僕の名前は中島敦。故あって――
「こんの駄女神があああああああ!!」
「あーら万年最弱職のカズマさーん、この最強女神アークプリーストに肉弾戦で勝てると思ってー!? ほらかかってきなさいよ、けちょんけちょんにしてあげるから!」
「……もういい、こうなったらお前のゼル帝焼き鳥にして食ってやる」
「えっ? ちょ、カズマさん……? まさか、あんな愛らしいドラゴンにそんなことしないわよね……?」
「いやー、料理スキルがあって良かった。あんな見た目が可愛いだけの鳥を美味しくするならスキルに頼るしか――」
「うわあああん私が悪かったからああああああああ!!」
……自称女神の女の子と、国木田さんに捕獲された謎の異能者の喧嘩を眺めています。
◆◇◆
「こんにちはっ! 私はアクア、女神アクアよ! さあ、アクシズ教徒になって、私を崇めなさい!」
鏡花ちゃんと僕で協力して、逃げられないように見張りながらアクアさんを探偵社に連れてきたわけだけど。……やっぱりこの人手強い。太宰さん以上に非常識だ。
着いてからもこの様子だし、実は連れてくるまでの道中でも「あ、今から大雨みたいね。止ませてあげましょうか?」とか、「あの大道芸人、下手糞ね! 私の方が上手いわ、見てらっしゃい!」と言って大道芸に乱入したり。本当に散々だった。その上、この人の場合は太宰さんと違って本能に正直に生きている感じがするから尚のこと。
……で、社内の人の視線が一瞬にしてアクアさんに向く。当たり前だ。
「敦君、誰その人。依頼人?」太宰さんが首を捻る。今日は依頼の予定なんて無かった筈だけど、って顔だ。はい、依頼じゃないんです。だから困ってるんです。
しかし無邪気(?)なアクアさんの手前、本心を出す訳にもいかず。仕方が無いので、
「えーと……多分、外国から来たはいいものの、お金も身寄りも無く、偶然通りかかった僕に助けを求めてきた……?」
「じゃあ、出会いの宴会芸ね。花鳥風月~!」
アクアさんは懐から扇子を出すと、両手に持ってその場でクルクルと回る。派手な扇子の先端から水が飛び出し、探偵社の床を濡らしていく。……どうしよう、本当にこの人、今まで会ったどんな変人ともタイプが違う。っていうかこの手品、どんな仕組みなんだろう。
「敦君、その人本当に身寄りもお金もなくて困ってるの? ……困ってるの?」
谷崎さんの視線が痛い。否、この状況で、僕の言葉に疑念を抱いている人が圧倒的大多数に達している。
どうすればいいか分からなくなって鏡花ちゃんに助けを求めると。
「この人は芸人。芸をさせる為に連れてきたからもう用済み」
「ねえ違うよ鏡花ちゃん、お願いだからそのナイフしまって!!」
空気を読まずに手品を披露し続けるアクアさん。社員の視線。鏡花ちゃんの殺気。
もう駄目だ、僕はここで羞恥死するんだ――覚悟を決めた、その時だった。
「あああああ、おいこら駄女神! お前こんな所で何やってんだ!」
背後から聞こえた、見知らぬ少年の声。
振り向くとそこには、国木田さんに両腕を拘束された、不思議な格好の少年が居た――。
◇◆◇
端的に説明すると。
ダクネス諸共スーツの男を煙に巻いた後、全力疾走の勢い余ってぶつかってしまったこの人が、実はスーツ男の知り合いだったらしく。「特務科殺しとは貴様のことか! ……しかし若いな。ちょっとついてこい」と言っておきながら俺の両腕を凄まじい力で掴んで引っ張った。抵抗して逃げ切れる確証が無かったのでされるがままにしていると、いつの間にかこんなビルの中に連れてこられていたという訳だ。
で。そこで再会した懐かしいパーティメンバーの一人……駄女神は。
人が! こんなに! 大変な思い(スーツ男との鬼ごっこ)を! していたと言うのに!!
「花鳥風月~!」
「あああああ、おいこら駄女神! お前こんな所で何やってんだ!」
思わず叫ぶと、アクアが振り向いてニッコリと笑い。
「カズマさんカズマさん、日本の人って結構ノリ悪いのね! 宴会芸しても反応してくれないの」
「当たり前だろボケがああああああああ!!」
「きゃああああああああ!?」
馬鹿げたことを抜かしやがる知力ゼロの駄女神の背中に飛び蹴りをお見舞いしてやった。
「痛いんですけど! ちょっとカズマさん、私に肉弾戦で勝とうって言うのね!?」
……そして物語冒頭の会話に戻り、
「――で? 貴様、街中で異能力を乱用したと聞いたが、本当なのか?」
アクアをゼル帝ネタで論破した直後、俺をここまで連れてきた四角い眼鏡の長髪長身男性が冷徹な視線で俺達を射抜く。ちなみに、俺達は部屋の真ん中に土下座させられ、周りに人が集まるという公開処刑状態だ。
しかし俺はこんなものには屈しない。魔王を倒した最弱職の根性舐めるなよ!
「……ってか、さっきから思ってたけど、異能力ってなんなんだよ」
「それ私も気になってましたー」
俺たちが口々に疑問を述べると、長身の男性は目を剥いた。
「異能を知らんのか!? ならば貴様が使っていたのは一体……」
「えーとですね、まあ、話せば長くなるのですが……」
面倒臭くなった俺は、事実を正直に話そうとして――
「待ってカズマ」駄女神の右手に口を塞がれた。
(おいアクア何すんだ!)
(私、こういう時は敵か味方かも分からない人間に手の内を晒さない方がいいと思うの)
……。
正論っちゃ正論だが。
だがだったらどうするんだ、と問おうとすると、アクアがニコリと笑って言った。
「私は水の女神だから、異能なんて持ってないわ!」
「言ってる傍から!?」
まあ、こんな女の戯言だ。信用なんてされないだろうと高を括っていたのが間違いだった。
「あのう……」白髪の、不思議な外見の少年が恐る恐る手を挙げ。
「水の女神とかっていうのは分からないんですけど。その……アクアさんは、少なくとも悪い人ではないんじゃないでしょうか」
「「!?」」
な……なんだと……!?
この駄女神を、いいひと扱い……!
ふと隣のアクアを見ると、さも当然と言いたげな表情で頷いている。頼むから何もしないでほしい。
「敦くん、その根拠は?」
「それは――」
敦と呼ばれた少年が、質問を発した包帯だらけの男の人の傍に寄っていって耳元で何かを囁く。すかさず読唇術スキルで会話内容を読もうとしたが、敦はそれを防ぐかのように口元を手で覆っていたので会話内容は分からなかった。
……なぜ、自然にこのような行動が取れるのか。理由はただひとつ。
――この世界の中でも、こいつらが普通じゃない証拠だ。
幸運値の高い俺の勘が言っている。入った時から思っていたが、ナイフを平気で扱う和装の少女といい、俺をここまで抵抗させずに連れてきた男性の手腕、気迫といい……何か「普通じゃない」。アクアの宴会芸にほとんどの人間が呆れていたが、中でも数人……張り詰めた空気を醸し出している人間がいた。
「……つまり、アクアちゃんと少年。君達は行く宛てが無くて困っているということかな?」
包帯の男が立ち上がり、ニッコリと笑って両手を広げる。
……胡散臭い。まるでバニルを見ているような――
「ゴッドブローっ!」
「げぶっ!?」
と思っていると、バニル対アクアの構図が包帯男相手に完全に再現されていた。
「馬鹿、何やってんだ!」
「え? なんか……悪魔とかアンデッドみたいな邪気を感じたから、取り敢えず天罰を」
「何が天罰だ、今から好意をくれようとしてそうだった相手に向かって!」
「でもこれが女神の使命なの!」
「……ゼル帝」
「わああああああごめんなさいカズマさん私が悪かったからあああああ!!」
「――国木田君、この二人、警察に突き出そうか」
不穏な空気を纏った包帯男の一言に、俺達は瞬時にスライディング土下座を決めた。