えてなさそうな顔をしてるけど、実は敵組織からのスパイかも……。
「あ、あと、職場も紹介して欲しいわね。流石に無職のままここに居座りたくはないし。良ければ明日にでも貴方達の職場を紹介して欲しいんだけど、いいかしら?」
「「……」」
……職場を紹介して欲しがる敵も居るなんて、困ったものだ。
僕と鏡花ちゃんは思わず顔を見合わせて苦笑した。