この素晴らしい文豪に祝福を!   作:ぴんくのあくま

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第30話 眠りの触手の彼方に

――三日だ。三日経ったのに……。

 

 「中也ああああああああ!! ヘルプ! マジやばいって助けてああああああああああああ!!」

 「だあああああああああ少しは抵抗しろよおおおおおおおおお!」

 

 ……触手の本体見つかんねえなあ……。

 

              ◆◇◆

 

 三日。

 倒した触手の数――五十を超えた辺りで数えるのをやめた。早い話、絶望した。

 しかもその触手ときたら、どれもこれもヤバいのばかりだ。あのドMが見つけたら間違いなく興奮して変態行為に走って警察のお世話になってマフィアの名に傷がつく。そして額に青筋を浮かべた中也が俺のところに飛んできて社員寮を吹き飛ばされる。……このままじゃダメだ。

 

 「はあ……どうすんだよ中也、このペースだと何年経っても見つかりそうに無いぞ」 

 「真逆あの研究員がこんなに潜伏能力の高い異能生物作ってるとはな……俺も何か作って貰おうか……」

 「お前が現実逃避してどうする」

 

 新作の帽子をとかなんとか云いながら遠い目をする中也の肩を掴んで無理矢理顔を突き合わせる。

 

 「中也……ダクネスが面倒起こしたらお前が泥被るんだぞ? もしかしたらお前まで被害受けるかもしれな」

 「よしカズマ、次は中華街だ。路地裏のゴミ箱の中とかに潜んでる可能性が高いな」

 

 ……ダクネスって、太宰と中也から異常なまでに嫌われてるよな。めぐみん、アクア、ダクネスという見てくれだけはいい三人の中でも特に綺麗なのはダクネスだと思うんだが。まあ、人間は結局中身だから仕方がない。

 

 「――あ! ねえ居たわよクニキダ、私の言った通りじゃない! アンタの土地勘なんて信用なりませんー!」

 「云ってろ小娘、貴様と話していると頭が痛くなってくる……」

 「こういう時だけはアクアの悪運が発揮されるんですね……」

 「でも、カズマ君達に被害が及んでなくて良かった」

 

 ……この声は……。

 俺と中也は同時に振り向き、後方からの悪魔の声の主を確認した。

 

 「ここにいたのねヒキニート! アンタがいない間、私が仕事をしてあげ……って、ねえ、どうして逃げるのよー! 待ってってば、ねえ! こんな所で置いてけぼりにされたら私帰れなくなっちゃうからあああああああああああああ!!」

 「俺が場所を知っていると云っているだろうが馬鹿娘があああああああああああああ!!!!」

 

               ◆◇◆

 

 まあ、そんな経緯で俺、中也、めぐみん、アクア、 敦の五人で触手退治をすることになったわけだが。

 

 「僕が虎の嗅覚で触手の臭いを覚えて、本体の居場所を探すよ。その方が効率いいでしょ?」

 

 朗らかに笑う敦。……この時ほどこの優しさ溢れる常識人を抱きしめたいと思ったことは無い。

 日頃奇人変人(主にパーティのメンバー達)に苦労させられている身としては、常識的な人間と話すだけで癒されるのだ。え? ゆんゆんは……。……ま、まあ、あの子もちょっと特殊だからなあ……。

 

 そして、敦の異能で触手を探し出したところ、それはもう昨日までの俺と中也の苦労はなんだったんだと怒鳴りたくなるぐらい簡単に見つかった。

 ――異能生物の本体、

 

 「……これって……」

 

 …………らしきものが。

 

 「おい待てよ……敦、手前マジで此奴がそうなのか?」

 

 中也がとてつもなく引いている。角砂糖五十個を一度に食べたかのような苦しげな表情で。

 

 「はい、確かに臭いはここから……。……どうかしたんですか中也さん、何か様子がおかしいですけど」

 「そ、そそそそそそそそんなことあるわけねえだろ!? 別にこういう蛸っぽい何かが苦手とか、双黒復活早々酷い目に遭わされたとかそんなんじゃねェからな!?」

 「思いっ切り顔見知りじゃないですか。っていうかなんなんですかこの……この……」

 

 めぐみんが呼称を決めかねて指さしたその物体は――地面から生える黒い触手。

 この触手のことを中也はどうやら知っているみたいだけど、触手と知り合いってどういう状況なんでしょうか。

 

 「……あ、もしかしてこの人、太宰さんが云っていた……組合の異能者の……」

 「聞いてたのか。なら話は早ェな」

 

 そして中也は話し出した。

 今から少し前、組合という海外の金持ち異能組織とマフィアと探偵社が三竦みの戦争をしたことがあったと。

 その際に、太宰と中也が組んで組合の異能者と戦ったのだと――その異能者こそが、この黒い触手(中也曰く、これは髪の毛らしい)だと。

 

 「つっても、このタコは異能者じゃねェ。太宰の異能無効化が効かなくて、仕方無く俺の切り札で倒したんだ」

 「ということは、此奴は我が爆裂魔法で消し飛ばしても良い相手なのですね!」

 「誰がそんなことを云った! 本当に貴様は……マフィアとは思えん程のトラブルメーカーだな!」

 「何なんですか、喧嘩ですか! やってやりますよ、受けて立ちます! では負けた方は晩御飯を奢るということで……」

 「喧嘩買った上に奢らせようとすんな馬鹿!」

 

 ……そんな風に、いつものノリで馬鹿騒ぎしていたのが良くなかったのかもしれない。ぎゃあぎゃあ喚く俺たちの足元で、『そいつ』は静かに大地から身体を現し――

 

 「……眠い。仕事、もう無い」

 「「……っ!?」」

 

 低く、無機質で感情を読み取れない声が響いた瞬間、俺達は瞬時に臨戦態勢に入っていた。アクアが構え、めぐみんが杖を持ち、中也が警戒心を顕にし、国木田が眉をひそめ、敦が表情を引き締める。……油断していたら"何か"が来る。説明しようのない状況に苛立ちを覚えながら、そいつの一挙手一投足に注目した。

 

 波打つ黒髪。恐らく"異能ではない"触手という攻撃手段。白いシャツ、黒いズボン。ここはごく普通だが、折れ曲がった首がその格好とのギャップによる異様さを醸し出している。

 

 「……組合の異能者、ハワード・フィリップス・ラブクラフト……」

 

 緊張を孕んだ国木田の呟きが零れ落ちた。……本気で戦わないと、殺られる。

 

 「……お前達……確か、『ターゲット』……目的は……足止め……」

 

 黒い髪が波打ち、徐々に肥大化していく。死人のような瞳から光が完全に抜け落ち、人間を逸脱した何かへと昇華する。

 

 「まずい――此奴の身体は……」

 

 呆然とした表情の中也が呟き、俺達の方を振り向いた。

 

 「国木田。異能で手榴弾を作れ。めぐみんは後方で待機、敦は俺と一緒に来い。アクアはカズマと動け。……どうやらこのタコ、俺達を狙ってるみてェだ」

 「ちょっと、意味分かんないんですけどー! なんで私達が狙われなきゃなんないのよひぎゃあああああああああああ!?」

 

 頭上を触手の一撃が掠めて地面をのたうち回るアクアを尻目に、めぐみんは後方に下がり、国木田が手帳を取り出し、敦が両手足を虎化させる。そこに来て俺は漸く本気で戦わなければならないことを悟った。

 

 「おいカズマ。前俺がこいつを倒した時は――」

 

 中也が真剣な表情で語っている間にも、俺の脳内にはひとつの文句がぐるぐると回っていた。

 ……ついさっきまで馬鹿話してたのに、なんでこんな戦闘シーンに入ってるんだろう。

 

 

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