(訳:感想を下さること……本当に嬉しいです。ありがとうございます!!)
カズマ君、アクアちゃん、太宰さん、乱歩さん、鏡花ちゃん、谷崎兄妹の内、カズマ君とアクアちゃんは血相を変えて社から飛び出して行き、太宰さんは瞳を輝かせながら二人の後を追い、残りの四人は真顔のままその場から動こうとしなかった。
「えっと……皆さん、行かないんですか?」
「どーせあの二人絡みでしょ。行く気になんない」
「私もそう思う。行くだけ無駄」
「ボクが行っても出来ることは無いんじゃないかな……」
「私は兄様と一緒にいますわ♡」
つまりこの人達はカズマ君とアクアちゃんを見捨てたようだ。
……困ったなあ、最近カズマ君とアクアちゃんがとてつもなく厄介者扱いされてる気がする。それこそ太宰さん以上に。
「じゃあ僕だけでも様子見に行ってきます」
「気をつけてー」
乱歩さんの気の抜けるような見送りの言葉を背に、会議室の窓から飛び出した。
重力を受けて落下する最中に異能を発動、脚だけを虎化させて着地する。虎の脚が全衝撃を吸収してくれた。
「それにしても……」
人がいない。大通りに面している探偵社の周りはいつも多くの人で賑わっているものなんだけど……これはおかしい。
お店のシャッターも見事に全て下りている。そして貼り紙、『異常事態により一時休業』。……異常事態……カズマ君とアクアちゃんが関わっていると見て間違い無いだろう。
「クソ……アクア! スマホ貸すからめぐみんと連絡取ってくれ、俺はこいつらの出処を探る!」
「はあ!? ちょっと待ちなさいよ、あの子誰に断ってスマホなんていう羨ましいもの持ってるのよ! 私にも買いなさいよ!」
「今はそれどころじゃねえだろボケがあああああああ!」
人を求めて全力で走り、ある角を曲がった瞬間――視界が緑色の大群に埋め尽くされた。
「え……!?」
……数秒間を空け、ようやく脳が状況に追いつく。
キャベツだった。
大量のキャベツが、ひとつの方向目掛けて飛翔している。その緑の大群に体当たりされながら、道路の真ん中に必死に立っている探偵社の迷惑代表の二人。
ちょっと何云ってるのか分からないと思ったそこの君。僕がいちばん分かってない。
「ねえカズマさん、このスマホおかしいの! 『一時間後にもう一度試行してください』って表示されたまんま動かないの!」
「このバカ! 個人情報保護のために、パスコードを何回も間違えたらそうなるようにプログラムされてんだよ! ……ってお前何回間違ったんだ? この短い時間の間に何回パスコード解除しようとしたんだ?」
「女神の私にかかれば錠前破りと時間短縮なんてお手の物よ……痛い! どうして殴るのよカズマ! 酷いじゃないの痛いっ!」
こんな状況でもいつもと変わらない阿呆なやり取りをする二人に駆け寄って。
「二人とも、このキャベツは何なの!?」
「これは私達の世界のキャベツよ。私達の世界の野菜はこっちの世界の野菜と違って逞しいの」
「逞しいとかそういう問題?」
「この前探偵社にも話しただろ、具現化キャンバスで俺達をイジメてるヤツがいるって。多分そいつの仕業だ」
「なるほど……ところで太宰さんは何処にいるのか分かる?」
二人は僕から微妙に視線を逸らしながら、ある一点を指さした。
……歩道の端に、頭に大きなタンコブを作った太宰さんが倒れていた。大方、キャベツの内の一匹に激突されたのだろう。
「あ~くそっ、めぐみん呼んで爆裂魔法で一掃してもらおうと思ったのに……お前のせいでスマホが使えないじゃねーか!」
「う、うううるさいわよクソニート! いいわよいいわよ、どうせまた私のせいで街に被害が出て借金負うことになるんでしょ! もういいわよ、殺すなら殺せー!」
「駄目だよアクアちゃん、このままだと本当に死んじゃうから! キャベツが死因になっちゃうから!!」
僕の異能ならこの規格外のキャベツ相手でもある程度は粘れるかもしれないけど、この数の多さは流石に無理だ。迷っている間にもキャベツは一点を目指して飛び続け、その過程で街のあちこちに滅茶苦茶な破壊を振り撒いている。店がシャッターを閉めているのはこれのせいらしい。
もうどうしようも無いのか――思わず探偵社の皆と連絡を取ろうとした時だった。
「あら、こんなのの為にウチが休業しなきゃならないの? 笑わせるじゃないの、トラ猫ちゃん」
聞き覚えのあるソプラノが高らかに響く。目を凝らすと、キャベツの大群を意にも介さず仁王立ちしている少女の姿が。
「あ、あれは……!」
フリルのついたドレス。真紅のお下げ髪。細くて白い足と腕、緑色に煌めく瞳。
嘗て僕達探偵社を苦しめた、空間系の異能者。そして今は、喫茶渦巻きでバイトをやっている――
「最近、探偵社に訳の分からない新人が入ったそうじゃない? その新人のせいかしら、この頃変な爆発が起きてるのは。だったらこのキャベツも、そこの二人に関係してるわよね?」
少女は流麗な動作で右手を上げると、親指をパチンと鳴らす。
先程まで勢い良く進軍していたキャベツが、倒れている太宰さんが、喧嘩をしていたカズマ君とアクアちゃんが、何も出来ずに呆然としていた僕が、そしてその少女本人が、怪しげな桃色を基調とした異空間に立っていた。
「は……!? な、なんだよこれ!」
「変なキャベツは全部ここに閉じ込めたわよ。そして、この空間は私の王国。アンを傷つけることはまかり通らないの」
背後にツギハギだらけの異能人形を従えた少女……モンゴメリちゃんは不敵に笑い、戸惑っているキャベツとカズマ君達をよそに僕に歩み寄ってきた。
「ありがとう、モンゴメリちゃん。君が居なかったら横浜は滅茶苦茶になってたよ」
「べ……別に、お礼を云って欲しかったわけじゃないわよ。ただ、こんなキャベツのせいでウチの店の収入が減るのは納得が……」
顔を赤くして俯くモンゴメリちゃん。出会い方は少し過激だったけど、この子は本当に優しい子だと思う。
「カズマさんカズマさん、新しいタイプのタラシがいるわよ。職人技よ。これはきっと天然純粋系タラシね」
「うっ……カツラギと違って全く腹が立たねえ……」
……背後からなにか聞こえたような気がしたけど、気のせいだろうか。
「とにかく! あたしのアンだけを頑張らせるなんて駄目よ。アンが可哀想。そうね……敦と、そこの迷惑組!」
「誰が迷惑組だクソ女、迷惑なのはこの駄女神だけだろうが!」
「そうよそうよ、私達は迷惑なんかじゃ……。……ねえカズマ、今私のこと迷惑って言った? 言ったわよね?」
「ちょっと、喧嘩してないで話を聞きなさいよ!」
本日何度目かの喧嘩を始めた二人を叱りつけ、モンゴメリちゃんは云った。
「この空間の中にいる限り、基本的にはアンが守ってくれるから……貴方達もこのふざけたキャベツ退治を手伝ってよね!」
モンゴメリちゃん、僕、カズマ君、アクアちゃんが臨戦態勢に入る。
探偵社の皆……今から僕は大真面目な顔でキャベツと戦おうとしています。
…………誰かこのふざけた状況にツッコミを入れてください。