太宰はどこかバニルに似ている――それは俺がずっと思っていたことだ。いや、俺だけじゃなくてアクアもだな。
アクアは太宰と初めて会話を交わした時、「邪悪な気配が云々」とか言って殴りかかっていたな。懐かしい。
そうだなあ、こっちの世界に来てからかなり時間が経ったんだなあ。こっちの世界も嫌いじゃないけど、あのクソみたいな世界も案外悪くないんだよなあ……。
「おいカズマ、現実逃避してねえでこの状況どうにかしろよ」
俺より若干身長の低い中也が、遠い目をしていた俺の頭を掴んで無理矢理『その方向』に向けさせる。
……視界に入ってきたのは、俺が先程から見るのを避け続けていた恐ろしい光景だった。
「フハハハハハ、普通の人間の数倍は頭が良く、数十倍は重い過去をもつ男よ。先程我輩は貴様が大事にしているあの墓を見に行ってきたが、実に殺風景だったな。まるで貴様の心のようだ」
「うふふ、突然現れたと思ったら何さ、人の過去を詮索して何が楽しいの? 渇いているのは君の心の方じゃない?」
「そんな時には此方の『うるうる☆魔力オイル』がおすすめである。このオイルを塗れば、誰もがたちまち豊かな感性を手に入れる。その代わり理的思考能力を一切失ってしまうがな」
「要りません」
――静電気でも発生しているんじゃないかと思うほど渇いた空間で、二人の男が向き合っている。
片方は、人を舐めたような黒と白の仮面を被っている長身の悪魔。もう片方は、ぼさぼさの蓬髪に全身包帯の男。
似た者同士が初めて対面するとこんな風になるのか。初めて知った。
「莫迦なこと云ってんじゃねえ! ンだよ、あの変な仮面野郎。お前の知り合いか?」
「我輩はバニルである。魔王軍元幹部にして、心を見通す悪魔! 昨日服を試着したが自分に合う小さいサイズのものがなくて渋々拠点に戻った帽子男よ、以後お見知り置きを」
「死ね」
そして始まる乱闘。太宰VSバニルVS中也。それを何も出来ずに見守る俺。
しかも、もぐにんにんの爆発魔法によって穴が空けられた建物(中也曰く"マフィアの極秘実験室")から聞こえてくるのは……。
「何を遠慮している! さあ、早く! そのヌルヌルですんごいのを私にぶつけろ! 私はそんなものに屈しは……んんっ……!」
「わはははははは! 我が爆裂魔法を再現したいのなら、この試薬とこの試薬を今すぐ混ぜるべきです! 横浜ごと吹き飛ばすことができるでしょうわははははははは!」
犯罪組織の実験室で何をやっているのか全く不明な変態の声と厨二病の笑い声が、三人の乱闘音と混じってカオスな状況に拍車をかけている。
……もうやだ帰りたい。
◇◆◇
「というわけで、この探偵モドキの組織にお世話になることにしたバニルである。人間達よ、我輩が来たからには仕事は無いと思っていいぞ!」
翌日。
もぐにんにんになりすましていたのがバニルだと分かった直後、探偵社内のメンバー全員がバニルに襲いかかり、その攻撃の全てをかわされたり防がれたりして。息を切らす探偵社員達を見ながら「フハハハハハハ、この不完全燃焼の悪感情、美味である、美味である!」と言いながら自己紹介をしたバニル。
これはついさっき聞いた話だが、俺がゴミ捨て場で手に入れたマナタイト……あれを置いたのはバニルらしい。何でも、暫くは此方の世界の様子を探って、さりげなく俺達を助けながら天使を探していたのだと。
もっと言うと、キャンバスによって生み出されたキャベツが横浜の街に向かうのを目にし、もぐにんにんの姿でキャベツを追い散らし、俺達が退治するように仕向けたのもバニルなのだと。面倒事を増やすなと言いたいが、キャベツの被害は最小で済んだのだから強くは言えない。
「全くもう。どんどん変なのが増えるねェ。カズマ、アンタがどうにかしなよ、この意味不明な悪魔。妾達はただでさえカズマとアクアが来てから満身創痍だってのに、悪魔まで増えたって対処し切れないさ」
「安心しなさいアキコ、この女神である私がいるからにはこんな悪魔……!」
「妾達からしてみればアンタも悪魔みたいなモンだよ」
冷静な判断を下した与謝野
「っていうかお前、どうやってこっち来たんだよ。方法次第では、俺達もあっちに帰りたいんだけど……」
「それが我輩にもよく分からんのだ。あの貧乏店主が仕入れた怪しげな薬を面白半分で飲んでみたら、こんな変な街に飛ばされてしまったらしいのでな。そこからは我輩お得意の見通す力で状況を理解し、汝らの気を引く為に爆殺忍者に成りすましたというわけだ」
「そういうクソ迷惑なアピールは止めてくれると助かる」
だけどまあ、こいつのお陰でキャベツ被害は抑えられたしなあ……。
微妙な感情を持て余して黙っていると、バニルはニヤリと笑い……。
「ところで、不可思議な力と重い過去を持つ探偵達よ、汝らに良い事を教えてやろう。これから数日間、天使がキャンバスを使って厄介なものを次々に具現化するであろう。だが目先のことに気を取られているともっと大事なことを見落とすので要注意。削足適履という言葉を忘れるでないぞ。フハハハハハハ!」
「バニル、と云ったな。貴様の言葉をどこまで信用するかは俺達探偵社員が決める。その忠告は程々に受け取っておこう」
「あ、国木田。此奴の予言は百パーセント当たるから、本気で信用した方がいいぞ」
「「えっ」」
俺の言葉に、国木田含む探偵社員数名が声を上げた。
……どうやらバニルが胡散臭すぎて、程々にどころか全く信用していなかったらしい。
「でも、今は正直、そういう……カズマ君達の世界絡みのトラブル対処をしている暇はないんですよね。他の案件がかなり詰まっていて……」
「そうそう。私達も忙しいのだよ」
「普段サボってるお前が云うな」
敦を筆頭に、太宰、国木田と、次々と断りを入れる探偵社員達。
全員、真面目な声で云っている。……のだが、その目は泳いでいる。これはアレだ、面倒なことから逃げようとする人間の目だ。
「ねえねえカズマ、もうすぐこのお店のミックスシェイクが発売するんですって! 一緒に飲みに行きましょう!」
「ちょ、おま、話聞いてたか? 今から変なのが大勢押しかけてくるんだぞ? そんなことしてる暇あるわけねーだろ!」
「シェイクを飲んだ後は、八百屋のハシモトさんと魚屋のオイカワさんから採れたての食材を貰って……」
「現実逃避すんな駄女神」
探偵社員達は何事も無かったかのようにそれぞかのように戻り、駄女神は目を泳がせながらお洒落な喫茶店の広告のビラを眺めている。
こんな空気を作った仮面の悪魔はいつの間にか社内から消えていた。
……どうして俺は平穏な生活を送れないのだろう。そういう星の元に生まれてしまったのだろうか。
途方に暮れて虚空に視線を投げたその時、ポケットに入れていた携帯が振動した。
誰からだろうと携帯を起動すると、表示されていたのは「非通知」の文字。少し迷った結果、電話を受けることにした。
「あー、もしもしどちら様でしょう」
『お前、カズマだよな? 佐藤和真だよな?』
「は……中也? 何でお前、俺の番号知って」
『それはどうでもいいんだよ! 今すぐ来てくれ、大変なことになってる』
「はあ……?」
悪魔の次は、犯罪組織の幹部からのヘルプコール。一難去らない内にまた一難。
……エリス様、俺は一体どうすべきなのでしょうか。
まずひとつ。感想、評価、お気に入り、それを含めた総合評価が増えてきていることについて。
本当に感謝しています、ありがとうございますっ! 私のただの妄想から書かれたこんな小説に……もう感謝しきれない程に感謝しています。崇めてます。祀ってます。ありがとうございますという言葉では足りません✨
そして、キャラの口調について。誤字報告してくださった方、ありがとうございます。私は最近このすばも文ストも読めていないので、キャラの口調が迷子です( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`) 特にバニルとかバニルとかバニルとか。
妄想をより良い小説へと昇華させるためには、皆さんの協力が不可欠です。誤字報告(誤字じゃなくても、「こっちの方がこのキャラらしいんじゃないか」など)、じゃんじゃんしてくださって構いません! むしろお願いします!……あと感想も。
この小説を読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!!