この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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結構長めです。


第21話 最後はやっぱり爆裂魔法(エクスプロージョン)

 「ったく――しょーがねえなあああああああ! 行くぞお前ら!」 

 

 嬉々とした声音と表情で。とてつもなく弱く、ズルく、下品で、男の風上にも置けない……けれど、こういう時にはとてつもなく頼もしい、私の片想いの相手は元気良く右手を突き上げ、背後の私達を振り向いた。

 私とめぐみん、クリスにチュウヤ。珍しい組み合わせで、がらんどうのパーティー会場内を駆け抜ける。

 

 「なあ、何で彼奴が仕切ってんだ?」

 「さあ……。まあ、今回の作戦立てたのって助手君だしね。それに、助手君に任せておけばなんか大抵のことは上手くいくっぽいから大丈夫だよ」

 「……不安でしかねェ……」

 

 後ろからチュウヤの不安気な声が聞こえる。だがこれはクリスの言う通りだ。きっとこの中の誰よりも弱い此奴は、この中の誰よりもありえないことを成し遂げた回数が多いだろう。

 冒険者にして職業冒険者。スキルは多彩だが効果は本職に劣る。それでもカズマは、私達の尖った力を上手く使いこなし、自らの弱いスキルも巧みに使って、目の前に立ちはだかる敵を確実に討ち取っていった。

 

 ――こんな男、惚れるしかないだろう。

 

 「あ、おい待て! カズマ、そこに罠が……!」

 「分かってる!」

 

 チュウヤの制止の声を振り切って、カズマは走りながら軽く跳躍する。次の瞬間、カズマが先程まで走っていた床から鉄の突起が飛び出した。後ろから続く私達はチュウヤとカズマのお陰でその罠を軽々かわすことが出来たのだが……。カズマには罠感知のスキルがあるが、チュウヤは何故罠だと分かったのだろうか。

 

 「チュウヤ、どうして罠があると分かっていたのですか?」

 「……彼処だけカーペットの色が違ったっつーのと、カーペットから殺気を感じた。あとは勘だな」

 「……」

 

 めぐみんはそれきり口を噤んでしまった。

 これがポートマフィア幹部なのか、という驚愕の色を押し殺した表情。普段は私達に注意ばかりしてくる引率係という印象しか無かったが、やはりチュウヤもまた強者だということを実感したらしい。私も同じだ。

 

 ――そこからは罠との戦いだった。

 

 天井から鋭利な金属片が降り注いできたり。単純な落とし穴、両側から私達を押し潰そうと迫ってくる壁――。天使がキャンバスで具現化したらしい罠が次々と私達を襲う。

 

 「くっ、な、なんて卑劣な罠なんだ……! きっと此処で私を罠にかけ、捕らえ、日頃の鬱憤を私の身体で晴らす気なのだろう! やれるものならやってみろ! 望むところだ!」

 「お前今望むところだって言っただろ」

 「ああ言ったとも! それがどうしたのだカズマ!」

 「……とうとう開き直ったな……」

 

 その場にいた全員から呆れたような冷たい視線を注がれ、私は思わずぶるりと震える。くっ、この感覚、堪らない……!

 

 「ねえ助手君、あれじゃないっ?」

 

 そうして走って走って走り続けた先に見えてきたのは、絶対にこんなもの無かっただろとツッコミたくなるような重厚な扉だった。

 黒地に金の装飾が施されたその扉。……どう考えてもこの先に天使がいる。

 

 「よし、お前ら作戦は分かってるな?」

 

 カズマの言葉に皆が頷く。カズマはそれを見て満足気に笑うと、

 

 「相手は天使だ。たかが天使だ。キャンバスに描かなきゃ力すら使えない雑魚天使だぞ。全員、全力でかかれ。準備はいいな?」

 「勿論です!」

 「おっけーだよ!」

 「望むところだ!」

 「マフィア幹部の本気、見せてやるよ!」

 

 「よし。じゃあ、突撃――!」

 

 サッと左右に分かれた四人。空いたスペースに私が突っ込み――重厚な扉がバキバキに両断された瞬間、背後から黒い影が飛び出した。

 その影はまるで重力など存在しないかのような軽やかさで部屋の中に降り立つと、黒いマントを翻し。

 

 「ポートマフィア幹部、中原中也だ。首領の命令で、ちょっくら面倒な異世界からの客をもてなしに来てやったんだが……俺の帽子を盗りやがった手前がそうなのか?」

 

 突き出した右手の人差し指を、部屋の奥の椅子に腰掛けている白いローブの青年に突きつけた。

 

 「な、か、カッコイイ……! 仮面盗賊団の人達と同じくらいカッコイイです! なんなんですか、あの人紅魔の里に招いたら絶対人気者になれますよ!」

 

 ……チュウヤに少しだけ同情した。あんな辱めをするような里の住人に人気が出そうなど、屈辱以外の何物でもない。

 

 「へえ、マフィア幹部? そんな貴様が、オレにこの帽子を簡単に奪われたのか? ……この帽子はただの帽子じゃない。貴様が『切り札』を使うのに必要な物だ。そうだろう?」

 「……!」

 

 中也の表情が苦々しげに歪められる。中也の切り札――それが一体何を指し示しているのか私には分からなかったが、重要なことではあるのだろう。

 しかし腐ってもマフィア幹部。その表情も刹那のことで、チュウヤはすぐさまいつものニヒルな笑みを浮かべた。

 

 「それはどうだかな。さて……そろそろ手前もただのおしゃべりには飽きてきたんじゃねえか?」

 「フン。マフィア幹部がなんだ、異能力者がなんだ。此方には現実操作の神具が――」

 

 天使の言葉が途切れる。

 天使はキャンバスを取り出そうとしたその体勢のまま、部屋の最奥の壁にめり込んでいた。

 

 「「なっ……!」」

 

 これには私達も驚くしかない。なんだ、一体何が起きたと言うのだ?

 

 「ハッ。異世界がなんだ、天使がなんだ。その程度で俺を倒せるとでも思ってたのか?」

 

 振り出した脚をそのままにふわりと着地したチュウヤを見て、瞬時に状況を理解する。

 チュウヤが天使を蹴り飛ばしたのだ――視認できないようなスピードで。

 

 「……おいカズマ。クリス。お前ら自分の役目忘れてんじゃねェだろうな」

 「……あ、そ、そうだったっ」

 

 じろりと背後のカズマとクリスにチュウヤの呆れた視線が向けられる。……目の前でこんな芸当をされたら誰だって注目してしまうだろう。

 

 ――今回の作戦の概要はこうだ。

 

 チュウヤが天使と戦闘。その隙にカズマとクリスが天使にバインドをかけ、私が天使からキャンバスを奪う。めぐみんはチュウヤのスマホで状況をリアルタイムでマフィア本部に送る。これで天使を確実に捕獲できる。

 ちなみに、当初の天使を「殺害」という計画はマフィア本部からの通達で帳消しになり、無傷で捕らえて本部に連れていくという形になった。……めぐみんが拷問班の誰かを「もしこの話を通さないとすれば、何かの呪いでマフィアのビルが爆裂するかもしれませんよ」と脅迫したとかいう話は嘘だと思いたい。

 

 「後は頼んだぜ異世界組!」

 

 チュウヤはそれだけ言うと、壁にめり込んだ天使に追撃をかけるために異能でふわりと浮いた。黒いマントが翻り、天使の方へ向かっていく。

 

 「……すげえなあ。異能力者って」

 「うむ、あれならば私達の世界でも優秀な戦士としてやっていけそうだな」

 「それはそうと助手君、結局めぐみんは使わないんだ?」

 「そうですよ。私も爆裂魔法を使いたいです」

 

 チュウヤに任せておけば取り敢えず安心だと分かった私達が好き勝手に喋ると、カズマは腕を組み。

 

 「いや、まあ使わずに捕らえられるならそれでもいいんじゃないか? ってか使ったら消し炭になるだろ」

 「大丈夫ですカズマ。彼奴からキャンバスを奪い、あの天使が爆裂魔法で瀕死の状態になる絵を描けばいいのですよ」

 「…………お前ってホントこういう時だけ頭働くよな」

 「おい、それはどういう意味か聞こうじゃないか!」

 

 勝利ムードが漂い、めぐみんが怒って杖を振り上げてツッコむような余裕が出てきたその時だった。

 

 ――吹き飛ばされたチュウヤが私達の目の前の地面にめり込んだ。

 余程勢いが強かったらしく、チュウヤの身体を中心とした小さなクレーターが出来ている。

 轟音と煙に目と耳を覆いながら、衝撃の隙間に響いたチュウヤの声を聞き取ると……。

 

 「……クソ天使……キャンバスで"荒覇吐"を具現化しやがった……あのキャンバス何でもアリかよ……」

 「アラハバキ? おい中也、アラハバキってなんだ?」

 「……獣だ。重力の獣。この世に存在するだけで周囲の生命を損なう――」

  

 何言ってんだめぐみんモドキ、というカズマの声なき声を私は聞いた。

 ……けれど、それよりも先に大気を震わせたのは咆哮だった。たった一度の咆哮。獣の産声が、部屋のステンドグラスや窓ガラスを粉砕する。

 

 ……。

 

 「どうしようカズマ、あの獣は何かダメだ! 全くそそられない!」

 「安心しろ、あの獣よりもお前の方が遥かにダメだ! この状況でバカみたいなこと言ってんじゃねーよド変態が!」

 「んっ、そ、それは……! そんな罵倒、なんというご褒美!」

 「頼むから黙ってくれ。……で、中也。あれを倒す方法は?」

 

 く、冷たい反応も中々良い……。私がカズマのご褒美、じゃなかった罵倒を味わっていると、チュウヤがゆっくりと起き上がった。

 

 「ある。これに近い現象が起こった時、その方法で倒した」

 「だったらそれでいいじゃん」

 「…………帽子が無いからできない」

 

 ……あの帽子は結構重要なアイテムだったらしい。

 静まり返る一同。再び咆哮の準備を整える獣。

 絶体絶命のように思われたのだが……。

 

 「……あれ?」

 

 声を上げたカズマが指を突き出す。

 その先にあったのは、咆哮で破壊された家具や小物の中で唯一無傷を誇っている白いキャンバス――

 

                   ◇◆◇

 

 私達は飛んでいた。

 真昼の強い日差しを受け、眼下に広がる煌めく海を見つめながら。

 

 「凄いなチュウヤ……。こんなこともできるのか」思わず感嘆の声を漏らす私。

 「……帽子がなくて、あの天使倒せなくて悪かったな」暗い声のチュウヤ。

 「根に持たないでよチュウヤ。倒す方法が見つかって良かったじゃん」そんなチュウヤを励ますクリス。

 「なあ、本当に倒せるのか?」

 「当たり前だろ。これに耐えられたやつを俺は見た事がない」カズマはチュウヤの疑問に堂々と答え。

 

 「――この私とこれがあれば、敵はいませんね。どこからでもかかってくるがいい!」

 

 紅く瞳を煌めかせためぐみんがそこにいた。

 

 ……作戦は再び始まった。

 キャンバスという名の神具的道具は回収したので、マフィアに現状を報告し、「あまりにも危険だからそいつはもう殺していいよ。でもね、そのキャンバスは解析させて欲しい」と首領からの条件を貰った。

 そして、部屋の中にあったカーペットに全員で乗り、チュウヤが重力を操って空飛ぶ絨毯を再現して今に至る。

 私達は、カーペットに乗って飛んでいた。

 

 ――チュウヤ曰く「倒せない獣」を倒す。方法は簡単だ。

 めぐみんが爆裂魔法を撃つ。それでも足りなければ、マナタイトを使ってもう一発。足りないなら追加でもう一発。それでも足りないなら……と、魔王戦の時のように何回でも撃ち込む作戦だ。けれど今回は数に限りがあり、今持っているのは四つだけ。四つプラスめぐみんの一発で決められなければどうしようも無い。

 

 「安心しろダクネス」

 「……!」

 

 私の不安をくみ取ったのか、カズマが振り向いてニヤリと笑ってくる。

 

 「こういう場面で、俺がいて失敗したことがあったか?」

 「失敗だらけのような気がするが……」

 「おい」

 

 ……あのままが良かった。

 

 四人でバカみたいに騒いで、問題を起こして笑い合う。四人で平等が良かった、あの時の私。

 

 「では、いきますよ――!」

 

 めぐみんの詠唱が始まる。魔力が少ないこの場所で無理に魔力を集め、その上体内からも無理な量の魔力を引き出そうとしているからか、めぐみんの周囲でパリパリと静電気が生じ始める。

 

 ――でも今は、このままがいい。

 カズマとめぐみんが付き合っていても。

 

 「おい、それで俺の帽子消し飛ばされたりしねえよな……?」

 「……チュウヤ、覚悟しとけよ」

 「うああああああああああーーーっ!」

 

 それでも、カズマもいて、アクアもいて、めぐみんもいて、私がいる。

 どんな関係になっても、私達は私達だ。

 だって、あの夜熱烈に告白したはずの私に対して、こんなにも悪戯っぽく笑える此奴がいるから。

 

 「いきますよ――『エクスプロージョン』っっ!」

 

 一発――重力をも捻じ曲げる魔力の奔流が、重力によってところどころ押し潰された船の上に浮かぶ獣に直撃し、文字通り爆裂する。

 けれど足りない。獣は生きている。

 

 「まだまだっ……『エクスプロージョン』っ!!」

 

 足りない……まだ足りない!

 残るマナタイトはあと二つ。

 

 「はぁぁあ……『エクスプロージョン』っ!」

 「まだだめぐみん! お前の力はそんなものなのか! なんちゃって紅魔族のまま終わっていいのか!?」

 「カズマ……いくら恋人といえども、今の発言については後で問い詰めますからね……!」

 

 そしてもう一発。……マナタイトはもう無い。

 獣を見れば、苦しそうに身を捩って――キャンバスの効果が切れかけているのか、数秒に一度、砂煙のようなものに混じって元の天使の姿が見える。

 

 「めぐみん、やっちゃえ!」クリスの声援と。 

 「やっちまえ!」カズマの野次と。

 「ここでやらねえと、もう誰も止められねぇぞ!」チュウヤの叫びと。

 

 「めぐみん……倒せ!」

 

 私の最後の叫び声は、めぐみんの高らかな声によって掻き消された。




違法パーティー編しゅーりょー。
クリスを活躍させられなくて残念。でもこれからストーリーに関わらせていきたいと思ってます。このストーリーでダクネスの恋心に決着を着けられた(?)かなと思っております。

次回からは探偵社側。バリバリのコメディ寄りでいきます!
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