この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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第26話 いつまでもシンプルで

 「遅かったね、カズマ君」

 

 横浜のはずれにある深い森――。

 俺がそこに駆けつけた時、太宰は既にその入口に立っていた。

 俺を見つけ、太宰は緩く口角を上げる。此奴はバニルに通ずるところがあり、正直一緒にいると腹の探り合いになる気がして落ち着けないのだが、こういう時は頼もしい。

 

 「めぐみんちゃんは連れてこなかったんだね。ってことは……」

 「ああ。気は進まないけど、お前の案に乗るわ」

 「それは良かった。じゃあ行こう」

 

 太宰と俺は口数少なに森の中へと足を踏み入れる。

 

 ――恐らく、もぐにんにんはこの森の中にいる。

 これは俺の推測だが、あのキャベツ達はもぐにんにんが放つ強者オーラにあてられて(もしくは爆発魔法で燃やされてしまうのを恐れて)、炎が届くことの無い海に向かって逃げ出したのだ。燃やされないようにするには水のあるところに、という単純な思考回路はやはり野菜ならではのものだろう。

 

 太宰は太宰でひとりで調査を進めていたらしい。本人曰く、「私の情報網をもってすれば、目立つ忍者ロボの居場所を探るのなんて簡単な事だよ」と云っていたが、詳しいことはよく分からない。

 もぐにんにんは紅魔の里の周りの森の中にいたことから、今回も森の中にいてもおかしくはない。そんな事情から、俺と太宰はもぐにんにんを捕まえに森の中にやってきたというわけだ。

 

 「それにしてもカズマ君、君、私のこと信用してないでしょう? どうして私の案に乗るのさ」

 「……お前の案が確実だから」

 「うふふ、ありがとう」

 「褒めてねえ」

 

 確実だから、という理由だけではない。

 ……太宰のこの案は、普段俺が考える案と酷似しているのだ。

 だから少しだけ……ほんの少しだけ仲間意識を持った。それだけだ。

 え、作戦内容? ……どうして俺と太宰しか来ていないのかを考えたら大体分かるんじゃないか?

 

 「……カズマ君、いた。あそこ」

 

 茂みに隠れ、太宰が指し示した先を見ると……。

 

 『……チートハーレム……排除……爆発セヨ……』

 

 物騒なことを呟きながら同じ場所をぐるぐる動き回る忍者型のロボットがそこにいた。

 俺と太宰は顔を見合わせ、もう一度作戦の確認をする。

 大丈夫だ、これで全部上手くいくはず!

 俺は太宰の立てた親指を尻目に、茂みから思いっきり飛び出した!

 

 『……チートハーレム型……リア充日本人……確認』

 

 もぐにんにんのモノアイが紅魔族を彷彿とさせる輝きを宿す。ヤバい、普通に怖い。爆死したらどうしようと脳内を嫌な映像が駆け巡る。

 

 「カズマ君! そのまま南東の方向に走れ!」

 

 ――太宰の頼もしい声で、脳内の映像が煙のように消えた。

 そうだ、今俺には此奴がいる。頭が良いけど自殺が好きとかいう意味不明な性癖を持つ此奴が。

 俺は思わず微笑むと――

 

 「…………太宰、南東ってどっち?」

 「莫迦あああああああああああ!! ちょっと頼もしいかもとか思った五秒前の私を返してよ!」

 

                 ◇◆◇

 

 南東に向かってひたすら走り続ける。その後ろを超スピードで追ってくるもぐにんにん。そして、もぐにんにんから必死で逃げ続ける俺の前を走るのは太宰だ。時折俺の方を振り返りながら走っている。

 

 『爆発セヨ! 爆発セヨ!』

 

 ……そして、三秒に一回、俺の走っている地面のすぐ近くが爆発して焦土と化している。

 もしこれが俺に当たったらと思うと……。

 

 「ねえカズマ君、この忍者って意外と強いよね? この爆発受けたら死ねるかな? ねえ死ねるかなっ?」

 「お前やっぱダクネスと同類だろ」

 「それはない」

 

 前方を走る太宰が馬鹿なことを口走っていたのでダクネスを引き合いに出すと太宰は一瞬で口を噤んだ。太宰って女好きらしいけど、露骨にダクネスのこと嫌ってるよな……まあダクネスは太宰に直接ドM発言したらしいし、無理も無いか。

 ぼんやりと考えながら走り続けると、迷彩色のドーム型建造物が見えてきた。

 太宰が言っていた『目的地』は此処だ。

 

 「カズマ君、作戦は分かってるよね!?」

 「当たり前だろ馬鹿野郎!」

 

 目の前を走る太宰が直角に曲がって横に移動、俺の視界から消える。

 視界が開けた俺は、ドーム型の建物に向かって全力疾走し――

 

 『爆発セヨ!』

 「『クリエイト・ウォーター』!」

 

 壁にぶつかる寸前、地面に向かって全力で『クリエイト・ウォーター』を使用。俺の全魔力を注ぎ込んだ水流によって、俺の身体が上空へと押し上げられる。

 そしてもぐにんにんの強力な爆発魔法は、俺がさっきまで居た場所を通過して建物の壁に直撃。迷彩の壁面を粉砕した。

 

 爆発のエネルギーが草木に飛んだのか、砂煙の中に火の粉が混じる。こんな戦闘らしい戦闘、あのクソみたいな世界でもしたことねえぞ。

 

 「……おい……」

 

 と、地の底から響くような迫力を持った声がした。何か激しい感情を必死に抑えているような、そんな声だ。

 声を聞いた太宰がニヤリと笑い、声の聞こえた方向ともぐにんにんの間に入る。俺は声の主、太宰、もぐにんにんというラインを作るために、こっそり横に立ち位置をずらす。

 その声の主は煙の中から颯爽と現れると……。

 

 「何やってくれてんだ糞鯖!! 手前何でマフィアの極秘実験室の場所知ってンだ!」

 

 そいつが夕陽色の髪をなびかせながら、美しい姿勢で放った重力を纏った飛び蹴りは、軽やかなステップを踏んでラインから離脱した太宰のお陰で、未だにモノアイを煌めかせる忍者型ロボットに直撃した。

 

 ――簡単な話だ。

 太宰はもぐにんにんをスマートに倒せる人材は探偵社内には居ないと踏んで、マフィアの力を借りることにした。

 …………早い話、中也に押し付けた。

 

 ただ頼むだけでは探偵社の私情だと割り切って了承してくれないだろうと考えた太宰は、自分に対して攻撃をさせ、その攻撃をもぐにんにんに押し付ければいいと考えた。

 

 「流石だな、太宰。面倒事を押しつける手腕……俺の次くらいに凄いわ」

 「ありがとう。今度カズマ君の押しつけ作戦も見せてね」

 「なあ、何いい雰囲気で莫迦みたいな会話してんだ? 殴っていいか? なあ殴っていいよな?」

 「あれ、極秘実験室の場所知られたなんちゃってマフィア幹部が何か云ってるぅー」

 「一回死ね」

 

 太宰と中也が喧嘩を始めた。……まあ、止めなくていいだろう。

 取り敢えず、もぐにんにんの件は一見落着だな。俺は探偵社にメールを送るためにスマホを起動すると――

 

 「――フハハハハハハハ! この世界を存外嫌ってはいない幸運値だけが取り柄の冒険者よ、気分はどうだ? 自分が必死に追い、マフィアに押し付けるという危険すれすれの行為をはたらいた結果がこれだと知った気分はどうだ?」

 

 …………ひしゃげた忍者型ロボットの中から、白と黒の胡散臭い仮面を被ったスーツ姿の悪魔が出てきやがった。

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